- 著者: Angel Garcia-Diaz, Daniel Sanghoon Shin, Blanca Homet Moreno, Justin Saco, Helena Escuin-Ordinas, Gabriel Abril Rodriguez, Jesse M. Zaretsky, Lu Sun, Willy Hugo, Xiaoyan Wang, Giulia Parisi, Cristina Puig Saus, Davis Y. Torrejon, Thomas G. Graeber, Begonya Comin-Anduix, Siwen Hu-Lieskovan, Robert Damoiseaux, Roger S. Lo, Antoni Ribas
- Corresponding author: Angel Garcia-Diaz (agdiaz@ipb.csic.es; CSIC Madrid / UCLA); Antoni Ribas (aribas@mednet.ucla.edu; UCLA)
- 雑誌: Cell Reports
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-05-09 (Published online)
- Article種別: Original Article
- PMID: 28494868
背景
腫瘍細胞がインターフェロン刺激に応じて PD-L1 (CD274/B7-H1) と PD-L2 (CD273/B7-DC) を誘導発現し、T 細胞の抗腫瘍認識を特異的に阻害する「適応免疫抵抗性 (adaptive immune resistance)」は、PD-1 阻害療法が奏功する中心的メカニズムである。免疫チェックポイント阻害療法全体の意義は Pardoll (Nat Rev Cancer 2012) が体系化し、腫瘍関連 PD-L1 (B7-H1) が T 細胞アポトーシスを誘導する免疫回避分子として機能することは Dong et al. (Nat Med 2002) によって初めて実証され、PD-1 阻害によって T 細胞浸潤と適応免疫抵抗性の循環を遮断できることは Tumeh et al. (Nature 2014) の生検解析で実証されている。インターフェロン受容体下流のシグナルとしては、JAK (Janus kinase) と STAT (signal transducer and activator of transcription) が主要経路であることは 1990 年代から知られていたが Darnell et al. (Science 1994)、IFNγ → JAK1/JAK2 → pSTAT1/STAT3 → IRF1 (interferon regulatory factor 1) という軸がどの程度 PD-L1 発現に寄与するかは、個々の報告に留まり網羅的な検証が不足しており、各 JAK・STAT・IRF アイソフォームの相対的貢献度と機能的冗長性に関する系統的な evidence が不足していた。先行研究で欠如していた最大の知識は、主要転写因子の PD-L1/PD-L2 プロモーターへの生細胞内での直接結合の実証であり、in vitro DNA 結合実験や間接的な過剰発現データにとどまっていた点が残された gap であった。
特に以下の点が gap in knowledge として残されていた:(1) JAK1・JAK2・TYK2 上流キナーゼのどれが PD-L1 誘導の中心を担うか、(2) STAT1・STAT2・STAT3 の三者間で機能冗長性があるか、(3) PD-L1 と PD-L2 がインターフェロンの種類によって異なる調節を受けるか、(4) IRF1 が PD-L1 プロモーターに生細胞内で直接結合するか、である。さらに Zaretsky et al. NEnglJMed 2016 が JAK1/JAK2 の機能喪失変異を PD-1 阻害療法獲得抵抗性と関連付け、Shin et al. CancerDiscov 2017 が一次抵抗性での同変異を報告したが、これらの下流における PD-L1 プロモーター制御の詳細なメカニズムは未解明のままであった。
目的
ヒトメラノーマ細胞における PD-L1 および PD-L2 のインターフェロン誘導発現に関与するシグナル伝達分子を shRNA スクリーンで系統的に同定し、主要転写因子の PD-L1/PD-L2 プロモーターへの直接結合を生細胞内で実証する。JAK1/JAK2 変異株・JAK2 阻害剤・患者生検 RNA-seq による検証で、この経路の PD-1 阻害療法応答との臨床的関連を確認する。
結果
shRNA スクリーンによる PD-L1 制御シグナル軸のボトルネック同定:DS244・DS263・DS381 の 3 種レポーター細胞株を用いた 33 遺伝子・180 種 shRNA スクリーンでは、PD-L1 プロモーター活性阻害効果の高い遺伝子群が上流チロシンキナーゼ (JAK1、JAK2、TYK2) と下流転写因子 (IRF1、IRF9 [interferon regulatory factor 9]) という 2 箇所の「ボトルネック」に集中し、シグナル経路全体のヒートマップに明確なパターンとして浮かび上がった (Fig 2B-2E)。これに対し STAT1・STAT2・STAT3 の個別サイレンシングはいずれも中程度の効果にとどまり、このレベルでの機能的冗長性が示唆された。フローサイトメトリーでは IFNγ (100 IU/mL、18 時間) による PD-L1 表面発現誘導が IFNα・IFNβ と比較して顕著に強く、3 細胞株すべてで再現された (Fig 1A-1C)。ウエスタンブロットでは IFNγ 処理 30 分という早期から pSTAT1・pSTAT2・pSTAT3・IRF1・IRF9 の誘導が観察され、IFNγ による誘導強度は IFNα・IFNβ を明確に上回った (Fig 1D-1F)。なお MAK14 (MAPK14; mitogen-activated protein kinase 14; p38)・CRKL (CRK like adaptor protein)・PI3K は shRNA スクリーンでヒットしたが、CRISPR/Cas9 ノックアウトでは PD-L1 誘導への影響が確認されず、オフターゲット効果と判断された。これらの結果は、IFNγ-JAK1/JAK2-STAT1/STAT2/STAT3-IRF1 という直線的シグナル軸が PD-L1 誘導を支配的に制御することを示す。
IRF1 の PD-L1 プロモーターへの直接結合の実証:PD-L1 プロモーターの MotEvo 解析で同定された STAT1/STAT3・STAT2/STAT5・IRF1 各推定結合部位に欠失変異を導入したトランジェント・ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、IRF1 結合部位の欠失が IFNγ 誘導 PD-L1 プロモーター活性を劇的に低下させた (Fig 3B)。STAT2/STAT5 部位欠失は限定的な効果を示す一方、STAT1/STAT3 部位欠失は逆にプロモーター活性を増強させ、この部位にリプレッサー因子が結合している可能性が示された。ChIP アッセイでは IRF1 が IFNγ 刺激依存的に PD-L1 プロモーターへ直接結合することが確認され (Fig 3C)、その結合シグナルは陽性対照の HLA-B プロモーターより有意に強く (p<0.001)、陰性対照の tRNA-Leu anticodon oligonucleotide (TAG; amber stop codon) との比較でも有意差が認められた (p<0.005)。IFNβ 刺激でも IRF1 の PD-L1 プロモーター結合が検出されたが IFNγ より弱い結合強度であった。STAT3 は PD-L1 プロモーターへの直接結合が ChIP で検出されず、NPM/ALK T 細胞リンパ腫での報告とは異なる結果となった。これらの結果は、IRF1 が JAK-STAT 経路の「最終実行因子」として PD-L1 プロモーターを直接活性化することを生細胞内で初めて実証するものである。
PD-L2 の差次的制御:IRF1 と STAT3 による二重調節機構:フローサイトメトリーによる PD-L2 表面発現解析では、M244・M263 において IFNβ が IFNγ と同等またはそれ以上の発現誘導効果を示し、PD-L1 (主に IFNγ 優位) と明確に異なるインターフェロン応答プロファイルが示された (Fig 5A-5C)。PD-L2 プロモーターのルシフェラーゼアッセイでは IRF1 結合部位 (IRF1a) の欠失が発現を低下させたが PD-L1 と比べ効果は限定的であり、STAT1/STAT3 推定結合部位の欠失は PD-L2 プロモーター活性を顕著に低下させた (Fig 5E)。IRF1a と STAT1/STAT3 部位の同時欠失で最大の発現低下が得られ、両因子の協調作用が示唆された。ChIP アッセイでは IRF1 の IFNγ 依存的な PD-L2 プロモーター結合が確認されたが PD-L1 への結合より弱い強度であり (Fig 5F)、STAT3 は IFNβ 刺激時にのみ PD-L2 プロモーターへの結合が検出された (Fig 5G)。これらはPD-L1 (IRF1 主導・IFNγ 優位) と PD-L2 (IRF1+STAT3 の二重制御・IFNβ/γ 双方応答) という根本的な調節機構の差異を示す。
JAK 変異株・TCGA・患者生検による臨床的関連の確認:JAK1 変異株 (M395) では IFNγ 刺激下で JAK2・STAT1・STAT3・IRF1・PD-L1・PD-L2 および抗原提示関連遺伝子 [TAP1/TAP2 (transporter associated with antigen processing 1/2) および PSMB8/PSMB9/PSMB10 (proteasome subunit beta 8/9/10)] の発現誘導がほぼ消失した。JAK2 変異株 (M368) でも JAK-STAT 軸全体の IFNγ 誘導が完全に消失した (Fig 4D-4F)。良好 IFNγ 応答株の M233 に CEP-33779 (JAK2 阻害剤、1 μM) を投与した場合も STAT3・IRF1・PD-L1/PD-L2 の誘導が抑制され、薬理学的 JAK2 阻害で同様のプロファイルが再現された。TCGA 皮膚黒色腫 RNA-seq データベースを用いた解析では、IRF1 と PD-L1 の間に Pearson R=0.73 (n=473, P<2.2e-16)、IRF1 と PD-L2 の間に R=0.83 (n=473, P<2.2e-16)、STAT1 と PD-L1 で R=0.78 (n=473)、STAT1 と PD-L2 で R=0.74 (n=473) という強い正の相関が認められた (Fig 6A-6B)。抗 PD-1 療法患者 5 例 (奏効 n=2・非奏効 n=3) の治療時生検では、奏効例でインターフェロンシグネチャーの顕著な富化と T 細胞・NK 細胞マーカーの上昇が確認され、IRF1・STAT1・STAT2・STAT3 の結合モチーフを有する up-regulated 遺伝子数 (奏効例代表: n=413、N=1699) が非奏効例の n=268 (N=1217) と比べ多かった (Fig 6C-6E)。
考察/結論
本研究は shRNA スクリーン・プロモーター欠失変異アッセイ・ChIP 解析の三段アプローチにより、IFNγ-JAK1/JAK2-STAT1/STAT2/STAT3-IRF1 という具体的なシグナル軸が PD-L1 プロモーターを IRF1 の直接結合を介して制御することを体系的に実証した。先行研究では Lee et al. (FEBS Lett 2006) が EMSA (electrophoretic mobility shift assay; 電気泳動移動度変化アッセイ) で IRF1 が肺がん細胞の PD-L1 プロモーターに in vitro で結合する可能性を示していたが、先行研究と比較して本研究が初めてメラノーマ細胞の生細胞内 (in cell) での直接結合を ChIP で実証し、その結合強度が HLA-B 陽性対照を超える高い特異性を持つことを明確化した点が、先行研究と異なる本質的な貢献である。また PD-L1 と PD-L2 が同一細胞・同一実験系で異なる調節機構を持つことを初めて系統的に比較した点も新規な貢献であり、PD-L2 が IFNβ にも同等応答し STAT3 を共制御因子とする知見は、Loke & Allison (PNAS 2003) の Th1/Th2 制御の文脈を分子レベルで拡張するものである。
臨床応用の観点からは、第一に JAK1/JAK2 変異スクリーニングが PD-1 阻害療法への一次・獲得抵抗性の予測バイオマーカーとなりうる。Gao et al. Cell 2016 が IFNγ 経路遺伝子喪失を抗 CTLA-4 療法抵抗性と関連付けた知見と本研究の結果は相補的であり、インターフェロン経路の完全性が多種の免疫チェックポイント阻害療法に共通の奏効基盤であることを示す。第二に、IRF1 および IFNγ 応答シグネチャーを治療応答の早期バイオマーカーとして活用できる可能性が高く、TCGA 相関 (Pearson R=0.73-0.83) と患者生検データがその実現可能性を支持する。第三に、JAK-STAT-IRF1 軸が抗原提示機構 (主要組織適合複合体; MHC クラス I 経路の TAP1/TAP2・免疫プロテアソームサブユニット PSMB8/9/10) も同時制御するという知見は、IFNγ シグナルが適応免疫抵抗性の促進と腫瘍免疫原性の増強という相反する機能を同一軸で担う逆説的な二面性の分子基盤を提供する。
残された課題として、第一に STAT1/STAT3 推定結合部位欠失による PD-L1 プロモーター活性の paradoxical な増強の原因 (リプレッサー因子の正体) が未解明である。第二に、JAK1/JAK2 変異以外のエピジェネティック機構 (プロモーターメチル化・クロマチンリモデリング) による適応免疫抵抗性の喪失がどの程度あるかは今後の検討を要する。第三に本研究は患者生検コホートが奏効 n=2・非奏効 n=3 と小規模であり、より大規模な前向き検証が limitation として認識される。第四に IFNγ 以外の炎症性サイトカイン (IL-6 等) が JAK-STAT 経路を介して PD-L1 発現に与えるクロストーク効果や、異なるがん種での検証については future research として残される。small molecule による JAK-STAT-IRF1 軸の特異的モジュレーションが自己免疫・移植免疫や抗腫瘍免疫の双方向での応用を持ちうることも、今後の展望として有望な方向性である。
方法
UCLA 患者由来の 3 種のヒトメラノーマ細胞株 (M244、M263、M381; patient-derived melanoma cell lines established at UCLA) に PD-L1 プロモーター駆動 DsRed (Discosoma sp. red fluorescent protein)-T2A (Thosea asigna virus 2A self-cleaving peptide)-ホタルルシフェラーゼ/Neo (neomycin resistance gene) レンチウイルスと EF1α (elongation factor 1 alpha)-Renilla ルシフェラーゼ/RSV-BSD (Rous sarcoma virus promoter-blasticidin resistance) レンチウイルスをダブル安定導入し、shRNA スクリーニング用レポーター細胞株 (DS244、DS263、DS381) を作製した。インターフェロン受容体シグナル関連 33 遺伝子を標的とする 180 種の shRNA ヘアピンをそれぞれのレポーター細胞株に導入し、IFNγ (100 U/mL、8 時間処理) 誘導下でのホタル / Renilla ルシフェラーゼ発現比を測定した。オフターゲット効果を排除するため RSA (redundant siRNA activity) 確率統計解析を実施し、全細胞株での総合スコアをシグナル経路ヒートマップにマッピングした。
PD-L1 プロモーター機能解析では MotEvo (Bayesian motif enrichment algorithm) アルゴリズムで STAT1/STAT3・STAT2/STAT5 (signal transducer and activator of transcription 5)・IRF1 推定結合部位を予測し、Q5 (high-fidelity DNA polymerase) Site-Directed Mutagenesis Kit (New England Biolabs) で各部位の欠失変異を導入したルシフェラーゼレポーターを M381 細胞にトランジェント transfection して RLU (relative luciferase unit; 相対発光量) を定量した。クロマチン免疫沈降法 (ChIP) は 2×10^7 個の M381 細胞でホルムアルデヒド架橋後、SimpleChip Plus Enzymatic Chromatin IP Kit を用い IRF1 (Abcam ab26109) および STAT3 (Cell Signaling Technology [CST] #12640) 抗体でそれぞれ実施し、リアルタイム qPCR で DNA 富化量を定量した。
PD-L1/PD-L2 表面発現は IFNα (5,000 IU/mL)・IFNβ (500 IU/mL)・IFNγ (100 IU/mL) 各 18 時間処理後に APC 抗 PD-L1 / PE 抗 PD-L2 抗体によるフローサイトメトリーで解析した。NanoString nCounter (750 種免疫関連遺伝子パネル) で JAK1 機能喪失変異株 (M395)・JAK2 機能喪失変異株 (M368)・JAK2 阻害剤 CEP-33779 処理 M233 株 (1 μM、3 時間共処理) の転写プロファイルを比較した。TCGA 皮膚黒色腫 RNA-seq データベースで IRF1・STAT1 と PD-L1/PD-L2 の mRNA 発現相関を Pearson 相関係数で解析した。UCLA IRB (11-001918) 承認の下、抗 PD-1 療法施行患者 5 例 (奏効 n=2、非奏効 n=3) の治療前後腫瘍生検で RNA-seq を施行し、インターフェロンシグネチャー富化と転写因子標的遺伝子発現を解析した。統計解析は unpaired t test、RSA 確率解析、Pearson 相関係数を用いた。