- 著者: Pasquale D’Acunzo, Rocío Pérez-González, Yohan Kim, Tal Hargash, Chelsea Miller, Melissa J. Alldred, Hediye Erdjument-Bromage, Sai C. Penikalapati, Monika Pawlik, Mitsuo Saito, Mariko Saito, Stephen D. Ginsberg, Thomas A. Neubert, Chris N. Goulbourne, Efrat Levy
- Corresponding author: Efrat Levy (efrat.levy@nki.rfmh.org, Center for Dementia Research, Nathan S. Kline Institute for Psychiatric Research, Orangeburg, NY)
- 雑誌: Science Advances
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-02-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 33579698
背景
細胞外小胞 (Extracellular vesicle, EV) の主要サブタイプは、血漿膜由来のマイクロベシクル (Microvesicle, MV) とエンドソーム由来のエクソソーム (Exosome) の2種類として概念化されてきた。近年、分画法を改良してこれらEVサブタイプを厳密に区別する重要性が Jeppesen et al. Cell 2019 などの先行研究によって示されている。一方で、細胞のミトコンドリアから細胞外にミトコンドリア成分が放出される現象は、各種細胞株を用いた研究で報告されていた。例えば、間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell, MSC) が損傷ミトコンドリアをEVに搭載して細胞外に放出するという報告や、ミトコンドリアDNA (mtDNA) 含有EVが放出されるという既報が存在する。しかし、従来の差速遠心法のみに依存した単離法では、EVサブポピュレーションの分離が不十分であり、放出されたミトコンドリア成分が独立した新規EV集団であるのか、あるいは既存のエクソソームやMVに混入・搭載されたものであるのかは未解明であった。
ダウン症候群 (Down syndrome, DS) やアルツハイマー病 (Alzheimer’s disease, AD) などの神経変性疾患では、ミトコンドリア機能障害とエンドソーム異常が共存することが知られている。しかし、これら病態下におけるミトコンドリア成分の細胞外放出経路の動態や組成変化については、技術的制約から解析が手薄であった。
従来のEV生物学において何が足りなかったかというと、第一に、MVやエクソソームと明確に区別される「ミトコンドリア由来の独立したEV集団」を高解像度で同定・分離する精製技術が不足していた。第二に、その小胞が持つ独自のタンパク質・脂質組成の包括的なプロテオームおよびリピドーム解析が未確立であった。第三に、DSなどの実際の生体内病態下において、このミトコンドリア由来EVの分泌量や内包カーゴがどのように変化するのかという病態生理学的意義が不明であり、大きな knowledge gap (知識ギャップ) が残されていた。本研究は、これら複数の知識ギャップを埋めるため、新規の高解像度OptiPrep密度勾配分画法を開発し、脳組織から直接EVサブタイプを分離して、新規EV集団「ミトベシクル (mitovesicle)」を同定した。
目的
本研究の目的は、新規に開発した高解像度OptiPrep密度勾配8段階分画法をマウスおよびヒトの脳組織由来EV精製に適用し、従来のマイクロベシクルやエクソソームとは生化学的・形態学的に明確に区別される、ミトコンドリア起源の新規EVサブポピュレーション「ミトベシクル (mitovesicle)」を同定・特性解析することである。さらに、このミトベシクルのタンパク質および脂質組成を包括的にプロファイリングし、ダウン症候群 (DS) の病態モデルマウスおよび患者死後脳組織において、ミトベシクルの分泌量や内包カーゴ組成がどのように変化しているかを検証し、ミトコンドリア機能障害とEV放出経路の関連性を明らかにすることを目指す。
結果
高解像度OptiPrep密度勾配分画による3種の異なるEVプロファイルの分離: 野生型マウス脳組織から単離した粗EVペレットを、開発した8段階OptiPrep密度勾配カラムで分画した結果、粒子径、タンパク質含有量、および形態的特徴から3つの異なるEVサブポピュレーションが明確に分離された (Fig 1A-F, n=15 independent purifications)。低密度分画 (Low-density fractions, LDF: Fr1-3) は、粒子数が多く (約3.0 × 10^9 particles/mg 脳組織)、粒子径が大きく (平均径 >200 nm)、タンパク質含有量が極めて低い特徴を示した (Fig 1B-F)。中間密度分画 (Intermediate-density fractions, IDF: Fr4-6) は、粒子径が約100 nmであり、Fr5で粒子数のピークを示した。これに対し、最高密度分画であるFr8は、粒子数自体は最も少ない (約1.0 × 10^8 particles/mg 脳組織) ものの、1粒子あたりのタンパク質含有量がIDFと比較して約5.0-fold高い、極めて高密度な小胞集団であることが判明した (Fig 1D)。
クライオ電子顕微鏡による形態学的特徴とマーカータンパク質の分布: cryoEM解析により、各分画に濃縮された小胞のネイティブな微細構造を観察した (Fig 2A-E, n=3 independent isolations)。LDF (Fr1-3) は、主に単一膜で囲まれた電子透過性の高い大型小胞 (マイクロベシクルに対応) で構成されており、ウエスタンブロットにおいてAnnexin A1/A2/VおよびCaveolin-1が特異的に検出された (Fig 3A, B, E)。IDF (Fr4-6) は、内部に顆粒状の電子密度を持つ単一膜小胞 (エクソソームに対応) が豊富であり、TSG101、Alix、LAMP2、HSC70、およびCD63/CD81がFr5を中心に濃縮されていた (Fig 3A, C, E)。一方、最高密度分画のFr8は、約45%が「二重膜構造」を持ち、内部の電子密度が極めて高い、直径80-180 nm (中央値約120 nm) の特徴的な小胞で占められていた (Fig 2D, E)。このFr8小胞は、MVマーカーやエクソソームマーカー、さらには細胞質 (β-actin) や核 (Lamin A) のコンタミネーションマーカーを一切含まない一方、ミトコンドリア外膜 (VDAC)、内膜 (COX-IV)、およびマトリックス (PDH-E1α) のすべてのコンパートメントのマーカータンパク質が、他の分画と比較して約10.0-fold濃縮されていた (Fig 3A, D, n=10 independent isolations)。この二重膜ミトコンドリア由来小胞を「ミトベシクル (mitovesicle)」と命名した。
ミトベシクルの独自の脂質プロファイルとカルジオリピンの濃縮: リピドーム解析により、各分画の脂質組成をモルパーセントで算出した (Fig 4A-H, n=5 independent isolations)。LDFおよびIDFの脂質組成 (コレステロール 39-43%、PC 29-32%、スフィンゴミエリン 8-11%) は既報の一般的なEV組成と一致した。これに対し、ミトベシクル (Fr8) は極めて特徴的な脂質プロファイルを示した。ミトコンドリア内膜にほぼ特異的な4アシル脂質であるカルジオリピン (Cardiolipin, CL) が、Fr8において全脂質の約8.0%という高割合で選択的に濃縮されていた (Fig 4C, p<0.0001)。また、PCが48.0%、PEが9.0%と高値を示す一方、コレステロールは18.0%と他分画の半分以下であり、スフィンゴミエリンも1.7%と極めて低値であった (Fig 4D, F)。この脂質プロファイルはミトコンドリア内膜の膜組成と高度に一致し、ミトベシクルがミトコンドリア膜由来であることを生化学的に証明した。
プロテオーム解析が示す異化専門の代謝活性小胞: Fr8のLC-MS/MS解析により673個のタンパク質を同定し、そのうち279個 (41.5%) がミトコンドリア特異的タンパク質であることを確認した (Fig 5A, n=3)。ミトベシクルは、電子伝達系 (ETC) 複合体I-V、TCAサイクル、脂肪酸β酸化、ケトン体異化、および神経伝達物質代謝 (MAO-A, MAO-B) に関わる異化経路の酵素群を豊富に保持していた。しかし、ミトコンドリアへのタンパク質インポート機構 (TOM/TIMコンプレックス、Tomm20陰性) や、mtDNA複製・転写・翻訳機構、ミトリボソーム、融合促進因子 (OPA1長鎖、Mfn2) は完全に欠落しており、分裂促進因子 (Drp1, Fis1) のみが検出された (Fig 5B, C)。機能解析において、ミトベシクルの約50.0%が機能的な膜電位を維持しており、FCCP処理によってこの割合は17.0%まで有意に低下した (Fig 5D, p<0.01, n=6)。さらに、ADPおよび呼吸基質の存在下で、ミトベシクルは自律的にATPを産生し (約2.0-fold増加)、この産生はETC阻害剤 (OA) 処理によっても阻害されなかったことから、機能的な異化代謝活性を維持していることが示された (Fig 5E, p<0.01, n=4)。また、MAO活性も維持されており、阻害剤処理により活性が消失した (Fig 5F)。
ダウン症候群 (DS) 病態下におけるミトベシクルの分泌亢進と組成異常: DSモデルマウス (Ts2) およびヒトDS死後脳組織を用いてミトベシクルの変化を検証した。Ts2マウス脳由来のFr8では、対照 2N 群と比較してタンパク質含有量が有意に増加し、NTAによる粒子数測定でもミトベシクルの分泌量が約2.5-fold有意に増加していることが示された (Fig 6A, B, p<0.05, n=4)。ヒトDS剖検脳組織由来のEV分画解析でも、同様にミトベシクルマーカー (VDAC, COX-IV, PDH-E1α) の有意な上昇が確認された (Fig 6H, I, p<0.05, n=3)。 さらに、等粒子数のミトベシクルをロードしてカーゴ組成を比較した結果、Ts2由来ミトベシクルでは、UQCRC2、VDAC、およびSDH-Bのタンパク質レベルが有意に低下していた (Fig 7A, B, p<0.05, n=4)。また、qPCR解析により、Ts2ミトベシクル内のmtDNA量が2N対照群と比較して有意に増加している一方 (Fig 7C, p<0.05, n=5)、内包されているミトコンドリアコードmRNA (ND1, ND4L, Cyb, COX-II, ATP8) はすべて有意に減少していることが明らかになった (Fig 7F, p<0.05, n=5)。さらに、in vitroにおいてアンチマイシンAでミトコンドリアストレスを誘導したヒト線維芽細胞では、エクソソームやMVの放出に影響を与えることなく、ミトベシクルマーカーの分泌が選択的に亢進した (Supplementary Fig 2, n=5)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来の差速遠心法のみに依存してEVサブタイプを十分に分離できなかった先行研究群や、ミトコンドリア成分がエクソソームに内包されて放出されるとした解釈と異なり、高解像度OptiPrep密度勾配分画法を用いることで、ミトコンドリア由来の独立したEV集団をエクソソームやMVから完全に分離した。これは、MSC由来のミトコンドリア成分放出を報告した既報や、がん細胞へのミトコンドリア水平移送を示した知見と対照的であり、放出された小胞が独自の生化学的・形態学的に明確なアイデンティティを持つ「ミトベシクル」であることを実証した。
新規性: 本研究は、脳組織から代謝活性を維持した二重膜構造を持つ新規EVサブポピュレーション「ミトベシクル」を本研究で初めて同定・命名した。プロテオームおよびリピドーム解析により、ミトベシクルがカルジオリピンを豊富に含み、生合成能を欠く一方で、機能的な膜電位を維持して自律的にATPを産生し、MAO活性を保持した「異化専門の代謝パッケージ」であることを新規に明らかにした。さらに、ダウン症候群 (DS) の脳実質において、ミトベシクルの分泌数が有意に増加し、その内包カーゴ (タンパク質、mtDNA、mRNA) の組成異常が生じていることを初めて示した。
臨床応用: 本知見は、神経変性疾患におけるバイオマーカー開発および治療戦略への臨床応用に直結する。ミトベシクルは細胞内のミトコンドリア機能障害を直接反映して分泌量やカーゴ組成 (特にVDAC/COX-IV比やmtDNA量) を変化させるため、血液や脳脊髄液などの体液中ミトベシクルを標的とした非侵襲的な「リキッドバイオプシー」診断法への臨床的有用性が期待される。また、ミトベシクルに内包されるカルジオリピンやmtDNAなどのミトコンドリア由来DAMPs (damage-associated molecular patterns) が、周囲のミクログリアを活性化して神経炎症を惹起する機序は、DSやADにおける神経炎症制御の新たな治療標的となる可能性を示唆する (translationalな創薬標的)。
残された課題: 今後の検討課題として、ミトベシクルがミトコンドリアのどの膜ドメインからどのような分子ドライバーによって出芽・形成されるのか、その biogenesis (生合成) の詳細な分子メカニズムの解明が limitation として残されている。また、放出されたミトベシクルが受容細胞 (ニューロンやグリア細胞) に取り込まれた後の、エネルギー代謝や炎症シグナルへの機能的影響を詳細に解析する必要がある。さらに、臨床現場への応用に向けて、実際のDS患者やAD患者の末梢血液中から高純度でミトベシクルを回収・検出する技術の確立と、大規模コホートでの前向き検証が今後の研究方向性として求められる。
方法
- 生体試料および細胞株: 野生型C57BL/6Jマウス (12ヶ月齢、n=10 独立精製)、ダウン症候群モデルマウスであるTs[Rb(12.17 16)]2Cje (Ts2 (trisomic mouse model Ts[Rb(12.17 16)]2Cje) マウス、12ヶ月齢、n=8) および対照二倍体 (2N) 兄弟マウス。ヒトDS剖検脳 (Brodmann area 9、n=3 DS vs n=3 年齢適合対照二倍体)。細胞実験にはヒト皮膚由来初代線維芽細胞 (AG07095) を使用した。
- 脳組織からのEV単離: 脳組織をパパイン (Papain, 20 U/mL) を含むHibernate A中で37°C、15分間消化し、細胞外マトリックスを緩和させた。プロテアーゼ阻害剤添加後に優しくピペッティングして分散し、300×g (10分間) 遠心で未消化組織と細胞を除去。上清を40 μmフィルターおよび0.2 μmフィルターで濾過後、2,000×g (10分間) および 10,000×g (30分間) の差速遠心によりデブリを除去した。最終上清を100,000×g、70分間の超遠心にかけ、粗EVペレットを回収した。
- 高解像度OptiPrep 8段階密度勾配分画: 粗EVペレットを40% (w/v) OptiPrep (Iodixanol) 溶液に懸濁し、その上部に20%、15%、13%、11%、9%、7%、5%の不連続勾配を重層した。スイングローター (SW40Ti (swinging bucket rotor SW40Ti)) を用いて200,000×g、4°Cで16時間遠心し、界面から8つの分画 (Fr1 (Fraction 1)=最低密度 ~ Fr8 (Fraction 8)=最高密度) を回収した。各分画をPBSで洗浄後、100,000×gで再ペレット化した。
- EV特性解析: 粒子数と粒子径分布はナノ粒子トラッキング解析 (NTA (nanoparticle tracking analysis); ZetaView) で測定した。タンパク質定量にはBCA (bicinchoninic acid) アッセイを用いた。形態観察には、透過電子顕微鏡 (Transmission electron microscopy, TEM) およびクライオ電子顕微鏡 (Cryo-electron microscopy, cryoEM; Talos L120C) を使用した。
- ウエスタンブロット (WB) 解析: 各分画から等容量または等粒子数のタンパク質をロードし、以下のマーカーを検出した。MVマーカー: Annexin A1/A2/V、Lee et al. JExpMed 2019。エクソソームマーカー: TSG101、Alix、vanNiel et al. DevCell 2011、CD81、LAMP2 (lysosome-associated membrane protein 2)、HSC70。ミトベシクルマーカー候補: VDAC (voltage-dependent anion channel) (外膜)、COX-IV (cytochrome c oxidase subunit 4) (内膜)、PDH-E1α (pyruvate dehydrogenase E1 component subunit alpha) (マトリックス)。
- プロテオームおよびリピドーム解析: Fr8のtrypsin消化産物をQ Exactive HF質量分析計を用いたLC-MS/MS (liquid chromatography-tandem mass spectrometry) で定性解析し、MaxQuantおよびAndromeda検索エンジンで同定した。脂質解析は、メチル-tert-butylエーテル/メタノール抽出法を用い、HPTLC (high-performance thin-layer chromatography) および primuline 染色により各脂質クラス (カルジオリピン、PC、PE、PS、PA、コレステロール、スフィンゴミエリン等) を定量した。
- 機能・代謝活性測定: 膜電位の検証にはMitoTracker Deep Red (MTDR, 500 nM) 染色とNTAを組み合わせ、FCCP (carbonyl cyanide 4-(trifluoromethoxy)phenylhydrazone) (20 μM) 処理による消去を検証した。ATP (adenosine 5’-triphosphate) 産生能は、ADP、ピルビン酸、リンゴ酸存在下でルシフェラーゼ発光法により測定し、オリゴマイシン+アンチマイシンA (OA) 処理で阻害効果を検証した。MAO (monoamine oxidase) 活性は特異的阻害剤 (clorgyline, pargyline) を用いて測定した。
- 核酸定量: EVからRNAをmiRNeasy Mini Kitで抽出し、TaqManプローブを用いたリアルタイムqPCRによりmtDNAおよびmtRNA (mt-RNR1, Atp8, Cytb, COX-II, ND4, ND1) を定量した。
- 統計解析: 2群間比較には Student’s t-test、多群比較には one-way ANOVA (Tukey’s test) または Kruskal-Wallis test (Dunn’s test) を使用した。p<0.05 をもって有意差ありと判定した。