- 著者: Leonora Balaj, Ryan Lessard, Lixin Dai, Yoon-Jae Cho, Scott L. Pomeroy, Xandra O. Breakefield, Johan Skog
- Corresponding author: Johan Skog (Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-02-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 21285958
背景
腫瘍細胞はエクソソームを含む多様な微小胞 (microvesicle; MV) を大量に放出し、これらがタンパク質・mRNA・miRNA を選択的に封入して細胞間コミュニケーションに機能することが、Valadi らの exosome-mediated transfer (Valadi et al. NatCellBiol 2007 に相当) や Skog らの GBM microvesicle 研究 (Skog et al. NatCellBiol 2008 に相当) で示されていた。腫瘍由来 MV が循環血液中に存在し EGFRvIII 変異 mRNA 等の腫瘍特異的核酸を運ぶことから (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 に相当)、リキッドバイオプシーとしての診断応用への期待が高まっていた。
しかし、腫瘍細胞由来 MV に DNA が含まれるか、特に腫瘍ゲノムの特徴的変化であるがん遺伝子増幅 (c-Myc 等) が MV の RNA のみならず DNA にも反映されるかは未解明であった。この問いは、腫瘍 MV を診断標的として用いる概念的根拠の検証上、controversial かつ手薄な領域として残されていた。
さらに、レトロトランスポゾン (LINE-1・Alu・human endogenous retrovirus (HERV)) は哺乳類ゲノムの約 50% を占め、がん細胞では全ゲノム低メチル化に伴う転写再活性化が報告されていた。しかし、これらレトロトランスポゾン由来配列が腫瘍由来 MV に選択的濃縮されているか、また MV を介して細胞間水平転移しうるかは検討が不足しており、腫瘍の遺伝的多様性伝播という観点で重要な gap が存在した。
目的
脳腫瘍 (GBM・髄芽腫・AT/RT) およびメラノーマ細胞由来微小胞 (<0.22 μm) を対象に、(1) MV に一本鎖 DNA (single-stranded DNA; ssDNA、exoDNA) が封入されているか、(2) 腫瘍ゲノムの増幅がん遺伝子 (c-Myc) が MV の exoRNA・exoDNA 両方に反映されるか、(3) 腫瘍由来 MV にレトロトランスポゾン RNA・DNA が濃縮され細胞間水平転移しうるか、(4) c-Myc 増幅腫瘍を担持するマウス血清 MV でヒト c-Myc を in vivo 検出できるか、を検証することを目的とした。
結果
腫瘍微小胞への一本鎖 exoDNA の封入:GBM・髄芽腫・メラノーマ細胞由来 MV では DNase I 処理後も核酸が検出され、MV 内腔への DNA 保護封入が確認された (Fig. 1)。二本鎖 DNA 検出チップでは exoDNA が検出されなかったが、第 2 鎖合成後は豊富な dsDNA シグナルが得られ、さらに S1 ヌクレアーゼ完全感受性により exoDNA が主として ssDNA であることが確定した。腫瘍細胞由来 MV の exoDNA 量は正常線維芽細胞より明確に多く、正常線維芽細胞ではほぼ検出限界であった。DNA 複製阻害薬 mimosine 処理で exoDNA が約 50% 減少したことから、一部の exoDNA が DNA 複製中間体 (Okazaki 断片様 ssDNA) に由来する可能性が示された。粒子放出量は髄芽腫で最多 (13,400–25,300 個/細胞/48h)、GBM・メラノーマで 7,000–13,000、正常線維芽細胞で 3,800–6,200 であり、髄芽腫 exoRNA は線維芽細胞比 120–310 倍と高値であった。
増幅がん遺伝子が exoRNA・exoDNA 両方に反映される:qPCR で c-Myc ゲノムコピー数が髄芽腫 3 株 (D425・D384・D458) でそれぞれ 8±3.6・12±4.7・17±3.0 倍に増幅していることを確認し、250K SNP アレイ (15・25・17 コピー)・FISH (D425 で >25) と一致した (Table 1, Fig. 2a)。これら 3 株由来 MV の c-Myc exoRNA は GAPDH 正規化で 8±2.0・42±22・45±11 倍に上昇し (P<0.05〜0.001)、exoDNA も 13±0.2・25±3.7・10±0.6 倍に上昇した (Fig. 2b,c)。c-Myc 非増幅の GBM 11/5・AT/RT NS224・正常線維芽細胞 HF19 では有意な上昇を認めなかった。イントロンを跨ぐプライマーで 1.6 kbp の unspliced c-Myc gDNA 断片が髄芽腫 3 株の exoDNA からのみ検出され、隣接遺伝子 POU class 5 homeobox 1B (POU5F1B) も同程度に上昇したことから、ゲノム増幅アンプリコン全体の MV 移行が示された。一方 n-Myc はいずれの腫瘍でも増幅・exoRNA 上昇なし。これら定量はいずれも各群 n=3 細胞 (in triplicate、一部 n=3–6) で得られ、効果量は線維芽細胞比 8〜45 倍 (exoRNA)・10〜25 倍 (exoDNA) と大きく、両側 t-test で P<0.05〜0.001 と有意であった。
髄芽腫異種移植マウス血清での in vivo c-Myc MV 検出:ヒト髄芽腫 D425 (c-Myc 増幅) を皮下移植したマウス (n=5) の血清 MV をヒト特異的プライマーで解析したところ、5 匹中 2 匹 (40%) で 89 bp のヒト c-Myc exoRNA バンドが検出された (Fig. 3)。c-Myc 非増幅の表皮がん腫 A431 移植マウス (n=5) では 0/5 と全例陰性であった。腫瘍ゲノムの増幅状態が生体血清 MV に反映され、ヒト特異的プローブで診断的検出が可能なことを in vivo で示した概念実証である。
腫瘍微小胞へのレトロトランスポゾン RNA の高濃縮:Agilent 44k マイクロアレイ (MA プロット) 解析で、GBM 由来 MV はレトロトランスポゾン RNA (HERV・Alu・LINE-1) が細胞比 16 倍以上 (M≥4) に濃縮されていた (Fig. 4)。一方 DNA トランスポゾン RNA は細胞と MV で類似した発現比を示した。HERV ファミリーでは HERV-H が最も豊富かつ MV 濃縮され、次いで HERV-C・HERV-K6・HERV-W の順であった。qRT-PCR では LINE-1・Alu が大部分の腫瘍 MV で細胞より高比 (y>0) を示し、HERV-K は髄芽腫で高 exoRNA 濃縮を示した。正常線維芽細胞 HF19 では HERV-K exoRNA が検出限界以下 (Ct 36 設定) で腫瘍特異性が裏付けられた (Fig. 5a–c)。exoDNA レベルでは LINE-1 が髄芽腫 MV でわずかに濃縮、HERV-K DNA は D425・D384 で高濃縮を示し、これは髄芽腫 MV の高い内因性 RT 活性 (Fig. 6d) と対応したことから、exoDNA の一部が cDNA である可能性が示唆された (Fig. 6a–c)。
HERV-K RNA の正常細胞への水平転移:HUVEC (ヒト臍帯静脈内皮細胞) 1.5×10⁵ 個に D384 髄芽腫 1.2×10⁷ 細胞由来 MV を暴露すると (各 n=3 独立実験)、HERV-K RNA レベルが有意に上昇し暴露後 72 時間まで高値を維持した (Fig. 5d)。対照 (Mock 処理) HUVEC では HERV-K RNA はほぼ検出されず、腫瘍由来 MV がレトロトランスポゾン RNA を正常細胞へ水平転移しうることを直接実証した。
考察/結論
本研究は腫瘍細胞由来微小胞の核酸内容物に関する従来の理解を大きく拡張した。先行研究では mRNA・miRNA・変異/スプライス変異 mRNA の MV 封入が示されていたが (Valadi et al. NatCellBiol 2007 / Skog et al. NatCellBiol 2008 に相当)、本研究はこれと異なり ssDNA (exoDNA)・増幅がん遺伝子 DNA・レトロトランスポゾン配列という新たな分子クラスを同定した点で対照的である。正常線維芽細胞では exoDNA がほぼ検出されず、腫瘍 MV に固有の特徴であることが示された。
液体生検バイオマーカーとしての臨床的意義は大きい。腫瘍ゲノムの c-Myc 増幅という遺伝的特性が MV の exoRNA・exoDNA 両方に反映されるという発見は、腫瘍 MV 由来核酸が腫瘍ゲノムの「鏡像」として機能するという概念的基盤を提供した。DNA は RNA より化学的に安定で血清中半減期が長いため、臨床バイオマーカーアッセイにおける定量・解析の robust 性で優位性を持ちうる。異種移植マウスでの in vivo 検出実証は、その bench-to-bedside 橋渡しの初期証拠となった。これは EGFRvIII 検出 (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 に相当) に続く本研究で初めて示された増幅遺伝子 DNA 検出という novel な拡張である。
レトロトランスポゾンの腫瘍特異的濃縮と水平転移も新規性が高い。全ゲノム低メチル化に伴う再活性化が MV パッケージングを経て細胞間伝播されるという発見、および HERV ファミリーの種類が腫瘍起源 (GBM では HERV-H が胎児脳で最も活性) を反映しうる観察は、HERV プロファイルの腫瘍起源同定への応用可能性を示唆する。最も完全な配列を保持する HERV-K と高 MV 内 RT 活性の組み合わせは、exoDNA の一部が逆転写産物 cDNA であり、RNA 情報の DNA 形式での水平転移という概念を提起する。
残された課題として、本研究は cell line 系が主体で患者血清の大規模臨床バリデーションは未実施であり、ssDNA 封入機序 (double minute 染色体由来 vs. Okazaki 断片 vs. cDNA) の詳細も未確定である。水平転移された HERV-K RNA が受容細胞で翻訳されるか、腫瘍の遺伝的多様性拡散に実際に寄与するかは今後の検討課題である。本研究はその後の ctDNA・cfDNA・exoRNA 液体生検および腫瘍由来 EV 核酸解析の基盤を提供した開拓的論文である。
方法
デザイン・対象: in vitro 細胞株系 + in vivo 異種移植マウスモデルによる記述的・定量的解析。細胞株は髄芽腫 (D425・D458・D384)・AT/RT (NS224)・GBM (20/3・11/5)・メラノーマ (Yumel 0106)・正常 human fibroblast (HF19)・HF27 を使用。
EV 単離法 (ISEV2023 準拠記載): 5% 微小胞除去 FBS 含有培地で 48 時間培養後、条件培地を 300×g 10 分 → 16,500×g → 0.22 μm フィルター濾過 → 110,000×g 超遠心 (differential ultracentrifugation + filtration) で MV を単離。
EV 特性評価マーカー: Nanosight LM10 (laser module 10) による nanoparticle tracking analysis (NTA) で粒径分布・粒子数を定量 (各 n=3 独立実験)。本研究は CD9/CD63/TSG101 等の表面マーカー WB は実施せず、サイズ規定 (<0.22 μm)・NTA・核酸組成解析で MV 集団を特性評価した点が時代的制約として残る。
核酸解析: 単離 MV を DNase I + Exonuclease III 前処理 (外部核酸除去) → lysis → exoRNA は DNase 処理、exoDNA は RNase 処理で相互汚染除去。ssDNA 確認は S1 ヌクレアーゼ感受性で判定。c-Myc は qPCR (gDNA・exoDNA) / qRT-PCR (exoRNA) で GAPDH 正規化定量、250K SNP アレイ・FISH と照合。レトロトランスポゾンは Agilent 44k 2 色アレイ (MA プロット) + qRT-PCR/qPCR で定量。RT 活性は EnzCheck RT アッセイで測定。
統計手法: 両側 Student’s t-test (medulloblastoma 各株を HF19 と比較)、n=3 (一部 n=3–6) の mean ± s.e.m.。
Identifier: マイクロアレイデータは GEO に GSE13470 として登録。臨床試験ではないため NCT 番号なし。