• 著者: Akira Yokoi, Alejandro Villar-Prados, Paul Allen Oliphint, Jianhua Zhang, Xingzhi Song, Peter De Hoff, Robert Morey, Jinsong Liu, Jason Roszik, Karen Clise-Dwyer, Jared K. Burks, Theresa J. O’Halloran, Louise C. Laurent, Anil K. Sood
  • Corresponding author: Anil K. Sood (Department of Gynecologic Oncology, University of Texas MD Anderson Cancer Center)
  • 雑誌: Science Advances
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-11-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31799396

背景

エクソソームはエンドソーム起源の細胞外小胞 (extracellular vesicle) であり、多小胞体 (MVB: multivesicular body) が細胞膜と融合して細胞外に放出される。テトラスパニン (CD9/CD63/CD81等) はエクソソームの主要マーカーとしてエンドソーム・MVB・エクソソームに局在し、カーゴのトラフィッキングに関与すると考えられている Thery et al。エクソソームのカーゴは多様であり、タンパク質・mRNA・miRNA・ゲノムDNA (gDNA) が含まれることが報告されている Valadi et al。

特にがん細胞由来エクソソームへのgDNA搭載が複数の研究で示されているが Balaj et al. NatCommun 2011、核由来コンテンツがいかにして細胞質のMVBに取り込まれてエクソソームに積荷されるかの分子機序は不明であった。正常細胞ではgDNAは核内に厳密に閉じ込められ、細胞質のMVBとは直接接触しないため、核内容物がエクソソームに取り込まれる経路の説明が困難であった Thakur et al. CellRes 2014。この核由来コンテンツのMVBへの積荷メカニズムは、エクソソーム生物学における重要な知識ギャップ (knowledge gap) として残されており、詳細な分子メカニズムを説明する知見が決定的に不足していた。

微小核 (MN: micronuclei) は、有糸分裂の失敗や染色体断片化によって生じる細胞質内の核膜包囲構造体であり、ゲノム不安定性のサロゲートマーカーとして広く利用されている。MNを包む核膜は高度に不安定であり、細胞分裂中に崩壊して核内容物を細胞質に曝露する。TCGA (The Cancer Genome Atlas) パン癌コホート解析 (25癌種) では、高悪性度漿液性卵巣癌 (HGSC: high-grade serous ovarian cancer) が中央値ploidy (ゲノム倍数性) の上位4位に位置し、最も高いゲノム不安定性を示す癌種の1つであった。このゲノム不安定性ががん細胞に高頻度のMN形成をもたらし、ひいては核由来エクソソーム (nExo) 産生に繋がる仮説が本研究の出発点となった。先行研究では、細胞老化やcGAS/STING経路の活性化において、エクソソーム中のgDNAが重要な役割を果たすことが報告されているが Takahashi et al. Natcommun 2017、核由来コンテンツがエクソソームに積載される具体的なメカニズムについては未解明な点が多かった。特に、核内のDNAがどのようにして細胞質のエクソソーム前駆体であるMVBに到達するのか、その経路に関する情報が不足しており、詳細な分子メカニズムの解明が求められていた。

目的

本研究の目的は以下の4点である。 (1) がん細胞由来エクソソームにおける核由来コンテンツ搭載エクソソーム (nExo: nuclear content-carrying exosome) のサブポピュレーションを、イメージングフローサイトメトリーを用いて単一粒子レベルで定量する。 (2) ゲノム不安定性に伴うMN形成とnExo産生の因果関係を、in vitroおよびin vivoの卵巣がんモデルを用いて実証する。 (3) MN崩壊後にテトラスパニンCD63およびMVBを介して核コンテンツがエクソソーム内へリクルートされ、nExo形成が促進される分子機序を解析する。 (4) エクソソームgDNAが元の腫瘍細胞のコピー数変異 (CNV: copy number variation) 情報を保持するかを検証し、低侵襲な液体生検 (liquid biopsy) としての臨床応用可能性を評価する。 これらの目的を達成することで、核由来エクソソームの形成メカニズムを解明し、がんバイオマーカーとしてのnExoの潜在的な価値を評価することを目指した。

結果

がん細胞エクソソームにおける核由来タンパク質の同定: OVCAR-5細胞由来エクソソームのMS解析では、核関連タンパク質201種・染色体関連タンパク質17種が検出され、検出された全タンパク質の12.5%が核由来であった (Fig 1E, 1F)。これはがん細胞由来エクソソームに核コンテンツが有意に搭載されていることを示す最初の系統的証明である。さらに、OVCAR-5細胞とそのエクソソームから得られたWGSデータのCNVプロファイルは高い一致を示し、CNVの大部分がオーバーラップした (Fig 1G, 1H)。

nExoサブポピュレーションの定量と正常細胞との比較: イメージングフローサイトメトリー解析の結果、健常FTE細胞由来エクソソーム (FTEexo) ではnExoは0.12 ± 0.04%に過ぎないのに対し、OVCAR-5exoでは8.26 ± 1.62%、OVCAR-8exoでは8.25 ± 2.61%のnExoが検出された (いずれもp<0.05) (Fig 2C, 2D)。この差は約68倍であり、ゲノム不安定性の高いがん細胞ほどnExoを多く産生することが定量的に示された。さらに、DNA陽性エクソソームの50%超でLamin A/Cも陽性であり、核膜タンパク質が核DNAと共にnExoに取り込まれることが実証された (Fig 1J)。

MN頻度とnExo産生の相関: FTE細胞のMN含有細胞率は約1%であるのに対し、OVCAR-5およびOVCAR-8のがん細胞では約4%のMN含有細胞が観察された (Fig 2A, 2B)。ゲノム不安定性誘発薬剤 (トポテカン10 nM・オラパリブ20 μM) 処置により、MN含有細胞の割合は有意に増加した (p<0.05) (Fig 2E-H)。この薬剤処理により、OVCAR-5細胞ではMN数が約2.5-fold increaseを示し、nExo産生は約1.5-fold increaseを記録した。in vivoマウスモデル (n=4 mice) では、トポテカン処置腫瘍担荷マウスの腹水でnExo産生が有意に増加し (p=0.028)、非腫瘍担荷マウス (n=6 mice) 血清と比較して腫瘍担荷マウスの血清中nExo濃度は有意に高かった (p=0.008) (Fig 3I, 3J)。

MNとnExoのタンパク質共有によるMVB-MN相互作用の証拠: OVCAR-5細胞由来MNとnExoのMSデータを比較すると、127種のタンパク質が共通して存在した (Fig 4C)。共通タンパク質にはLamin A/C・ヒストンH2B・熱ショックタンパク質等の核タンパク質が含まれ、MNがMVBとの接触を通じてnExoへの核内容物供給源となっていることを支持する結果であった。また、ライブセルイメージングおよびIF解析では、テトラスパニン (CD9・CD63) がMNと直接相互作用し、MVBのMNへの接近を促進することが観察された (Fig 4D-G)。この相互作用がnExo形成の主要な分子経路であることが示唆された。

MN崩壊後の核コンテンツ積荷メカニズム: 共焦点顕微鏡観察により、一部のMNは核膜に囲まれておらず、MN崩壊を示唆する像が確認された (Fig 5A, 5B)。興味深いことに、MVBのマーカーであるテトラスパニンが、核膜崩壊したMNを部分的にまたは完全に囲んでいることが観察された。透過型電子顕微鏡 (TEM) でも、MVBがMNおよび初期エンドソームの近くに位置し、崩壊中のMNと直接相互作用する可能性が示された (Fig 5C-E)。さらに、初期エンドソームマーカーであるEEA1 (early endosome antigen 1) が、無傷および崩壊したMNの両方で陽性であった (Fig 5F)。CD63のshRNAによるノックダウン (CD63 KD) は、n=3 replicatesの独立した実験において、OVCAR-5細胞からのnExo分泌を約50%減少させた (Fig 5G, 5H)。免疫沈降実験では、CD63がDNAおよびヒストンH2Bと結合することが示され (Fig 5I, 5J)、CD63がgDNAおよび核タンパク質の複合体を形成し、エクソソームへのDNA積荷に重要である可能性が示唆された。

臨床検体におけるnExoの検出とCNV情報の保持: HGSC患者の血漿および腹水から分離されたエクソソームのMS解析では、同定された全タンパク質の3.2%から3.6%が核タンパク質であった (Fig 6C, 6D)。患者腫瘍組織でもMNが検出され、分析された腫瘍あたり約1%の微小核細胞が認められた (Fig 6E, 6F)。フローサイトメトリーでは、患者由来エクソソームの1%未満がgDNAを含んでおり、これはin vivoマウスモデルのデータと一致した (Fig 6G)。進行期HGSC患者のWGS解析では、腫瘍と腹水由来nExoの間で43個の遺伝子変異が共通して検出され、これにはDROSHA、LIG4、MACROD2、SATB1、RASSF6、BIRC2などのDNA修復関連遺伝子が含まれた (Fig 6H)。また、腹水エクソソームのCNVプロファイルは原発腫瘍と高い類似性を示したが、血漿エクソソームではその傾向は弱かった (Fig 6J)。これらの結果は、腹水nExoが腫瘍ゲノムの状態を反映する信頼性の高いバイオマーカー源となり得ることを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、これまでの「細胞質DNAが直接MVBに取り込まれる」という単純な仮説や、バルク解析に留まっていた先行研究 Jeppesen et al. Cell 2019 とは異なり、MNという中間体を介した核-細胞質-MVBの連絡経路を初めて提唱した。また、従来の報告 Raposo et al では、核内DNAがどのようにして細胞質のエクソソーム前駆体であるMVBに到達するのかという具体的な経路が不明であったが、本研究はMNの崩壊とテトラスパニンCD63の関与を明らかにした点で、これまでの知見と明確に異なる。

新規性: 本研究は、MN崩壊→テトラスパニン介在MVB接触→核内容物の細胞質移行とMVBへの積荷→nExo放出という一連の連続的メカニズムを、本研究で初めて系統的に実証した。ゲノム不安定性が高いがん細胞ではMN形成頻度が高く、その結果nExo産生量も約68倍増加するという連動を明確に示した。また、イメージングフローサイトメトリーを用いた単一エクソソームレベルでのnExo定量という革新的な解析手法を新規に導入し、定量的な実証に成功した。

臨床応用: 本知見は、がんの低侵襲診断における液体生検としての臨床応用に直結する。特に、腹水由来nExoが原発腫瘍のCNV情報を高度に保持しているという発見は、腫瘍生検が困難な臨床現場において極めて有用な診断ツールとなる可能性を示している。さらに、ゲノム傷害薬 (PARP阻害剤オラパリブやトポテカン) の治療効果や、治療中の腫瘍ゲノム変化 (耐性変異の出現など) をモニタリングするための臨床的意義も極めて高い。

残された課題: 今後の検討課題として、nExo形成におけるCD63以外のテトラスパニン (CD9やCD81) の詳細な役割や、それらが複合体として機能しているのかという分子機序の解明が残されている。また、MN内容物が選択的に積荷されるのか、あるいは非選択的に取り込まれるのかという詳細な選別機構も未解明である。さらに、本研究における臨床検体を用いた検証は少数例にとどまっており、診断バイオマーカーとしての感度・特異度を確立するためには、今後の方向性として大規模な前向き臨床試験による検証が必要である。

方法

細胞モデルと試料: 高悪性度漿液性卵巣癌 (HGSC) 細胞株であるOVCAR-5およびOVCAR-8細胞、そして対照として健常卵管上皮 (FTE: fallopian tube epithelial) 細胞を使用した。また、比較検証やトランスフェクションの目的でHEK293T細胞も一部実験で使用した。エクソソームは100,000×g超遠心で精製し、Cryo-EM (cryo-electron microscopy)・NTA (nanoparticle tracking analysis)・ウェスタンブロットで純度確認した。ウェスタンブロットでは、TSG101・Alix・CD63をエクソソームマーカーとして用い、小胞体マーカーであるGRP94 (glucose-regulated protein 94) を細胞夾雑コントロールとして用いた。

イメージングフローサイトメトリーによるnExo定量: Amnis ImageStream X MkII フローサイトメーターを使用し、単一エクソソームレベルで以下を解析した。(a) CellMask Green (脂質二重層標識) でエクソソーム膜を識別し、(b) DRAQ5 (dsDNA結合細胞透過性色素) でDNA陽性粒子を同定し、(c) 抗Lamin A/C抗体で核膜タンパク質を検出した。NP-40処理によるエクソソーム膜破壊実験で粒子の脂質膜依存性を確認し、エクソソーム濃度と検出粒子数の正の相関 (R²=0.968) を検証した。DNase I処理によりDNA陽性エクソソームの約50%が消失したことから、gDNAはエクソソーム表面および内腔の双方に存在することが示された。

ゲノム不安定性誘発薬剤処置: トポテカン (10 nM, 48時間) またはオラパリブ (20 μM, 48時間) でOVCAR-5およびOVCAR-8細胞を処置し、MN数とnExo産生量の変化を評価した。in vivoでは腹膜播種マウスモデル (OVCAR-5細胞を腹腔内移植後にトポテカン7.5 mg/kg最大耐量投与) の腹水・血清からエクソソームを回収してnExo定量を行った。腫瘍組織はH&E染色・IF顕微鏡 (VectrainForm Image Analysis System, PerkinElmer) でMN計数した。

MNタンパク質プロファイルと相互作用解析: ショ糖密度勾配超遠心 (6〜25%ショ糖) でOVCAR-5細胞のMN画分を精製し、質量分析 (MS) でタンパク質プロファイルを解析した。MNとnExoのMSデータを比較して共通タンパク質を同定した。ライブセルイメージング・免疫蛍光 (IF) 解析でテトラスパニン (CD9/CD63) とMNの共局在を評価した。CD63のshRNA (short hairpin RNA) によるノックダウン実験も実施し、nExo産生への影響を評価した。さらに、CD63の免疫沈降 (IP) 実験を行い、DNAおよびヒストンH2Bとの結合を確認した。

統計解析: 統計解析にはGraphPad Prism 7およびSPSSソフトウェアを使用し、2群間の差の有意性には二側性 Student t-test (等分散) を適用した。p値が0.05未満を有意とした。