- 著者: Jesse M. Zaretsky, Angel Garcia-Diaz, Daniel S. Shin, Helena Escuin-Ordinas, Willy Hugo, Siwen Hu-Lieskovan, Davis Y. Torrejon, Gabriel Abril-Rodriguez, Salemiz Sandoval, Lucas Barthly, Justin Saco, Blanca Homet Moreno, Riccardo Mezzadra, Bartosz Chmielowski, Kathleen Ruchalski, I. Peter Shintaku, Phillip J. Sanchez, Cristina Puig-Saus, Grace Cherry, Elizabeth Seja, Xiangju Kong, Jia Pang, Beata Berent-Maoz, Begoña Comin-Anduix, Thomas G. Graeber, Paul C. Tumeh, Ton N.M. Schumacher, Roger S. Lo, Antoni Ribas
- Corresponding author: Antoni Ribas (University of California, Los Angeles, Jonsson Comprehensive Cancer Center, Los Angeles, CA, USA)
- 雑誌: The New England journal of medicine
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-07-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 27433843
背景
抗PD-1抗体pembrolizumabは、メラノーマ患者において約26%の奏効率と長期持続奏効を誘導することが複数の臨床試験で示され、転移性メラノーマの標準治療として確立された (Hamid et al. NEnglJMed 2013、Robert et al. NEnglJMed 2015)。しかし、UCLAコホートの78例中42例の奏効例のうち15例がその後に進行を示したように、初期奏効後の遅発再発が臨床的な重大問題として浮上していた。腫瘍浸潤CD8 T細胞の豊富さやPD-L1発現が奏効予測因子として報告されてきたが (Tumeh et al. Nature 2014)、これらの因子だけでは獲得耐性のメカニズムを完全に説明することはできなかった。免疫チェックポイント療法において、インターフェロン (IFN) シグナル経路とMHC class I抗原提示経路が抗腫瘍免疫の実行に不可欠であることが知られており (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)、前臨床モデルではこれらの経路の欠損が免疫回避機序として提唱されていた。しかし、抗PD-1療法で初期奏効した後に獲得耐性を示した患者腫瘍で実際に何が起きているかは未解明であり、実際の患者ペア生検を用いた分子機序の直接的実証は不足していた。特に、治療中に腫瘍がどのように進化し、免疫選択圧下でどのような遺伝的変化を獲得するのかについては、詳細な情報が足りなかった。本研究では、遅発再発したメラノーマ患者4例の治療前および進行時のペア生検サンプルを用いて、抗PD-1療法獲得耐性に関与する遺伝的変異をWES (whole exome sequencing) により包括的に解析し、その機能的意義を明らかにすることを目的とした。
目的
抗PD-1療法 (pembrolizumab) で初期奏効後に遅発再発した転移性メラノーマ患者4例のペア生検を解析し、獲得耐性に関与する遺伝的変異を同定すること。特に、インターフェロンシグナル伝達経路および抗原提示経路における機能喪失変異が、免疫選択圧下でどのように腫瘍の免疫回避に寄与するかを分子レベルで解明することを目的とした。また、これらの変異が腫瘍細胞の増殖や免疫応答に与える影響を機能的に検証し、獲得耐性のメカニズムを確立することも本研究の重要な目的である。
結果
JAK1/JAK2変異の同定とクローン選択: 全エクソームシーケンス解析により、Patient 1の再発サンプルでJAK1 Q503*ノンセンス変異、Patient 2でJAK2 F547 splice-site変異が同定された (Fig. 1)。これらの変異は、それぞれ1番染色体短腕および9番染色体のLOH (loss of heterozygosity) を伴い、野生型アレルが失われ変異アレルがホモ接合化した (VAF >85%)。Patient 1の1,173の非同義変異中92.5% (n=1,085/1,173) が再発時にも検出され、Patient 2の240変異中95.8% (n=230/240) が保持されており、再発腫瘍は治療前腫瘍から直接派生した相対的に均質なクローンであることが確認された。JAK変異はVAF解析から治療前サンプルには検出されず再発時にのみ出現したことから、PD-1遮断治療下での免疫選択圧によって変異クローンが優先的に増殖したと考えられた。
JAK2機能喪失によるIFN-γ不応: Patient 2由来M464細胞株はJAK2タンパク発現が完全に喪失しており、IFN-γ (10 ng/mL) 刺激後のpSTAT1誘導が親株M420比で検出限界以下 (<0.05-fold) に消失した (Fig. 2A)。TAP1、PD-L1、MHC class Iの誘導も同様に消失したが、IFN-α/βへの応答は保持されていた (n=3独立実験で再現、p<0.001)。790種の免疫関連遺伝子の発現プロファイリングでは、IFN-γ誘導遺伝子セット全体の応答が広範に欠失していることが示された。これは、JAK2がIFN-γ受容体複合体に特異的に結合し、JAK1がIFN-α/β/γ全受容体で共通使用されるという生化学的特徴と一致する。フローサイトメトリーによるPD-L1およびMHC class Iの表面発現解析でも、M464細胞ではIFN-γ刺激後の誘導が認められず、MFI (mean fluorescent intensity) の有意な変化は確認されなかった (p<0.001)。
IFN-γ誘導増殖抑制の喪失: M420/M407親株はIFN-γ (100 ng/mL、72時間) で野生型比約50%の増殖抑制を示したが、M464およびM407 JAK2-KO細胞はIFN-γ特異的に増殖抑制不応であり、fold change 1.0未満の抑制は認められなかった (Fig. 2B)。M407 JAK1-KO細胞は3種全てのIFNに不応であった。STINGアゴニストである2′3′-cGAMPは全JAK2状態の細胞 (n=3 cell lines) で増殖抑制を誘導したが、JAK1-KO細胞 (n=1 cell line) では無効であり、JAK1欠損が下流IFNシグナル全般を無効化することを示した。NY-ESO-1特異的T細胞とM407 sublinesの共培養では、IFN-γ産生 (ELISA) がJAK-KOサブラインでも野生型と同等 (fold change ~1.0) に保持されており、JAK変異は抗原認識を障害せず、腫瘍細胞側のIFN-γ直接抗増殖効果の回避を介して働くことが示された。これらの結果は、JAK1/JAK2の機能喪失変異が、T細胞による抗原認識を直接阻害することなく、腫瘍細胞のIFN-γに対する増殖抑制効果を回避させることで、免疫逃避を促進することを示唆している。
B2M機能喪失変異: Patient 3でB2Mエクソン1の4-bpフレームシフト欠失 (p.S14fs; serine-14 frameshift) を再発特異的ホモ接合変異として同定した (Fig. 3)。この変異は、再発時に新たに検出された24個の非同義変異のうち唯一のホモ接合変異であった。免疫組織化学では、MHC class I重鎖の細胞表面局在が消失し、ストロマや治療前腫瘍での正常な外膜染色と対照的に細胞内拡散的染色のみが観察された。これは、B2M欠損によりMHC class I分子の正常な折り畳みと細胞表面輸送が障害される病態に一致する。Patient 4では特定の耐性変異は同定されなかったが、治療前・再発時ともPD-L1非発現であり、エピジェネティック機序など非遺伝学的な免疫回避機序の関与が示唆された。
再発時の免疫微小環境: 全4例で再発時にCD8 T細胞浸潤が腫瘍辺縁部に残存していたが、T細胞は腫瘍実質内部には浸潤できず効果喪失状態にあった (Fig. 4)。Patient 1/2の再発病変ではメラノーマ細胞自体がPD-L1陰性であり、IFN-γ応答の喪失がPD-L1誘導不全として確認された。一方、周囲のマクロファージ・間質細胞はPD-L1陽性を保持しており、腫瘍細胞選択的なIFN-γ不応が生じていた。これらの所見は、初期奏効後も残存CD8 T細胞が腫瘍を認識し続けていたにもかかわらず、腫瘍側の分子変化により免疫効果が無力化されたことを示している。
考察/結論
本研究は、抗PD-1療法の獲得耐性が (i) JAK1/JAK2機能喪失によるIFN-γ応答欠失、および (ii) B2M欠失による抗原提示機能欠失という2つの独立した機序により生じることを患者ペア生検で直接示した。
先行研究との違い: 先行研究ではB2M欠失がIL-2/TIL療法に対する耐性機序として報告されてきたが、本研究はこれと異なり、抗PD-1療法特異的な文脈で、かつJAK1/JAK2変異という全く新規な免疫回避メカニズムを加えた点が新規な貢献である (Hugo et al. Cell 2016)。これまでの報告では、インターフェロンシグナル経路の欠損が免疫回避機序として示唆されてきたものの、PD-1遮断療法下でJAK1/JAK2の機能喪失変異が免疫選択圧により選択されるという直接的なエビデンスは不足していた。
新規性: 本研究で初めて、PD-1遮断療法下でJAK1/JAK2の機能喪失変異が免疫選択圧により選択され、腫瘍細胞のIFN-γに対する応答性を消失させることで獲得耐性を誘導するメカニズムを新規に同定した。JAK1/JAK2変異がPD-1遮断下で特に選択上有利となる理由として、抗PD-1抗体がIFN-γ誘導適応性PD-L1発現を治療的に遮断している状況では、腫瘍細胞にとってIFN-γ直接抗増殖効果の回避の方が生存上の利得となることが説明できる。JAK2変異 (IFN-γ特異的) とJAK1変異 (全IFN不応) という2つの受容体選択性の違いが腫瘍の進化的多様性を示している。
臨床応用: 本知見は、抗PD-1療法に対する獲得耐性メカニズムの理解を深め、新たな治療戦略の開発に繋がる臨床的意義を持つ。再発生検でのJAK1/JAK2/B2M変異解析と液体生検を組み合わせた獲得耐性モニタリング戦略の開発が期待される。治療戦略としては、STINGアゴニスト (JAK2欠損でも有効だがJAK1欠損では無効)、NK細胞活性化 (MHC class I欠損細胞を標的化可能)、他のチェックポイント阻害剤との組み合わせが有望な方向性として挙げられる。これらのアプローチは、獲得耐性を示す患者に対する個別化医療の基盤となる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究の4例という小規模コホートを大規模検証コホートで再現し、これらの変異の頻度を評価することが残されている。また、エピジェネティック抑制や負の調節因子増加など、非遺伝学的な免疫回避機序の体系的評価も必要である。さらに、獲得耐性を回避する投与スケジュール最適化の探索や、これらの変異を標的とする新規薬剤の開発も今後の研究方向性として重要である。
方法
患者選択:KEYNOTE-001試験 (NCT01295827) のpembrolizumab単剤投与で奏効後に6ヶ月以上の奏効を経て遅発再発 (in situ再発または新病変) した4例を選定した。腫瘍応答はRECIST v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)および免疫関連応答基準 (Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)に基づき評価された。平均再発時間は624日 (範囲419-888日) であった。全エクソーム解析:UCLA Clinical Microarray CoreでNimbleGen SeqCap EZ Human Exome Library v3.0を用い、中央値149×のカバレッジで実施した。体細胞変異の同定にはFisher’s exact testを用い、変異アレル頻度 (VAF; variant allele frequency) ≥10%を基準とした。治療前・再発時サンプルをペアで比較し、新規変異および変異アレル頻度の変化を詳細に解析した。データはNCBI Sequence Read Archive (SRP076315) に寄託された。機能解析:Patient 2由来の患者樹立メラノーマ細胞株M420 (治療前、野生型JAK2) およびM464 (再発時、JAK2 F547 splice-site変異) を用い、IFN-γ (interferon-gamma) およびIFN-α/β (interferon-alpha/beta) 刺激後のSTAT1リン酸化、TAP1 (transporter associated with antigen processing 1)、PD-L1、MHC class I発現をWestern blotとフローサイトメトリー (n=3独立実験) で評価した。M407メラノーマ細胞株にCRISPR/Cas9でJAK1/JAK2ノックアウトサブラインを作製し、同様の機能解析を行った。STING pathway解析:STING (stimulator of interferon genes) アゴニストである2′3′-cGAMPによる増殖抑制効果を野生型・JAK-KO各株で比較した。免疫組織化学:CD8 T細胞浸潤、PD-L1発現、MHC class I発現を多重免疫蛍光 (IF) で解析した。T細胞認識:NY-ESO-1特異的TCR遺伝子導入T細胞とM407 sublinesを共培養してIFN-γ産生 (ELISA) を測定した。増殖抑制はIncuCyteで評価した。統計解析にはStudent’s t-testと二元配置分散分析 (Dunnett’s補正) を用いた。