- 著者: Daisuke Shibahara, Kentaro Tanaka, Eiji Iwama, Naoki Kubo, Keiichi Ota, Koichi Azuma, Taishi Harada, Jiro Fujita, Yoichi Nakanishi, Isamu Okamoto
- Corresponding author: Isamu Okamoto (Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 29596910
背景
免疫チェックポイント阻害療法はがん治療に革新をもたらし、PD-1またはPD-L1 (programmed cell death ligand 1) を標的とする抗体薬はNSCLC (non-small cell lung cancer) を含む複数の固形がんで持続的な臨床効果を示している (Pardoll et al. NatRevCancer 2012)。PD-L2 (CD273/B7-DC) はPD-L1と同様にPD-1の阻害性リガンドであり、T細胞活性化を抑制することで腫瘍免疫逃避に関与する分子として注目される。PD-L2のPD-1に対する親和性はPD-L1の2〜6倍と高く、食道がん・腎細胞がん・肺腺がんなど複数の腫瘍細胞での発現と予後不良との関連が報告されている。
腫瘍免疫逃避機構として、TIL (tumor-infiltrating lymphocyte, 腫瘍浸潤リンパ球) が産生するIFNγ (interferon gamma) によるPD-L1の外因性誘導が主要な経路として確立されており (Dong et al. NatMed 2002)、同様の機構がPD-L2に存在するかは大きな gap in knowledge であった。PD-L1陰性腫瘍でも抗PD-1抗体が奏効し、PD-L1陽性でも抗PD-1/PD-L1抗体が無効な症例が存在する背景として、PD-L2とPD-1の相互作用が補完的な免疫逃避機構を担う可能性があることが示唆されていた (Garcia-Diaz et al. CellRep 2017)。
著者らを含む複数グループはNSCLC細胞においてactivating EGFR変異やEML4-ALK融合遺伝子がPD-L1発現を内因性に誘導することを先行研究で示しているが、同じドライバー変異がPD-L2発現を制御するか否かは不足した情報領域として残されていた。またIFNγシグナルによるPD-L2の外因性制御、およびPD-L1とPD-L2の両方に共通する転写因子の存在についても手薄な状況であった。
目的
本研究は、NSCLC細胞におけるPD-L2発現の内因性および外因性制御機構を系統的に解明することを目的とした。具体的には、(1) activating EGFR変異およびEML4-ALK融合遺伝子による細胞内因性のPD-L2発現誘導の有無、(2) IFNγによる細胞外因性PD-L2誘導とそのシグナル経路、(3) 内因性・外因性両経路に共通する転写因子の同定、の3点を検討した。
結果
BEAS-2B安定発現細胞でのドライバー変異によるPD-L2誘導確認:EGFR Ex19del変異体またはEML4-ALK融合タンパク質を安定発現するBEAS-2B細胞では、空ベクター感染対照と比較してPD-L2のmRNAレベルおよび細胞表面タンパク質レベルがいずれも有意に増加した (p<0.001)。この上昇はEGFR TKIのerlotinib (100 nM) またはALK TKIのalectinib (100 nM) 処理によってPD-L1の変動と平行して抑制された (Fig. 1)。さらにEML4-ALK安定発現BEAS-2B細胞では、空ベクター対照と比べてSTAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) のY705リン酸化増加とc-FOSの核内蓄積増加も認められ、ドライバー変異がこれらの転写因子を活性化することが示された。免疫ブロット・RT-PCR・フローサイトメトリーのすべての指標で一致した結果が得られ、3回の独立実験 (n=3) で再現性を確認した。
NSCLC細胞株でのEGFR/ALK依存的PD-L2発現と薬理学的・遺伝的阻害:計12種のNSCLC細胞株 (n=12 cell lines; EGFR変異4株・ALK融合2株・野生型5株・BEAS-2B安定発現1株) を系統解析した。EGFR変異陽性NSCLC細胞株 (HCC827, H1975, PC-9, H1650) の大多数およびALK融合株 (H2228) では、EGFR/ALK野生型5株と比較してPD-L2 mRNA発現が高く、フローサイトメトリーでも細胞表面PD-L2が明瞭に検出された。PC-9細胞 (EGFR Ex19del保有) へのerlotinib (100 nM, 24時間) 処理はEGFRリン酸化の抑制とともにPD-L2・PD-L1のmRNAおよびタンパク質を有意に低下させた (Fig. 2A, p<0.05)。T790M二次変異を有するH1975細胞ではerlotinibは無効であったが、第三世代EGFR TKIのosimertinib (100 nM, 48時間) はEGFRリン酸化を抑制しPD-L2・PD-L1発現の低下をもたらした (Fig. 2B)。EGFR siRNAトランスフェクションによる遺伝的ノックダウン実験でもPC-9細胞においてPD-L2・PD-L1のmRNAおよび細胞表面発現が有意に低下し (Fig. 2C, p<0.05)、erlotinibのオフターゲット効果が否定された。2種類の独立したEGFR siRNA配列 (siRNA-1/-2) でいずれも同様の結果が再現された。H2228細胞 (EML4-ALK保有) においてもalectinib (100 nM, 24時間) 処理 (Fig. 2D) またはALK siRNAノックダウン (Fig. 2E) によりPD-L2・PD-L1のmRNA・タンパク質が同様に低下し、ALK融合による恒常的シグナルがPD-L2発現を維持することが確認された。
IFNγによる細胞外因性PD-L2誘導:ドライバー変異陽性3株 (PC-9, H1975, H2228) および野生型A549細胞の計4株に対しIFNγ (100 ng/mL) を24時間処理したところ、全4株でPD-L2の細胞表面MFI比が有意に上昇した (Fig. 3, p<0.05〜0.001)。PD-L1の表面発現も同様に上昇し、IFNγがドライバー変異の有無を問わずNSCLC細胞において両PD-1リガンドを外因性に誘導することが示された。この知見はPD-L1に限らずPD-L2も腫瘍微小環境中のTIL由来IFNγ刺激によって発現誘導を受けることを示す最初の直接的証拠である。さらにA549 (EGFR/ALK野生型) でもPD-L2誘導が確認されたことは、外因性経路がドライバー変異非依存性であることを示す。
STAT3/c-FOSによる転写調節機構:JASPARデータベース解析によりPD-L1・PD-L2両プロモーター領域にSTAT3およびc-FOS (AP-1 family) の推定結合部位が存在することが予測された。H1975細胞でのluciferaseレポーターアッセイでは、PD-L2プロモーター内のSTAT3またはc-FOS結合部位を変異させると野生型プロモーターと比較してルシフェラーゼ活性が有意に低下し (p<0.05)、PD-L1プロモーターでも同様であった。PC-9細胞でのsiRNAノックダウン実験では、STAT3 siRNAによりPD-L2・PD-L1の両表面発現が低下した一方、c-FOS siRNAではPD-L2表面発現は有意に低下したがPD-L1への影響は限定的であった (Fig. 4A, 4B, 4E)。H1975細胞ではSTAT3・c-FOS両者のsiRNAノックダウンがPD-L2・PD-L1発現をいずれも有意に抑制した (Fig. 4C, 4D, 4E, p<0.05)。TKI処理 (erlotinib/alectinib) はPC-9・H2228両細胞株でSTAT3リン酸化とc-FOS核内量を低下させ、ドライバー変異→STAT3/c-FOS→PD-L2/PD-L1という内因性転写制御経路の存在が複数の独立したアプローチで確認された。
IFNγ-STAT1経路とSTAT3/c-FOSの補完的寄与:PC-9・H1975・H2228の3株において、STAT1 (signal transducer and activator of transcription 1) siRNAノックダウンはIFNγ誘導性PD-L1発現を全3株で著明に抑制し、PD-L2誘導も有意に抑制したがその程度はPD-L1より限定的であった (Fig. 5A)。IFNγ (100 ng/mL) 処理後のウェスタンブロット解析では、STAT1リン酸化 (Y701) の強力な誘導に加えてSTAT3リン酸化 (Y705) とc-FOSの核内蓄積増加が全3株で確認された (Fig. 5B)。一方でEGFRやALKのリン酸化はIFNγ処理によって変化せず、STAT3とc-FOSがEGFR/ALK非依存的にIFNγシグナルにも応答することが明確化された。PC-9・H1975細胞においてSTAT3またはc-FOSのsiRNAノックダウンはIFNγ誘導性のPD-L2・PD-L1発現も抑制し (data not shown)、これら転写因子が内因性経路だけでなくIFNγによる外因性誘導にも貢献することが示された。以上の結果は、内因性経路 (ドライバー変異→STAT3/c-FOS→PD-L2/PD-L1) と外因性経路 (IFNγ→STAT1→PD-L2/PD-L1、IFNγ→STAT3/c-FOS→PD-L2/PD-L1) が共通の転写因子 (STAT3・c-FOS) を共有するという統合モデルを支持する (Fig. 6)。
考察/結論
本研究は、NSCLC細胞におけるPD-L2発現がEGFR活性化変異・EML4-ALK融合による細胞内因性経路とIFNγ-STAT1シグナルによる細胞外因性経路の双方で誘導されること、かつ両経路がSTAT3とc-FOSという共通転写因子を介することを明示した。これまでの研究においてPD-L1の内因性制御については複数グループから報告が存在したが、PD-L2の内因性誘導と内因性・外因性両経路の転写因子共有という側面は報告されておらず、本研究の結果はこれらの点で既報と異なる新規の知見である。
新規な知見の核心として、c-FOS (AP-1 family transcription factor) がPD-1リガンドの発現制御に関与するという概念はこれまで報告されていない (novel) 発見である。PD-L1・PD-L2両プロモーターにc-FOS結合部位が存在し、機能的に作用することをルシフェラーゼアッセイとsiRNA実験の両方で確認した点は、EGFR下流のAP-1経路が免疫チェックポイントリガンド発現制御に直接関与するという新規の概念を提唱するものである。またPD-L2のPD-1結合親和性 (PD-L1の2〜6倍高い) とドライバー変異による過剰発現を合わせると、EGFR変異/ALK融合NSCLC細胞でのPD-L2の免疫逃避への寄与がこれまで過小評価されていた可能性が示唆される。
臨床応用の観点から、EGFR変異NSCLC患者においてEGFR TKI療法がPD-L2発現をPD-L1とともに抑制するという知見は、TKI後の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 逐次投与戦略の設計において重要な bench-to-bedside 含意を持つ。EGFR変異NSCLC患者への抗PD-1/PD-L1抗体の有効性が限定的とされる機序の一端として、TKIによるPD-L2/PD-L1の同時抑制が腫瘍免疫応答の回復に寄与する可能性がある。一方でIFNγが高TIL腫瘍でPD-L2・PD-L1を同時に誘導するという知見は、PD-L2を結合遮断する既存の抗PD-1抗体の作用機序の一側面を強化し、その臨床的意義 (clinically meaningful) の再評価につながる可能性がある。
残された課題と limitation として、本研究は細胞株実験に限定されており、臨床腫瘍組織でのPD-L2制御機構の検証が今後の検討として不可欠である。KRAS変異株やドライバー陰性の一部細胞株でも高PD-L2 mRNA発現が Cancer Cell Line Encyclopedia データベース解析で観察されており、EGFR/ALK以外のドライバー変異によるPD-L2誘導機構は将来の研究課題として残されている。c-FOSとSTAT3の寄与パターンが細胞株ごとに異なる (PC-9ではc-FOS siRNAがPD-L1に影響しないがH1975では影響する) という非一様性の機序解明も limitation の一つである。さらに腫瘍組織中でのPD-L2発現量・臨床予後との相関、PD-L2特異的遮断の有用性、STAT3/c-FOS阻害による免疫応答増強戦略についてはfuture researchとして取り組む必要がある。
方法
正常ヒト気管支上皮細胞株BEAS-2B (human bronchial epithelial cell line) に、レトロウイルスベクター (pQCXIP) を用いてactivating EGFR変異 [Ex19del (exon 19 deletion; E746-A750 amino acid deletion)] またはEML4-ALK variant 3融合タンパク質を安定発現させた安定発現株を樹立した。EGFR変異NSCLC細胞株として HCC827・H1975 (L858R+T790M)・PC-9 (human lung adenocarcinoma cell line; Ex19del)・11_18 (L858R)・H1650 (Ex19del) を、ALK融合株としてH3122・H2228 (EML4-ALK) を、EGFR/ALK野生型株としてA549・H2122・H1299・H23・H1437 (計5株) を使用した。
PD-L2とPD-L1の発現評価は、RT (reverse transcription) とreal-time PCR によるmRNAレベル測定 (18S rRNAで正規化、三連測定 n=3) とフローサイトメトリーによる細胞表面タンパク質レベル測定 (PE (phycoerythrin) 標識抗PD-L2抗体、MFI (mean fluorescence intensity) 比で定量) の2方法で行った。免疫ブロット解析によりEGFR・ALK・STAT1・STAT3・c-FOS (AP-1 family transcription factor) のリン酸化および核移行 (NE-PER核/細胞質分画試薬) を評価した。
EGFR TKI (tyrosine kinase inhibitor) のerlotinib (100 nM, 24時間)・osimertinib (100 nM, 48時間)、ALK TKIのalectinib (100 nM, 24時間) を使用した薬理学的阻害実験を行った。また各標的遺伝子 (EGFR, ALK, STAT1, STAT3, c-FOS) に特異的なsiRNA (small interfering RNA) のRNAiMAX試薬を用いた一過性トランスフェクション (48時間) によるノックダウン実験を実施した。各siRNAについて独立した2種類の配列 (siRNA-1/-2) を用いて特異性を確認した。
転写制御の解析では、JASPARデータベースでPD-L1 (CD274)・PD-L2 (PDCD1LG2) 各プロモーター領域 (転写開始点上流それぞれ1019 bp・982 bp) 内のSTAT3・c-FOS結合部位を予測し、野生型および結合部位変異体プロモーターを持つpGL4.1ルシフェラーゼレポーターベクターを構築してH1975細胞で活性を比較するluciferaseレポーターアッセイを行った。外因性刺激実験ではrecombinant human IFNγ (100 ng/mL) を24時間処理した。統計解析はGraphPad Prism 7を使用し、群間比較はunpaired Student’s t testで行い、p<0.05を有意差ありとした。