• 著者: Tian T, Zhu YL, Zhou YY, Liang GF, Wang YY, Hu FH, Xiao ZD
  • Corresponding author: Zhong-Dang Xiao (State Key Laboratory of Bioelectronics, School of Biological Science and Medical Engineering, Southeast University, Nanjing 210096, China)
  • 雑誌: The Journal of biological chemistry
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-06-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24951588

背景

エクソソームは、多様な細胞種から分泌される直径 40-100 nm の膜小胞であり、タンパク質、脂質、mRNA、および miRNA (microRNA) など、様々な生体活性分子を内包して輸送する。これらのエクソソームは、細胞間の情報伝達において重要な役割を担い、抗原提示や癌の進行といった生理的・病理的プロセスに関与することが報告されている。特に、腫瘍細胞由来のエクソソームは、隣接細胞や遠隔の細胞へ情報を伝達し、自己分泌シグナル、腫瘍進行、免疫回避に寄与することが示唆されていた。著者らは以前から、ラット褐色細胞腫由来の PC12 細胞から分泌されるエクソソームを腫瘍エクソソームの一般的なモデルとして研究してきたが、その細胞内取り込み経路の分子機構は詳細には未解明であった。

細胞内取り込み経路であるエンドサイトーシスには、ファゴサイトーシス、マクロピノサイトーシス、CME (clathrin-mediated endocytosis)、カベオリン介在エンドサイトーシス、およびクラスリン・カベオリン非依存性エンドサイトーシスなど、複数の経路が存在する。これらの経路は、それぞれ異なるカーゴのソーティングと細胞内運命をもたらすことが知られている。これまでの先行研究では、エクソソームの取り込み経路が細胞種によって異なることが示されており、例えば、赤白血病細胞由来エクソソームはファゴサイトーシスを介して取り込まれ (Feng et al. Traffic 2010)、オリゴデンドログリア由来エクソソームはマクロピノサイトーシスを介して取り込まれることが報告されていた (Fitzner et al. 2011)。また、グリオブラストーマ細胞由来エクソソームは、脂質ラフト介在エンドサイトーシスを介し、CAV1 (caveolin-1) によって負に調節されることが示されていた (Svensson et al. 2013)。しかし、PC12 細胞由来エクソソームの具体的な取り込み経路は不明なままであった。さらに、腫瘍細胞由来エクソソームが、オンコミアール (腫瘍関連miRNA) を正常細胞へ転送し、標的遺伝子発現を調節することで腫瘍進行を促進するのかどうかについても、そのメカニズムは明らかでなかった。

このように、PC12 細胞由来エクソソームの取り込み経路と、それらが miRNA を介して細胞機能に与える影響に関する包括的な理解が不足していた。既存の知見だけでは、細胞種特異的な詳細機構は未解明であり、腫瘍エクソソームが受容細胞へ与える機能的影響の分子基盤には大きな knowledge gap が残されているという課題があった。これらの知識のギャップを埋めることが、腫瘍エクソソームの生物学的意義を理解する上で重要であると考えられた。

目的

本研究の目的は、以下の2点である。 (1) PC12 腫瘍細胞由来エクソソームの受容細胞への取り込み経路を、選択的阻害剤、分子生物学的ツール、およびエンドサイトーシスマーカーを組み合わせて、高スループット蛍光顕微鏡を用いて系統的に同定すること。 (2) PC12 細胞由来エクソソームが BMSC (bone marrow-derived mesenchymal stromal cell) へ miR-21 を転送し、その結果、miR-21 の標的遺伝子である TGFβRII (transforming growth factor β receptor II) および TPM1 (tropomyosin-1) の発現を抑制しうるかを実証すること。 これらの目的を達成することで、腫瘍エクソソームの細胞内取り込み機構と、それらが正常細胞の遺伝子発現を調節する能力に関する理解を深めることを目指した。

結果

クラスリン介在エンドサイトーシスの関与: K⁺ 枯渇バッファー処理により、エクソソーム取り込みは対照群と比較して 55.5% に減少した (Fig. 2, A and C)。CME 阻害薬である CPZ 10 μM 処理では、エクソソーム取り込みが 41% 阻害された (p < 0.05, n = 800 cells) (Fig. 2, B and D)。CFSE 標識エクソソームを用いた実験でも同様の結果が得られ、DiD 色素拡散によるアーティファクトではないことが確認された (Fig. 2E)。CHC siRNA ノックダウンにより、エクソソーム取り込みは約 35.3% 減少した (Fig. 2, H and I)。また、μ2-AP2 の shRNA ノックダウンでは取り込みが 37.5% 減少し、ドミナントネガティブ変異体 μ2-D176A の発現では 36.8% 減少した (Fig. 2, N and O)。μ2-shRNA による抑制効果は、μ2-res による救済で完全に回復し、効果の特異性が確認された (Fig. 2, N and O)。これらの結果は、PC12 細胞由来エクソソームの取り込みにクラスリン介在エンドサイトーシスが関与することを示している。

マクロピノサイトーシスの関与: マクロピノサイトーシス阻害薬 EIPA および LY294002 は、いずれも用量依存的にエクソソーム取り込みを顕著に減少させた (p < 0.05, n = 800 cells) (Fig. 3, A-D)。DiD 標識エクソソームと FITC-デキストラン (マクロピノサイトーシスマーカー) の共局在実験では、取り込み開始 10 分後、30 分後、60 分後にそれぞれ約 50% の共局在率が認められ、エクソソームがマクロピノサイトーシス経路を介して細胞内に流入することが示された (Fig. 3, E and F)。これは、マクロピノサイトーシスがエクソソーム取り込みの重要な経路であることを強く支持する。

カベオリン介在エンドサイトーシスの非関与: ゲニステイン (最大 200 μM) はエクソソーム取り込みに影響を与えなかった (Fig. 4, A and C)。ナイスタチン、MβCD、CtxB 処理は、むしろ取り込みを増加させた (Fig. 4, B, D, E, and F)。これは、脂質ラフトの液性化により他の経路の代償的増加が生じたためと解釈された。CAV1 ノックダウンや CAV1-P132L 変異体発現でも、エクソソーム取り込みはほとんど影響を受けなかった (Fig. 4, K and L)。FITC-CtxB との共局在率は、10 分で 3.0%、30 分で 8.7% と低値であり、カベオリン経路の非依存性を支持した (Fig. 5, A and B)。クラスリン・カベオリン非依存性エンドサイトーシスも、ゲニステインおよびコレステロール枯渇への感受性がないことから、関与しないと判断された。これらのデータは、PC12 細胞由来エクソソームの取り込みにおいてカベオリン介在エンドサイトーシスが主要な役割を果たさないことを明確に示している。

ダイナミン依存性およびファゴサイトーシスの評価: DYN2 shRNA ノックダウンにより、エクソソーム取り込みは 50.7% に低下した (p < 0.05, n = 3 replicates) (Fig. 5, E and F)。この部分的阻害は、クラスリン経路の関与と矛盾しない。ファゴサイトーシス評価では、1 μm のポリスチレンラテックスビーズが 3 時間以上経過しても PC12 細胞内に取り込まれず、PC12 細胞のファゴサイトーシス活性の欠如が確認された (Fig. 5G)。この結果は、PC12 細胞がエクソソームをファゴサイトーシスしないことを示している。

BMSCへのmiR-21転送と機能的帰結: PC12 細胞由来エクソソームは、DiD 蛍光として 3 時間後に BMSC 内に検出された (Fig. 6A)。BMSC 中の成熟 miR-21 レベルは、PC12 由来エクソソームと 3 時間インキュベーション後に 4-fold increase (4倍以上に増加、p < 0.05, n = 3 replicates) し、6-12 時間まで高値を維持した後、24 時間後には低下した (Fig. 6B)。一方、pre-miR-21 レベルは 6-24 時間後に低下し、転送された miR-21 が内因性 pre-miR-21 の産生を抑制した可能性が示唆された (Fig. 6C)。miR-21 低含有の H9C2 細胞由来エクソソームでは BMSC の miR-21 レベルは変化せず、増加が PC12 エクソソームによる転送によることが確認された (Fig. 6D)。

miR-21によるTGFβRIIおよびTPM1発現の抑制: TGFβRII mRNA は 12-24 時間後に有意に低下し (Fig. 7A)、タンパクレベルも Western blot で顕著な低下が認められた (Fig. 7, B and C)。この効果は anti-miR-21 処理で完全に回復した (p < 0.05, n = 3 replicates)。同様に、TPM1 のタンパク発現も 24 時間後に有意低下し、この効果も anti-miR-21 でブロックされた (Fig. 7, D and E)。一方、PTEN (phosphatase and tensin homolog) mRNA は 24 時間後に変化せず、標的遺伝子の抑制効率は細胞種特異的であることが示唆された (Fig. 7F)。これらの結果は、PC12 細胞由来エクソソームが miR-21 を BMSC に送達し、その結果として特定の標的遺伝子の発現を調節する能力を持つことを実証した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、PC12 腫瘍細胞由来エクソソームが BMSC に取り込まれる経路が、クラスリン介在エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスの2経路であることを同定した。これまでの先行研究では、グリオブラストーマ由来エクソソームが脂質ラフト依存性・CAV1 による負の調節を受ける経路で取り込まれること (Svensson et al. 2013)、赤白血病細胞由来エクソソームがファゴサイトーシスを介すること (Feng et al. Traffic 2010)、オリゴデンドログリア由来エクソソームがマクロピノサイトーシスを使用すること (Fitzner et al. 2011) が報告されていた。本研究の結果はこれらの知見と異なり、取り込み経路がエクソソーム表面の分子(ドナー細胞の種類)と受容細胞の受容体の組み合わせによって決定されるという仮説を支持する。

新規性: 本研究で初めて、PC12 細胞由来エクソソームの取り込みが、少なくとも2種類のシグナル活性化に依存している可能性を新規に示した。これはこれまで報告されていない知見であり、エクソソームの多経路取り込み機構の理解を深める。さらに、miR-21 転送による TGFβRII および TPM1 の抑制は、腫瘍細胞が正常間葉系細胞の遺伝子発現を遠隔調節し、腫瘍微小環境を形成する機構の一例を示す。

臨床応用: TGFβRII は、複雑な腫瘍進行における役割を持つ TGFβ シグナル経路の受容体であり、クラスII腫瘍抑制遺伝子である TPM1 の抑制は腫瘍促進に寄与する可能性がある。これらの所見は、腫瘍エクソソームによる骨髄微小環境への影響という観点からも臨床的有用性を持つ。クラスリン経路 (CPZ 阻害) やマクロピノサイトーシス (EIPA 阻害) の薬理学的遮断は、腫瘍エクソソームによる正常細胞への遺伝子発現変化を抑制する介入点となりえる。逆に、天然エクソソームを利用した治療的 miRNA 送達においては、CME とマクロピノサイトーシスが主要な取り込み経路として機能する可能性があり、この知見は薬物送達システム設計にも示唆を与える。

残された課題: 二経路が並存する理由として、エクソソーム表面の多様な分子(タンパク質、脂質)がそれぞれ異なる受容体を活性化し、複数のシグナル経路を誘発している可能性が考えられる。細胞内での分解回避機構(エンドソーム-リソソーム経路での RNA 分解からの保護)も未解明である。また、miR-21 転送の in vivo 生理的意義および治療ターゲットとしての可能性の検証が今後の課題である。ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) が PC12 エクソソーム受容体として機能する可能性は、Christianson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2013 でグリオブラストーマエクソソームで報告されているが、PC12 系でも今後検証する必要がある残された課題である。

方法

細胞培養とエクソソーム単離: ラット褐色細胞腫由来 PC12 細胞(腫瘍エクソソームのドナー)および心筋芽細胞 H9C2 (cardiomyoblast H9C2) 細胞(陰性対照ドナー)を標準条件で培養した。エクソソームは、培養上清を差速遠心法により単離した。具体的には、まず 300 × g で 10 分、1,200 × g で 20 分、10,000 × g で 30 分遠心し、細胞やデブリを除去した。その後、上清を 200,000 × g で 2 時間超遠心し、エクソソームペレットを回収した。回収したエクソソームは PBS に再懸濁し、親油性色素 DiD (3,3,3’,3’-tetramethylindodicarbocyanine, 4-chlorobenzenesulfonate salt) または CFSE (carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester) で蛍光標識した。未結合色素は 300 kDa 限外ろ過チューブを用いて除去した。BMSC は、4週齢 Sprague-Dawley ラットの大腿骨および脛骨から骨髄細胞を分離し、接着培養により取得した。エクソソームの単離と特性評価は、Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 のプロトコルに準拠した。

取り込み経路の薬理学的阻害実験: BMSC を各種薬理学的阻害剤で前処理(37°C で 30 分または 60 分)し、その後 DiD 標識エクソソーム (40 μg/mL) を 37°C で 3 時間添加した。エクソソームの細胞内取り込みは共焦点顕微鏡で観察し、エクソソーム蛍光強度を定量した。各群の細胞生存率は Calcein AM を用いて確認し、細胞毒性が 15% を超えない濃度を選択した。

  • クラスリン介在エンドサイトーシス阻害剤: K⁺ 枯渇バッファー、CPZ (chlorpromazine) (1-25 μM)
  • マクロピノサイトーシス阻害剤: EIPA (5-(n-ethyl-n-isopropyl)-amiloride) (5-50 μM)、LY294002 (10-100 μM)
  • カベオリン介在エンドサイトーシス阻害剤: ゲニステイン (10-200 μM)、ナイスタチン、MβCD (methyl-β-cyclodextrin)、CtxB (cholera toxin B subunit) (100 μg/mL)

分子生物学的ノックダウンと救済実験: CHC (clathrin heavy chain)、μ2 サブユニット (クラスリンアダプター複合体 AP2 のサブユニット)、CAV1、および DYN2 (dynamin 2) に対する siRNA または shRNA を設計し、細胞に導入した。siRNA および shRNA の導入には、それぞれ jetPRIME と Lipofectamine 2000 を使用した。ノックダウン効率は PCR および Western blot で 48 時間後に確認した。μ2-AP2 の機能喪失変異体 (μ2-D176A) および CAV1-P132L 変異体を発現させ、機能解析を補完した。siRNA 抵抗性の救済コンストラクト (μ2-res、CAV1-res) を共トランスフェクションすることで、効果の特異性を確認した。

共局在解析とファゴサイトーシス: マクロピノサイトーシスマーカーとして FITC-デキストラン (70 kDa)、カベオリン経路マーカーとして FITC-CtxB を用い、DiD 標識エクソソームとの共局在率を 10 分、30 分、60 分の各時点で定量した。ファゴサイトーシスの評価には、1 μm のポリスチレンラテックスビーズを DiD 標識エクソソームと同時添加し、共焦点顕微鏡で 3 時間後の取り込みを評価した。

miRNA 転送と標的遺伝子発現: BMSC を PC12 細胞由来エクソソームとインキュベーション後、成熟 miR-21 および pre-miR-21 レベルを qRT-PCR で評価した。TGFβRII mRNA レベルは qRT-PCR で、TGFβRII および TPM1 タンパク発現は Western blot で定量した。anti-miR-21 アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションし、エクソソーム効果を逆転させることで miR-21 依存性を確認した。

統計解析: 全ての定量データは3回の独立した実験の平均 ± 標準偏差 (mean ± SD) として示された。各群間の有意差は Student の t検定 を用いて評価し、p値 が 0.05 未満の場合を有意と判断した。