• 著者: Graham A. Heieis, Conor M. Finlay, Thiago A. Patente, Martina Erbì, Thijs van der Meer, Jordan O’Keeffe, Joost M. Lambooij, Frank Otto, Frank Faas, Aat A. Mulder, Rick Maizels, Roman I. Koning, Bart Everts
  • Corresponding author: Bart Everts (Leiden University Center for Infectious Diseases, Leiden University Medical Center, Netherlands)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.64898/2026.01.05.697622

背景

マクロファージの代謝プログラムは、その活性化状態や生理的機能と密接に関連している。古典的活性化 (LPS (lipopolysaccharide) や IFN-γ (interferon-gamma) によるM1分極) においては、解糖系、ペントースリン酸経路、脂質合成が亢進し、一酸化窒素依存的に酸化的リン酸化である OxPhos (oxidative phosphorylation) が抑制されることが Tannahill et al. (2013) などの先行研究によって示されている。一方で、IL-4 (interleukin-4) による代替活性化である AAM (alternatively activated macrophage: 代替活性化マクロファージ) における代謝要件については、解糖系、グルタミン分解、脂肪酸酸化のいずれも重要であるとする報告があり、依然として controversial な状態が続いており、統一的な見解は得られていない (Huang et al. 2016; Wang et al. 2018)。

近年、HBP (hexosamine biosynthesis pathway: ヘキソサミン生合成経路) とその下流産物である UDP-GlcNAc (uridine diphosphate N-acetylglucosamine: ウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン) を用いたタンパク質の O-GlcNAcylation (O-linked β-N-acetylglucosaminylation: O-GlcNAc修飾) が、マクロファージの機能制御に関与する可能性が注目されている。一部の報告では、O-GlcNAc 転移酵素である OGT (O-GlcNAc transferase: O-GlcNAc転移酵素) による修飾がSTAT6の活性化を介してAAM分極を促進するとされるが、別の報告ではOGT阻害がAAM分極に影響を与えないとされ、その正確な役割は未解明である (Yang et al. 2020; Shi et al. 2022)。さらに、TRM (tissue-resident macrophage: 組織常在マクロファージ) の維持や、単球からTRMへの分化過程における代謝的・細胞周期的な制御機構については、研究が極めて手薄であり、十分な知見が不足している。特に、生体内における複雑な組織微小環境におけるO-GlcNAcylationの役割や、異なる発生起源を持つマクロファージ集団における代謝制御機構の詳細は不明であり、これが大きな knowledge gap となっている。したがって、組織常在マクロファージの恒常性維持におけるO-GlcNAcylationの生理的意義を包括的に解明することが重要な課題であった。

先行研究 (Jha et al. 2015) では、HBPがマクロファージの活性化を制御する代謝モジュールとして機能することが示唆されているが、生体内の多様な組織における常在マクロファージの維持や自己複製における具体的な役割については、これまで十分な解析が行われておらず、決定的な知見が不足していた。特に、単球が組織に浸潤し、成熟した常在マクロファージへと分化する過程において、どのようにして細胞周期の静止状態 (quiescence) が確立され、長期的な生存能が獲得されるのかという根本的な問いに対する答えは未確立のままであった。この代謝的・細胞周期的なキャリブレーションにおけるO-GlcNAc修飾の寄与を解明することは、免疫代謝学における重要なミッシングリンクを埋めるために不可欠である。

目的

本研究の目的は、マクロファージ特異的にOGTを欠損させた遺伝子改変マウス (Lyz2-Cre × Ogt-flox:Lyz2ΔOgt マウス) および薬理学的阻害剤を用いて、マクロファージにおけるO-GlcNAcylationの生理的・病理学的役割を多角的に検証することである。具体的には、以下の4つの問いに答えることを目指す。

第一に、in vitro および in vivo におけるIL-4依存的な代替活性化プロセスにおけるO-GlcNAcylationの必要性を検証する。第二に、腸管蠕虫感染モデルや腫瘍モデル (B16F10メラノーマ) を用いて、生体内でのTh2応答や抗腫瘍免疫におけるマクロファージOGTの寄与を明らかにする。第三に、腹腔常在の LCM (large cavity macrophage: 大腔マクロファージ) をはじめとする各種組織常在マクロファージの恒常性維持および生存におけるO-GlcNAcylationの役割を解明する。第四に、OGT欠損がマクロファージの細胞周期、ミトコンドリア代謝、ROS (reactive oxygen species: 活性酸素種) 産生、および細胞老化様表現型 (senescence-like phenotype) に与える影響とその分子機序を同定する。

結果

O-GlcNAc修飾によるin vitroマクロファージIL-4代替活性化の制御: in vitro において、OGT阻害剤であるST045849 (20 µM) で処理したBMDMでは、IL-4刺激によるAAM分極マーカーであるRELMαおよびArg1の発現が、タンパク質および転写産物レベルの双方で顕著に抑制された (Figure 1B, 1C)。この抑制効果は、IL-4刺激後の最初の 8 hours 以内に阻害剤を添加した場合に最も強く現れ、RELMα陽性細胞率は約 3.5-fold 低下した (Figure 1F)。Lyz2ΔOgt マウス (n=3 mice/group) から調製したOGT欠損BMDMでも、同様にIL-4に対する応答不全が確認された (Figure 1E)。一方で、LPSおよびIFN-γによる古典的活性化マーカーであるiNOSの発現には影響が見られず、O-GlcNAcylationがAAM特異的な制御因子であることが示された。また、IL-4刺激後のSTAT6のチロシンリン酸化 (pY-STAT6) レベルは、Ogt欠損BMDM (n=3 replicates) においても正常に維持されており (Figure 1G)、OGTはSTAT6の活性化そのものではなく、その下流の転写複合体形成やエピジェネティック制御を担っていることが明らかとなった。

生体内Th2応答および抗腫瘍免疫におけるマクロファージOGTの必須性: in vivo におけるIL-4cの腹腔内投与実験において、Ogtflox マウスでは腹腔マクロファージの増殖とRELMαの発現誘導が観察されたが、Lyz2ΔOgt マウス (n=4 mice/group) ではLCMの増殖が完全に阻害され、代わりに単球由来の MHCIIHi SCM (small cavity macrophage: 小腔マクロファージ) および CCM (converting cavity macrophage: 移行期腔マクロファージ) 集団が優位となる組成シフトが生じた (Figure 1I, 1J)。また、残存する LCM の約 70% が O-GlcNAc 陽性であり (Figure 1K)、これは造血前駆細胞からの新規動員を示唆している。腸管蠕虫 H. polygyrus 感染モデルでは、Lyz2ΔOgt マウスは初感染において成虫の排除が遅延し、感受性の増大を示した (Figure 2A)。感染 day 7 において、SILP (small intestinal lamina propria: 小腸粘膜固有層) のマクロファージにおけるRELMαおよびPD-L2の発現は、コントロールと比較して有意に低下していた (Figure 2B)。このマクロファージの機能不全に伴い、SILPにおける GATA3+ CD4+ Th2細胞の割合が低下し、逆に IFN-γ+ T細胞が増加するTh1シフトが観察された (Figure 2J)。さらに、B16F10 メラノーマモデル (n=6 mice/group) においては、Lyz2ΔOgt マウスで腫瘍増殖が著しく遅延し、TME (tumor microenvironment: 腫瘍微小環境) 内のプロ腫瘍性 CD206+ マクロファージの減少と、IFN-γ+ CD8+ T細胞の浸潤増加が確認された (Figure S2F-I)。

組織常在マクロファージの生存ストレス感受性と恒常性維持機構: 定常状態の Lyz2ΔOgt マウスにおいて、腹腔内の成熟常在マクロファージである TIM4+ LCM の割合が著しく減少し、未熟な単球由来 CCM が増加していることが判明した (Figure 3A, 3B)。蛍光標識した PEC を用いた共移入実験 (n=4 recipient mice) では、移入後 24 hours 以内に Lyz2ΔOgt 由来の LCM が選択的に消失し、この生存維持障害が細胞内在性の機構であることが実証された (Figure 3H)。定常状態の直接的な viability 測定ではアポトーシス率に差はなかったが、in vitro での培養ストレスや、in vivo での低用量ザイモサン (10 µg) 投与による免疫刺激ストレスを加えると、Lyz2ΔOgt LCM は速やかに死滅し、TIM4+ 常在マクロファージ集団がほぼ完全に消失した (Figure 3F, 3G)。この結果は、O-GlcNAcylationが環境ストレス下における常在マクロファージの生存維持に不可欠なリオスタットとして機能していることを示している。

Ogt欠損による細胞周期の逸脱と細胞老化様状態の誘導: scRNA-seq解析により、Lyz2ΔOgt マウスの腹腔内には、正常な LCM とは転写プロファイルが異なる「変異LCM (altered LCM)」クラスターが存在することが同定された (Figure 4A)。RNA velocity 解析および細胞周期解析 (n=3 mice/group) により、Lyz2ΔOgt LCM は正常な G0 静止期から逸脱し、Ki67+ の細胞周期エントリー状態にあることが示された (Figure 4B, 4G)。しかし、これらの細胞は分裂を完遂できず、電子顕微鏡観察において細胞サイズが約 2.0-fold に肥大化し、核内のヘテロクロマチンが著明に減少していた (Figure 4I, 4J)。さらに、細胞老化マーカーである p21 (Cdkn1a) および p16 (Cdkn2a) の発現上昇 (Figure 4L)、持続的なDNA損傷 (γH2AX陽性、Figure 4M)、および SASP (senescence-associated secretory phenotype: 老化関連分泌表現型) に類似した自発的な炎症性サイトカインの放出 (Figure 4N) が確認され、Ogt欠損マクロファージが細胞老化様状態に陥っていることが明らかとなった。

代謝プログラムの破綻とグルコース依存的ROS産生によるDNA損傷: 代謝解析において、Lyz2ΔOgt LCM は Myc の高発現および mTOR (mammalian target of rapamycin) シグナル (p-S6) の過剰な活性化を示し、代謝プログラムがアナボリック (合成代謝) 側に著しくシフトしていた (Figure 5A)。Seahorse解析 (n=3 replicates/group) では、Ogt欠損 LCM において酸化的リン酸化 (OxPhos) および最大呼吸能が極めて高く、ミトコンドリアの総面積および cristae (クリステ) の構造異常を伴うミトコンドリア過活性状態が観察された (Figure 5C, 5D)。また、好気的解糖系も亢進しており、グルコース依存的な代謝への偏重が認められた。この過剰なミトコンドリア呼吸と proton leak (プロトン漏出) に伴い、Lyz2ΔOgt LCM では細胞内活性酸素種 (ROS) の産生が顕著に亢進していた (Figure 5I)。この過剰な ROS 産生はグルコースの供給に完全に依存しており、in vitro での 5 hours のグルコース飢餓培養 (glucose-free) を行うことで、ROS 産生および γH2AX 陽性のDNA損傷が劇的に抑制され、細胞生存率が改善した (Figure 5I, 5J)。

マクロファージ分化過程におけるO-GlcNAcylationの動的制御と静止期獲得: 単球から組織常在マクロファージへの分化過程におけるO-GlcNAcylation of macrophagesの関与を明らかにするため、定常状態における各分化段階のマクロファージを解析した。Ogtflox マウス (n=4 mice/group) において、O-GlcNAc レベルは SCM から CCM、そして成熟した LCM へと分化が進むにつれて段階的に上昇することが確認された (Figure 6A)。これに伴い、脂肪酸代謝酵素である CPT1A やグルコーストランスポーターである GLUT1 の発現が LCM において低下し、細胞周期が G0 静止期へと移行する代謝・細胞周期のキャリブレーションが行われていた (Figure 6B, 6D)。しかし、Lyz2ΔOgt マウスにおいては、分化過程における O-GlcNAcylation の欠如により、成熟段階 of LCM に至っても mTOR シグナル (p-S6) および AMPK (AMP-activated protein kinase) シグナル (p-ACC) が異常に活性化し続け、細胞周期の静止状態を再獲得できないことが判明した (Figure 6C, 6D)。scRNA-seq を用いた擬時間解析 (TSCAN) においても、Ogt およびヘキソサミン生合成経路の鍵酵素である Uap1 の発現は成熟 LCM に向けて上昇する一方で、OxPhos、Myc、および E2F ターゲット遺伝子群のスコアは Ogt 発現と逆相関して低下していく動態が示され、O-GlcNAcylation が分化の最終段階で細胞を静止状態へと導く必須のトリガーであることが裏付けられた (Figure 6F, 6G)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の知見は、HBPの下流における N-linked glycosylation のみが AAM 分極に寄与するとした初期の報告や、O-GlcNAcylation が AAM 分極に全く関与しないとした一部の先行研究の主張と異なり、O-GlcNAcylation が in vitro および in vivo の双方で IL-4 応答性および AAM 分極の確立に不可欠であることを明確に示した。また、STAT6 のチロシンリン酸化を直接制御するとしたこれまでの報告とは対照的に、OGT は STAT6 の活性化状態そのものには影響を与えず、その下流の転写ネットワークや細胞周期・代謝のキャリブレーションを介して機能するという新たな制御様式を提示している。

新規性: 本研究は、O-GlcNAcylation が単球から組織常在マクロファージへの分化過程において、代謝および細胞周期の静止状態を強制するために必須の「代謝的リオスタット」として機能していることを本研究で初めて明らかにした。OGT の欠損が、分化過程における mTOR シグナルの抑制不全を招き、過剰なミトコンドリア呼吸とそれに伴う ROS 産生を引き起こすことで、持続的な DNA 損傷を伴う細胞老化様状態を誘導し、常在マクロファージの生存維持を著しく損なうという一連の病態機序を新規に同定した点は、免疫代謝学における極めて重要な発見である。

臨床応用: 本研究の成果は、マクロファージの免疫代謝制御を標的とした新たな治療戦略の臨床応用に直結する。例えば、腫瘍微小環境においてプロ腫瘍性 (M2様) マクロファージの OGT を阻害することで、抗腫瘍免疫を活性化させ、がん治療効果を高めるという translational なアプローチが期待される。逆に、蠕虫感染症やアレルギー疾患などの Th2/AAM が過剰に活性化する病態においては、マクロファージの O-GlcNAcylation を適切に制御することが、過剰な組織修復や線維化を抑制するための臨床的意義を持つと考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、OGT が直接 O-GlcNAc 修飾を行う具体的な標的タンパク質 (特に細胞周期および代謝制御に関連する因子群) の網羅的な同定が求められる。また、本研究では主に腹腔マクロファージ (LCM) をモデルとして解析を行ったが、肺 (AlvM (alveolar macrophage: 肺胞マクロファージ))、肝臓 (KC (Kupffer cell: クッパー細胞))、脳 (ミクログリア) など、他の臓器における組織常在マクロファージへの外挿や、それぞれの組織微小環境における栄養素 (グルコースやグルタミンなど) の利用可能性が O-GlcNAcylation に与える影響の解明が、今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究では、マクロファージ特異的Ogt欠損マウス (Lyz2ΔOgt) および樹状細胞・マクロファージ標的欠損マウス (Itgax-Cre × Ogt-flox:ItgaxΔOgt) を作製し、コントロールであるOgtfloxマウスと比較解析した。マウスの遺伝的背景は C57BL/6J である。

BMDM (bone marrow-derived macrophage: 骨髄由来マクロファージ) は、M-CSF (macrophage colony-stimulating factor) 存在下で7日間培養して調製し、IL-4 (40 ng/ml) またはLPS (100 ng/ml) + IFN-γ (50 ng/ml) で24時間刺激した。薬理学的阻害には、OGT阻害剤であるST045849 (20 µM) および OGA (O-GlcNAcase: O-GlcNAc分解酵素) 阻害剤であるThiamet-Gを用いた。

in vivo でのIL-4応答を評価するため、IL-4と抗IL-4抗体の複合体 (IL-4c:IL-4 5 µg + anti-IL-4 25 µg) を days 0, 2 に腹腔内投与し、day 3 に PEC (peritoneal exudate cell: 腹腔滲出細胞) を回収した。また、免疫刺激ストレスモデルとして、低用量ザイモサン (10 µg) の腹腔内投与を行った。

病態モデルとして、腸管蠕虫 Heligmosomoides polygyrus (200 L3幼虫 of Heligmosomoides polygyrus の経口投与による初感染および2次感染モデル)、Schistosoma mansoni (35 尾動子の経皮感染モデル)、および B16F10 メラノーマ細胞 (3x10^5 cells の皮下接種による腫瘍モデル) を用いた。

細胞の評価には、5レーザー spectral analyzer (Cytek) を用いた多色フローサイトメトリー解析を行い、Ki67、γH2AX、TMRM、MitoTracker DeepRed、DCFDA (ROS検出) などの染色を実施した。

さらに、10x Genomics社システムを用いた scRNA-seq (single-cell RNA sequencing: 単一細胞RNAシーケンシング) を、腹腔内の MNP (mononuclear phagocyte: 単核吞食細胞) を含むPECに対して実施し、SeuratおよびscVeloを用いたRNA velocity解析、TSCANによる擬時間 (pseudotime) 解析、SCENICによるレギュロン解析を行った。

細胞の超微形態観察には、TEM (transmission electron microscopy: 透過型電子顕微鏡) を用い、AI (CAVIAプラットフォーム) を併用して細胞サイズ、ミトコンドリア面積、ヘテロクロマチン領域の定量化を行った。

代謝測定には、Seahorse XF アナライザーを用いたミトコンドリアストレステスト、およびクリックケミストリーを用いた HPG (L-homopropargylglycine: L-ホモプロパルギルグリシン) 取り込みアッセイ (SCENITH法) を適用した。

統計解析には、GraphPad Prismを用い、2群間比較には unpaired t-test または Welch’s t-test、多群間比較には one-way または two-way ANOVA (Tukey または Sidak の多重比較補正) を適用した。