• 著者: Michael P. Plebanek, R. Kannan Mutharasan, Olga Volpert, Alexandre Matov, Jesse C. Gatlin, C. Shad Thaxton
  • Corresponding author: C. Shad Thaxton (Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, IL)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-10-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26511855

背景

エクソソームは、細胞間コミュニケーションを媒介するナノスケールの小胞であり、生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことが知られている。例えば、幹細胞由来のエクソソームは損傷後の組織再生を促進し、免疫系においては主要組織適合性複合体 (MHC) の送達を通じて機能する。また、エクソソームはがんを含む多くの疾患にも寄与しており、がん細胞は疾患の進行を促進するためにエクソソームの産生を増加させる。特に、メラノーマ細胞から産生されるエクソソームは、血管新生を促進するために内皮細胞を標的とし、免疫抑制を引き起こすためにマクロファージや樹状細胞を標的とすることが報告されている。さらに、がん細胞によるエクソソーム産生の増加は、骨髄細胞の動員や前腫瘍性カーゴの転移部位への送達を通じて、前転移ニッチを形成し、転移を促進することが示されている (Peinado et al. NatMed 2012)。エクソソームの細胞取り込みメカニズムは、エクソソームと標的細胞間の情報伝達に不可欠なイベントと考えられているが、その具体的な受容体やメカニズムは未解明な点が多い。エクソソームの取り込みは、コレステロールが豊富な膜マイクロドメインである脂質ラフトの完全性に依存し、非特異的な細胞膜コレステロールの除去によって阻害されることが示されている (Anastasiadou et al. Science 2014)。

スカベンジャー受容体B-1型 (SR-B1) は、コレステロールが豊富な高密度リポタンパク質 (HDL) の高親和性受容体であり、脂質ラフトに局在する。SR-B1はHDLと結合すると、遊離コレステロールの双方向性フラックスを媒介し、コレステロールエステルの供給源となる。SR-B1は細胞膜のコレステロールバランスを維持し、細胞外物質の取り込みや細胞シグナル伝達を可能にする。本研究グループは、以前にSR-B1に結合し、コレステロール流出を誘導する合成HDL様ナノ粒子 (HDL NP) を開発している。HDL NPは金ナノ粒子 (AuNP) をコアテンプレートとして合成され、アポリポタンパク質A-I (apoAI) とリン脂質で修飾されている。AuNPコアを持つため、HDL NPはコレステロールエステルを本質的に欠損しており、天然HDLとは異なるコレステロール恒常性調節能を持つ。

エクソソーム取り込みが脂質ラフトの完全性に依存し、SR-B1が脂質ラフトに局在することから、SR-B1を標的とするHDL NPが細胞のエクソソーム取り込みを阻害するという仮説が立てられた。エクソソームの細胞内取り込みを特異的に阻害する薬剤の同定は、細胞間コミュニケーションの理解を深め、新たな治療法開発に繋がる可能性があるが、この分野には依然として知識のギャップが残されており、特異的な阻害剤の提供が不足している。これまでの研究では、エクソソーム取り込みのメカニズムを詳細に解明するためのツールが限られており、特定の受容体を介した取り込み経路を標的とするアプローチは未開拓であった。本研究は、この未解明な領域に光を当て、エクソソーム取り込みの特異的阻害剤としてのHDL NPの可能性を探るものである。

目的

本研究の目的は、合成高密度リポタンパク質ナノ粒子 (HDL NP) がメラノーマ細胞においてスカベンジャー受容体B-1 (SR-B1) を介したコレステロール流出を誘導し、脂質ラフト内のSR-B1のクラスタリングと運動性低下を引き起こすことで、細胞のエクソソーム取り込みを特異的に阻害するかを検証することである。具体的には、コレステロールエステルを含まないHDL NPが、天然型HDL (hHDL) とは異なる機序でSR-B1を介したコレステロール恒常性を調節し、エクソソーム取り込みに影響を与えるかを評価する。

さらに、このエクソソーム取り込み阻害効果が、SR-B1を発現する内皮細胞 (HMVEC: human dermal microvascular endothelial cells) およびマクロファージ (RAW 264.7) といった他の細胞種でも再現されるかを確認し、HDL NPがコレステロール依存的な細胞取り込みメカニズムを研究するための有用なツールとなり得るかを検討する。本研究は、エクソソームの細胞取り込みを特異的に阻害する新規なアプローチを提示し、コレステロール依存性の細胞取り込み機構の理解に貢献することを目指す。

結果

HDL NPによる選択的コレステロール流出とSR-B1標的化の確認: Amplex Redコレステロール検出アッセイにより、合成直後のHDL NPには遊離コレステロールおよびエステル型コレステロールがほとんど検出されなかった (Supplementary Fig. 2)。一方、hHDLは総コレステロールの約19%が遊離コレステロール、約81%がコレステロールエステルであった。³Hコレステロール標識A375細胞を用いた6時間流出アッセイでは、HDL NP (500 nM) はhHDL (500 nM) よりも有意に高い³Hコレステロール流出率を示した (p<0.05)。SR-B1阻害剤BLT-1 (1 μM) の添加により、双方の流出が部分的に抑制され、この流出がSR-B1依存性であることを確認した (Figure 1a)。HDL NP処置後はhHDLおよびHDL NP双方で遊離コレステロール比率が増加したが、HDL NPにはエステル型コレステロールが検出されなかった。細胞生存率アッセイでは、HDL NP (50 nMおよび100 nM、72時間) はA375細胞の生存率を低下させず、安全性が確認された (Supplementary Fig. 3)。また、A375細胞のウェスタンブロットでSR-B1の発現が確認され、A375由来エクソソームにもSR-B1が濃縮されていた (Figure 1b)。

SR-B1の脂質ラフト局在とHDL NPとの共局在: Focus Global Fractionation法によるショ糖密度勾配遠心分離とウェスタンブロットにより、SR-B1が脂質ラフト不溶性膜分画に濃縮され、細胞質分画ではほとんど検出されないことを確認した (Figure 1b)。GFP-SR-B1安定発現A375細胞では、AlexaFluor-647結合コレラトキシンB (CTx-B) で標識した脂質ラフトとGFP-SR-B1が共局在した (Figure 1c)。DiD標識HDL NP (20 nM) もCTx-B (Alexa Fluor-488) と共局在し、さらにGFP-SR-B1とも共局在した (Figure 1d, e)。これらの結果は、SR-B1が脂質ラフトに局在し、HDL NPがSR-B1および脂質ラフトを標的とすることを示唆する。

HDL NPによるSR-B1クラスタリングと運動性低下: HDL NP (30 nM) 処置24時間後、タイムラプス画像解析によりGFP-SR-B1の顕著なクラスタリングが用量依存的に増大することが観察された (Figure 2a, Supplementary Fig. 5)。ウェーブレットベースセグメンテーション解析では、クラスター面積 (μm²) および平均輝度 (A.U.) が有意に増加し (permutation t検定 p<0.05)、細胞あたりのGFP-SR-B1ドメイン数は有意に減少した (p<0.00005) (Figure 2b-d)。タイムラプス単一粒子トラッキング解析では、GFP-SR-B1の平均速度が有意に低下し (p<0.00005)、rho値 (head-to-tail距離/総移動距離) も有意に低下した (Figure 3b, c)。これは、HDL NPがSR-B1を細胞膜上で固定化し、その運動性を低下させることを示している。hHDL処置では、同条件でクラスタリングや運動性低下は観察されなかった。

エクソソーム取り込みの特異的阻害とSR-B1依存性の多段階実証: DiI標識A375エクソソーム (1 μg/mL exosomal protein) の取り込みをフローサイトメトリーで定量した。HDL NP 50 nMで約75%のエクソソーム取り込み阻害を達成し、5 nMから100 nMの範囲で用量依存的な阻害曲線を示した (Figure 4b)。hHDL (500 nM) では有意な阻害効果は認められず、HDL NPの10倍濃度でも効果は軽微であった (Supplementary Fig. 8a, b)。HDL NP前処置・洗浄後にも阻害が維持されたことから、細胞外での直接競合ではなく、細胞SR-B1への作用であることが示唆された (Supplementary Fig. 7a, b)。hHDL (10, 50, 250 nM) の漸増共処置により、HDL NP (50 nM) 誘導阻害が部分的に用量依存的に回復し、両者が同一SR-B1を競合することを示した (Figure 4c)。SR-B1ブロッキング抗体処置では、HDL NPによる阻害が有意に回復した (p<0.05) (Figure 4d)。

SR-B1 siRNAノックダウン (ウェスタンブロットで確認、48時間後) 後には、HDL NP (50 nM) のエクソソーム取り込み抑制効果が消失し (scrambled siRNA対照では平均蛍光強度: scrRNA 2.58 → scrRNA+DiIExo 3.40 → scrRNA+DiIExo+HDL NP 2.69、siSR-B1+HDL NP処置では抑制なし)、SR-B1がエクソソーム取り込みに必須の受容体であることを証明した (Figure 6b)。HDL NPとBLT-1の併用は、hHDLとBLT-1の併用と同様にエクソソーム取り込みを強力に阻害した (Figure 5n, p)。HMVEC (n=3 replicates) とRAW 264.7マクロファージ (n=3 replicates) (ともにSR-B1陽性) でも、HDL NP (25 nM) がDiI標識A375エクソソームの取り込みを阻害し、hHDLは阻害しないことを確認した (Figure 7a, b)。これらの結果は、HDL NPがSR-B1を介してエクソソーム取り込みを特異的に阻害することを示している。

考察/結論

本研究は、エクソソーム取り込みに関与する具体的な受容体としてスカベンジャー受容体B-1 (SR-B1) を初めて同定し、SR-B1を標的とするHDLナノ粒子 (HDL NP) がメラノーマ、内皮細胞、およびマクロファージの3細胞種においてエクソソーム取り込みを約75%阻害する特異的かつ強力な手段となることを示した。これは、エクソソームの細胞取り込みメカニズムに関するこれまでの研究で不足していた、特異的な阻害剤の提供という点で新規性が高い。

本研究で提唱される作用機序は以下の2段階である: (1) HDL NPがSR-B1に強固に結合し、遊離コレステロールをhHDLよりも高効率に流出させ、かつコレステロールエステルの流入を阻害する。HDL NPはコレステロールエステルを欠損しているため、hHDLとは異なるコレステロール恒常性調節能を持つ。この点が、天然型HDL (hHDL) が500 nMという10倍濃度でも同程度の阻害をもたらさないことと対照的である。hHDLはSR-B1を介してコレステロールの流出とコレステロールエステルの流入を媒介するが、HDL NPはコレステロールエステルの流入を阻害する。 (2) このコレステロール流出の活性化とコレステロールエステル流入の阻害という組み合わせが、SR-B1の脂質ラフト内でのクラスタリングと運動性低下 (rho値の低下) を引き起こし、結果としてエクソソーム取り込みの受容体機能が失われる。

SR-B1 siRNAノックダウン単独ではエクソソーム取り込み阻害が消失し、BLT-1単独、ブロッキング抗体単独、またはPEG NP (金コアのみ) では取り込み阻害が誘導されないことから、SR-B1への特異的結合とコレステロール流動の両者がエクソソーム取り込み抑制に必要であることが示された。HDL NPとBLT-1の併用、またはhHDLとBLT-1の併用がエクソソーム取り込みを強力に阻害したことは、SR-B1への結合とコレステロールエステル流入の阻害がエクソソーム取り込み抑制に重要であることを裏付けている。

多くの癌細胞でSR-B1が発現し、腫瘍由来エクソソームがHDL NPと共にSR-B1を発現するA375由来エクソソームにも同受容体が豊富に含まれることは、自己分泌ループの可能性も示唆する。本研究の知見は、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションを標的とする新たな治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。特に、メラノーマの進行においてエクソソームが重要な役割を果たすことから、HDL NPは癌の転移や免疫抑制を抑制するための有望なツールとなり得る。

残された課題として、(1) SR-B1下流のシグナル経路とエクソソーム取り込みの分子リンクのさらなる解明、(2) HDL NPによるエクソソームシグナリング遮断が腫瘍転移、血管新生、免疫抑制モデルに与える機能的影響の検証、(3) 他の細胞種におけるコレステロール依存的なエクソソーム取り込み変化の探索が今後の研究で求められる。また、in vivoモデルでのHDL NPの有効性と安全性の評価も重要な課題である。

方法

A375メラノーマ細胞 (ATCC) を主要なモデルとして使用し、DMEM/10% FBSで培養した。RAW 264.7マクロファージ (ATCC) とヒト皮膚微小血管内皮細胞 (HMVEC、Promocell) も同様に培養した。GFP-SR-B1プラスミドはLipofectamine 2000 (Life Technologies) でA375細胞に安定的にトランスフェクションされ、Geneticin (Life Technologies) 選択とFACS精製により発現を確認した。

エクソソームの単離と標識: A375細胞から放出されたエクソソームは、差次超遠心法 (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006) を用いて単離した。培養液を2,000×gで死細胞を除去し、10,000×gで30分間遠心してデブリを除去した後、100,000×gで70分間遠心してエクソソームをペレット化した。その後、PBSで洗浄し、再度100,000×gで70分間遠心した。単離されたエクソソームは、透過型電子顕微鏡 (TEM) と動的光散乱 (DLS) で形態とサイズ (30-100 nm) を確認し、ウェスタンブロットでエクソソームマーカーCD81の存在とGM130の陰性を確認した。蛍光標識エクソソームには、親油性色素DiIまたはDiD (Life Technologies) を2.5 μMの濃度で添加し、洗浄して未結合色素を除去した。

HDL NPの合成と特性評価: 生体模倣型HDL様ナノ粒子 (HDL NP) は、既報の方法に従って合成された。クエン酸安定化5 nm金ナノ粒子 (AuNP、Ted Pella) をテンプレートとし、精製ヒトアポリポタンパク質A-I (apoAI) をAuNPに対して5倍モル過剰 (最終濃度400 nM) で1時間室温でインキュベートした。次に、2種類のリン脂質 (1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholineおよび1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[3-(2-pyridyldithio)propionate]) をAuNPに対して250倍モル過剰でエタノールと水の混合液 (1:4) 中で4時間室温でインキュベートした。HDL NPは接線流ろ過で精製・濃縮され、UV-Vis分光光度計 (εAuNP = 9.696 × 10⁶ M⁻¹cm⁻¹、λmax = 520 nm) で濃度を、DLS (Malvern Zetasizer) で最終サイズを決定した。

コレステロール流出アッセイ: A375細胞のコレステロールプールは、³Hコレステロール (1 μCi/mL、Perkin-Elmer) で一晩標識した。その後、細胞をPBSで洗浄し、血清フリー培地中でHDL NPまたはhHDL (いずれも500 nM) と6時間インキュベートした。SR-B1媒介性コレステロール流出の阻害剤であるBLT-1 (Blocks Lipid Transport 1、1 μM) の有無も評価した。培養液を回収し、液体シンチレーションカウンターで³Hコレステロールを定量し、コレステロール流出率を算出した。

コレステロールおよびコレステロールエステルの定量: hHDLおよびHDL NPの遊離コレステロールとコレステロールエステル含有量は、Amplex Redコレステロール検出アッセイ (Life Technologies) を用いて測定した。コレステロールエステラーゼの有無で遊離コレステロールと総コレステロールを測定し、コレステロールエステル量を算出した。

SR-B1の脂質ラフト局在と共局在: Focus Global Fractionation法を用いたショ糖密度勾配遠心分離とウェスタンブロットにより、SR-B1の脂質ラフト不溶性膜分画への濃縮を確認した。GFP-SR-B1安定発現A375細胞を用いて、AlexaFluor-647結合コレラトキシンB (CTx-B、1 μg/mL、37°C、30分) で標識した脂質ラフトとGFP-SR-B1の共局在を共焦点顕微鏡 (Nikon A1R) で観察した。DiD標識HDL NP (20 nM) とCTx-B (Alexa Fluor-488) およびGFP-SR-B1の共局在も同様に評価した。

SR-B1のクラスタリングと運動性解析: GFP-SR-B1安定発現A375細胞をHDL NP (30 nM) で24時間処置後、タイムラプスイメージング (2分間、2秒インターバル、6条件×6ムービー/条件、n≥15 cells/条件) を実施した。ウェーブレットベースセグメンテーション法と単一粒子トラッキング法 (Jaqaman et al. Nature Methods 2008) を用いて、GFP-SR-B1ドメインのクラスター面積、平均輝度、細胞あたりのドメイン数、平均速度、およびrho値 (直線運動性指数) を定量的に解析した。最大速度42 μm/分、4フレーム以上の軌跡のみを解析対象とした。

エクソソーム取り込みアッセイ: DiI標識A375エクソソーム (1 μg/mL exosomal protein) を用いて、フローサイトメトリー (BD LSR Fortessa) および蛍光顕微鏡で細胞のエクソソーム取り込みを定量した。HDL NP、hHDL、SR-B1ブロッキング抗体、BLT-1、PEG NP、SR-B1 siRNA (Ambion、RNAi Maxで16時間処置後、24時間インキュベート) などの様々な薬剤で細胞を処置し、エクソソーム取り込みへの影響を評価した。SR-B1 siRNAによるノックダウンはウェスタンブロットで確認した。HMVECとRAW 264.7マクロファージでも同様の実験を行った。

統計解析: データは3連実験の平均±標準偏差で示された。GraphPad Prismソフトウェアを用いたunpaired two-tailed t検定で統計的有意差を評価し、p≤0.05を有意とした。GFP-SR-B1の分布、輝度、運動解析にはpermutation t検定を使用した。