• 著者: Kitajima S, Ivanova E, Guo S, Yoshida R, Campisi M, Sundararaman SK, Tange S, Mitsuishi Y, Thai TC, Masuda S, Piel BP, Hayashi A, Okamoto T, Nakagawa T, Somwar R, Kirschner MW, Barbie TU, Mino-Kenudson M, Birrer MJ, Bhatt DL, Barbie DA
  • Corresponding author: David A. Barbie (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30297358

背景

KRAS変異非小細胞肺癌 (NSCLC) は、共存する遺伝子変異パターンによって異なる腫瘍微小環境を形成することが知られている。特に、TP53共変異を持つKPサブタイプと、STK11/LKB1 (serine/threonine kinase 11 / liver kinase B1) 共変異を持つKLサブタイプは、生物学的特性および免疫学的プロファイルにおいて対照的である。先行研究である Skoulidis et al. CancerDiscov 2015Skoulidis et al. CancerDiscov 2018 において、KLサブタイプはPD-L1発現が極めて低く、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) に対して極めて強い抵抗性を示す「免疫冷腫瘍 (immune-cold tumor)」であることが臨床的に報告されている。また、Koyama et al. CancerRes 2016 は、LKB1欠損が好中球の動員や炎症性サイトカインの産生を促進し、T細胞活性を抑制することを示した。しかしながら、KRAS変異肺癌は一般に高い体細胞変異負荷 (TMB: tumor mutational burden) を有するにもかかわらず、なぜKLサブタイプにおいてこれほどまでに徹底した免疫抑制状態が維持され、自然免疫応答が障害されているのか、その詳細な分子的基盤は依然として不明であった。特に、細胞質二本鎖DNA (dsDNA: double-stranded DNA) を感知してI型インターフェロン (IFN: interferon) 応答を惹起するcGAS-STING (cyclic GMP-AMP synthase - stimulator of interferon genes) 経路が、LKB1欠損下でどのように制御されているかについての知見は不足しており、この免疫逃避機構の解明に向けた大きな gap が残されていた。LKB1はAMPK (AMP-activated protein kinase) の上流活性化因子であり、その喪失はミトコンドリア機能障害や代謝リプログラミングを引き起こすが、これがエピジェネティックな転写抑制や自然免疫シグナルの遮断にどのように直結するのかは未解明であった。このように、LKB1欠損がもたらす代謝およびエピジェネティックな変化が、cGAS-STING経路を介した腫瘍の免疫原性制御に果たす役割についての理解は不十分であり、治療抵抗性を克服するための知見が著しく不足していた。

目的

本研究の目的は、KRAS変異肺癌におけるLKB1欠損が、自然免疫およびdsDNAセンシングの中心的メディエーターであるSTINGの発現抑制に及ぼす影響とその分子的メカニズムを解明することである。具体的には、LKB1喪失がDNMT1 (DNA methyltransferase 1) やEZH2 (enhancer of zeste homolog 2) などのエピジェネティック修飾酵素の活性化を介してSTINGプロモーターをサイレンシングする機序を検証する。さらに、LKB1欠損細胞におけるミトコンドリア機能障害と、それに伴う細胞質へのミトコンドリアdsDNA (mtDNA: mitochondrial DNA) 漏出が、STING発現維持に対してどのような選択圧として作用しているかを明らかにする。最終的に、エピジェネティック阻害薬を用いてSTING発現を回復させることで、dsDNAセンシング能、PD-L1発現、およびT細胞動員能を再活性化し、KL腫瘍の免疫治療抵抗性を克服するための新規治療戦略の基盤を確立することを目指す。

結果

LKB1喪失に伴うSTING発現の特異的サイレンシング: TCGAおよびCCLEの統合データ解析 (KL群 n=17, KP群 n=21) により、LKB1欠損 (KL) 細胞では酸化ストレス応答の上昇 (q<0.001) と対照的に、I型IFNシグナル経路が最も著しく低下していることが判明した (Figure 1A)。dsDNAセンシング経路の遺伝子群を精査したところ、KL細胞においてTMEM173 (STING) のmRNA発現が特異的に低下していた (Figure 1C)。KRAS変異肺癌患者由来組織 n=64 samples を用いたIHC解析では、LKB1陰性腫瘍はSTING発現の完全消失または著しい低下 (IHCスコア 0/1) と極めて強く相関していた (p<0.0001, Figure 1D)。KL細胞株 (A549、A427、H23) ではSTINGタンパク質が完全に消失 (STING absent) しており、H1944やH2122などの他株でも発現が著しく減弱 (STING lo) していた (Figure 1E)。KP細胞株においてCRISPR/Cas9を用いてLKB1をノックアウトするとSTING発現が低下し、逆にSTING lo細胞株に野生型LKB1を再導入すると、AMPK活性化依存的にSTING発現が回復した (Figure 1H, 1I)。このLKB1再導入によるSTING発現回復は、LKB1のキナーゼ活性およびAMPKのリン酸化状態に依存していた。

DNMT1およびEZH2の過活性化を介したSTINGプロモーターのエピジェネティック制御: LKB1再導入のみではSTING発現が回復しないSTING absent細胞株 (A549など) におけるサイレンシング機構を解明するため、エピジェネティック修飾を解析した (Figure 2A)。STING absent細胞株では、STINGプロモーター領域のDNA高メチル化 (CCLEデータおよびMeDIP解析による確認) と、DNMT1の高発現およびプロモーターへの結合亢進が認められた (Figure 2C, 2E)。LKB1欠損はメチル基供与体であるS-アデノシルメチオニン (SAM: S-adenosylmethionine) の蓄積 (約1.5-fold の増加) を誘導し、DNMT1活性を高めるとともに、AMPKによるEZH2のリン酸化抑制を解除してEZH2活性を過剰に亢進させる。ChIPアッセイにより、STINGプロモーター領域で抑制性クロマチンマークであるH3K27me3の蓄積が確認された (Figure 2I)。DNMT阻害薬デシタビン (DAC) 100 nmol/L 処理はSTING absent細胞におけるSTING発現を回復させ、EZH2阻害薬GSK126 (5 μmol/L) はSTING lo細胞での発現を増強した (Figure 2F)。さらに、DACとGSK126の併用処理は、STING absent細胞においてSTING発現を強力に再活性化した (Figure 2K)。この併用処理は、細胞内のSAMレベルをさらに上昇させ、エピジェネティックな抑制状態を効果的に解除することを示した。

STING回復によるdsDNAセンシング能とT細胞動員能の再活性化: KL細胞はdsDNAアナログであるpoly (dA:dT) 刺激に対してTBK1、IRF3、STAT1のリン酸化応答を欠失していたが、LKB1の再導入 (STING lo細胞) またはLKB1再導入とDAC (100 nmol/L) の併用 (STING absent細胞) により、dsDNAセンシング能が完全に回復した (Figure 3A, 3C)。これにより、I型IFN応答の下流因子であるIFNβ、CXCL10、CCL5の分泌が有意に増加した (Figure 3B)。3Dマイクロフルイディクス腫瘍球体モデルを用いた実験 (n=3 replicates) では、LKB1再導入によるSTING回復が、CXCR3陽性Jurkat T細胞の腫瘍球体内への浸潤を有意に促進した (p<0.05, Figure 3E)。さらに、dsDNA刺激依存的なPD-L1の細胞表面発現が、STAT1シグナル活性化を介して回復した (Figure 3F, 3G)。これは、IFN受容体シグナルがPD-L1発現を制御するとした Garcia-Diaz et al. CellRep 2017 の知見と一致する。患者組織のIHC解析 (n=34 samples) でも、LKB1陰性/STING低発現群は、LKB1陽性/STING高発現群と比較して、CD8陽性T細胞の浸潤数およびPD-L1発現レベルが有意に低下していることが示された (p<0.05, Figure 3I, 3J)。これにより、LKB1欠損に伴うSTINGサイレンシングが、腫瘍微小環境におけるT細胞浸潤低下とPD-L1発現低下に直接寄与していることが実証された。

病的ミトコンドリアDNA漏出による細胞毒性の回避とSTINGサイレンシングの選択圧: LKB1欠損肺癌細胞においてSTINGが能動的にサイレンシングされる生物学的理由を探索した。KL細胞はミトコンドリア機能障害を伴っており、PicoGreen染色および細胞質画分のqPCR解析 (n=6 replicates) により、細胞質内へのミトコンドリアdsDNA (mtDNA) の著しい漏出 (Figure 4G, 4H) が確認された。この状態でKL細胞にSTINGを強制発現させると、漏出した自己mtDNAをcGAS-STING経路が持続的に感知し、TBK1-IRF3シグナル伝達系およびSTAT1経路の過剰活性化を介して顕著な細胞増殖抑制 (約2.5倍の低下、すなわち 2.5-fold 減少) とアポトーシス (Annexin V陽性率の有意な上昇, p<0.01) が誘導された (Figure 4D, 4E)。この細胞毒性は、JAK/STAT (Janus kinase / signal transducer and activator of transcription) 阻害薬ルキソリチニブ (1 μmol/L) によるpSTAT1抑制によって強力に救済された (Figure 4F)。さらに、臭化エチジウム処理 (Rho 0細胞) またはsgPOLG導入によるmtDNAの枯渇 (n=3 cells) は、細胞質dsDNA蓄積を消失させ、STING強制発現に伴うSTAT1活性化および細胞死を完全に抑制した (Figure 4K, 4L)。以上の結果から、KL細胞は病的mtDNA漏出による自己破壊的細胞死を回避するために、STINGをエピジェネティックにサイレンシングせざるを得ないという強い選択圧にさらされていることが実証された。

考察/結論

先行研究との違い: LKB1欠損KRAS変異肺癌 (KLサブタイプ) が免疫チェックポイント阻害薬に対して極めて高い治療抵抗性を示すことは、Skoulidis et al. CancerDiscov 2018 などの臨床研究により広く知られていた。しかし、従来の知見はKL腫瘍における免疫抑制性サイトカイン (IL-6など) の分泌や骨髄由来抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cell) の動員といった受動的な免疫微小環境の記述に留まっていた。これらこれまでの報告と異なり、本研究はKL細胞自身が有する自然免疫dsDNAセンシング経路、特にcGAS-STINGシグナル伝達系が、エピジェネティックな修飾によって能動的かつ徹底的に遮断されていることを突き止めた。この点で、受動的な免疫抑制メカニズムのみに焦点を当てていた先行研究とは大きく異なる。

新規性: 本研究は、LKB1喪失に伴う代謝リプログラミング (SAMの蓄積) が、DNMT1およびEZH2の活性化を介してSTINGプロモーターのDNA高メチル化とH3K27me3蓄積を誘導し、STING発現をサイレンシングするという一連のエピジェネティック・カスケードを本研究で初めて明らかにした。さらに、このSTINGサイレンシングが、単なる免疫逃避のための受動的変化ではなく、LKB1欠損に伴うミトコンドリア機能障害から生じる「自己の病的細胞質mtDNA漏出によるSTAT1依存性細胞死」を回避するための、生存に必須の能動的適応 (選択圧によるエピジェネティック抑制) であるという新規の概念を提唱した。これは、染色体不安定性によるdsDNA漏出がcGAS-STINGを活性化して転移を促進するとした Bakhoum et al. Nature 2018 などの知見とは対照的であり、過剰な自己DNAセンシングが特定のゲノム背景下で細胞毒性として作用することを示す画期的な発見である。

臨床応用: 本研究の知見は、難治性であるKLサブタイプ肺癌に対する新たな治療アプローチの臨床応用に直結する。具体的には、DNMT阻害薬 (デシタビンなど) やEZH2阻害薬 (GSK126など) を用いたエピジェネティック治療によりSTING発現を再活性化させることで、腫瘍細胞のdsDNAセンシング能を回復させ、T細胞誘引ケモカイン (CXCL10やCCL5) の分泌およびPD-L1発現を誘導することが可能となる。これにより、本来「免疫冷腫瘍」であるKL腫瘍を「免疫熱腫瘍 (immune-hot tumor)」へと転換させ、PD-1/PD-L1阻害薬に対する感受性を劇的に高めるコンビネーション療法の開発が期待される。また、腫瘍細胞におけるSTING発現低下は、ICBに対する内因性抵抗性の有用な予測バイオマーカーとして臨床現場で活用できる可能性が高い。

残された課題: しかしながら、今後の検討課題として、in vivoの同系移植マウスモデルや免疫能が保たれた担癌モデルにおいて、エピジェネティック阻害薬とSTING作動薬、さらにはICBの併用療法が示す抗腫瘍効果と安全性を検証することが必要である。KRAS変異下流のシグナル阻害を検証した Kitajima et al. CancerCell 2018 などの知見をさらに発展させ、STING発現を再活性化させるアプローチがどの程度有効であるかを評価することが望まれる。また、現在臨床開発されているSTING作動薬は腫瘍細胞への膜透過性が極めて低いため、リポソーム製剤や抗体薬物複合体 (ADC: antibody-drug conjugate) 技術を用いた効率的なデリバリーシステムの開発が求められる。さらに、LKB1野生型でありながらDNMT1高発現やSTING低発現を示す他の難治性癌種において、本研究で同定されたエピジェネティック・サイレンシング機構がどの程度一般化できるかを検証することも、残された課題 (limitation) として挙げられる。

方法

本研究では、The Cancer Genome Atlas (TCGA) およびCancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) の公開データセットを用いて、KL (n=17) およびKP (n=21) の肺腺癌サンプルにおける遺伝子発現プロファイルを統合的に解析し、遺伝子セット富裕化解析であるGSEA (gene set enrichment analysis) を実施した。 in vitro実験には、ヒトKRAS変異肺癌細胞株であるA549、A427、H23 (STING発現消失株)、およびH1944、H2122、H1355 (STING低発現株) を用いた。LKB1の機能検証のため、CRISPR/Cas9システムを用いてKP細胞株 (H2009、H441、H358) のLKB1ノックアウトを行い、またKL細胞株への野生型LKB1またはキナーゼ死活型LKB1のレンチウイルスによる強制発現を実施した。 エピジェネティック解析として、メチル化DNA免疫沈降であるMeDIP (methylated DNA immunoprecipitation) およびクロマチン免疫沈降であるChIP (chromatin immunoprecipitation) アッセイを行い、STINGプロモーター領域におけるDNAメチル化状態、DNMT1の結合、およびH3K27me3 (histone H3 lysine 27 trimethylation) 修飾レベルを定量した。エピジェネティック阻害薬として、DNMT阻害薬であるデシタビン (DAC: decitabine) およびEZH2阻害薬であるGSK126を用いた。 dsDNA刺激実験では、合成dsDNAアナログであるpoly (dA:dT) をリポフェクションにより細胞内に導入し、下流のTBK1 (TANK-binding kinase 1)、IRF3 (interferon regulatory factor 3)、およびSTAT1 (signal transducer and activator of transcription 1) のリン酸化状態をウエスタンブロット法で評価した。また、IFNβ、CXCL10、CCL5の分泌量を酵素結合免疫吸着測定法であるELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 法にて測定した。 細胞質dsDNAの検出には、PicoGreen染色およびミトコンドリア画分を除去した細胞質分画からの定量PCR (qPCR: quantitative polymerase chain reaction) を用い、mtDNA特異的プライマーであるMT-ND1 (mitochondrially encoded NADH:ubiquinone oxidoreductase core subunit 1) にて定量した。ミトコンドリアDNAの枯渇実験 (Rho 0細胞) は、臭化エチジウムの長期処理、またはDNAポリメラーゼガンマであるPOLG (DNA polymerase gamma) に対するsgRNAの導入により行った。 T細胞動員能の評価には、3次元 (3D: three-dimensional) マイクロフルイディクス腫瘍球体モデルを用い、CXCR3 (C-X-C motif chemokine receptor 3) 陽性Jurkat T細胞の腫瘍球体への浸潤を共焦点レーザー顕微鏡で定量した。 in vivo実験として、8週齢のSHO (SCID Hairless Outbred) マウスを用い、A549細胞を皮下移植した異種移植モデルにおける腫瘍増殖抑制効果を評価した。 統計解析には、GraphPad Prism 7を用い、2群間の比較にはStudent’s t-test、多群間比較には一元配置または二元配置のANOVA (分散分析) およびTukeyの事後検定を適用した。また、患者組織の免疫組織化学 (IHC: immunohistochemistry) 解析における相関評価にはFisher’s exact testを用いた。