• 著者: Nicole E. Scharping, Xuezhen Ge, Maria Inês Matias, Fulin Jiang, Allison Cafferata, Maximilian Heeg, Alexander Monell, Giovanni Galletti, Kitty P. Cheung, Angelica Rock, Nick Thao, Sydnye L. Shuttleworth, Michael A. Bauer, Kennidy K. Takehara, Amir Ferry, Sara Quon, Brian Koss, Samuel A. Myers, Eric J. Bennett, Ananda W. Goldrath
  • Corresponding author: Ananda W. Goldrath (School of Biological Sciences, Department of Molecular Biology, University of California, San Diego, La Jolla, CA, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-02-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42061400

背景

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) は、腫瘍微小環境における持続的な抗原刺激や代謝的ストレスにより、段階的に機能を喪失する「T細胞消耗 (T cell exhaustion)」と呼ばれる状態に陥る。先行研究において、TILの中には自己複製能と分化能を維持した幹細胞様の前駆消耗T細胞 (TPEX: progenitor-exhausted T cell: 前駆消耗T細胞) と、機能を完全に喪失した終末消耗T細胞 (TEX: terminally exhausted T cell: 終末消耗T細胞) が存在することが明らかになっている (Miller et al. 2019)。また、組織常在性記憶T細胞 (TRM: tissue-resident memory T cell: 組織常在性記憶T細胞) は、非リンパ組織において長期にわたり感染防御を担う細胞であり、腫瘍内にTRM様の特徴を持つTILが多く浸潤しているがん患者では、予後が良好であり免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade: 免疫チェックポイント阻害薬) に対する奏効率が高いことが既報により示されている (Milner et al. 2017, Okła et al. 2021)。

タンパク質の合成、折り畳み、分解を制御するプロテオスタシス (タンパク質恒常性) は、幹細胞の自己複製能や分化能の維持において極めて重要な役割を果たすことが知られている。プロテオスタシスの維持には、ユビキチン-プロテアソーム系 (UPS: ubiquitin-proteasome system: ユビキチン-プロテアソーム系) による標的タンパク質の分解が不可欠であり、その基質特異性はE3ユビキチンリガーゼによって決定される。しかしながら、T細胞の消耗過程におけるプロテオスタシスの具体的な役割や、どのE3ユビキチンリガーゼが関与しているかについては、これまで未解明であった。特に、慢性的な抗原刺激や代謝ストレス下にあるTILにおいて、タンパク質の分解制御機構がどのように破綻し、それがT細胞の分化能の喪失にどう繋がっているかを解明するための知見が著しく不足していた。この知識のgapを埋めることは、効果的ながん免疫療法の開発に向けた極めて重要な課題である。

目的

本研究の目的は、腫瘍浸潤リンパ球であるTPEX、TEX、および組織常在性記憶T細胞であるTRMのトランスクリプトームおよびプロテオームを詳細に比較解析することにより、T細胞の消耗および組織常在性維持におけるプロテオスタシスの役割を包括的に解明することである。具体的には、TRMおよびTPEXにおいて特異的に発現が維持されている一方で、TEXへの終末分化に伴って発現が消失するE3ユビキチンリガーゼを同定する。さらに、同定されたE3ユビキチンリガーゼである NEURL3 (neuralized E3 ubiquitin protein ligase 3)、RNF149 (RING finger protein 149)、WSB1 (WD repeat and suppressor of cytokine signaling box-containing 1) をT細胞において強制発現、あるいは遺伝子欠損させることで、プロテオスタシスの維持がTILの抗腫瘍活性、幹細胞様分化能の保持、および慢性感染下での機能維持に与える影響を検証する。最終的には、これらのリガーゼによるプロテオスタシスの強化が、マウスがんモデルにおいて養子細胞療法やICBとの併用療法の治療効果を向上させる新たな治療標的となり得るかを実証することを目的とする。

結果

TRM関連プロテオスタシス遺伝子のTPEXでの保持とTEXでの消失: B16-GP33-41 担癌マウスモデルからソートした CD8+ T細胞のバルクRNA-seqデータを解析した結果、TRM関連遺伝子シグニチャーの約 66% が TPEX において発現を維持しているのに対し、TEX への終末分化に伴ってそれらの発現が著しく低下することが判明した (Figure 1A)。発現が消失した遺伝子のうち 24% はタンパク質の折り畳みや分解に関連するものであり、その中からE3ユビキチンリガーゼをコードする Neurl3、Rnf149、Wsb1 が同定された (Figure 1B)。これらのリガーゼは、小腸上皮間リンパ球 (IEL: intraepithelial lymphocyte: 上皮間リンパ球) や腎臓、唾液腺などの様々な組織に常在する TRM において広く高発現していた (Figure 1C)。一方、in vitro での持続的な抗原刺激によるT細胞消耗モデルでは、これらのリガーゼの発現が対照群と比較して有意に低下しており、ex vivo の TEX における発現低下と一致する挙動を示した。

E3リガーゼ過剰発現による抗腫瘍活性の増強と幹細胞様分化能の維持: MC38-GP33-41 担癌マウスモデルにおいて、Neurl3 OE (n=7 mice)、Rnf149 OE (n=11 mice)、Wsb1 OE (n=10 mice) の P14 T細胞を、空ベクター (EV: empty vector: 空ベクター) 導入細胞と 50:50 の割合で共移植した結果、すべてのリガーゼ過剰発現群において、腫瘍内および腫瘍ドレナージリンパ節 (dLN: draining lymph node: 腫瘍ドレナージリンパ節) におけるT細胞の蓄積頻度が EV 群と比較して有意に増加した (p<0.05) (Figure 1E)。さらに、リガーゼ過剰発現 T細胞では、幹細胞様特徴を示す TCF1+ 陽性細胞の割合が有意に高く維持されていた (Figure 1G)。腫瘍制御実験において、これら3種のE3リガーゼを単独で過剰発現させた P14 T細胞の移植は、EV 移植群と比較して腫瘍増殖を有意に遅延させ、2.5-fold increase の治療効果と 1.8-fold increase の生存延長を示した (p<0.05) (Figure 1I, 1J)。

E3リガーゼ欠損によるT細胞消耗の加速と組織常在性記憶分化の異常: CRISPR-Cas9 を用いて Neurl3、Rnf149、Wsb1 をノックアウトした P14 T細胞 (n=12 replicates) を B16-GP33-41 担癌マウスに移植したところ、移植 7日後 において、すべてのリガーゼ KO T細胞は Thy1 KO 対照細胞と比較して腫瘍内での蓄積数が著しく減少し、TCF1+ 陽性率および IFNɣ 産生能も有意に低下した (p<0.001) (Figure 3B, 3D, 3E)。また、LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus: リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス) Armstrong 急性感染モデルを用いた実験では、リガーゼ KO T細胞は感染初期 (day 5 および day 7) において、小腸 IEL や腎臓などの組織で CD69+CD103+ 組織常在性マーカーの発現が前倒しで上昇し、分化キネティクスが異常に加速していることが示された (Figure 3G, 3H)。さらに、day 21-22 のメモリー時点において、脾臓中のエフェクターメモリー T細胞 (TEM: effector-memory T cell: エフェクターメモリーT細胞) の頻度が低下し、セントラルメモリー T細胞 (TCM: central-memory T cell: セントラルメモリーT細胞) の比率が相対的に増加していた (Figure 3L, 3N)。

TEXにおけるプロテオスタシス破綻と短命タンパク質の過剰蓄積: DIA-PASEF 質量分析法 (>8,000 proteins/replicate) を用いたプロテオーム解析により、TEX は TRM と同様に、プロテアソームを介したタンパク質分解経路や K48結合型ユビキチン化に関連するタンパク質群を高発現していることが明らかになった (Figure 4G, 5A)。しかし、フローサイトメトリー解析において、TEX における K48結合型ポリユビキチン鎖の平均蛍光強度 (MFI: mean fluorescence intensity: 平均蛍光強度) は、TPEX や TRM と比較して最高値を示した (p<0.0001) (Figure 5B)。プロテアソームの chymotrypsin様、caspase様、trypsin様活性を測定したところ、TEX は TPEX や dLN と同等の活性を有しており、プロテアソーム自体は機能的であることが確認された (Figure 5C)。SILAC 法を用いた代謝標識実験により同定された半減期 8時間 以下の短命タンパク質 (half-life ≤ 8h) の蓄積量を評価した結果、TEX においてのみ、これらの短命タンパク質が有意に過剰蓄積していることが判明した (Figure 5E)。

未折り畳みタンパク質蓄積の同定とE3リガーゼによる救済: Proteostat 染色を用いた解析により、TEX は TPEX、TRM、および TEFF と比較して、未折り畳みタンパク質 (unfolded protein) の蓄積を示す蛍光シグナルが有意に高いことが示された (p<0.0001) (Figure 6B)。タンパク質合成阻害剤である cycloheximide を用いて 6時間 処理しても、TEX における未折り畳みタンパク質の蓄積は改善されなかったことから、新規のタンパク質合成が蓄積の主因ではないことが示唆された (Figure 6C)。しかし、T細胞において NEURL3、RNF149、または WSB1 を過剰発現させると、腫瘍内における未折り畳みタンパク質の蓄積が有意に解消された (p<0.01) (Figure 6D)。この結果は、E3リガーゼの活性強化が、機能的なプロテアソームを介して蓄積した未折り畳みタンパク質のクリアランスを促進し、プロテオスタシスを救済することを示している。

ヒト臨床データとの相関および複合免疫療法の効果: ヒトメラノーマ患者の単一細胞 RNA-seq (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing: 単一細胞RNAシーケンシング) データを解析した結果、RNF149 および WSB1 は TRM様 TIL および TPEX において高発現していた (Figure 7A)。さらに、ICB 治療中におけるこれらのリガーゼの発現レベルは、治療奏効率と極めて高い正の相関を示した (Figure 7B)。TCGA データベースを用いた生存解析では、NEURL3、RNF149、WSB1 の高発現群は、低発現群と比較して ICB 治療後の生存期間が有意に延長していた (p<0.05) (Figure 7C)。マウス B16-GP33-41 メラノーマモデルにおいて、これら3種のリガーゼを同時に過剰発現させた P14 T細胞 (n=3 cells) と抗PD-1抗体の併用療法を行ったところ、EV 導入 T細胞と抗PD-1抗体の併用群と比較して、腫瘍増殖が劇的に抑制され、生存率が有意に向上した (p<0.01) (Figure 7D, 7E)。

考察/結論

本研究は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の消耗過程におけるプロテオスタシスの破綻と、それをレスキューするE3ユビキチンリガーゼ NEURL3、RNF149、WSB1 の役割を包括的に明らかにした。

先行研究との違い: これまでの免疫学研究は主にトランスクリプトーム解析に依存しており、T細胞の消耗を遺伝子発現レベルで定義してきた。しかし、本研究は ex vivo でソートした微量のT細胞サブセットに対して高感度なプロテオーム解析を適用し、mRNA レベルの変化とは必ずしも一致しないタンパク質レベルでのダイナミックな制御を明らかにした。このアプローチは、これまでのトランスクリプトーム中心の解析手法と異なり、タンパク質の実際の存在量や半減期を直接捉えることができる点で極めて独創的である。特に、終末消耗T細胞 (TEX) が機能的なプロテアソームを維持しているにもかかわらず、未折り畳みタンパク質や短命タンパク質を過剰に蓄積しているという、一見対照的なプロテオスタシス不全状態にあることを示した点は、従来の知見を覆すものである。

新規性: 本研究は、TRM および TPEX において特異的に発現が維持されているE3ユビキチンリガーゼ NEURL3、RNF149、WSB1 が、T細胞の自己複製能と分化能の維持に必須であることを本研究で初めて実証した。これら3種のリガーゼを過剰発現させることで、TEX における未折り畳みタンパク質の蓄積が解消され、幹細胞様 TCF1+ 集団が維持されるというプロテオスタシス救済機構は、これまで報告されていない新規の発見である。

臨床応用: 本研究の知見はがん免疫療法の効果を劇的に改善するための臨床応用に直結する。ヒトメラノーマ患者の臨床データ解析からも、これらリガーゼの発現が免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) に対する奏効率や生存期間と強く相関することが示されており、その臨床的意義は極めて高い。例えば、CAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体: キメラ抗原受容体) T細胞療法などの養子細胞療法において、NEURL3、RNF149、WSB1 を人工的に導入・過剰発現させることで、腫瘍微小環境内でのT細胞の生存性と抗腫瘍活性を最大化する次世代の細胞製剤開発への応用が期待される。

残された課題: これら3種のE3ユビキチンリガーゼがT細胞において直接標的とする具体的な基質タンパク質が未だ同定されていない点が挙げられ、これは今後の検討課題である。また、未折り畳みタンパク質の蓄積がT細胞消耗の直接的な原因なのか、あるいは消耗の結果として生じる二次的な現象なのかという因果関係の完全な証明には至っておらず、この点も本研究の limitation として挙げられる。さらに、メラノーマ以外の固形がん種や、ヒトの実際の腫瘍微小環境におけるプロテオスタシス制御機構の検証も今後の重要な研究方向性である。

方法

本研究では、C57BL/6J マウスおよび各種コンジェニックマーカーを持つP14 TCR (T cell receptor: T細胞受容体) トランスジェニックマウスを用いた。腫瘍モデルとして、MC38-GP33-41 (glycoprotein 33-41-expressing MC38 adenocarcinoma: GP33-41発現MC38結腸がん) 細胞株および B16-GP33-41 (glycoprotein 33-41-expressing B16 melanoma: GP33-41発現B16メラノーマ) 細胞株を C57BL/6J マウスの皮下に移植した。

T細胞への遺伝子導入には、Neurl3、Rnf149、Wsb1 の過剰発現 (OE: overexpression: 過剰発現) レトロウイルスベクター (pMY-IRES-Ametrine) を構築し、in vitro で活性化した P14 T細胞にトランスダクションした。遺伝子欠損実験では、CRISPR-Cas9 システムを用い、リコンビナント Cas9 タンパク質と各遺伝子特異的な crRNA/tracrRNA からなるリボヌクレオプロテイン (RNP: ribonucleoprotein: リボヌクレオプロテイン) を一次刺激後 24時間 の P14 T細胞にエレクトロポレーション法により導入してノックアウト (KO: knockout: ノックアウト) 細胞を作製した。対照群として Thy1 KO 細胞を用いた。

プロテオーム解析として、ソートした 1 × 10^5 cells の ex vivo T細胞 (TEFF、TRM、TPEX、TEX) からタンパク質を抽出し、DIA-PASEF (data-independent acquisition-parallel accumulation-serial fragmentation: データ非依存的キャプチャ-並行蓄積-連続フラグメンテーション) 質量分析法を用いて、1サンプルあたり 8,000 種類以上のタンパク質を同定・定量した。また、TMT (tandem mass tag: タンデムマスタグ) 質量分析法を用いて独立した検証を行った。タンパク質の代謝回転速度を測定するため、重同位体炭素および窒素で標識したアルギニン (13C6, 15N4) およびリシン (13C6, 15N2) を用いた SILAC (stable isotope labeling by amino acids in cell culture: 細胞培養アミノ酸安定同位体標識) 法によるin vitro代謝標識実験を行い、半減期が 8時間 以下の短命タンパク質を同定した。

フローサイトメトリー解析では、未折り畳みタンパク質の蓄積を検出するために Proteostat 染色を行い、K48結合型ポリユビキチン鎖の蓄積を特異的抗体を用いて測定した。プロテアソームのペプチダーゼ活性 (chymotrypsin様、caspase様、trypsin様活性) は、特異的抗体および発蛍光基質を用いて測定した。単一細胞解析として、CITE-seq (Cellular Indexing of Transcriptomes and Epitopes by sequencing: シーケンシングによるトランスクリプトームおよびエピトープの細胞インデックス化) を実施した。

統計解析には GraphPad Prism を使用し、2群間の比較には paired Student’s t tests を、多群間比較には one-way ANOVA を用いた。腫瘍増殖曲線および生存曲線の解析には log-rank (Mantel-Cox) test を適用した。