- 著者: Ikuhiko Nakase, Kosuke Noguchi, Ikuo Fujii, Shiroh Futaki
- Corresponding author: Ikuhiko Nakase (i-nakase@21c.osakafu-u.ac.jp, Nanoscience and Nanotechnology Research Center, Osaka Prefecture University, Osaka, Japan)
- 雑誌: Scientific Reports
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27748399
背景
細胞外小胞 (EV、エクソソーム) は30〜200 nmの脂質二重膜小胞であり、非免疫原性・生体適合性という薬物送達担体としての優れた特性を持つ。エクソソームは培養上清・体液から超遠心で単離・特性評価され (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006)、樹状細胞ではエンドサイトーシスにより取り込み・プロセシングされること (Morelli et al. Blood 2004) が知られている。しかしEVと負に帯電した細胞膜との静電反発、およびクラスリン介在エンドサイトーシスのサイズ制限 (約120 nm) により細胞取り込み効率が低いという課題があり、EV取り込み増強の汎用戦略は依然として不足していた。EVがクラスリン介在エンドサイトーシスとマクロピノサイトーシスの両経路で取り込まれmiRNA送達を担うこと (Tian et al. JBiolChem 2014) も報告された。著者らは先行研究でEGF受容体を介したマクロピノサイトーシスの誘導がEV取り込みを増強することを報告したが、EGFリガンドとの組み合わせではin vivoでの体液中EV分散のため効果が限定的であった。EV自体がマクロピノサイトーシスを能動的に誘導する機能修飾は依然として未解明であり、外部リガンドに依存しない汎用的なEV取り込み増強戦略が決定的に不足していた。
目的
アルギニンリッチ細胞膜透過ペプチド (cell-penetrating peptide, CPP) の一種であるステアリル化オクタアルギニン (stearyl-r8) をEV膜に修飾することで、シンデカン-4クラスタリング→PKCα活性化→マクロピノサイトーシス誘導という機序を介してEVの細胞内取り込みを大幅に増強し、リボソーム不活性化タンパク質サポリンの有効な細胞内デリバリーを実証すること。
結果
Stearyl-r8修飾によるEV物性の変化と膜固定化の確認:修飾前のEV平均径は116.4±49.2 nm、ゼータ電位は-12.5 mVであった。Stearyl-r8 (40 µM) 修飾後は平均径196.9±46.7 nm、ゼータ電位+5.1 mVに変化し、表面電荷が負から正に逆転した。TEM観察では修飾前後で小胞形態に変化はなかった。スペクトロフルオロメーター定量の結果、stearyl-r8-GC(Alexa488) はEV (10 µg/ml) に221 nM結合したのに対し、ステアリル基なしのr8-GC(Alexa488) は10 nMしか結合せず、ステアリル基がEV膜への固定化に必須であることが確認された (結合量比22:1)。この結果は疎水性ステアリル基が脂質二重膜への挿入を介してペプチドを膜上に係留し、静電気的相互作用のみでは安定な修飾が達成されないことを示す。Amicon Ultra (100K) による精製後も修飾量が維持されており、過剰ペプチドが除去された状態でも安定な膜固定化が確認された。
細胞取り込み効率の33倍増強:Stearyl-r8修飾EV (16 µM) 処置ではフローサイトメトリーにより非修飾EVと比較して33倍の取り込み増加を示した (Fig. 2c、n=3独立実験、p<0.001、平均±SD)。共焦点顕微鏡でも修飾EVの強い細胞内蛍光が観察された (Fig. 2b)。ステアリル基なしのr8 (16 µM) 修飾EVでは取り込み変化はなく、ステアリル基が膜固定化と取り込み増強の両方に必須であることが示された。EV濃度1 µg/mlでもstearyl-r8 (16 µM) 修飾で増強が認められ、低濃度EVの取り込み不足という実用的な課題の解決が示唆された。ペプチド濃度依存性の検討では、1.6 µMでは効果が限定的で、16 µMが効果的な取り込み増強に最適濃度であった。HeLaのみならずA431細胞 (ヒト類表皮癌) でも同様の取り込み増強が確認されており、細胞種を超えた普遍的効果が示された。
マクロピノサイトーシス誘導の多面的実証:4°C処置 (エンドサイトーシス抑制条件) でstearyl-r8修飾EV取り込みが大幅に減少し、エネルギー依存的取り込みを確認した。FITC-デキストラン (70 kDa、0.5 mg/ml) の共培養実験では、stearyl-r8修飾EV存在下でのFITC-デキストラン取り込みが有意に増加したが (Fig. 3a、p<0.001)、非修飾EVでは増加しなかった。これはマクロピノソームの大型内腔に70 kDa dextranとEVが共に取り込まれることを示す。Texas red-デキストランとstearyl-r8修飾CD63-GFP-EVの細胞内共局在が共焦点顕微鏡で確認された。EIPA (100 µM) 処置によりstearyl-r8修飾EV取り込みが顕著に減少したが、非修飾EVのEIPA感受性はなかった。シンデカン-4のクラスタリングとラメリポディア形成・膜ラッフリング (アクチン再構成) がstearyl-r8修飾EV処置20分後の細胞で観察され、PKCα活性化も確認された。これらの実験結果はシンデカン-4→PKCα→マクロピノサイトーシスという一連の分子シグナルカスケードを多面的に支持する。
サポリン搭載EVによる機能的細胞毒性の実証:電気穿孔法 (200 V×2回 + 20 V×5回) によりサポリンをEVに搭載した場合、EV 10 µg/ml中のサポリン濃度は約43.5 ng/mlであった (搭載効率約0.2%)。Stearyl-r8修飾サポリン搭載EV処置のHeLa細胞では、72時間後に非修飾サポリン搭載EVや遊離サポリンと比較して有意な細胞毒性が認められた (各群n=3独立実験、p<0.001、WST-1アッセイ)。サポリン非搭載stearyl-r8修飾EVでは細胞毒性なし (生存率ほぼ100%)。遊離サポリンが細胞毒性を示さない (細胞膜を透過できない) のに対し、stearyl-r8修飾EVが能動的マクロピノサイトーシスでサポリンを細胞質に送達することでリボソーム不活性化→タンパク質合成停止→細胞死を実現することを示す。さらに、A431細胞でも同様の細胞毒性が確認されており、取り込み増強の普遍性と機能的カーゴデリバリーの一般適用性が支持された。なお、CHO-K1細胞 (シンデカン-4低発現) ではstearyl-r8修飾による取り込み増強効果が相対的に弱く、マクロピノサイトーシス誘導がシンデカン-4発現量に依存することが示唆された。
考察/結論
本研究はEV膜へのstearyl-r8という単純な混合修飾によって、EGFリガンド等の外部因子を必要とせずにマクロピノサイトーシスを能動的に誘導し、33倍という劇的な取り込み増強を達成した。ステアリル基による膜への非共有結合的固定化 (221 nM vs r8単独10 nM) と、オクタアルギニン配列によるシンデカン-4クラスタリング→PKCα活性化→アクチン再構成という機序は、著者らが以前リポプレックス系で報告した経路 (Nakase et al. 2014) のEVへの拡張として位置付けられる。
先行研究との比較では、クラスリン介在エンドサイトーシスのサイズ制限 (約120 nm) を回避し、大型分子の取り込みが可能なマクロピノサイトーシス経路の活用は、200 nm前後のEVに理論的に有利である。EVがクラスリン介在エンドサイトーシスとマクロピノサイトーシスの両経路で取り込まれるという既報 (Tian et al. JBiolChem 2014) とは異なり、本研究はペプチド修飾でマクロピノサイトーシスを能動的に「誘導」する点に新規性があり、外部リガンド非依存でEV自体に取り込み増強能を付与した新規な戦略である。既報のEV取り込み増強法 (pH感受性融合ペプチド、カチオン性脂質) と比較して、stearyl-r8修飾はEV膜タンパク質のアミノ酸側鎖への共有結合を伴わないため、EV表面タンパク質の機能保持が期待される。また、EV修飾が細胞表面シンデカン-4を介するため、CHO-K1 (シンデカン-4低発現細胞) での取り込み増強効果は限定的となり受容体依存的な選択性の設計が可能である点も特筆される。
臨床応用としては、stearyl-r8修飾EVがサポリン等の生体高分子の細胞内デリバリーに有効であることが示され、抗がん薬・核酸医薬・タンパク質医薬のEV搭載に応用できる。また、EVを細胞由来の天然担体として使用することで、liposome等の合成担体と比較して免疫原性が低く、生体適合性に優れた送達システムとなる可能性がある。in vivoでの実用化に向けた残された課題 (limitation) として、(1) 血清中での修飾EVの安定性と修飾ペプチドの解離動態、(2) 体液中での分散・生体分布と臓器選択性 (肝臓への非特異的集積の回避)、(3) 正電荷化による補体活性化や血球凝集などの生体反応の評価、(4) 免疫原性・長期毒性の検討、(5) in vivoモデルでのサポリン等搭載EVの抗腫瘍効果の検証が挙げられる。シンデカン-4発現を腫瘍特異的マーカーと組み合わせた標的化修飾EVの設計が、次世代EV送達系の方向性として示唆される。
方法
EV単離法 (ISEV基準対応): CD63-GFP安定発現HeLa細胞の培養上清からdifferential ultracentrifugation (示差超遠心、100,000×g・70分・4°C) でCD63-GFP EVを精製。EV特性評価: EVマーカーCD63 (CD63-GFP) をレポーターに用い、DLS (動的光散乱、粒径・ゼータ電位、ELSZ-DN2) とTEM (透過型電子顕微鏡、JEM1200EX) で粒径・形態を確認。ペプチド修飾: ステアリル化オクタアルギニン (stearyl-r8、ステアリル基+D体アルギニン8残基アミド、最終濃度40 µM) を精製EVと1時間37°Cでインキュベートし、Amicon Ultraフィルター (100K) で過剰ペプチドを除去した。ステアリル基のEV膜への結合量は蛍光標識ペプチド (stearyl-r8-GC(Alexa488)) をスペクトロフルオロメーターで定量した。細胞取り込み効率は共焦点顕微鏡 (FV1200) とフローサイトメトリー (Guava easyCyte) で定量した。マクロピノサイトーシス確認は(1) 4°C取り込み抑制実験、(2) FITC-デキストラン (70 kDa) 共取り込みのフローサイトメトリー解析、(3) Texas red-デキストランとの細胞内共局在確認、(4) EIPA (5-(N-エチル-N-イソプロピル)アミロライド、100 µM、マクロピノサイトーシス特異的阻害剤) による取り込み抑制、で行った。シンデカン-4クラスタリングおよびラメリポディア形成はパリザリン標識F-アクチンと免疫蛍光染色で観察した。サポリン (リボソーム不活性化タンパク質) をエレクトロポレーション (200 V×2回 + 20 V×5回) でEVに搭載し、stearyl-r8修飾後の細胞毒性をWST-1アッセイで72時間後に評価した。細胞毒性試験はHeLa・A431 (ヒト類表皮癌)・CHO-K1 (チャイニーズハムスター卵巣) 細胞で実施した。統計手法: 各取り込み・毒性アッセイは3回以上の独立実験 (n≥3) で平均±SDを算出し、Student t検定で群間比較した。