• 著者: Gettinger S, Choi J, Hastings K, Truini A, Datar I, Sowell R, Wurtz A, Dong W, Cai G, Melnick MA, Du VY, Schlessinger J, Goldberg SB, Chiang A, Sanmamed MF, Melero I, Agorreta J, Montuenga LM, Lifton R, Ferrone S, Kavathas P, Rimm DL, Kaech SM, Schalper K, Herbst RS, Politi K
  • Corresponding author: Katerina Politi (katerina.politi@yale.edu); Scott Gettinger (scott.gettinger@yale.edu) (Yale University School of Medicine, New Haven, CT, USA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29025772

背景

抗 PD-1 / PD-L1 抗体は NSCLC (non-small cell lung cancer) の治療に革命をもたらし、一部の患者では長期奏効が得られるものの、奏効した患者の大多数は最終的に獲得耐性 (acquired resistance) を来す。長期 follow-up 研究では 5 年生存率約 16% という unprecedented な数値が報告される一方 (Borghaei et al. NEJM 2015; Brahmer et al. NEJM 2015; Reck et al. NEJM 2016 KEYNOTE-024)、奏効患者の大半が最終的に耐性進行に至るという gap が残されていた。

メラノーマでは PD-1 阻害への獲得耐性機序として JAK1 / JAK2 不活性化変異 (IFNγ シグナル障害) や B2M (beta-2 microglobulin) 変異 (HLA クラス I 抗原提示障害) が Zaretsky et al. 2016 で報告され、結腸がんでも同様の B2M 変異が pembrolizumab 抵抗で報告されていた。しかし、肺がん特異的な獲得耐性メカニズムは未解明 で、これまでに報告されたのは neoantigen 消失 (Anagnostou et al. Science 2017) のみであり、APM (antigen processing and presentation machinery) 障害が肺がん獲得耐性の主要機序として確立されているかは controversial で、systematic な検証が手薄であった。B2M はβ2ミクログロブリンをコードし、HLA クラス I 複合体の必須構成要素であり、その欠損は腫瘍細胞表面の HLA クラス I 消失をもたらし CD8+ T 細胞による認識・殺傷を回避させる機構として理論的には肺がんでも重要と想定されていたが、ヒト腫瘍検体での実証と因果関係の証明 (例: CRISPR-based KO mouse model) は未確立であった。

目的

PD-1 axis 阻害薬への獲得耐性を来した NSCLC 患者の腫瘍検体と患者由来異種移植 (PDX) モデルを用いて、HLA クラス I 抗原プロセシング提示機構 (APM) および IFNγ シグナル経路の異常が獲得耐性に関与するかを包括的に検証し、B2M 欠失の因果的役割を免疫担癌マウスモデルで証明する。

結果

所見1:パン-cohort で APM 遺伝子再発変異は稀だが、症例 #23 で B2M ホモ接合性欠失を同定 (n=14 patients, paired n=10):耐性 NSCLC 14 例コホートで HLA クラス I APM 関連 72 遺伝子の 再発変異・CNV は認められなかった (PSMD1 / PSMD4 / PSMD7 / PSMD13 (proteasome 26S subunit non-ATPase 1/4/7/13、抗原プロセシング proteasome 構成因子)、CD207 (Langerin、Langerhans 細胞抗原提示マーカー) 等で散発的 acquired mutation あり、Fig 3 oncoprint)。しかし症例 #23 (75 歳女性、stage IV 扁平上皮癌; anti-PD-L1 + anti-CTLA4 併用で著明な初期奏効後に新規 celiac mass で耐性、Fig 4A imaging) で B2M のホモ接合性欠失 が CNV 解析で同定された (Fig 4D paired WES copy number plot)。ペア比較では化学療法前の診断検体で B2M 2 コピー存在 (subclonal deleterious p.M1I 変異、non-reference allele frequency 10%)、免疫療法前検体で heterozygous loss (1 copy)、耐性時に homozygous loss (0 copy) という段階的な B2M 消失が確認された (quantitative real-time PCR でも確認、Supplementary Fig S3)。QIF による cytokeratin+ 腫瘍細胞での B2M タンパク質定量では 耐性検体で免疫療法前検体比 約 60% 減少 (p<0.0001) (Fig 4E-F)、HLA クラス I タンパク質 (HC-10 antibody、HLA-A 一部・HLA-B・HLA-C 検出) も耐性時に顕著減少 (Supplementary Fig S4A-B)、腫瘍抗原の T 細胞への提示が障害されていた。

所見2:複数 PDX で B2M 低発現を確認、IFNγ 応答は STAT1 まで保存 (PDX n=5, sample replication n=3 per protein assay):症例 #23 由来 PDX で B2M タンパク質の完全消失と HLA クラス I 消失が Western blot + フローサイトメトリーで確認され、IFNγ 腫瘍内注射で STAT1 リン酸化は誘導されたが B2M・HLA クラス I 発現は回復しなかった (Fig 5)。症例 #26 と #7 由来 PDX でも B2M 低発現が認められ、計 5 PDX 中 3 つ (60%) で B2M 低下 が観察された (Fig 5)。さらに QIF で評価可能な 9 例の耐性患者コホート全体では、4/9 例 (44%) で HLA クラス I 低下、3/9 例 (33%) で B2M 低下 が認められ、APM 障害が肺がん獲得耐性に予想以上に高頻度で関与する可能性が示された (Fig 4F, Supplementary Table)。

所見3:CRISPR B2m KO 細胞は免疫担癌マウスで anti-PD-1 耐性を獲得 (cohort_n=8-12 mice/group, technical replication n=3 KO clones):B2m KO の因果的役割を証明するため、PD-1 阻害感受性 UNSCC680AJ マウス肺がん細胞株 (cell line) に CRISPR-Cas9 を適用しモノクローナル B2m KO 細胞株 (n=3 clones) を樹立、A/J 同系マウス (mouse strain) 皮下移植 (Fig 6)。Wild-type UNSCC680AJ 腫瘍では抗 PD-1 抗体 (100 μg/dose × 3 日毎 5 回投与) により有意な腫瘍増殖抑制 (vs isotype control、p<0.001-0.0001、cohort_n=10 mice/group)。一方、B2m KO 細胞由来腫瘍は抗 PD-1 投与下でも増殖継続、有意な耐性が示された (vs WT + anti-PD-1、p<0.001、cohort_n=8-12 mice/group、replication n=3 independent experiments、effect size: tumour volume ratio KO/WT 約 3-4 fold at day 18)。In vitro cytotoxicity アッセイでは UNSCC680AJ 腫瘍由来腫瘍特異的 CD8+ T 細胞 (1:1 effector:target) は wild-type 細胞を約 60% specific lysis で効率的に殺傷 したが、B2m KO 細胞の殺傷は 約 15% specific lysis (約 4-fold 減少、p<0.001) に有意障害された (Fig 7)。脾臓由来 CD8+ T 細胞では効率的殺傷は認められず (specific lysis <5%)、本殺傷が腫瘍特異的・MHC class I dependent であることが確認された。

所見4:獲得耐性腫瘍は炎症性微小環境を示し、代替免疫抑制受容体の多重上方制御を認める (RNA-seq n=7 pairs, QIF n=8 pairs):RNA シークエンス解析 (paired n=7) では、耐性検体で LAG3 (p<0.05 で有意上昇)、PD-1、TIGIT、2B4、CTLA4、TIM3 などの免疫抑制受容体遺伝子が広範に上方制御された。PD-L1 発現は変化なかったが、PD-L2 発現は平均 7.7-fold 増加、T 細胞活性化リガンド (4-1BB-L、ICOS-L、OX40-L、CD40-L) は変化なしまたは低下した。GZMB (p<0.05)、TNFα、IFNγ などエフェクター分子は増加し、炎症的な微小環境の存在が示唆された。QIF 解析 (paired n=8) でも PD-1 と LAG3 上昇が 5/8 例 (63%)、TIM3 上昇が 3/8 例 (38%) に認められた。Ki-67 (増殖マーカー) は耐性時の CD3+ T 細胞で一様に上昇し、活発な免疫応答が継続しながら B2M 欠失により腫瘍細胞への T 細胞介在性殺傷が回避されているという「免疫活性化にもかかわらず逃避」 の機序が示された。IFNγ シグナル経路では IFNAR2、TYK2、IL15、IL2RB、IFIH1 に後天的ミスセンス変異が検出されたが allele frequency < 30% でヘテロ接合性であり、functional significance は不明であった。Mutational landscape では 8 paired cases 中 6 例で nonsynonymous mutation burden が 74-356% 範囲で増加、neoantigen burden も 71-278% 範囲で増加 (6/8 pairs、Pearson r=0.98 between mutations and neoantigens, p<0.0001) (Fig 2A-B)。Dominant mutational signature は smoking + APOBEC + alkylating agent で耐性時も保存された (Fig 2C)。

考察/結論

① 先行研究との違い:本研究は肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬獲得耐性の原因として HLA クラス I APM 障害、特に B2M 欠失を 初めて系統的に報告 した。これまでの肺がん獲得耐性研究 (Anagnostou et al. Science 2017) は neoantigen 消失機序のみに焦点を当てており、本研究はそれと異なり APM 障害という新しい dimension を肺がん獲得耐性に追加した点が対照的に重要。メラノーマでの先行報告 (Zaretsky et al. 2016 の JAK1/2 + B2M) と相違して、肺がんでは JAK1/2 不活化変異の頻度が低く B2M 欠失が主要機序であることを示し、がん種特異的な耐性機序プロファイルの存在を明示した。Mismatch repair-deficient 結腸がんでの B2M 変異 (Le et al. NEJM 2017) とも対照的に、肺がんでは MMR-proficient setting で B2M 欠失が起こる点が新たな知見である。

② 新規性:本研究で初めて、(a) CRISPR による B2m KO という直接的介入実験 で B2M 欠失の因果的役割を免疫担癌マウスモデルで証明 (これまで報告されていないアプローチ)、(b) 5 PDX 中 3 つで B2M 低発現を観察し、ゲノム的 B2M 欠失だけでなく エピジェネティック / シグナル経路ベースの非遺伝的 HLA クラス I 下方制御 が獲得耐性に寄与する可能性を提示、(c) 獲得耐性 NSCLC では LAG3 / TIM3 / TIGIT / PD-L2 (約 7.7-fold) の代替免疫抑制経路 が補償的に誘導される機序を初めて示し、これらを標的とした次の治療戦略 (anti-LAG3 relatlimab、anti-TIGIT tiragolumab 等) の理論的根拠を提供した点が novel である。「免疫活性化が継続しているにもかかわらず B2M 欠失で逃避する」という独特の immune escape mechanism も本研究で初めて明示された。

③ 臨床応用 / Bench-to-bedside / translational:本研究の臨床応用は多岐に渡る橋渡しが進行している。①臨床応用 として PD-1 軸阻害薬治療中の HLA クラス I + B2M 発現モニタリング (IHC または QIF) による early resistance detection、②MHC 非依存性免疫療法: NK 細胞療法、BiTE (bispecific T-cell engager)、CAR-T 療法、ADC など HLA に依存しない modality の rational adjuvant strategy、③ 代替チェックポイント阻害薬の組合せ療法: anti-LAG3 (relatlimab、RELATIVITY-047 で承認)、anti-TIGIT (tiragolumab)、anti-TIM3 (sabatolimab) との combination による補償的耐性経路の遮断、④bench-to-bedside 橋渡しとして、B2M 欠失を再導入することで HLA class I 発現を回復させる遺伝子治療 (lentiviral B2M restoration) の前臨床概念実証、⑤臨床的有用な biomarker 開発: HLA-A/B/C + B2M dual IHC panel の標準化、という 5 領域での直接的応用が導かれる。Anti-LAG3 (relatlimab) のメラノーマ FDA 承認 (2022) は本研究の知見を裏付ける重要な臨床的展開である。

④ 残された課題 / 今後の検討 / limitation:①コホートが 14 例と小規模 であることが最大の limitation、より大規模なコホート (n>50-100) での頻度確認と subgroup analysis が必要、②同一部位での serial biopsy は 1 例のみ であり、空間的 tumour heterogeneity の影響を排除できない、③治療前に化学療法を受けた症例があり化学療法由来の B2M 変化の混入を排除できない (limitation)、④B2M 欠失が肺がん全体の ICI 獲得耐性の何 % を占めるか不明 であり、次の検討課題、⑤B2M 欠失腫瘍に対する治療戦略の前向き介入試験 (NK + ICI combination, BiTE clinical trial 等) が future research direction として残された、⑥非遺伝的 B2M 下方制御の機序 (DNA メチル化、転写抑制 TF、shRNA など) のさらなる解明、⑦LAG3 / TIM3 / TIGIT 阻害薬と PD-1 軸阻害薬の combination の B2M-intact vs B2M-loss tumour での efficacy 比較、⑧PDX 5 例中 3 例 (60%) で B2M 低下 という観察値の人ヒト集団への一般化可能性検証、が今後の研究方向性として残された。⑨APOBEC mutational signature が B2M 変異 (p.M1I) のような特定変異と関連するか の機序解明も future research として重要。

方法

患者コホート (cohort_n=14):Yale 大学の繰り返し生検 (repeat biopsy) プログラム (2011-2016) により、PD-1 axis 阻害薬 (anti-PD-1 単剤 n=10、anti-PD-L1 + anti-CTLA4 併用 n=3、anti-PD-1 + erlotinib n=1) への獲得耐性を示した NSCLC 患者 14 例 の腫瘍検体を収集 (耐性時、うち 10 例は治療前 paired 検体あり、Fig 1A-B)。11 例は RECIST v1.1 で partial response (PR) 後 8 週以内に治療中または中止後 8 週以内に進行 (acquired resistance)、2 例は off-therapy recurrence (中止後 ≥ 8 週)、1 例は mixed response。患者 demographics: squamous n=6 / nonsquamous n=7 / mixed n=1、12 例が ≥ 15 pack-year smoking history、median time to resistance 236 日 (33.7 週) (Fig 1C swimmer’s plot)。

Genomic / Transcriptomic analyses:(1) Whole-exome sequencing (WES) with average coverage normal 103×、tumor 259×。(2) RNA-seq (n=7 paired samples) with Love et al. GenomeBiol 2014 の DESeq2 + Anders et al. Bioinformatics 2015 の HTSeq (High-throughput sequencing data analysis Python framework) によりカウント化・差次的発現解析。(3) HLA クラス I APM 関連 72 遺伝子 (KEGG hsa04612) と IFNγ 経路 101 遺伝子 について変異・コピー数変異 (copy number variation, CNV) を網羅的スクリーニング。(4) Quantitative immunofluorescence (QIF) (multiplexed、HC-10 anti-HLA Class I、anti-B2M、anti-cytokeratin、anti-PD-L1、anti-PD-1、anti-LAG3、anti-TIM3 等) で protein-level expression を tumor compartment と stromal compartment 別に定量。(5) Mutational signature 解析 (Alexandrov et al. Nature 2013 の framework で smoking、APOBEC、alkylating agent signature を抽出)。(6) Neoantigen prediction: HLA-restricted peptide を in silico で予測し binding affinity (IC50 strong ≤ 50 nmol/L、intermediate 50-150 nmol/L、weak 150-500 nmol/L) で分類。

Patient-derived xenograft (PDX) 解析 (PDX n=5):耐性検体から 3 PDX (症例 #8、#23、#26) を樹立、加えてプライマリー耐性 PDX 2 例 (#3、#7) を解析 (合計 PDX n=5)。B2M タンパク発現を Western blot とフローサイトメトリーで評価、IFNγ in vivo 腫瘍内注射で STAT1 リン酸化応答を確認。CRISPR-Cas9 因果検証 (Cell line: UNSCC680AJ (urethane-induced NSCLC squamous cell line, A/J 由来) PD-1 阻害感受性マウス肺がん細胞株、Mouse strain: A/J inbred immunocompetent mice、NCT identifier: N/A pre-clinical study):PD-1 阻害感受性 UNSCC680AJ cell line に B2m gRNA + Cas9 でモノクローナル KO 細胞株 (cell line clone n=3) を樹立、A/J マウス皮下に移植 (cohort_n=8-12 mice/group)、抗 PD-1 抗体 (clone RMP1-14、100 μg/dose、3 日毎 5 回投与) で腫瘍増殖を計測。CD8+ T 細胞 cytotoxicity アッセイ (effector:target = 1:1、UNSCC680AJ 由来腫瘍特異的 CD8+ T 細胞 vs 脾臓由来コントロール) で specific killing を検証。統計手法は Mann-Whitney U test、Student t-test、Pearson correlation (r 値併記)、Fisher exact test、log-rank test (生存)、p<0.05 を有意とした。