• 著者: Heedoo Lee, Chunhua Li, Yang Zhang, Duo Zhang, Leo E. Otterbein, Yang Jin
  • Corresponding author: Yang Jin (Division of Pulmonary and Critical Care Medicine, Department of Medicine, Boston University Medical Campus, Boston, MA)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-06-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31235510

背景

細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) は、miRNAを近傍または遠隔の受容細胞に転送することで遺伝子発現を調節する細胞間コミュニケーション手段として注目されている。EVは、国際細胞外小胞学会 (ISEV) の分類では、大きさと生合成経路によってエクソソーム (Exo、50-150 nm、多胞体由来)、微小小胞 (MV: microvesicle、100-400 nm、形質膜の外向き出芽による)、アポトーシス小体 (AB) の3種に分類される。有害刺激は細胞からのEV放出を促進し、特定のmiRNAプロファイルを持つEVが選択的に分泌されることが知られている。先行研究において、EVを介したmRNAやmiRNAの転送が細胞間の遺伝子交換を担う新規機構であることが Valadi et al. NatCellBiol 2007 により示され、さらに腫瘍由来のMVがRNAやタンパク質を輸送して腫瘍増殖を促進することも Skog et al. NatCellBiol 2008 により報告されている。しかし、特定のmiRNAがいかにして選択的にMVに搭載されるかの分子機構は未解明であった。このmiRNAの選択的ソーティングはATP依存的な活性機構であり、RNA結合タンパク質が関与することが示唆されている。

RNA結合タンパク質であるhnRNPA2B1 (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2/B1) はmiRNAのEVへの搭載に関与することが既知であったが、hnRNPA2B1がどのようにしてEVに動員されるかは不明であった。先行研究では、hnRNPA2B1のSUMO (small ubiquitin-like modifier) 化が特定のモチーフを介してmiRNAのエクソソームへのソーティングを制御することが Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 により示されている。また、YBX1 (Y-box binding protein 1) が細胞内および無細胞系においてmiRNAのエクソソームへのソーティングに必須であることも Shurtleff et al. eLife 2016 により報告されている。さらに、侵襲性腫瘍由来のMVへの分子カーゴの制御された送達機構についても Clancy et al. NatCommun 2015 により報告されている。しかし、これらのタンパク質-miRNA複合体がどのようにMVに導入されるのか、また細胞ストレスがmiRNAのMVへのソーティングをどのように選択するのかは不明な点が多く、詳細なメカニズムの理解が不足していた。カベオリン-1 (Cav-1: caveolin-1) はカベオラの主要成分として膜マイクロドメインの形成、タンパク質輸送、シグナル調節に幅広く関与するが、EV-miRNA選別におけるCav-1の役割は明らかでなかった。本研究は、Cav-1をEVへのRNA結合タンパク質誘導を担う膜タンパク質として初めて同定することを目指した。

目的

本研究の目的は、酸化ストレスなどの有害刺激後に、カベオリン-1 (Cav-1) がどのような分子機序でhnRNPA2B1を介してmiR-17/20a/93を微小小胞 (MV) に選択的に搭載し、受容マクロファージの炎症応答を調節するかを系統的に解明することである。具体的には、Cav-1のチロシン14 (Y14) リン酸化がRNA結合タンパク質であるhnRNPA2B1との相互作用を誘導し、hnRNPA2B1のO-GlcNAc (O-linked beta-N-acetylglucosamine) 修飾を促進することで、特定のmiRNAがMVへ選択的にソーティングされるメカニズムを明らかにすることを目指した。hnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾の役割を、O-GlcNAc転移酵素であるOGT (O-GlcNAc transferase) の阻害剤やhnRNPA2B1のO-GlcNAc部位変異体を用いて詳細に解析した。さらに、このMVに搭載されたmiRNAが受容マクロファージにおいてIRF2BP2 (interferon regulatory factor 2 binding protein 2) を抑制し、TNF-α (tumor necrosis factor-alpha) などの炎症性サイトカイン産生を促進することで、自然免疫応答を誘発する機能的意義をin vitroおよびin vivoで検証することも目的とした。これにより、Cav-1がRNA結合タンパク質をEVに直接誘導する初の膜タンパク質であるという新規性を確立し、酸化ストレスが肺上皮細胞に特定のmiRNAをパッケージングさせ分泌させる新規メカニズムを解明することを目指した。

結果

酸化ストレスによるMV産生とmiRNAプロファイルの変化: 肺上皮細胞 (Beas2B、HBE、A549、マウス初代細胞) を高酸素またはH2O2で処理すると、ROS依存的にMV産生量が増加し、NAC前処理により用量依存的に抑制された (Fig 1A)。この現象はマクロファージでは認められなかった (Fig 1B)。MVのサイズ、形態、MVあたりのタンパク質レベルは高酸素処理後も有意な変化はなかった (Fig 1C, D)。重要なことに、MV内のsmall RNAおよびmiRNA画分が蓄積し、高酸素処理後のmiRNAプロファイルは広汎に変化した (Fig 1E, F)。特にmiR-17、miR-20a、miR-93はMV内で6.0-fold increase超の増加を示し、選択的濃縮が明確であった (Fig 1F)。

hnRNPA2B1による特定miRNAの選択的搭載: hnRNPA2B1は肺上皮細胞MVに存在し、高酸素処理でMV内のhnRNPA2B1タンパク質レベルが上昇した (Fig 2A)。hnRNPA2B1免疫沈降後のRNA解析により、miR-17、miR-20a、miR-93が選択的にhnRNPA2B1と結合し、高酸素条件でこれらの結合が亢進することが示された (Fig 2B, C)。hnRNPA2B1は高酸素処理により核から細胞質へ移行し、細胞質のhnRNPA2B1に結合したmiR-17/20a/93の割合が選択的に増加した (Fig 2J, K, M)。hnRNPA2B1 siRNAノックダウンによりMV内miR-17/20a/93が減少し、hnRNPA2B1依存性が確認された (Fig 2I)。hnRNPA2B1ノックダウン細胞由来MVでは、miR-17、miR-20a、miR-93のレベルがそれぞれ約50%、40%、60%減少した (n=6 replicates, p<0.01)。

Cav-1とhnRNPA2B1の相互作用と協調輸送: 脂質ラフトタンパク質のうち、Cav-1が高酸素処理でMV内に顕著に増加したが、flotillin-1 (flot1) は変化しなかった (Fig 3A)。共焦点顕微鏡によりCav-1とhnRNPA2B1は細胞質で共局在し、蛍光ライブセルイメージングで両タンパク質が複合体として細胞質から形質膜へ共輸送され、細胞外に放出される過程が可視化された (Fig 3D, E)。co-IPによりCav-1とhnRNPA2B1の直接相互作用が確認され、高酸素条件で細胞質での会合が増強した (Fig 3F)。この相互作用は、高酸素処理により2.5-fold increaseに増加した (n=3 replicates, p<0.01)。

相互作用ドメインの同定: I-TASSER予測により、Cav-1のCSD (Y97、F99が重要残基) とhnRNPA2B1のRGGボックスが相互作用に不可欠であることが同定された (Fig 4A)。Y97S、F99S変異体はhnRNPA2B1との結合とMVへのhnRNPA2B1放出を抑制し、RGG欠失hnRNPA2B1も同様の効果を示した (Fig 4B, D, E)。hnRNPA2B1 ΔRGG変異体では、MVへのhnRNPA2B1放出が約70%減少した (n=3 replicates, p<0.01)。in vitroリコンビナントタンパク質実験でCav-1/hnRNPA2B1相互作用が直接結合であることが確認され、CSDペプチドで競合阻害された (Fig 4G)。CSDペプチドの添加により、Cav-1とhnRNPA2B1の結合は用量依存的に抑制された (p<0.01)。

Cav-1 Y14リン酸化の中心的役割: Cav-1のY14リン酸化型 (pY14) は高酸素処理後のCav-1/hnRNPA2B1沈降物に濃縮された (Fig 5A)。Y14F変異体はhnRNPA2B1との結合を失い、WT Cav-1過剰発現による高酸素後のMV内hnRNPA2B1増加が抑制された (Fig 5B, C)。Cav-1 Y14F変異体では、Cav-1とhnRNPA2B1の結合が約80%減少した (n=3 replicates, p<0.01)。また、WT Cav-1はhnRNPA2B1結合miR-17/93のMV搭載を促進したが、hnRNPA2B1 siRNAノックダウンでこの効果は消失し、Cav-1→hnRNPA2B1→miRNA搭載の上流カスケードが確立された (Fig 5D, E)。

Cav-1欠損時のhnRNPA2B1リソソーム分解: Cav-1-/-細胞では高酸素後にhnRNPA2B1が細胞・MV双方で著明に減少したが、hnRNPA2B1 mRNAレベルは変化しなかった (Fig 6A, B, E)。Cav-1-/-細胞のMVにおけるhnRNPA2B1レベルはWT細胞と比較して約80%減少した (n=3 replicates, p<0.01)。LAMP1共局在解析でhnRNPA2B1がリソソームへ迂回することが示され、Bafilomycin A1 (BAF、リソソーム阻害剤) 処理でhnRNPA2B1タンパク質量は回復したが、MV内への分泌は増加しなかった (Fig 6F, G, H)。ユビキチン化解析でCav-1欠損細胞のhnRNPA2B1ユビキチン化が亢進していた (Fig 6I)。

hnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾: hnRNPA2B1はリン酸化・SUMO化よりもO-GlcNAc修飾が優位であった (Fig 7A)。高酸素処理後のCav-1/hnRNPA2B1沈降物においてhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾とCav-1 pY14が共増強された (Fig 7B)。WT Cav-1過剰発現はhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾を促進したが、Y14F変異体では促進されなかった (Fig 7C)。Cav-1 WT過剰発現によりhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾はコントロールと比較して2.5-fold increaseに増加した (n=3 replicates, p<0.01)。O-GlcNAc修飾されたhnRNPA2B1はMV内に濃縮された (Fig 7D)。OGT阻害剤によるO-GlcNAc修飾抑制はhnRNPA2B1結合miR-17/20a/93を選択的に減少させ、総miRNA量には影響しなかった (Fig 7E, F, G)。hnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾部位としてS73とS90が同定され、これらの変異はhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾とmiRNA結合を抑制した (Fig 7I, J)。特にS73A変異体ではO-GlcNAc修飾が約70%減少した (n=3 replicates, p<0.01)。

受容マクロファージにおける炎症応答: 肺内では上皮細胞由来MVの主要受容細胞はマクロファージであった。上皮MVを取り込んだマクロファージはIRF2BP2の発現を低下させ、TNF-α、IL-1β産生が促進された (Fig 8E, F)。IRF2BP2ノックダウンはこの炎症応答を模倣し、IRF2BP2過剰発現は抑制した。IRF2BP2はmiR-17/93の標的であり、MV経由のmiRNA転送が炎症増幅ループを形成することが示された (Fig 8L, N)。in vivoにおいても、高酸素曝露マウスの肺胞マクロファージ (AM) ではIRF2BP2の発現が低下し、炎症性サイトカインが増加した (Fig 8M)。高酸素誘導MVをマウス肺に投与すると、AMによるM1関連遺伝子発現が促進され、この効果はCav-1欠損MVでは減弱した (Fig 9J)。高酸素誘導MV投与により、TNF-α mRNAレベルはコントロールと比較して3.5-fold increaseに増加した (n=3 mice, p<0.01)。

考察/結論

先行研究との違い: hnRNPA2B1がエクソソームへのmiRNAソーティングに関与するという先行研究である Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 と異なり、本研究は、細胞質へ転移したhnRNPA2B1がCav-1と協調してMV (形質膜由来の小胞) への搭載を担うという新しいコンパートメントと機序を同定した。この点で、エクソソームソーティング (多胞体経路) と形質膜出芽によるMVソーティングが異なる機構で制御されることが明確になった。また、hnRNPA2B1のSUMO化がエクソソームソーティングに関与するという報告に対し、本研究ではhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾がMVへのmiRNAソーティングに重要であることを示し、翻訳後修飾 (PTM: post-translational modification) のクロストークがEVのサブタイプ特異的なカーゴ選別を制御する可能性を提示した。

新規性: 本研究で初めて、Cav-1がRNA結合タンパク質であるhnRNPA2B1をEVへ直接誘導する膜タンパク質として機能することを明らかにした。また、Cav-1のY14リン酸化がhnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾を誘導し、これが特定のmiRNAのhnRNPA2B1への結合およびMVへの搭載を促進するという、リン酸化とO-GlcNAc修飾間の新規なPTMクロストーク機構を同定した。これは、細胞ストレス応答におけるEVを介した細胞間コミュニケーションの調節軸として極めて新規な知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、酸化ストレス性肺疾患におけるMVを介した炎症増幅の治療標的となりうる。急性肺傷害、敗血症、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) などにおいて、肺上皮細胞由来MVを介したマクロファージ活性化が病態形成に寄与する可能性があり、Cav-1/hnRNPA2B1複合体の形成を阻害するCSDペプチドや、hnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾を抑制するOGT阻害剤が、この経路を遮断する治療ツールとして将来的に検討されるべき候補である。これらの介入は、MVを介した炎症性miRNAの転送を抑制し、肺の炎症反応を軽減する臨床応用に直結する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究がin vitroおよびマウスモデルが中心であるため、ヒト疾患組織におけるCav-1-hnRNPA2B1軸の動態や、他の刺激 (低酸素、炎症性サイトカイン、機械的ストレスなど) への普遍性を検証する必要がある。また、MVとエクソソーム画分におけるmiRNAソーティングの役割分担の詳細な解明、およびmiRNA自体の修飾 (例: ウリジル化) がRNA結合タンパク質との相互作用やEVへのソーティングに与える影響についても、さらなる研究が求められる。

方法

細胞モデルとMV誘導: ヒト肺上皮細胞株であるBeas2B (human bronchial epithelial cell line)、HBE、A549、およびマウス初代肺上皮細胞を培養し、酸化ストレスとして高酸素 (95%酸素、5%CO2) または1 µMのH2O2に24時間曝露してMV産生を誘導した。ROS (reactive oxygen species) 阻害剤であるN-アセチルシステイン (NAC) を用いた用量依存性制御も検討した。マウスはC57BL/6J WT (wild-type) マウスおよびCav-1-/- (caveolin-1 knockout) マウス (C57BL/6Jバックグラウンド、雄、6-8週齢) を使用し、高酸素曝露実験を行った。

MV単離と解析: 細胞培養上清またはコラゲナーゼ消化したマウス肺組織から、差動遠心分離法によりアポトーシス小体 (AB、2,000-3,000 g、20分)、MV (16,000 g、40分)、エクソソーム (Exo、100,000 g、1時間) を順次単離した。MVのサイズと形態はナノ粒子トラッキング解析 (NTA: nanoparticle tracking analysis) および透過型電子顕微鏡 (TEM) で確認した。MV内のタンパク質レベルはBradfordアッセイで定量し、ウエスタンブロットで特定のタンパク質の発現を評価した。miRNAプロファイルはsmall RNA解析 (Agilent 2100 Bioanalyzer) およびmiRNAアレイ (FirePlex particle technology) で測定し、特定のmiRNAはステムループベースのqPCR (quantitative real-time PCR) で定量した。

タンパク質相互作用解析: Cav-1とhnRNPA2B1の相互作用は共免疫沈降 (co-IP) 法で確認した。I-TASSER (Iterative Threading Assembly Refinement) を用いてCav-1とhnRNPA2B1の3次元結合構造を予測し、Cav-1のCSD (caveolin scaffolding domain) (Y97、F99) とhnRNPA2B1のRGG (arginine-glycine-glycine) ドメインが相互作用に重要であることを同定した。各種欠失変異体および点変異体 (Cav-1 Y14F、Y97S、F99S、hnRNPA2B1 ΔRGG、ΔM9) をHEK293T細胞に発現させて機能解析を行った。in vitroでのリコンビナントタンパク質結合アッセイも実施し、CSDペプチドによる競合阻害を評価した。

翻訳後修飾解析: hnRNPA2B1およびCav-1のリン酸化、O-GlcNAc修飾、SUMO化の状態をウエスタンブロットで評価した。hnRNPA2B1のO-GlcNAc修飾の機能的役割を解析するため、O-GlcNAc転移酵素 (OGT) 阻害剤 (100 nM) を使用した。O-GlcNAc修飾の潜在的な部位はYinOYang 1.2ソフトウェアで予測し、S73A、S90A、S186G、S213Gの点変異体を導入して確認した。遺伝子ノックダウンにはsiRNA (small interfering RNA) を用いた。

統計解析: 各実験の正確なサンプル数と統計的有意性は図および図の凡例に示されている。2群間の比較には両側Student t-testを、3群以上の比較にはone-way ANOVAを適用した。p < 0.05を有意差ありと判断した。