• 著者: Emily C. Lerner, Karolina I. Woroniecka, Vincent M. D’Anniballe, Daniel S. Wilkinson, Aditya A. Mohan, Selena J. Lorrey, Jessica Waibl-Polania, Lucas P. Wachsmuth, Alexandra M. Miggelbrink, Joshua D. Jackson, Xiuyu Cui, Jude A. Raj, William H. Tomaszewski, Sarah L. Cook, John H. Sampson, Anoop P. Patel, Mustafa Khasraw, Michael D. Gunn, Peter E. Fecci
  • Corresponding author: Peter E. Fecci (Preston Robert Tisch Brain Tumor Center and Department of Neurosurgery, Duke University Medical Center, Durham, NC, USA)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-08-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37537301

背景

細胞性免疫および抗腫瘍免疫の既存パラダイムは、CD8+ T細胞が腫瘍細胞の主要組織適合性複合体クラスI (MHC-I) 上に提示される同族抗原を認識して殺傷するというT細胞受容体 (TCR)-MHC-I依存モデルに基づく。同様に、腫瘍の免疫回避機構としてMHC-Iのダウンレギュレーションが古典的に記述されてきた。β2ミクログロブリン (β2m) はクラシカルMHC-Iの全アレルに必須の共通成分であり、β2m変異がMHC-Iダウンレギュレーションを引き起こし免疫回避機構となることが長年想定されてきた (特にグリオブラストーマではMHC-I発現の低減または欠失が頻繁に観察される)。しかし、近年の免疫チェックポイント阻害 (ICB) 研究では、MHC-I/β2mの役割は混在した結果を示しており、低β2m/MHC-I発現が良好な予後と関連する報告も存在する Tang et al. CNS Neurosci Ther 2021。例えば、MHC-Iの不活性化がICB抵抗性を引き起こすという報告がある一方で Gettinger et al. CancerDiscov 2017、MHC-Iの喪失がNK細胞による殺傷に対する感受性を高めることで予後改善につながる可能性も示唆されている Busch et al. Front Oncol 2021。これらの矛盾する知見は、従来の抗腫瘍免疫モデルを再考する必要性を示唆しており、MHC-I欠損腫瘍に対するT細胞応答のメカニズムには依然として未解明な部分が残されている。特に、MHC-Iを完全に欠損した腫瘍細胞に対するCD8+ T細胞の殺傷能力がどのように維持されるのか、またその分子メカニズムについては知識のギャップが残されている。

目的

MHC-I欠失 (β2m KO) 腫瘍モデルにおいて、免疫チェックポイント阻害剤ベースの免疫療法の効果がいかに保持されるかを調査し、その効果を媒介する主要な免疫細胞種および殺傷機構を同定すること。さらに、このメカニズムがヒト腫瘍システムにおいても機能するかを検証し、MHC-I欠失が免疫逃避の万能な手段であるという従来の概念に挑戦することを目指す。

結果

MHC-I欠失腫瘍でもICB効果が保持され、CD8+ T細胞に依存: 頭蓋内 (i.c.) に移植されたCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍担癌マウスにおいて、αPD-1/4-1BB併用療法は100%の長期生存を誘導し、抗4-1BB単剤療法でも90%の生存率を示した (Fig. 1e)。この免疫療法の有効性は、皮下移植されたCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍 (Fig. 1f) や、i.c.移植されたMHC-I欠失メラノーマB16-OVA-β2mKO (Fig. 1g) でも同様に観察された。NK細胞の枯渇 (抗NK1.1抗体による) はこの効果を全く阻害せず (Fig. 1h)、NK細胞がMHC-I欠失腫瘍の排除に必須ではないことを示した。一方、CD8+ T細胞の枯渇 (抗CD8α抗体による、移植前、移植後3日目、7日目のいずれの時点でも) は、MHC-I欠失腫瘍に対するαPD-1/4-1BB療法の生存利益を完全に消失させた (Fig. 1i, j)。CD4+ T細胞の枯渇は生存に軽微な影響しか与えなかった。

抗原特異性は依然として必要: αPD-1/4-1BB療法を受けたMHC-I陰性CT2A-TRP2-β2mKO腫瘍担癌マウスでは、MHC-I陽性CT2A-TRP2腫瘍担癌マウスよりも多くのTRP2特異的CD8+ T細胞が腫瘍内に蓄積していた (Fig. 2a)。CD8KOマウスにTRP2特異的CD8+ T細胞 (TRP2 ALT) を養子移入すると、TRP2抗原を有するCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍は100%排除された (Fig. 2c)。しかし、TRP2抗原を欠くCT2A-β2mKO腫瘍は排除できなかった (Fig. 2d)。また、OVA特異的TCRのみを持つOT-1マウスにCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍 (OVA非発現) を移植した場合、αPD-1/4-1BB療法は全く効果を示さなかった (Fig. 2e, p=0.7449)。これらの結果は、腫瘍細胞自身がMHC-Iを発現しなくても、腫瘍抗原を認識する特異的T細胞の存在が依然として必要であることを示唆する。

マクロファージが殺傷にライセンスを付与: in vitro実験において、TRP2 T細胞単独ではMHC-I陰性CT2A-TRP2-β2mKO腫瘍細胞を殺傷できなかった (Fig. 1d)。しかし、TRP2ペプチドをパルスした骨髄由来マクロファージ (BMDM) を追加すると、MHC-I陰性腫瘍の殺傷が可能となった (Fig. 3a, p=0.0024)。パルスされていないBMDMを追加しても効果はなかった。GL261-OVAモデルとOT-1 T細胞、OVAパルスBMDMを用いた実験でも同様の結果が得られた (Fig. 3b-d)。さらに、OT-1 T細胞とOVAパルスBMDMの組み合わせは、OVAもMHC-Iも発現しないCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍細胞を殺傷できた (Fig. 3e, p=0.0005)。これは、「適応的プライミングが先天性殺傷を引き起こす (adaptive priming begets innate killing)」という新たな機構を示唆する。

直接接触依存性・可溶性因子非依存性: 0.4μm Transwellを用いてT細胞と腫瘍細胞を物理的に分離すると、殺傷効果は消失した (Fig. 4a)。一方、5.0μm Transwell (T細胞は通過可能だがマクロファージは通過不能) を用いてT細胞が腫瘍細胞に直接接触できる設定では殺傷効果が保持された (Fig. 4a)。この結果は、T細胞と腫瘍細胞の直接接触が殺傷に必須であり、可溶性因子は関与しないことを示している。in vivoにおいても、OVA抗原をパルスしたマクロファージを腫瘍内に注入することで、MHC-IもOVA抗原も発現しないCT2A-TRP2-β2mKO腫瘍に対する免疫応答が誘導され、OT-1マウス (n=5 mice) の生存が有意に延長した (Fig. 4c, p<0.05)。

NKG2D-NKG2DL軸が殺傷を媒介: MHC-I欠失腫瘍細胞は、NKG2Dリガンド (NKG2DL) を高発現していた (Extended Data Fig. 4e, f)。TCR活性化されたOT-1 T細胞をMHC-I欠失腫瘍細胞と共培養すると、NK細胞機能関連遺伝子であるKlrk1 (NKG2Dをコード) の発現が有意に増加した (log2(fold change) = 1.1, adjusted p = 3.25 × 10⁻⁵) (Fig. 5b)。NKG2DノックアウトまたはNKG2D遮断抗体 (αNKG2D) の存在下では、MHC-I欠失腫瘍細胞の殺傷が完全に消失した (Fig. 5d)。このNKG2D-NKG2DL相互作用を介した非古典的抗原非依存性殺傷機構は、in vivoマウスモデル (Fig. 5f) およびin vitroヒト腫瘍システム (M202-β2mKO細胞株) でも活性であり (Fig. 5h)、MHC陽性・陰性が混在する腫瘍においてもMHC-I欠失クローンの殺傷に必要であった。この殺傷はFas経路には依存しないが (Extended Data Fig. 5a)、細胞傷害性脱顆粒 (グランザイム/パーフォリン分泌) は関与していた (Fig. 5e)。ヒトB2M変異腫瘍のTCGA PanCanAtlasデータセット解析では、B2M野生型腫瘍と比較してNKG2DLであるMICBおよびULBP3の有意な高発現が示された (Fig. 5i)。さらに、マウスNKG2DLであるRAE-1dを発現するように操作されたヒトM202-β2mKO細胞は、TCR活性化されたマウスOT-1 T細胞 (n=6 co-cultures) によって容易に殺傷された (Fig. 5j)。

考察/結論

本研究は、「CD8+ T細胞の腫瘍殺傷は必ずTCR-MHC-I依存である」という50年以上の定説に挑戦し、抗原特異的にプライミングされたCD8+ T細胞がその後、NKG2D-NKG2DL軸を介してMHC-I欠失腫瘍を抗原非依存的に殺傷できることを示した。「adaptive priming begets innate killing」というパラダイム変化を提示する。

先行研究との違い: これまでの研究では、MHC-Iのダウンレギュレーションが腫瘍の免疫回避機構として広く認識されてきたが Zaretsky et al. NEnglJMed 2016、本研究はこれと異なり、MHC-I欠失腫瘍がCD8+ T細胞による免疫療法に対して依然として感受性を持つことを明らかにした。特に、NK細胞がMHC-I欠失細胞の殺傷に重要であるという従来の報告 Karre et al. Nature 1986 とは対照的に、本研究ではNK細胞がこのCD8+ T細胞依存性殺傷には必須ではないことを示した。また、先行研究ではNKG2DのCD8+ T細胞における役割は主に共刺激的であるとされてきたが Raulet et al. NatRevImmunol 2003、本研究はNKG2DがMHC-I欠失腫瘍に対する直接的な殺傷を媒介する主要なエフェクター分子であることを示した点で、これまでの知見と異なる。

新規性: 本研究で初めて、抗原特異的に活性化されたCD8+ T細胞が、TCRの関与なく、自身のNKG2Dを介してNKG2DLを高発現するMHC-I欠失腫瘍細胞を認識し、直接接触による細胞傷害性脱顆粒によって殺傷するという新規な2ステップモデルを同定した。このメカニズムは、腫瘍抗原が抗原提示細胞 (APC) によってT細胞に提示され、T細胞がプライミングされた後、MHC-I欠失腫瘍細胞がNKG2DLを高発現することで、NKG2Dを介した殺傷が誘導されるという点で、これまで報告されていない知見である。この「適応的プライミングが先天性殺傷を引き起こす」という概念は、癌免疫学におけるパラダイムシフトをもたらす。

臨床応用: 本知見は、MHC-I/β2m欠失によるICB抵抗性という通説を覆し、MHC-I欠失腫瘍でもICBが機能しうることを示した点で、臨床応用に直結する。臨床的意義として、MHC-I欠失を「治療困難なメカニズム」ではなく、むしろNKG2Dベースの戦略の標的として活用できる可能性を提示した。これにより、治療的NKG2DアゴニズムやNKG2DLターゲティング療法への道筋が示され、グリオブラストーマなどのMHC-I低発現腫瘍でも抗PD-1/4-1BB併用療法の有効性を支持する。ヒトB2M変異腫瘍におけるNKG2DLの高発現データは、このメカニズムがヒト癌患者においても治療標的となりうることを示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、(i) ヒトMHC-I欠失腫瘍におけるNKG2D-NKG2DL軸の臨床的重要性の検証、(ii) 他のMHC-I欠失機序 (遺伝的/エピジェネティック) での普遍性の確認、(iii) NKG2Dを導入したCAR-T細胞療法の前臨床評価などが残されている。また、NKG2DLの正常組織での発現レベルが低いことが、この抗原非特異的殺傷メカニズムに対する保護的役割を果たす可能性も示唆されており、この選択性の維持メカニズムのさらなる解明も重要である。本研究は、従来のMHC-I中心の癌免疫学に大きなパラダイムシフトをもたらす可能性を持つ重要な発見である。

方法

腫瘍モデル:マウスグリオーマCT2A-TRP2 (tyrosinase-related peptide 2) およびそのβ2m (β2ミクログロブリン) 遺伝子をCRISPR/Cas9でノックアウト (KO) したCT2A-TRP2-β2mKO株(IFN-γ刺激後もMHC-I発現が回復しないことを機能的に検証)、メラノーマB16-F10-OVA (ovalbumin)-β2mKO株、および別のマウスグリオーマGL261(OVA発現)株を用いた。治療:抗PD-1 (αPD-1) 抗体と4-1BBアゴニストの併用療法を、頭蓋内 (i.c.) および皮下腫瘍モデルの両方で評価した。細胞枯渇実験:in vivoでのNK細胞(抗NK1.1抗体)、CD8+ T細胞(抗CD8α抗体)、CD4+ T細胞(抗CD4抗体)の枯渇、ならびにCD8KO (CD8グローバルKO) マウスおよびOT-1 (OVA特異的TCRのみ発現) トランスジェニックマウスを用いた。養子移入実験:CD8KOマウスにTRP2特異的CD8 T細胞 (TRP2 ALT) を移入した。in vitro殺傷アッセイ:TRP2 T細胞またはOT-1 T細胞と、骨髄由来マクロファージ (BMDM、TRP2/OVAペプチドでパルスまたは非パルス) を共培養し、腫瘍細胞の生存率を測定した。0.4μmおよび5.0μm Transwell実験を用いて、可溶性因子依存性か細胞間直接接触依存性かを評価した。NKG2D-NKG2DL軸の解析:NKG2DノックアウトT細胞、NKG2D遮断抗体、およびNKG2Dリガンド (NKG2DL) の発現解析を行った。ヒト腫瘍系(M202ヒトメラノーマ細胞株およびそのβ2mKO株)への適用、およびFas経路の寄与についても検討した。RNA発現解析にはNanoString PanCancer Immune Profiling Panelを使用し、差次的発現解析にはnSolver Advanced Analysisソフトウェアを用いた。TCGA PanCanAtlasデータセットを用いて、ヒトB2M変異腫瘍におけるNKG2DL発現をDeSeq2で解析した。統計解析はGraphPad Prism version 9.5.0を使用し、主に両側不対t検定、二元配置分散分析 (ANOVA)、または一元配置分散分析を用いて群間の平均を比較した。生存曲線はカプラン・マイヤー法で作成し、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定で比較した。実験にはC57BL/6マウス、OT-1マウス、CD8KOマウス、Ccr2-KOマウスなどのマウス株が用いられた。