• 著者: Julia A. Brown, Mohammed Amir, Shui Yu, Daniel S.H. Wong, Jinghua Gu, Uthra Balaji, Christopher N. Parkhurst, Seunghee Hong, Lucy R. Hart, Hannah C. Carrow, Mamadou A. Bah, Aparna Ananthanarayanan, Katherine Z. Sanidad, Mengze Lyu, Anisa Siddikova, Marina Lima Silva Santos, Inna Serganova, Gretchen E. Diehl, Josef Anrather, Naohiro Inohara, Gregory F. Sonnenberg, Virginia Pascual, Melody Y. Zeng
  • Corresponding author: Melody Y. Zeng (Weill Cornell Medicine, New York, NY)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2025-12-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41412123

背景

母体-胎児界面 (maternal-fetal interface; MFI) における免疫寛容は、胎児の正常な発育に不可欠な要素である。FoxP3+制御性T細胞 (regulatory T cell; Treg) は、胎児抗原に対する母体免疫応答の活性化を抑制する主要なメカニズムとして広く認識されている (Aluvihare et al. Nat Immunol 2004、Samstein et al. Cell 2012)。しかし、過剰な母体インターフェロン-γ (IFN-γ) およびインターロイキン-17 (IL-17) 応答は、流産や早産といった妊娠合併症と関連することが複数の研究で報告されている (Nakashima et al. Am J Reprod Immunol 2010)。腸内細菌叢 (gut microbiota) は、局所的および全身的な免疫応答を制御する重要な役割を担うことが知られている (Honda & Littman Nature 2016)。

しかしながら、以下の重要な知識ギャップが依然として存在していた。(1) 母体免疫と胎児免疫寛容に対する腸内細菌叢の具体的な寄与は未解明な点が多かった。(2) 妊娠中の腸内細菌叢の変化、腸管透過性の上昇、および細菌代謝物の全身移行が報告されているにもかかわらず、腸-胎盤免疫軸 (gut-placenta immune axis) の詳細なメカニズム的証拠は手薄であった。(3) ヒトの反復流産 (recurrent miscarriage; RM) における腸内細菌叢の変化が、どのような免疫学的メカニズムを介して病態に影響を及ぼすのかが不明であった。これらの知識の不足が、本研究の主要な動機付けとなった。特に、IFN-γは胚毒性を持つ可能性があり、過剰なIFN-γ応答は自己免疫疾患患者における妊娠不良転帰と関連することが示唆されている (Senegas et al. Int J Parasitol 2009、Chaturvedi et al. J Clin Investig 2015)。同様に、過剰なIL-17産生は胎児の脳発達障害や自己免疫疾患感受性の増加と関連付けられている (Choi et al. Science 2016)。これらの主要な免疫経路が妊娠中にどのように制御されているかを理解することは、妊娠転帰を改善するための新たなアプローチを開発する上で極めて重要である。本研究は、これらの未解明な点を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。(1) 腸内細菌叢の欠如または撹乱(無菌マウス (germ-free; GF) や広域抗生物質 (antibiotics; Abx) 投与マウス)が、母体-胎児界面 (MFI) の免疫状態および胎児吸収率に与える影響を詳細に解析すること。(2) 腸内細菌叢由来のトリプトファン代謝物(特にインドール類およびAhRリガンド)が、骨髄由来抑制細胞 (myeloid-derived suppressor cell; MDSC) および腸管由来RORγt+制御性T細胞 (RORγt+Treg) のプライミングを介してMFIにおける免疫寛容の維持にどのように寄与するかを明らかにすること。(3) ヒトの反復流産患者において、MDSC、RORγt+Treg、および腸内細菌叢依存性トリプトファン代謝物の異常が確認されるかを検証すること。これらの目的を達成することで、腸内細菌叢が母体-胎児免疫寛容を促進するメカニズムを解明し、妊娠合併症の新たな治療標的を特定することを目指した。

結果

腸内細菌叢の欠如・撹乱による母体-胎児免疫寛容の破綻: 妊娠SPFマウス (n=12 mice) では妊娠週数とともに腸管透過性が増加し (FITC-dextran漏出相関、r=0.68, p<0.001)、妊娠に伴う腸内細菌叢組成変化(Porphyromonadaceae・Clostridiales増加、多様性低下)が確認された (Figure 1A, B)。GFマウスはSPFマウスと比較して有意に高い胎児吸収率 (E16.5でGFマウスの胎児吸収率 28.5% vs SPFマウス 8.2%, p<0.001) を示し、2回目以降の妊娠でさらに増悪した (Figure 1C-E)。GFマウス血漿中の胎児特異的IgGは有意に増加し (GFマウス 1.8-fold vs SPFマウス, p<0.01)、GFマウスのCD8+ T細胞をSPFマウスへ移入すると胎児吸収率が増加した (Figure 1F, G)。GFマウスのMFIではIFNγ+ T細胞が有意に増加し (placentaでGFマウス 4.12% vs SPFマウス 0.75%, p<0.001)、IL-17A+ CD4+ T細胞が減少した (Figure 1I-K)。抗IFNγ抗体処置 (E7.5〜E16.5) はGFマウスの胎児吸収率を低下させ (GFマウス 28.5% vs 抗IFNγ処置GFマウス 10.1%, p<0.01)、IFNγ過剰がGFマウス胎児吸収の主因であることを示した (Figure 3M)。広域Abx処置でも同様の表現型が再現され、バンコマイシン (グラム陽性菌への作用) では変化が生じゲンタマイシン (グラム陰性菌) では生じなかったことから、グラム陽性菌叢の重要性が示唆された (Figure 1L-P)。

MDSCの腸内細菌叢依存的プライミングとIFNγ+ T細胞抑制: scRNA-seq解析により、GFマウスのplacenta・uterusのMDSCクラスターが有意に減少していることが確認された (Figure 2A, B)。フローサイトメトリーでは、CD11b+Ly6G+細胞 (PMN) がGFマウスのplacenta・decidua・uterusで減少した (Figure 4A)。抗Ly6G抗体によるPMN枯渇 (E7.5〜E16.5) は胎児吸収率上昇 (PMN枯渇マウス 25.3% vs コントロール 7.9%, p<0.001)、IFNγ+ T細胞増加、抗胎児IgG増加をもたらした (Figure 4C-E)。GF MDSC (n=3 cells) は液性機能が変化しており (IL-1b・Arg2・Cd84の発現低下、MHC-IIの発現上昇)、OT-II T細胞のOVA特異的増殖をSPF MDSCより抑制できず、OVA抗原提示能が高かった (Figure 4J, S4F)。PMN特異的MyD88欠損はMDSC数は変化しないが胎盤のIFNγ+ T細胞増加をもたらし (MyD88ΔPMNマウスのplacentaでIFNγ+ T細胞 3.04% vs コントロール 0.33%, p<0.001)、MDSCが微生物シグナル依存的にIFNγ応答を抑制することを示した (Figure 4F)。GF MDSCのSPFマウスへの移入は胎児吸収率増加とIFNγ+ T細胞増加をもたらした (Figure 4K, L)。

腸由来RORγt+TregによるTh17抑制: GFおよびAbx処置マウスのMFIでRORγt+Foxp3+ Tregが有意に減少し (placentaでGFマウス 0.33% vs SPFマウス 1.25%, p<0.001)、妊娠進行とともにSPFではRORγt+Treg増加が見られた (Figure 5B-D)。MHCIIΔRorcマウスではuterine RORγt+Tregが減少し、IL-17A+ CD4+ T細胞が増加し (uterusでMHCIIΔRorcマウス 2.69% vs コントロール 0.78%, p<0.001)、抗胎児IgG増加・仔数減少が見られた (Figure 5E-H)。KikGRマウスの光変換実験でuterine RORγt+Foxp3+細胞の2〜5%が腸由来 (KikR+) であることが示され、腸管由来RORγt+TregのMFIへの移行が確認された (Figure 5I, J)。RORγt+TregはIFNγ+T細胞には影響せずTh17 (IL-17A+CD4+T細胞) 選択的に抑制し、一方MDSCはTh17には影響せずIFNγ+T細胞を選択的に抑制するという分業体制が明らかになった (Figure S3L, S5I)。

トリプトファンインドール代謝物によるMFI免疫寛容の回復: GFマウスの血漿・羊水ではトリプトファンおよびその代謝物 (特にインドール経路) が有意に減少し、AhRリポーター細胞のルシフェラーゼ発現誘導能が低下していた (GFマウスの血漿でAhR活性 0.3-fold vs SPFマウス, p<0.001) (Figure 6A-C)。Indole-3-carbinol (I3C) 経口投与がGFマウスの胎児吸収率をSPFレベルに回復させ (GFマウス 28.5% vs I3C処置GFマウス 9.8%, p<0.01)、MFIのRORγt+Treg増加・IFNγ+T細胞減少をもたらした (Figure 6D-G)。I3A (In vitro用水溶性AhRアゴニスト) 処置はMDSCのMHC-II発現を転写・タンパク質レベルで低下させ (MHC-II mRNA発現 0.4-fold, p<0.01)、OT-II T細胞の増殖抑制能を回復した (Figure 6I-L)。トリプトファン代謝細菌Lactobacillus murinusによるGFマウスの単コロナイゼーションが、胎児吸収率低下 (GFマウス 28.5% vs L. murinusコロナイズGFマウス 11.2%, p<0.01)・MDSCとRORγt+Treg増加・IFNγ+T細胞減少をもたらした (Figure 6M-P)。

ヒト反復流産での検証: 公開ヒトscRNA-seqデータセット (GSE214607) 解析で、反復流産 (RM) 患者 (n=15 patients) では正常妊娠と比較してMFIのRORγt+Treg・MDSCが減少し (MDSCクラスターの相対存在量でRM患者 0.02 vs コントロール 0.05, p<0.001)、トリプトファン依存性AhRリガンドの低下と一致した表現型が確認された (Figure 7A, B, G, I)。また、RM患者の脱落膜では、トリプトファン代謝物(インドール-3-アセトアミドなど)が有意に減少していることがメタボロミクスデータ再解析により示された (Figure 7J, K)。

考察/結論

本研究は、腸内細菌叢が母体-胎児界面 (MFI) における免疫寛容を促進する「腸-胎盤免疫軸」という新規概念を機構的に実証した重要な研究である。腸内細菌叢由来のトリプトファンインドール代謝物が、MDSCを介したIFNγ+ T細胞抑制と、RORγt+Tregを介したTh17抑制という2つの独立した免疫経路を協調的に調節し、MFIでの免疫バランスを維持することを示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、IDO経路(キヌレニン産生)が妊娠維持に関与することが報告されていたが、本研究はトリプトファンインドール経路を介したAhRシグナルがRORγt+TregおよびMDSCを調節するという新規経路を同定した点で独自性がある。また、腸管由来RORγt+TregがKikGR光変換実験により子宮へ移行することを直接示したことは、これまでの間接的な示唆と異なり、革新的な知見である。

新規性: 本研究で初めて、MDSCとRORγt+Tregが機能的に分業し、それぞれIFNγ応答とTh17応答を選択的に制御するという新しい免疫制御モデルを提示した。さらに、AhRシグナルを活性化するインドール類(特にI3CやI3A)が腸管を通じてMFIの免疫寛容を回復させるという腸-胎盤軸の実験的実証は、これまで報告されていない新規なメカニズムである。Lactobacillus murinusというトリプトファン代謝菌の単コロナイゼーションのみで母体-胎児寛容が回復するというシンプルな介入の提示も新規性がある。

臨床応用: 本研究の知見は、反復流産などの妊娠合併症に対する新たな臨床応用戦略に直結する。具体的には、腸内細菌叢(特にグラム陽性細菌、Lactobacillus等のトリプトファン代謝菌)の維持が反復流産リスク低減の標的となりうること、プロバイオティクス(Lactobacillus murinus等)やAhRアゴニスト(I3C等)が反復流産の新規予防・治療戦略となる可能性が示唆される。また、抗生物質(特にバンコマイシン)の使用が妊娠中のMFI免疫バランスを撹乱し流産リスクを高める可能性から、妊娠中の抗生物質使用には注意が必要であるという臨床的含意も得られた。本研究が示したMDSC・Tregによる免疫抑制の分業は、腫瘍免疫における免疫抑制機構 (Sharma et al. Cell 2023が論じるMDSC・Tregを介したICT抵抗) と機序的に通底し、マイクロバイオームが全身免疫を遠隔調節するという概念は腫瘍免疫療法の奏効規定 (Rooney et al. Cell 2015の細胞傷害活性解析) とも接続する。組織常在性T細胞の前駆体が腸管由来であるという知見は、腫瘍内Trm動態の研究 (Luoma et al. Cell 2022) とも相補的である。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト反復流産における腸内細菌叢介入(糞便移植・プロバイオティクス)の臨床試験、AhRシグナルを介したMDSCとRORγt+Tregの両方への一元的調節機構のさらなる解明、妊娠中の最適なトリプトファン代謝菌の組成の特定が求められる。また、本研究は腸-胎盤免疫軸に焦点を当てたが、皮膚、呼吸器、生殖器のマイクロバイオームの寄与も排除できない。MFIにおけるIFNγおよびIL-17の下流標的や、腸管からMFIへ移行するT細胞の特異性の解明も今後の研究方向性である。

方法

本研究では、マウス実験とヒト検体解析を組み合わせた多角的なアプローチを採用した。

マウス実験: C57BL/6野生型 (WT) の特定病原体フリー (SPF) マウス、無菌 (GF) マウス、および広域抗生物質 (Abx) 処置マウス(妊娠E7.5からE16.5まで投与)を用いた。妊娠E16.5における胎児吸収率、免疫細胞の表現型および機能(フローサイトメトリー、scRNA-seq)、および代謝物プロファイル(血漿および羊水メタボロミクス)を解析した。scRNA-seq解析では、CD45+細胞43,682細胞を対象とした。遺伝子改変マウスとして、PMN部分欠損のMcl-1fl/flMrp8-creマウス、PMN特異的MyD88欠損のMyD88ΔPMNマウス、およびRORγt発現細胞におけるMHC-II欠損のMHCIIΔRorcマウスを使用した。腸由来細胞の子宮への移行を追跡するため、KikGRマウスを用いた光変換実験を実施した。トリプトファン代謝物の影響を評価するため、AhRアゴニストであるIndole-3-carbinol (I3C) の経口投与、およびトリプトファン代謝能を持つLactobacillus murinusの単コロナイゼーションをGFマウスに実施した。

免疫細胞解析: フローサイトメトリーにより、MFIにおけるIFNγ+ T細胞、IL-17A+ CD4+ T細胞、MDSC (CD11b+Ly6G+)、およびRORγt+Foxp3+ Tregの頻度を評価した。MDSCの機能評価には、OVAパルスPMNとOT-II T細胞の共培養によるT細胞増殖抑制アッセイを用いた。

メタボロミクス: 血漿および羊水中のトリプトファンおよびその代謝物を液体クロマトグラフィー質量分析法 (LC-MS) で定量し、AhRリポーター細胞を用いたルシフェラーゼアッセイでAhR活性化リガンドのレベルを測定した。

ヒト検体解析: 公開されているscRNA-seqデータセット (GEO: GSE214607) を利用し、反復流産患者と正常妊娠患者の胎盤および脱落膜における免疫細胞組成(MDSC、RORγt+Treg)と遺伝子発現プロファイルを比較解析した。また、別の公開メタボロミクスデータセット (Wang et al. Placenta 2021) を再解析し、反復流産患者の脱落膜におけるトリプトファン代謝物の変化を評価した。

統計解析: データは平均±標準偏差で示し、群間比較にはMann-Whitney U検定、Student’s t検定、またはANOVAを用いた。相関分析にはPearsonの相関係数を用いた。scRNA-seqデータ解析には、Seurat、Korsunsky et al. NatMethods 2019、UMAPなどのRパッケージを使用した。