- 著者: van Niel G, Charrin S, Simoes S, Romao M, Rochin L, Saftig P, Marks MS, Rubinstein E, Raposo G
- Corresponding author: Guillaume van Niel (Institut Curie, Paris)
- 雑誌: Developmental Cell
- 発行年: 2011
- Epub日: 2011-09-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 21962903
背景
多胞体エンドソーム (MVE: multivesicular endosome) の内腔小胞 (ILV: intraluminal vesicle) へのカーゴソーティングは、増殖因子シグナリングの終結、リソソーム分解、エクソソーム分泌、およびリソソーム関連オルガネラ (LRO: lysosome-related organelle) 生合成など、多様な生理過程に必須であると認識されている。従来、ILVソーティングはユビキチン化されたカーゴがESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 複合体群に認識されることで厳密に制御されると理解されてきた (Gruenberg and Stenmark, 2004; Hurley, 2008)。しかし、エクソソームやLRO生合成の一部カーゴは、ユビキチン化やESCRT成分に依存せずにILVへソーティングされることが複数の先行研究で示唆されており (Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009; Theos et al., 2006b; Trajkovic et al., 2008)。このESCRT非依存的ILVソーティングの分子機構は依然として未解明な点が多かった。
色素細胞特異的I型膜タンパクPMEL (Pmel17/gp100) は、メラノソーム (色素細胞のLRO) の生合成に必須の構成要素である。PMELはステージIプレメラノソーム (クラスリン被覆コートを持つ空胞型MVE中間体であり、エンドサイトーシストレーサーに15分でアクセス可能で、平均2-6個のILVプロファイルを持つ) のILVにESCRT非依存的にソーティングされることが知られている (Theos et al., 2006b; Truschel et al., 2009)。ILV上でPMELの腔内ドメインはプロテアーゼによりMαとMβに切断され、MαがアミロイドI繊維 (メラニン重合の鋳型) を形成する。残存するC末端断片 (CTF: C-terminal fragment) はγセクレターゼによって分解される経路をたどる (Kummer et al., 2009)。テトラスパニン (TSPAN: tetraspanin) ファミリーのCD63はILVとエクソソームに選択的に濃縮されることが報告されているが (Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009; van Niel et al., 2006)、ESCRT非依存的ILV形成におけるその機能的役割は未解明であった。また、セラミドが別のESCRT非依存経路のエフェクターとして知られていたが (Trajkovic et al. Science 2008)、PMELとCD63のILVソーティングがセラミドに依存するかどうかも明らかでなかったため、ESCRT非依存的ILV形成の多様なメカニズムに関する知識には不足が残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とする。
目的
本研究の目的は、テトラスパニンCD63がESCRT非依存的ILV形成、PMELのILVへのソーティング、アミロイド繊維形成、およびメラノソーム生合成にどのように関与しているかを解明することである。具体的には、CD63がPMELの腔内ドメインのESCRT非依存的ソーティングに必須であることを示し、その欠失がILV形成とアミロイド形成に及ぼす影響を評価する。さらに、CD63がPMELのC末端断片 (CTF) のESCRT依存的分解経路への誘導にどのように影響するかを明らかにし、同一カーゴ (PMEL) の異なる機能ドメインに対して、ESCRT非依存的ソーティングとESCRT依存的ソーティングという対照的な機構が、CD63によってどのように厳密にバランス制御されているかを解明することを目的とする。これにより、LRO生合成におけるエンドソームソーティングの複雑な相互作用を深く理解することを目指す。
結果
CD63のILV優先的局在とPMELとの共局在の確立: MNT-1細胞の免疫金標識電子顕微鏡解析により、CD63とPMEL腔内ドメイン (HMB50抗体認識) はMVEのILV上に75%以上が局在することが示された (限界膜ではなくILVに優先的に局在)。CD63の20-25%がPMEL陽性MVEで検出された (Figure 1C)。CD63はステージI-IVのメラノソームに広く分布し、リソソームには5-10%のみが局在した。関連テトラスパニンであるCD81はPMEL陽性MVEに共局在しなかった。ESCRT-I (Tsg101) をsiRNAで欠失させた細胞でもCD63およびPMEL陽性ILVが正常に形成されたことから、CD63とPMELのILVへのソーティングはESCRT非依存的であることが確認された。また、スフィンゴミエリナーゼ阻害剤 (GW4869 2.5 μM) や酸性スフィンゴミエリナーゼ siRNAによりセラミド経路を阻害してもCD63・PMEL局在とアミロイド形成に影響がなく、この経路のセラミド非依存性が確立された。
CD63欠失によるILV形成と繊維形成の著明な障害: 2種類のCD63 siRNA (>80% KD効率確認) いずれによっても、コートMVEあたりのILVプロファイル数は平均約5個 (コントロール) から平均<2個へと80%以上低下した (n=50 EM profiles/条件) (Figure 2D)。同時にILV上に局在するPMEL腔内ドメインの割合が2倍以上低下し (n=100 MVEs/条件)、PMELは主にコートエンドソームの限界膜に蓄積した (Figure 2E)。しかし、残存ILV上のPMEL標識密度はコントロールと同等であり、CD63欠失の主効果がILV形成量の減少であることが示された。アミロイド繊維形成の評価では、TX-100不溶性分画のHMB45標識が93%±7%減少し、CD63欠失特異的に繊維形成が著しく障害されることが示された (CD81 siRNAでは影響なし) (Figure 3A)。通常型電子顕微鏡でステージIIプレメラノソーム (アミロイド繊維を持つ構造体) が著明に減少し、リソソーム様球形構造物 (直径約500 nm、内部小胞少数) が4倍増加した。ステージIIIメラノソームも減少したが、メラニン合成酵素は異常メラノソームに適切に局在し、メラニン含量はわずかに増加した (Figures 3D, 3F)。
CD63-/-マウスによるin vivo検証: CD63-/-マウス (2ヶ月齢、n=2 vs n=2 コントロール) は変動する毛色の灰色化を示した。皮膚メラノサイトでの代償効果を除くため、RPEを解析した。CD63-/-マウスのRPEでは野生型と比較してメラノソーム数が著しく減少し、野生型で特徴的な楕円形メラノソームに対して残存メラノソームは球形化していた (Figure 3G)。この球形化はPMEL変異 (silverマウス) で見られるアミロイドスキャフォールド形成不全と一致しており、CD63依存的PMEL繊維形成障害がin vivoでもメラノソーム成熟に必須であることを示した。
CD63によるPMEL CTFとの直接相互作用とPMELプロセシングへの影響: Brij97 (1%) による穏和な可溶化条件下での共免疫沈降では、CD63抗体によりPMEL CTF (10 kDa) が特異的に共沈降したが、関連テトラスパニンであるCD81・CD9では検出されなかった (Figure 5B)。DAPT (1 μM、24時間) によるγセクレターゼ阻害でCTF半減期を延長させた条件でもCD63-CTF相互作用が確認された (MNT-1細胞でのCTFの短い半減期を補償)。CD63欠失細胞では、DAPT処理でCTFがコントロール細胞と同程度に蓄積したことから、CD63欠失はγセクレターゼ上流のPMEL切断 (プロホルモン転換酵素・S2Pによる切断) には影響せず、CTF分解を加速させることが示された。Western blotでPMELのProprotein convertase産物Mβ (28 kDa) およびCTF (10 kDa) バンドはCD63欠失で軽度減少したが、P1 (90 kDa全長型) は保存されていた (Figure 4B)。DAPT処理では、PMELのαPmel-C抗体による免疫沈降物にhigh molecular weight ubiquitin conjugatesが蓄積し (コントロールではほぼ検出されず)、CTFがユビキチン化タンパクと会合することが示された (Figure 6I)。Tsg101欠失細胞ではCTFが拡大した空胞区画の限界膜に蓄積し、LAMP1陽性区画には移行しなかったことから、CTFのリソソームへの輸送はESCRT-Iに依存することが確定した (Figure 6A, 6B)。
CD63欠失時のPMELのESCRT依存的経路へのリダイレクションと分解: CD63欠失MNT-1細胞では、PMELはコートMVE (Hrs陽性) ではなく非コートMVEのILVへの移行が確認されたが、これはESCRT依存的ILVへの切り替えを意味した (Figure 7B)。CD63とTsg101の二重欠失ではCD63欠失単独で減少したMβ・CTF・MaC (αPmel-N・αPmel-C・HMB45反応バンド) が部分的または完全に回復し (それぞれ異なる回復度)、CD63欠失時にPMELが全長でESCRT依存的分解を受けることが確認された (Figure 8E)。CD63欠失細胞のコートMVEではHrs標識量が有意に増大し (n=50 profiles)、コートの割合と長さも増加した (p<0.05) (Figure 8B, 8D)。コントロールのESCRT依存的カーゴ (MART-1・EGFR) はCD63欠失の影響を受けなかった。以上から、CD63がESCRT非依存的ILVへのPMEL腔内ドメイン輸送を制御し、欠失時には同カーゴがESCRT依存的分解経路へリダイレクトされるという競合的バランスが確立された。
考察/結論
本研究は、テトラスパニンCD63がESCRT非依存的MVE形成の必須エフェクターとして機能し、PMELの腔内ドメインをILVへソーティングしてアミロイド繊維形成を制御することを初めて明らかにした。CD63は直接PMEL CTFと物理的に相互作用し、腔内ドメインのESCRT非依存的ILVへの誘導と、CTF自体のESCRT-I依存的分解という対照的な2つのソーティング運命を協調的に調節する。この概念 — 単一カーゴの異なるドメインが同一エンドソーム膜上で独立した機構によりILVへソーティングされる — はエンドソームソーティングの理解を根本的に拡張するものである。
先行研究との違い: 先行研究では、ESCRT非依存的ILV形成のエフェクターとして唯一知られていたのがセラミド (PLP/プロテオリピドタンパクソーティング) であった (Trajkovic et al. Science 2008)。しかし、本研究はPMELとCD63のソーティングがセラミド非依存的であることを示し、細胞内に少なくとも2種類のESCRT非依存的ILV形成機構が存在することを確立した点で、これまでの知見と異なっている。
新規性: CD63欠失マウスでは、リソソーム機能は保たれながらLRO (メラノソーム) が選択的に障害されるというin vivo知見は、CD63がLRO特異的ILV形成に特化した機能を持つことを示唆しており、これはこれまで報告されていない新規な発見である。また、CD63がPMELの腔内ドメインをESCRT非依存的ILVに収容することで、PMELをESCRT依存的分解から保護するという「保護機能」を提案した点も新規性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、メラノソーム生合成におけるアミロイド形成の分子メカニズムを解明する上で重要な基盤を提供する。PMELアミロイド形成の異常は、色素沈着異常症や一部の皮膚疾患に関連する可能性があり、CD63を標的とした治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。また、エクソソーム分泌における選択的カーゴソーティング機構の分子理解にも重要な基盤を提供し、エクソソームを介した疾患診断や治療への臨床応用にも貢献しうる。
残された課題: 今後の検討課題として、CD63が直接膜変形を駆動する物理的機構の解明が残されている。テトラスパニンウェブがどのように膜曲率を誘導するのか、その詳細なメカニズムは未知である。また、CD63の過剰発現効果が検討されていない点も今後の課題である。さらに、CD63と共役する膜脂質 (コレステロール・スフィンゴ脂質) の役割の解明、他のLROカーゴへのCD63依存的ソーティングの一般化、およびエクソソーム産生における同機構の意義の検討も重要である。本研究はMVEの異質性 (degradative vs exosome-biogenic vs LRO-biogenic ILVs) の細胞内共存という概念を直接的に支持しており、この多様なMVEサブポピュレーションの形成メカニズムのさらなる解明が求められる。
方法
本研究では、ヒト黒色腫MNT-1細胞 (色素細胞型であり、ユーメラニン生成の忠実なモデル) を主要な実験系として使用した。CD63の発現を抑制するため、2種類のCD63特異的siRNA (CD63#1およびCD63#2) を用いたノックダウン (KD) を実施し、その効率は各ウェスタンブロット解析により80%以上のKD効率で確認した。細胞内局在の定量的解析は、免疫蛍光顕微鏡 (IFM: Leica DM-RXA2 3D deconvolution microscope, 100×1.4 NA対物レンズ, z間隔0.2 μm) と、パラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒド固定後の超薄凍結切片を用いた免疫金標識電子顕微鏡 (IEM: PAG10/PAG15 gold) により詳細に実施した。通常型電子顕微鏡を用いて、コートMVEの形態 (ILVプロファイル数、クラスリンコート長) を50細胞プロファイル/条件で定量的に解析した。
ESCRT-I複合体の機能欠損を誘導するためにはTsg101 siRNA KDを、γセクレターゼの阻害にはDAPT (1 μM、4時間または24時間処理) を用いた。PMELのアミロイド繊維形成の評価は、Triton X-100不溶性分画 (Tx不溶性) を調製し、HMB45抗体を用いたイムノブロット解析により定量した。CD63とPMELの相互作用を検出するためには、Brij 97 (1%; 穏和な界面活性剤) を用いた可溶化条件下での共免疫沈降実験を実施した。さらに、CD63の生理的役割をin vivoで検証するため、CD63-/-マウス (Schröder et al., 2009) の網膜色素上皮 (RPE) からエポン包埋超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡を用いてメラノソーム形態を解析した。スフィンゴミエリナーゼ阻害剤 (GW4869 2.5 μM) や酸性スフィンゴミエリナーゼ siRNAによるセラミド経路の阻害実験も行い、PMELとCD63のILVソーティングのセラミド依存性を評価した。統計解析にはStudent t-testを用いた。