- 著者: Luoma AM, Suo S, Wang Y, Gunasti L, Porter CBM et al.
- Corresponding author: Shengbao Suo (Guangzhou Laboratory), Jonathan D. Schoenfeld, Kai W. Wucherpfennig (Dana-Farber Cancer Institute)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-07-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 35803260
背景
ネオアジュバント(術前)免疫チェックポイント阻害(ICB)療法は、切除可能ながん種、例えばメラノーマ、肺癌、大腸癌、頭頸部癌において、有望な病理学的奏効率を示していることが複数の臨床試験で報告されている(Forde et al. NEnglJMed 2018、Chalabi et al. NatMed 2020)。このネオアジュバント戦略にはいくつかの概念的利点がある。第一に、腫瘍から所属リンパ節へのリンパ管の完全性が維持され、新たなT細胞応答のプライミングが可能となる。これはマウスモデルでも実証されている (Fransen et al. JCI Insight 2018)。第二に、ICBによって腫瘍内およびその浸潤辺縁部でT細胞が拡大することで、局所制御が強化される可能性がある。第三に、術前化学療法や放射線療法による免疫機能の低下がないため、T細胞応答が損なわれないという利点がある(Liu et al. CancerDiscov 2016)。
組織常在メモリーT細胞(Trm)は、上皮組織に長期的に定着し、病原体の再侵入に対して迅速に応答することが知られている。腫瘍内CD8 TrmとICB応答や予後との相関は、これまでの複数の研究で報告されてきた(Savas et al. NatMed 2018、Ganesan et al. NatImmunol 2017)。Trmは、組織常在状態を維持するための主要分子、例えばインテグリンαEβ7 (CD103)、CD69、およびZNF683 (HOBIT) を発現する (Kumar et al. Cell Rep 2017)。CD103は上皮細胞上のE-カドヘリンと結合し、T細胞の細胞傷害性顆粒の標的細胞への極性放出を促進する (Le Floc’h et al. J Exp Med 2007)。CD69とHOBITはT細胞の組織からの遊出に必要な分子の発現を阻害することで組織常在を促進する。Trmは迅速な応答能力を持つ一方で、免疫病理を防ぐために厳密に制御されている。腫瘍内TrmはPD-1やCTLA-4を含むいくつかの抑制性受容体を発現しており、ICB療法の標的となりうると考えられる (Clarke et al. J Exp Med 2019)。
しかしながら、ICBに対する早期免疫応答の動態と、治療反応に寄与するT細胞集団の前治療状態における特性は依然として未解明な点が多かった。また、Trm浸潤が予後改善効果と直接的な因果関係にあるのか、あるいは他のCD8マーカーとの共線性による擬似相関なのかが不明であり、どのT細胞集団が治療によって拡大するかという機序的証拠が手薄であった。これらの知識のギャップが本研究の動機である。ネオアジュバント試験デザインは、術前と術後の組織を比較できるため、T細胞の早期動態を追跡できる希少な機会を提供する。
目的
術前抗PD-1または抗PD-1/CTLA-4療法を受けた口腔扁平上皮がん(HNSCC)患者を対象として、腫瘍浸潤および循環免疫細胞の早期動態を単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)とTCRレパトア解析により詳細に特性評価すること。さらに、治療によって拡大したT細胞クロノタイプ(Tx-E TCR)の標的抗原を同定すること、および循環血中の治療応答バイオマーカーを探索することを目的とした。本研究は、ネオアジュバントICBが局所および全身の腫瘍免疫をどのように誘導するかを解明することを目指す。特に、組織常在メモリーT細胞(Trm)集団の役割と、治療前から存在するT細胞の応答能力に焦点を当て、その臨床的意義を明らかにすることを目的とした。
結果
Trm (ITGAE+ CD8 TIL) が早期奏効集団として同定: 術後腫瘍内のCD8 TILは7つのサブクラスターに分類され、GZMK+集団(クラスター1・2)と、ITGAE (CD103)+/ZNF683 (HOBIT)+のTrm集団(クラスター3・4)の2大系統に分かれた(Figure 2A, 2B)。前治療と治療後の比較では、クラスター4(Cycling CD8)が併用療法群で有意に増加した(Figure 2D)。バルクTCRβ配列をscRNA-seqデータにマッピングしたところ、治療拡大(Tx-E)TCRは有意にITGAE+クラスター3・4に濃縮され(p=0.016)、非拡大(Tx-NE)TCRはGZMK+クラスター1・2に偏在した(n=19患者、p<0.05、Fisher exact検定)(Figure 2E, 2F)。特に、この分布の差異は前治療時点の組織でも既に観察され、ITGAE+CD8 T細胞群がICB治療に「準備完了」の状態にあることが示唆された(Figure 3C)。Tx-E細胞の上位差次発現遺伝子にはITGAE、ZNF683、GPR25、CXCR6等のTrm遺伝子が含まれ、Trm、細胞傷害性、阻害受容体のスコアが有意に高値であった(Figure 4A, 4B)。CD8 Tx-E遺伝子シグネチャーは、独立した膀胱癌ICB治療コホート(抗PD-L1)において、奏効および全生存の良好な予測因子となったが、Tx-NEシグネチャーには予測能がなかった(p<0.05、Kaplan-Meier log-rank検定)(Figure 4E, 4F)。この解析にはn=348患者のデータが用いられた。
拡大クロノタイプがMAGEA1等の自己抗原を認識: 5患者(うち4患者が50%以上の病理学的奏効)から80種の治療拡大TCRを選択し、ゲノムワイドT-Scanスクリーニングを実施した。n=559,359蛋白質フラグメントに対する網羅的スクリーニングにより、6標的抗原(7 TCR)が同定された(Figure 5B)。これらの抗原には、広域発現蛋白(DST、AHNAK2)および一部のがんで過剰発現する抗原(内因性レトロウイルス抗原ERVMER34-1、がん精巣抗原MAGEA1)が含まれた。MAGEA1に対する未報告のC07:02拘束エピトープを認識する2種のTCRクロノタイプ(P32-39、P32-41)が同定され、同一エピトープへのポリクローナル応答を示した(Figure 5D)。これらのTCRを発現させたT細胞は、HLA-C07:02とMAGEA1を内因性発現するがん細胞株に対し活性化(IFNγ分泌)と細胞傷害活性を示し、MAGEA1発現量と応答が相関した(Figure 5F, 5G)。IFNγ分泌はMAGEA1高発現細胞株に対して約1000 pg/mLに達し、C*07:02 HEK293Tコントロールと比較して有意な増加(p<0.0001)を示した。抗原同定されたTCRはクラスター3・4(ITGAE+)に偏在し、Trm集団との関連が確認された(Figure 5E)。
ネオアジュバントICBが全身免疫応答を増強: 治療中の末梢血CD8 T細胞解析では、HLA-DRA+/CD38+/MKI67+の活性化・増殖性クラスター6のみが治療によって増加した(Figure 6A, 6B, 6C)。腫瘍のTx-E TCRはこのクラスター6に有意に濃縮され、ソートしたCD38+HLA-DR+血中CD8 T細胞のscRNA-seqで腫瘍関連Tx-E TCRが高率に含まれた(Figure 6E, 6L)。治療拡大血中クロノタイプは治療中2週目(B2)にピークを示し、追跡時点(B3、10〜12週)には消退した(Figure 7A, 7B)。単独療法より併用療法で血中Tx-Eと腫瘍共有クロノタイプが有意に多く(Figure 7C, 7D)、CTLA-4阻害によるT細胞プライミング増強と整合した。新規(emergent)クロノタイプの増加が統計学的に有意であり(前治療では検出不能)、短期間(2週間)での新規免疫応答誘導が示された。Emergent Tx-E TCRの頻度は併用療法群で平均1.5%であったのに対し、単独療法群では平均0.5%であり、有意な3-foldの増加が認められた(p<0.05)。
治療前血中PD-1+KLRG1-CD8頻度が奏効バイオマーカー: n=28患者の逐次採血フローサイトメトリー解析により、治療前(B1)の活性化CD8 T細胞(CD38+HLA-DR+)頻度が病理学的奏効と正相関した(Figure 7H)。治療中B2では奏効群全体で一律増加するため相関は認められなかった。PD-1+CD8 T細胞はKLRG1+末期分化型とKLRG1-型の2集団に分かれ、治療前・治療中のいずれの時点でもPD-1+KLRG1-CD8 T細胞頻度が病理学的奏効と強く相関した(Figure 7J)。特に、B1時点でのPD-1+KLRG1-CD8 T細胞の頻度は、高奏効群で平均13.9%であったのに対し、低奏効群では平均4.8%であり、有意な差が認められた(p<0.05)。PD-1+CD8 T細胞全体の頻度では奏効との相関が認められず、分化状態を考慮した評価(KLRG1陰性)の重要性が示された。腫瘍内の奏効クラスター3・4のT細胞も高いCD38/HLA-DR/PD-1発現とKLRG1最小発現を示し、血中バイオマーカー集団と腫瘍内奏効T細胞が同一表現型を共有することが確認された(Figure S7J)。
考察/結論
本研究は、腫瘍内組織常在メモリーT細胞(Trm)がネオアジュバントICBに対する主要な早期奏効細胞集団であることを、前後比較TCR-seqアプローチで初めて直接的に証明した。これは、Trmの浸潤と予後の相関を示した先行研究(Savas et al. NatMed 2018、Krishna et al. Cancer Cell 2021など)とは異なり、Trmの「存在」と「奏効後の生存」の相関に留まらず、因果関係の証明に至った点で新規性が高い。本研究は、前後治療ペア検体の統合TCR解析という独自のアプローチによって、ICB治療への早期応答という動的プロセスでTrmが中心的役割を担うことを確立した。治療前からTx-E TCRがITGAE+クラスター3・4に既に偏在していたことは、Trmが治療によって「新規に」誘導されたのではなく、治療前から活性化プログラムを保持した「準備完了」状態にあることを強く示唆する。同じ口腔がんの術前免疫療法におけるT細胞応答動態の知見は、CTLの生存ニッチ機構(DiPilato et al. Cell 2021)や腫瘍抗原特異的T細胞の検出法(Liu et al. Cell 2020)と相補的である。
先行研究との比較考察も重要である。Guo et al. Nat Commun 2018の肺癌解析やWu et al. Nature 2020のpan-cancer解析では、Trm様集団の存在は示されていたが、動的な治療応答との直接的リンクは欠如していた。本研究の統合バルクTCR-seq戦略は、scRNA-seqのみでは見逃しうる低頻度クロノタイプの検出を可能にしており、方法論的な革新として評価される。
特筆されるのは、MAGEA1ネオエピトープ(C*07:02拘束型)の同定であり、これはHNSCCにおけるMAGEA1過剰発現に基づくTCR工学療法の標的として有望である。また、T-ScanによるDSTやAHNAK2等の広域発現自己蛋白への反応性が確認されたことは、がん免疫応答が必ずしも腫瘍特異的ネオアンチゲンのみを標的としていないことを示唆し、腫瘍免疫応答の多様性と複雑性を浮き彫りにした。全身免疫応答として血中にも治療拡大TCRクロノタイプが出現し、emergent(前治療未検出)クロノタイプが加わることは、ネオアジュバント戦略特有の免疫学的利益を示し、adjuvant療法と比較した際の有利性の生物学的根拠となる。
PD-1+KLRG1-CD8 T細胞という単純かつ実施可能なバイオマーカーは、採血のみで実施でき、術前ICBの恩恵を受けやすい患者の事前選別に寄与しうる臨床的有用性を持つ。このバイオマーカーは、PD-1陽性T細胞の中でも末期分化していない集団を特定することで、ICBへの応答性をより正確に予測する可能性を示唆する。これは、Fairfax et al. NatMed 2020で示されたPD-1+CD8 T細胞の増殖能と関連する知見と一致する。残された課題として、口腔癌以外のがん種(特に肺癌や大腸癌)への拡張性、HPV陽性HNSCC、前治療(化学放射線療法)コホートへの適用、および大規模前向き無作為化試験によるバイオマーカー検証が今後の検討課題として残されている。また、LAMP3+DC(mregDC)との相互作用とPD-L1発現の調節が治療応答に与える影響の詳細な解析も今後の研究方向性として挙げられる。
結論として、ネオアジュバントICBに対する早期奏効CD8 TILはITGAE+/ZNF683+のTrmプログラムを有しており、治療前から活性化・細胞傷害性プログラムが既に賦活化されていることが証明された。治療拡大T細胞クロノタイプはMAGEA1を含む自己抗原を標的とし、局所および全身免疫応答を誘導する。治療前の血中PD-1+KLRG1-CD8 T細胞頻度が術前ICB奏効の信頼できる非侵襲的バイオマーカーとなることが示され、ネオアジュバント免疫療法の個別化選択に資する知見が得られた。
方法
本研究では、口腔扁平上皮がん患者29名(治療前年齢中央値62歳、男性62%、女性38%)を対象とした第2相ネオアジュバント試験(NCT02919683)のデータを解析した。患者はニボルマブ単独(3 mg/kg、第1・3週投与、n=14患者)またはニボルマブ+イピリムマブ(1 mg/kg、第1週単回)併用(n=15患者)に無作為化された。手術は第2投与の3〜7日後に施行された。
解析は以下の通り実施された。(1) 術後腫瘍浸潤CD45+細胞のsc(TCR+RNA)-seqを19患者から実施し、さらに一部の患者(6患者、各治療群3名)からは術前生検検体も得て、合計74,557個の高品質細胞を解析した。腫瘍組織は、酵素消化後に70μmナイロンメッシュフィルターでろ過し、CD45+細胞をFACSまたは磁気ビーズで分離した。(2) 血液PBMCの縦断的sc(TCR+RNA)-seqを、治療前(B1)、治療中2週目(B2)、追跡10〜12週目(B3)の3つの時点で行った。PBMCは解凍後、Zombie NIR viability dyeで染色し、Live CD45+細胞をFACSでソーティングした。(3) 腫瘍および血液検体のバルクTCRβ鎖ディープシーケンスを実施した。TCR配列データを用いて、治療によって拡大した(Tx-E)および非拡大の(Tx-NE)クロノタイプを同定した。Tx-Eクロノタイプの同定には、サンプリング深度と時間的変動を考慮したベータ二項モデル(Rytlewski et al. PLoS One 2019)が使用された。
抗原特異性の解析には、5患者(うち4患者が50%以上の病理学的奏効)から選択された80種の治療拡大TCRについて、ゲノムワイドT-Scanスクリーニングを実施した。このスクリーニングでは、559,359種の蛋白質フラグメントライブラリー(全野生型ヒト蛋白質、一般的なSNP、2,903種のがん変異、293種のヒト内在性レトロウイルス配列を網羅)を用いた。ターゲット細胞はグランザイムB活性化蛍光レポーターを発現しており、CD8 T細胞によって標的化されたライブラリー細胞の濃縮を可能にした。
腫瘍と血液のT細胞集団の比較は、28患者のフローサイトメトリー解析によって実施され、治療前後の血中活性化T細胞の定量を行った。統計解析には、2群間の比較に両側t検定またはWilcoxon順位和検定を用い、TCRクロノタイプ共有の有意性にはFisherの正確検定とBenjamini-Hochberg補正を用いた。遺伝子セット活性スコアの計算にはAUCellパッケージを、擬似時間解析にはSlingshotパッケージを用いた。