• 著者: Datar IJ, Hauc SC, Desai S, Gianino N, Henick B, Liu Y, Syrigos K, Rimm DL, Kavathas P, Ferrone S, Schalper KA
  • Corresponding author: Kurt A. Schalper (kurt.schalper@yale.edu, Department of Pathology, Yale School of Medicine, New Haven, CT)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33602682

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は非小細胞肺がん (NSCLC) の治療に革命をもたらしたが、非選択集団での奏効率は20〜30%にとどまる。腫瘍細胞による抗原提示の欠損は、免疫逃避および免疫療法耐性の重要な機序として知られており、その分子実体の定量的評価が求められていた。特に、腫瘍細胞特異的なHLA発現の空間的・定量的な大規模評価はこれまで不足しており、その臨床的意義は未解明な点が多かった。

HLA class-I分子 (HLA-A、-B、-C重鎖とβ2微小グロブリン [β2M]) は、CD8+ T細胞による腫瘍特異的抗原認識に不可欠である。腫瘍抗原ペプチドはプロテアソームで処理されてHLA class-I分子に提示され、腫瘍特異的T細胞の認識を可能とする。しかし、腫瘍細胞がHLA class-I分子を消失させると、NK細胞によるmissing self認識によって排除される可能性があり、T細胞とNK細胞による除去の間に拮抗関係が生じることが報告されている (Wieczorek et al. Front Immunol 2017)。この複雑な相互作用は、腫瘍免疫微小環境 (TME) の構成に大きな影響を与えると考えられている。

一方、HLA class-II分子 (HLA-DP、-DQ、-DR) は専門的抗原提示細胞で構成的に発現するが、腫瘍細胞でもIFN-γシグナルにより誘導的に発現しうる。HLA class-IIは直接的にCD4+ T細胞を介した抗腫瘍免疫に寄与しつつ、CD8+ T細胞上のLAG-3受容体を介した免疫抑制にも関与しうることが示唆されている (Axelrod et al. Clin Cancer Res 2019)。その発現異常がNSCLCの免疫応答に与える影響は、これまで十分に解明されていなかった。

既存の免疫組織化学 (IHC) を用いた研究では、HLA class-I低発現の頻度が25〜94%と著しく幅広く報告されており (Redondo et al. Cancer Res 1991; Passlick et al. Eur J Cancer 1994; Ramnath et al. Cancer Immunol Immunother 2006; Kikuchi et al. Cancer Sci 2007)、これは客観的定量法の欠如と腫瘍/間質細胞混在による評価困難を反映していた。さらに、ゲノム解析によるHLA遺伝子変異評価のみでは、エピジェネティック・転写後調節による発現低下を捉えられないという方法論的限界があった (Shukla et al. Nat Biotechnol 2015; McGranahan et al. Cell 2017)。例えば、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016Sade-Feldman et al. NatCommun 2017Gettinger et al. CancerDiscov 2017らの研究では、ICI耐性におけるHLA抗原提示経路の欠損が報告されているが、これらは主にゲノム変異に焦点を当てており、タンパク質レベルでの空間的発現異常の全体像は未開拓であった。がん細胞特異的なHLA発現を空間的・定量的に評価した大規模研究は存在せず、その頻度、ゲノム変異との乖離、TME構成との関連、および臨床転帰への影響は未解明なままであった。これらの知見の不足が、NSCLCにおける免疫逃避メカニズムの包括的な理解を妨げていた。

目的

本研究の目的は、免疫療法未治療のNSCLC患者において、β2M、HLA-A、HLA-B,C重鎖、およびHLA class-IIβ鎖の発現をがん細胞と間質細胞で分離定量し、以下の点を明らかにすることである。(1) 各HLAサブユニットのがん細胞特異的発現低下の頻度を評価する。(2) タンパク質レベルでの発現低下がゲノム変異によってどの程度説明されるかを解析し、その乖離を明らかにする。(3) 各HLAサブユニットの発現低下パターンが、腫瘍免疫微小環境 (TME) の構成 (T細胞、B細胞、NK細胞など) とどのように関連するかを詳細に検討する。(4) これらのHLAサブユニットの発現低下が、患者の臨床転帰、特に全生存期間 (OS) に与える影響を4つの独立したコホートで検証する。最終的に、これらの知見を通じて、NSCLCにおける免疫逃避メカニズムの理解を深め、将来的なバイオマーカー開発および治療戦略の最適化に貢献することを目指す。

結果

HLA各サブユニットのがん細胞特異的発現低下頻度: 3つの独立したコホート (コホート1〜3、n>700) を解析した結果、β2Mのがん細胞特異的発現低下は9.8% (70/714例) に認められた。HLA-Aの発現低下は9.0% (65/722例)、HLA-B,Cの発現低下は12.1% (87/719例)、HLA class-IIβ鎖の発現低下は17.7% (127/717例) であった (Figure 1E)。いずれか1つ以上のHLAサブユニットにがん細胞特異的発現低下を認める腫瘍は、全体の30.4%に達した。最も頻繁に観察された同時欠失パターンは、β2M、HLA-B,C、およびHLA class-IIの同時欠失であった。一方、HLA-AとHLA-B,Cの同時欠失は稀であった。がん細胞内におけるHLAマーカー間の相関 (平均Spearman相関係数 0.3、範囲 0.02〜0.56) は、間質細胞内の相関よりも有意に低く (p<0.05)、腫瘍細胞における空間的発現の不均一性が示唆された (Figure 2E-H)。β2Mと他のHLA class-Iサブユニットとの相関が最も高く、HLA-AとHLA-B,Cの相関が最も低かった。

ゲノム変異との乖離: TCGAコホート (n=1,144 patients) およびMSKCCコホート (n=1,668 patients) の公開データを用いたゲノム解析では、HLA class-I遺伝子 (β2M、HLA-A、HLA-B、HLA-C) の有害変異頻度はTCGAで6.3%、MSKCCで2.4%にとどまった (Figure 3A)。HLA class-II遺伝子の有害変異頻度はTCGAで3.1%であった (Figure 3C)。これらのゲノム変異による説明は、タンパク質発現低下の頻度 (最大30%超) に対して5%未満であり、エピジェネティックまたは転写後調節機構がHLA発現低下の主要なメカニズムであることが強く示唆された。有害変異とmRNA発現低下の有意な相関はβ2Mのみに認められ、他のHLA class-IマーカーではDNA変異とmRNA発現の相関は観察されなかった。NSCLCにおけるHLA class-I遺伝子変異頻度は、高悪性度リンパ腫、胃がん、大腸がん、子宮頸がんなどの他のがん種と比較して顕著に低頻度であった (Figure 3B)。

免疫微小環境との差分的関連: 各HLAサブユニットのがん細胞特異的発現低下は、異なる腫瘍免疫微小環境の構成と関連していた (Figure 4)。β2M欠失腫瘍では、CD4+、CD8+、FOXP3+の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) が一貫して減少し、CD56+ NK細胞が増加した (p<0.05)。これは、HLA class-Iの全面的消失がNK細胞のKIR受容体介在のmissing self認識を解除するという仮説と整合する。β2M欠失腫瘍では、T細胞浸潤が平均で約0.5-foldに低下し、NK細胞浸潤が約1.5-fold増加した。一方、HLA-A欠失腫瘍では、HLA-B,Cが残存するため不完全なmissing self状態となり、CD8+ T細胞とCD56+ NK細胞がいずれも軽度から中等度に増加するという特異なパターンを示した。HLA-A欠失腫瘍ではCD8+ T細胞が約1.2-fold、NK細胞が約1.3-fold増加した。HLA-B,CまたはHLA class-II欠失腫瘍では、CD4+、CD8+、FOXP3+ TILおよびNK細胞がいずれも減少し、PD-L1発現も低下した (p<0.05)。これらの腫瘍ではT細胞とNK細胞の浸潤が平均で約0.7-foldに減少した。CD3+ TILはβ2M、HLA-B,C、HLA class-II欠失のいずれでも減少したが、HLA-A欠失では逆に増加した。CD20+ B細胞の変化はコホート間で一貫しなかった。

臨床転帰への影響: β2M、HLA-A、HLA-B,C、HLA class-IIのいずれのがん細胞特異的発現低下も、5年全生存率の低下と関連していた (Figure 5A)。3コホート平均の5年OSハザード比 (HR) は約2〜3倍の死亡リスク増加を示し、統計的に有意であった (p<0.05)。最も一貫した予後関連を示したのはHLA class-II欠失であり、次いでβ2M欠失であった。多変量生存解析 (コホート1) では、β2M欠失が独立した予後不良因子として同定された (HR 0.40, 95% CI 0.23-0.69, p=0.0012)。HLA class-II欠失もコホート1で独立した予後効果を示した (HR 0.48, 95% CI 0.28-0.81, p=0.006)。HLA-B,C欠失はコホート1で多変量解析で有意であったが (HR 0.41, 95% CI 0.22-0.76, p=0.0046)、コホート2および3では有意差は認められなかった。HLA-A欠失はいずれのコホートでも多変量解析での独立した予後効果はなかった (コホート1: HR 0.92, p=0.9671)。病期別解析では、進行期 (stage III〜IV) の疾患において、HLAマーカーの予後影響がより顕著であることが示された (Supplementary Figure S5)。年齢、性別、喫煙歴、組織型との有意な関連は認められなかった。EGFR・KRAS変異コホート (コホート4) でも、HLA発現と各ドライバー変異との間に有意な関連は認められず、がん遺伝子シグナルによるHLA発現の持続的制御は限定的であると考えられた。

考察/結論

本研究は、空間的・定量的な多重QIF解析を用いて、700例超の免疫療法未治療NSCLCにおいてがん細胞特異的なHLAサブユニット欠失が約30%に存在し、各サブユニットの欠失パターンが異なる腫瘍免疫微小環境構成と患者生存率の低下に関連することを初めて大規模・多コホートで実証した研究である。

先行研究との違い: 先行IHC研究が25〜94%と幅広い発現低下頻度を報告したのに対し、本研究ではAQUA法による客観的定量とがん細胞/間質細胞区画の分離解析という独自の方法論的改良により、3コホートで約30%という安定した頻度推定が実現した。これは、従来の主観的スコアリングや低ダイナミックレンジのIHCとは異なり、より信頼性の高い評価を可能にする。

新規性: β2M欠失ではNK細胞が代償的に増加する一方、HLA-B,CおよびHLA class-II欠失ではT細胞・NK細胞双方が減少するという差分的な免疫微小環境は、各サブユニットの免疫生物学的役割の違いを反映しており、本研究で初めて詳細に示された。β2M欠失はHLA class-I全サブユニットの表面発現を喪失させることでmissing selfを誘導するが、HLA-A欠失ではHLA-B,Cが残存するため不完全なmissing selfとなり、CD8+ T細胞とNK細胞の双方が増加するという中間的表現型が生じるという新規の知見が得られた。HLA-B,CおよびHLA class-II欠失は最も不利な免疫表現型 (T細胞・NK細胞双方の減少) と関連し、いわゆる「cold」腫瘍微小環境に近い状態を形成すると考えられる。

ゲノム変異による説明が5%未満に過ぎないという知見は、DNA解析のみに依存したHLA欠失評価の過小評価リスクを示しており、タンパクレベルでの空間的評価の臨床的必要性を強調する。エピジェネティックな調節 (プロモーターメチル化・ヒストン修飾) や転写後調節 (IFN-γ経路の欠陥) が主要メカニズムであり、これらは原則的に可逆的であることから治療的介入の余地がある。

臨床応用: 本研究の知見は、ICI奏効の予測においてHLAサブユニット発現状態がバイオマーカーとなりうること、β2M/HLA欠失腫瘍に対してはNK細胞活性化薬 (抗KIR抗体、NKG2A阻害薬monalizumab等) やエピジェネティック標的薬との組み合わせが治療戦略として検討されうるという臨床的含意を持つ。CD4+ T細胞に対するHLA class-IIを介した抗原提示が予後に寄与するという概念は、CD4+ T細胞依存的なICIメカニズム (特にCTLA-4阻害) の有効性にも関連する可能性がある。これらの知見は、NSCLC患者の層別化と個別化医療の推進に貢献し、臨床現場での治療選択に影響を与える可能性がある。

残された課題: 本研究の限界として、(1) TMAsが腫瘍全体の不均一性を完全に代表しない可能性、(2) 異なる施設・時代背景のコホートによる不均一性、(3) 免疫療法で治療された患者での検証がない点が挙げられる。しかし、3コホートにわたる結果の一貫性はこれらの限界を補う説得力を持つ。多変量解析での独立効果がコホート1にとどまった点には、コホート間の臨床特性の違いが影響していると考えられる。今後の検討課題として、免疫療法コホートでのHLAサブユニット発現とICI奏効との関連、HLA欠失腫瘍への代替免疫療法戦略の検討が重要な方向性である。

方法

対象コホートとサンプル: 本研究では、計4つの独立したレトロスペクティブコホートから700例を超える免疫療法未治療NSCLC患者のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織マイクロアレイ (TMA) サンプルを解析した。コホート1 (Yale大学病院、1988〜2012年、n=186) およびコホート2 (Yale大学病院、1988〜2012年、n=273) は、術前生検または切除サンプルから構成された。コホート3 (ギリシャの病院、1991〜2001年、n=342) は、異なる地理的・民族的背景を持つ患者群を代表する。コホート4 (Yale大学病院、2012〜2018年、n=137) は、EGFRおよびKRAS変異が臨床的に確認された肺腺がん患者に特化したコホートである。各TMAには、0.6 mm径の組織コアが各腫瘍から2〜4スポット含まれた。細胞株として、β2M欠損のDaudi細胞、HLA class-I欠損のLCL (B-リンパ芽球様細胞株) 721.221、HLA class-II欠損のLCL 721.174、およびHLA-A2を導入したLCL 721.221-A2がアッセイ検証および標準化のために使用された。

多重定量蛍光免疫染色 (multiplexed QIF): FFPE組織切片に対し、DAPI (核)、Pancytokeratin (CK、がん細胞マーカー)、β2M (クローンD8P1H)、HLA-A重鎖 (mAb HC-A2)、HLA-B,C重鎖 (mAb HC-10)、HLA class-IIβ鎖 (mAb LGII-612.14) を用いた多重QIF (定量蛍光免疫染色) プロトコルを適用した。これらのマーカーは、2つのパネルに分けて連続TMA切片で染色された。パネル1はDAPI、CK、β2M、HLA-B,C、HLA class-IIを含み、パネル2はDAPI、CK、β2M、HLA-Aを含んだ。HistoRx PM2000多スペクトルスキャナーを用いて20倍で自動スキャンを行い、画像を取得した。QIFアッセイの再現性を評価するため、陽性および陰性コントロールを含むインデックスTMAの連続切片を異なる時点で測定した。

AQUA法による定量スコアリング: 蛍光シグナルの定量的測定にはAQUA法を用いた。CK陽性 (CK+) がん細胞区画における各ターゲットのQIFスコアは、ターゲットピクセル強度をCK陽性ピクセル面積で除して正規化された。CK陰性間質細胞区画のスコアも同様にDAPI染色領域で測定された。がん細胞/間質細胞比が1未満である場合を「がん細胞特異的発現低下」と定義した。染色パターンとがん細胞特異的欠損は、訓練された担当者による目視確認によっても検証された。

免疫微小環境評価: 腫瘍免疫微小環境の構成を評価するため、CD4、CD8、FOXP3 (制御性T細胞)、CD20 (B細胞)、CD56 (NK細胞)、PD-L1 (クローンE1L3N) のマーカーについても追加の多重QIF解析を実施した。

ゲノム解析: HLA class-IおよびHLA class-II遺伝子の体細胞変異の頻度と種類を特定するため、The Cancer Genome Atlas (TCGA、n=1,144) およびMemorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC、n=1,668) の公開データセットをcBioPortal (Cerami et al. CancerDiscov 2012; Gao et al. SciSignal 2013) を用いて解析した。有害変異は、ミスセンス変異、切断変異、およびホモ接合性欠失と定義された。mRNA発現解析は、TCGA NSCLCコホートのバッチ正規化RNAシーケンスデータを用いて行われた。

統計解析: QIFスコア間の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。患者特性はStudent t検定 (連続変数) およびχ2検定 (カテゴリ変数) で比較された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、統計的有意性はログランク検定で評価された。全生存期間 (OS) はNSCLC診断から死亡または5年間の最終追跡までと定義された。多変量解析はCox比例ハザードモデルを用いて実施され、年齢、性別、喫煙歴、病期、組織型などの共変量が調整された。P値が0.05未満を有意差ありと判断した (JMP Pro v11およびGraphPad Prism v7.0a)。