- 著者: Franziska Haderk, Ralph Schulz, Murat Iskar, Laura Llaó Cid, Thomas Worst, Karolin V. Willmund, Angela Schulz, Uwe Warnken, Jana Seiler, Axel Benner, Michelle Nessling, Thorsten Zenz, Maria Göbel, Jan Dürig, Sven Diederichs, Jérôme Paggetti, Etienne Moussay, Stephan Stilgenbauer, Marc Zapatka, Peter Lichter, Martina Seiffert
- Corresponding author: Martina Seiffert (m.seiffert@dkfz.de, German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany)
- 雑誌: Science Immunology
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 28754746
背景
慢性リンパ性白血病 (CLL) は、成熟した CD5+ CD19+ Bリンパ球の悪性クローン増殖を特徴とする血液腫瘍であり、患者体内においては高度な免疫抑制と全身性の炎症性微小環境が形成される。CLL患者の末梢血中の単球やリンパ組織内のマクロファージは、腫瘍支持サイトカインの放出や、PD-L1 (Programmed Death-Ligand 1) などの免疫抑制性分子の発現上昇を伴う腫瘍促進的 (プロテューモラジェニック) な表現型へと偏向していることが知られている。がん細胞由来の細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicle) は、腫瘍微小環境 (TME: Tumor Microenvironment) における細胞間コミュニケーションの重要な担い手であり、特にEV内に封入されたRNAは標的細胞に取り込まれた後も機能を発揮することが報告されている。先行研究において、CLL細胞由来のEVが間質細胞に取り込まれてがん関連線維芽細胞 (CAF: Cancer-Associated Fibroblast) 様の表現型への移行を誘導すること Thery et al. NatRevImmunol 2009 や、EVを介したRNAやmicroRNA (miRNA) の転送が細胞間の遺伝子交換メカニズムとして機能することが示されてきた Valadi et al. NatCellBiol 2007。また、非コードRNAの一種であるY RNA (RNY: Ribonucleic acid, Y) は、DNA複製やRNA品質管理に関与する高度に保存されたRNAであり、免疫細胞由来の小胞などに選択的に取り込まれることが既報により示唆されていた Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。しかしながら、CLLにおいて腫瘍細胞由来のエクソソームが単球やマクロファージの免疫抑制性表現型への偏向を駆動する具体的な分子機構は未解明であった。特に、どの非コードRNA (ncRNA) カーゴが単球の活性化やPD-L1発現を直接誘導するのか、またその受容体シグナル経路の特異性やin vivoでの治療標的としての妥当性については、これまでの研究ではデータが不足しており、大きな知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。本研究は、CLL患者血漿および細胞株由来のエクソソームの包括的なRNAシーケンシングとプロテオーム解析を統合的に実施することで、この未開拓の領域を解明し、腫瘍支持的な免疫抑制性微小環境を形成する新規のEV媒介経路を特定することを目的とした。
目的
CLL患者の血漿およびCLL細胞株MEC-1 (MEC-1 chronic lymphocytic leukemia cell line) の培養上清から単離したエクソソームのRNAおよびタンパク質組成を包括的にプロファイリングし、単球においてPD-L1発現上昇、CCR2低下、および炎症性サイトカイン (CCL2、CCL4、IL-6) 分泌を誘導する主要な非コードRNAカーゴを同定すること。さらに、同定されたカーゴ分子がエンドソーム内のToll様受容体7 (TLR7) シグナルを介して単球を活性化する分子機序を実証し、in vivoマウスモデルにおいてこの経路を薬理学的に阻害することでCLLの病態進行を抑制できるか検証することを目的とする。
結果
B細胞由来エクソソームのCLL患者血漿における濃縮: NTAを用いた絶対粒子数の測定において、CLL患者血漿 (n=26 donors) と健常ドナー血漿 (n=27 donors) の間でエクソソーム濃度に有意な差は認められず、両群ともに中央値は 1.0 × 10^10 particles/mL であった (p=0.30、Fig. 1E)。一般的なエクソソームマーカーであるCD81のELISAによる定量でも有意差は検出されなかった (p=0.65)。しかし、絶対エクソソーム数は血小板数と有意に相関しており (Spearman r=0.54, p=0.01、Fig. S1F)、血漿中エクソソームの大部分が血小板由来であることが示唆された。一方で、質量分析を用いたプロテオーム解析では、同定された347タンパク質のうち91タンパク質においてCLL患者と健常ドナーのエクソソーム間で fold change 2.0x 以上の有意な発現変動が認められた。さらに、B細胞マーカーであるCD20を標的としたELISA解析では、CLL患者血漿においてCD20陽性のB細胞由来エクソソームが健常ドナーと比較して有意に高値を示し (p=0.008、Fig. 1H)、患者血漿中では白血病細胞由来のエクソソームが選択的に濃縮されていることが実証された。
非コードY RNA hY4のエクソソームへの選択的封入: MEC-1細胞 (n=3 cells) およびその分泌エクソソーム (n=5 replicates)、ならびにCLL患者血漿由来エクソソーム (n=3 donors) を対象とした small RNA-seq 解析を実施した結果、細胞とエクソソームの間でRNA組成に極めて顕著な差異が認められた。特に、非コードRNAであるY RNAが、MEC-1細胞と比較してMEC-1由来エクソソームにおいて最も有意に濃縮されているRNA種として同定された (FDR<0.001、Fig. 2C)。その中でも、hY4およびその擬遺伝子由来のリードは、MEC-1エクソソームの全リードの 11.1%、CLL患者血漿エクソソームの 5.4% という高い割合を占めていたのに対し、MEC-1細胞内ではわずか 0.6% に過ぎなかった (Fig. 2G)。リードのマッピング解析により、エクソソーム内のhY4の大部分は全長配列の5’末端側に由来する断片であることが判明した。Northern blot解析により、全長hY4 (96 nt) と5’フラグメント (31 nt) の両方がMEC-1エクソソームおよびCLL患者血漿エクソソームにおいて濃縮されていることが確認され、特に5’フラグメントにおいて顕著な 4.5-fold 以上の濃縮が認められた (Fig. 3A)。
CLL由来エクソソームによる単球の免疫抑制表現型およびサイトカイン分泌の誘導: PKH67で膜標識したMEC-1エクソソームをヒト初代単球に添加したところ、添加後8時間で約 85% の単球においてエクソソームの細胞内取り込みが確認された (Fig. 4D)。このエクソソーム処置により、単球表面における免疫チェックポイント分子 PD-L1 の発現が約 4.0-fold 有意に上昇し (p=0.02、Fig. 4E)、一方でケモカイン受容体 CCR2 の発現は約 60% 低下した。さらに、単球からの炎症性・腫瘍支持性サイトカインである CCL2、CCL4、および IL-6 の分泌が著しく誘導された (p<0.01、Fig. 4G)。これらのPD-L1分子やサイトカインはエクソソーム自体には含まれておらず、単球内でのde novoのシグナル伝達と遺伝子発現誘導によるものであることが確認された。CLL患者血漿から単離したエクソソームを用いた実験においても、健常ドナー由来エクソソームと比較して、単球におけるPD-L1の発現上昇が有意に再現された (p=0.01、Fig. 4H)。
hY4による単球活性化とエンドソーム内TLR7シグナル依存性: 合成した全長hY4 (96 nt) をトランスフェクションによりヒト初代単球に導入し、84遺伝子を対象としたRT-PCRアレイ解析を行った結果、48遺伝子において fold change 2.0x 以上の有意な発現上昇が認められた (Fig. 5C)。上昇した遺伝子には、PD-L1 (CD274)、IDO1、IL6、CCL2、CCL4、CXCL10 など、CLL患者の血清中で高値を示す炎症性・免疫抑制性因子が多数含まれており、hY4単独の導入がCLL微小環境のサイトカインプロファイルを高度に再現することが示された (Fig. 5I)。機能比較において、全長hY4は5’フラグメントや対照としてのmiR-21、miR-15aと比較して、PD-L1発現誘導およびサイトカイン分泌において極めて高い活性を示した (Fig. 5E, F)。共焦点顕微鏡解析により、導入されたhY4は酸性化された後期エンドソーム/リソソームに集積することが示された (Fig. 5B)。このhY4による単球活性化機構を解明するため、ノックアウトマウス由来の細胞を用いた検証を行った。Mavs KOマウス由来の骨髄性細胞ではhY4による活性化が維持されていたのに対し、単鎖RNA受容体である Tlr7 KO マウス由来の細胞では、hY4によるIL-6やCCL4の分泌、およびPD-L1の発現上昇が完全に消失した (Fig. 6A, B)。これにより、エクソソーム由来のhY4がエンドソーム内のTLR7を介して単球の活性化を駆動していることが直接的に実証された。
In vivoにおけるエンドソームTLRシグナル阻害によるCLL進行抑制効果: エクソソームおよびhY4による単球活性化経路の治療標的としての妥当性を検証するため、エンドソーム酸性化およびTLRシグナルを阻害するクロロキンを用いて in vitro および in vivo での介入実験を行った。ヒト初代単球をクロロキン (50 μM) で前処理することにより、全長hY4またはMEC-1エクソソームによって誘導されるIL-6やCCL4の分泌が有意に抑制された (Fig. 6C)。さらに、Eμ-TCL1脾細胞移植によるCLLマウスモデル (n=12 mice) において、クロロキン (46 mg/kg/day) を3.5週間経口投与した結果、対照群 (vehicle) と比較して、末梢血中の CD5+ CD19+ CLL細胞の絶対数が有意に減少した (p<0.05、Fig. 6D)。また、治療群では脾臓におけるCLL細胞の絶対数が有意に減少し (p<0.01、Fig. 6E)、脾臓重量の増大 (脾腫) も顕著に抑制された (p<0.001、Fig. 6F)。これらの結果から、エンドソームTLRシグナルの薬理学的阻害が、CLLの病態進行を遅延させる有効な治療戦略となり得ることが in vivo で実証された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、CLL細胞由来のEVが間質細胞をCAF様細胞へと分化させることを示した Paggetti et al. (2015) の報告と異なり、エクソソームが単球・マクロファージを直接的な標的として免疫抑制性表現型 (PD-L1発現上昇およびCCR2低下) を誘導する具体的な分子機構を、非コードRNAカーゴのレベルで初めて明らかにした。また、単球やマクロファージがCLL細胞を支持する表現型へ偏向する現象を報告した既報のモデルと異なり、その上流に存在するトリガーとして「エクソソーム内hY4によるTLR7活性化」という新規の経路を同定した。さらに、がん細胞由来のmiR-21がTLRを介してマクロファージを活性化することを示した Fabbri et al. (2012) の知見と対照的に、本研究はCLLにおいて極めて豊富に存在する非コードRNA種であるhY4が、より強力なTLR7リガンドとして機能し、腫瘍促進的な炎症環境を形成することを実証した。
新規性: 本研究は、CLL患者の血漿中において白血病細胞由来のエクソソームが選択的に濃縮されていること、そしてその内部に非コードY RNAであるhY4が高度に濃縮されていることを本研究で初めて新規に同定した。エクソソーム中のhY4が、単球の後期エンドソームに移行し、単鎖RNA認識受容体であるTLR7を介してNF-κB活性化およびde novoのPD-L1発現と炎症性サイトカイン (CCL2, CCL4, IL-6) の分泌を直接的に誘導することを、本研究で初めて明らかにした。
臨床応用: 本研究の知見は、CLLにおける腫瘍支持的な微小環境を標的とした新規治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、エンドソームTLRシグナルを阻害するクロロキンやヒドロキシクロロキンなどの既存薬が、単球の免疫抑制性偏向を遮断し、CLLの病態進行を抑制する有効な補助療法となり得ることが示された。また、エクソソームによるPD-L1発現誘導経路を標的とすることは、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤との併用療法において、耐性克服や治療効果増強をもたらす translational な臨床的有用性を持つと考えられる。さらに、血漿中のエクソソーム結合性hY4レベルは、CLLの病態進行や治療応答性を予測する低侵襲なバイオマーカーとして臨床現場で応用できる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、hY4以外の他のY RNA種 (hY1, hY3, hY5) のTLR7活性化能やエクソソームへの封入効率との比較解析が必要である。また、本研究における limitation として、RNY4 遺伝子がマウスゲノムに存在しないため、Eμ-TCL1 マウスモデルにおいて内因性のhY4の動態やその直接的なノックアウト効果を直接検証することが困難であった点が挙げられる。今後は、ヒト化マウスモデルや前向き臨床コホートを用いて、患者体内における「エクソソームhY4 - TLR7 - PD-L1陽性単球」軸の活性と、実際の臨床転帰や生存期間との相関を詳細に解析することが今後の重要な研究方向性である。
方法
- 臨床検体および細胞培養: 地元の倫理委員会の承認およびインフォームドコンセントのもと、CLL患者 (n=26) および年齢を適合させた健常ドナー (n=27) の血漿サンプルを収集した。CLL細胞株としてMEC-1細胞を使用した。ヒト初代単球は、健常ドナーのバフィーコートからCD14+ MACS磁気ビーズ精製法を用いて単離した (純度 >95%)。
- エクソソームの単離と特性解析: 細胞培養上清または血漿から、300×g (10 min)、2,000×g (15 min)、10,000×g (30 min) の段階的遠心分離により細胞およびデブリを除去し、100,000×g (90 min) の超遠心分離によってエクソソームをペレットとして回収した。エクソソームの特性解析は、NTA (Nanoparticle Tracking Analysis) による絶対粒子数測定、透過電子顕微鏡 (TEM: Transmission Electron Microscopy) による形態観察、Western blotによるマーカータンパク質 (RAB5a、HSP70、HLA-DR陽性、Calnexin陰性) の検出、およびCD81 ELISA、CD20 ELISAを用いて実施した。
- プロテオーム解析: 血漿由来エクソソームのプロテオームプロファイリングは、UPLC (Ultra Performance Liquid Chromatography) および質量分析計を用いた LC-MS/MS 解析により実施し、MaxQuant ソフトウェアを用いて label-free quantification (LFQ) を行った。
- RNAシーケンシング: MEC-1細胞 (n=3 cells)、MEC-1由来エクソソーム (n=5 replicates)、およびCLL患者血漿由来エクソソーム (n=3 donors) から miRNeasy Micro Kit を用いて 200 nt 以下の small RNA を抽出し、NEBNext (NEBNext Small RNA Library Prep Kit) を用いてライブラリを調製後、Illumina HiSeq プラットフォームで 51-bp シングルエンドシーケンシングを実施した。リードのマッピングおよび発現解析には Love et al. GenomeBiol 2014 および Liao et al. Bioinformatics 2014 を使用した。
- Northern blot解析: 32Pで標識したhY4 (human Y4 RNA) の5’端に対する特異的アンチセンスDNAオリゴヌクレオチドプローブ (32-nt) を用いて、全長hY4 (96 nt) および5’フラグメント (31 nt) の発現を検証した。
- 単球機能アッセイおよびRNA導入: エクソソームの取り込みは、PKH67で標識したエクソソーム (10 μg/mL) を用いて共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリーで評価した。合成した全長hY4 (96 nt)、5’フラグメントhY4 (31 nt)、miR-21、miR-15aを Effectene トランスフェクション試薬を用いて初代単球に導入した (50 nM)。遺伝子発現変化は、84遺伝子を対象とする Cancer Inflammation and Immunity Crosstalk RT2 Profiler Array (Qiagen) を用いて解析した。
- TLR7シグナル依存性の検証: 野生型 (WT)、Mavs 欠損 (KO)、および Tlr7 欠損 (KO) の C57BL/6J マウス由来の骨髄由来骨髄性細胞を用いて、hY4刺激に対する反応性を比較した。また、ヒト単球においてエンドソーム酸性化阻害剤であるクロロキン (50 μM) を用いて前処理を行い、エクソソームまたはhY4による活性化抑制効果を評価した。
- In vivo治療モデル: C57BL/6J マウスに、白血病を発症した Eμ-TCL1 マウス由来の脾細胞 (1.5 × 10^7 cells) を移植してCLLモデルを作製した。移植後、腫瘍量に基づいてランダム化を行い、治療群にはクロロキン (46 mg/kg/day) を飲料水に添加して3.5週間投与した。フローサイトメトリーを用いて、末梢血および脾臓中の CD5+ CD19+ CLL細胞の絶対数を定量した。
- 統計解析: 2群間の比較には Student t-test、paired t-test、または Mann-Whitney U test を使用した。相関分析には Spearman correlation を用いた。p<0.05 をもって統計学的に有意と判定した。