- 著者: Niknam S, Barsoumian HB, Schoenhals JE, Jackson HL, Yanamandra N, Caetano MS, Li A, Younes AI, Cadena A, Cushman TR, Chang JY, Nguyen QN, Gomez DR, Diab A, Heymach JV, Hwu P, Cortez MA, Welsh JW
- Corresponding author: James W. Welsh (University of Texas MD Anderson Cancer Center)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-05-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 29784675
背景
肺がんは世界におけるがん関連死の主要な原因であり、非小細胞肺がん (NSCLC) がその大部分を占めている。放射線療法 (XRT: radiotherapy) は局所制御や転移性肺がん治療において極めて重要な役割を担っているが、標準的な化学放射線療法を施行した後の長期的な奏効率や生存率は依然として低く、新たな治療戦略の確立が求められている Weichselbaum et al. NatRevClinOncol 2017。近年、抗PD-1/PD-L1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬とXRTの併用療法が注目を集めているが、臨床においては多くの患者が初期治療に不応答であるか、あるいは治療開始後に耐性を獲得することが大きな課題となっている Topalian et al. NEnglJMed 2012。実際に、NSCLC患者の約80%が抗PD-1療法に対して一次耐性を示すか、あるいは初期に奏効した患者の約30%が1年以内に耐性を獲得して再発することが報告されている Tumeh et al. Nature 2014。このような背景から、抗PD-1耐性を克服するための新規免疫療法アプローチの探索が急務である。
OX40 (CD134) は、腫瘍壊死因子 (TNF) 受容体スーパーファミリーに属するI型膜糖タンパク質であり、活性化されたエフェクターT細胞や制御性T細胞 (Treg) に発現する強力な共刺激分子である。OX40シグナルは、CD4+ T細胞におけるNF-κB経路の活性化やBcl-2家族などの抗アポトーシス分子の上方制御を介して、T細胞の生存、増殖、記憶形成、およびサイトカイン産生を促進し、強力な抗腫瘍免疫を誘導する。先行研究において、XRTは腫瘍細胞の免疫原性を高め、腫瘍抗原の放出や主要組織適合遺伝子複合体クラスI (MHC-I) の発現を誘導することが知られていたが、抗PD-1耐性腫瘍におけるXRTとOX40アゴニスト抗体 (α-OX40) の最適な併用スケジュールや、全身性のアブスコパル効果を誘導する詳細な免疫学的メカニズムは未解明であった。特に、放射線照射と免疫刺激の投与タイミングに関する知見が不足しており、治療効果を最大化するための最適な逐次投与スケジュールを確立する上での大きなナレッジギャップ (knowledge gap) となっていた。本研究は、抗PD-1耐性肺がんモデルを用いてこの課題を解決するために計画された。
目的
本研究の目的は、抗PD-1耐性肺がんマウスモデルにおいて、高線量放射線照射 (XRT) とOX40アゴニスト抗体 (α-OX40) の併用療法における最適な照射線量および投与シーケンス (タイミング) を同定することである。さらに、この最適化された併用療法が、局所照射腫瘍の制御のみならず、非照射の遠隔腫瘍に対する全身性抗腫瘍効果 (アブスコパル効果) および肺転移の抑制に及ぼす影響を評価し、樹状細胞 (DC: dendritic cell) やT細胞サブセットの動態を含む詳細な免疫学的活性化メカニズムを解明することを目指す。
結果
高線量放射線照射による一次腫瘍制御の最適化: 抗PD-1耐性344SQ肺がんモデルにおいて、最適な放射線照射線量を決定するため、異なる分割照射スケジュールとα-OX40同時投与の併用効果を比較した。その結果、5 Gy × 3回や3 Gy × 5回の低線量分割群と比較して、高線量分割照射である12 Gy × 2回 (総線量 24 Gy) のスケジュールが最も強力に一次腫瘍の増殖を抑制した。12 Gy × 2回 + α-OX40併用群は、12 Gy × 2回単独群と比較して有意な腫瘍増殖抑制効果を示した (two-way ANOVA: p=0.0453) (Fig 1C)。さらに、総線量を36 Gy (12 Gy × 3回) に増量したスケジュールは、24 Gyスケジュールよりも優れた腫瘍制御能を示し、12 Gy × 3回 + アジュバントα-OX40群は12 Gy × 2回 + α-OX40群を上回る治療効果を発揮した (two-way ANOVA: p=0.0265) (Fig 2A)。
投与シーケンスの比較とアジュバント療法の優位性: 次に、XRT (12 Gy × 3回) とα-OX40の最適な投与タイミングを決定するため、導入 (Induction)、同時 (Concurrent)、アジュバント (Adjuvant) の3つのシーケンスを比較した。その結果、放射線照射後にα-OX40を投与するアジュバント療法群が最も顕著な腫瘍増殖抑制効果を示した。12 Gy × 3回単独群と比較して、アジュバント併用群は腫瘍体積を有意に縮小させた (p=0.0114) (Fig 2A)。一方で、α-OX40単独投与群では腫瘍増殖抑制効果がほとんど認められず、アジュバント併用群との間に極めて有意な差が認められた (two-way ANOVA: p=0.0005) (Fig 2A)。また、導入療法群や同時療法群では、有意な腫瘍増殖抑制は得られなかった。肺転移数の評価においても、36 Gyの高線量照射を背景としたアジュバント併用群においてのみ、対照群や単独療法群と比較して有意な肺転移の減少が認められた (p<0.05) (Fig 2B)。
アブスコパル効果の誘導と生存期間の劇的改善: 最適化されたプロトコル (36 Gy/3 fractions + アジュバントα-OX40、n=10 mice/group) を用いて、両側腫瘍モデルにおける全身性抗腫瘍効果 (アブスコパル効果) を検証した。一次腫瘍 (照射腫瘍) において、XRT + アジュバントα-OX40群は対照群 (IgG) および各単独群と比較して、腫瘍増殖を極めて強力に抑制した (two-way ANOVA: p<0.0001) (Fig 3A)。最も重要な所見として、直接放射線照射を受けていない対側の二次腫瘍 (アブスコパル腫瘍) においても、XRT + アジュバントα-OX40群はXRT単独群と比較して有意な増殖抑制効果を示した (two-way ANOVA: p<0.0001) (Fig 3B)。この優れた局所および全身の腫瘍制御効果を反映し、治療後の生存期間は併用群において劇的に改善した。生存曲線におけるlog-rank検定の結果、XRT + アジュバントα-OX40群は、XRT単独群 (p=0.0001) およびα-OX40単独群 (p=0.0002) のいずれに対しても統計学的に極めて有意な生存ベネフィットを示し、60日間の観察期間において約60%の生存率を達成した (Fig 3C)。さらに、二次腫瘍という追加の腫瘍負荷が存在する過酷な病態モデルであるにもかかわらず、肺転移結節数はXRT単独群と比較して併用群で有意に減少した (t-test: p=0.006) (Fig 3D)。
腫瘍微小環境におけるCD8+ T細胞浸潤の有意な増強: 治療開始後29日目における腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) のフローサイトメトリー解析を実施した。一次腫瘍 (照射腫瘍) において、XRT + アジュバントα-OX40群は、対照群 (IgG) およびα-OX40単独群と比較して、CD45+免疫細胞中のCD8+ T細胞の割合を有意に増加させた (p<0.05) (Fig 4C)。CD4+ T細胞の浸潤割合についても増加傾向が認められたが、統計学的な有意差には至らなかった (Fig 4B)。非照射の二次腫瘍 (アブスコパル腫瘍) においても、XRT + アジュバントα-OX40群ではCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞の浸潤割合が、対照群や単独群と比較して非有意ながらも上昇傾向を示した (Fig 4E, F)。一次腫瘍におけるCD8+エフェクターT細胞の有意な増加は、放射線照射とOX40共刺激の相乗効果により、腫瘍局所における免疫抑制的微小環境が効果的に改変され、強力な抗腫瘍エフェクター機能が惹起されたことを示している。
XRTによるOX40発現誘導とCD103+樹状細胞の動員: XRTとアジュバントα-OX40が相乗効果を発揮する詳細な免疫学的メカニズムを解明するため、XRT (12 Gy × 3回) 照射後の免疫細胞の動態を解析した。照射後48時間の初期段階 (n=3-5 mice/group) において、脾臓中のCD4+ T細胞におけるOX40受容体の発現割合 (p<0.05) (Fig 5A) および平均蛍光強度 (MFI) (p<0.05) (Fig 5B) が有意に上昇し、約2.5-fold increaseの発現増強を示した。一方で、CD8+ T細胞におけるOX40の発現上昇は顕著ではなかった。さらに、照射後48時間において、抗原提示能に優れ、クロスプレゼンテーションを担う移動性CD103+樹状細胞 (DC) の割合が脾臓において有意に増加した (p<0.05) (Fig 5C)。照射後7日目の解析では、脾臓におけるCD103+ DCの割合は非照射群と同等レベルまで低下していたが (Fig 5F)、TIL中のCD4+ T細胞におけるOX40発現は依然として有意に上方制御されていた (p<0.05) (Fig 5E)。また、照射後48時間において、脾臓中の好中球におけるOX40Lの発現割合が有意に増加していることが確認された。これらの結果は、高線量放射線照射が初期の抗原提示細胞 (CD103+ DC) の動員と活性化を促し、続いてT細胞上のOX40受容体発現を誘導するという段階的な免疫活性化カスケードを形成していることを示している。このOX40発現のピークタイミング (照射後48時間以降) に合わせてα-OX40を投与するアジュバントシーケンスこそが、抗腫瘍T細胞応答を最大限に増幅させる鍵であることを裏付けている。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、抗PD-1療法に対して不応答性を示す肺がんモデルにおいて、高線量放射線照射 (XRT) とOX40アゴニスト抗体 (α-OX40) の併用が、局所および遠隔腫瘍 (アブスコパル効果) に対して強力な抗腫瘍効果を発揮することを実証した。この知見は、従来の単一療法や同時併用療法とは明確に異なる。特に、XRTの後にα-OX40を投与する「アジュバント投与」が最も効果的であるというシーケンスの重要性を明らかにした点は、同時投与が有効とされていた一部の先行研究や、コロンがんモデルでの知見と比較しても、難治性肺がんにおける治療最適化の観点から極めて重要な進歩である。
新規性: 本研究で初めて、高線量放射線照射がT細胞上のOX40受容体発現を一過性に誘導するだけでなく、脾臓におけるCD103+樹状細胞 (DC) の動員および好中球上のOX40L発現を促進するという、放射線誘発性の免疫プライミングメカニズムを新規に解明した。放射線照射によって惹起されるこれらの初期免疫活性化イベントのピーク (照射後48時間) に合わせてα-OX40を逐次投与することにより、抗PD-1耐性という極めて免疫原性の低い腫瘍微小環境を克服し、全身性の抗腫瘍T細胞応答を増幅できるという新しい治療コンセプトを提示した。
臨床応用: 本研究の成果は、臨床現場において抗PD-1/PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示す、約80%にのぼる不応答性NSCLC患者に対する新規の治療戦略 (bench-to-bedside) として極めて高い臨床的価値を持つ。現在、複数の臨床試験においてOX40アゴニスト抗体と他療法との組み合わせが検討されており、本研究が示した「高線量分割照射の直後にOX40刺激を行う」という至適スケジュールは、今後の臨床試験デザインに直接的な影響を与えるものである。さらに、将来的にはXRT、α-OX40、および抗CTLA-4抗体や抗PD-L1抗体を組み合わせた三者併用療法への発展が期待される。
残された課題: 今後の検討課題 (limitation) として、本研究はマウス前臨床モデルを用いた検証であるため、ヒト臨床における安全性や至適線量、投与タイミングへの外挿には慎重な検証が必要である。また、OX40シグナルはエフェクターT細胞を活性化する一方で、制御性T細胞 (Treg) にも作用し、TGF-βやIL-10などの免疫抑制性サイトカインの分泌を介して抗腫瘍免疫を減弱させる懸念が残されている。したがって、腫瘍微小環境内におけるエフェクターT細胞とTregに対するOX40刺激の精緻な作用バランスの解明や、長期的な免疫記憶形成能の評価が今後の重要な研究方向性である。
方法
動物モデルおよび細胞株: 本研究では、129Sv/Ev系雌性マウス (8-12週齢) を使用した。腫瘍モデルには、抗PD-1耐性を獲得した同系肺腺がん細胞株である344SQ細胞株を用いた。一次腫瘍は、マウスの右後肢皮下に0.5-1.0 × 10^6個の344SQ細胞を注射して樹立した。アブスコパル効果を評価する両側腫瘍モデルでは、一次腫瘍移植の4日後に、対側 (左後肢皮下) に0.1-1.0 × 10^6個の344SQ細胞を移植して二次腫瘍 (非照射腫瘍) とした。腫瘍体積は、(幅^2 × 長さ)/2 の数式を用いて週3回測定した。
放射線照射線量の最適化: 一次腫瘍を有するマウスを対象に、セシウム源を用いて局所照射を行った。照射線量および分割スケジュールの最適化のため、以下の3群を比較した。
- 15 Gy/3 fractions (5 Gy × 3回)
- 15 Gy/5 fractions (3 Gy × 5回)
- 24 Gy/2 fractions (12 Gy × 2回) これらの照射スケジュールにおいて、α-OX40 (100 μg/回) または対照のラットIgG抗体 (100 μg/回) を腫瘍内注射 (it: intratumoral) にて、腫瘍移植後7、11、15、19、23日目に同時併用投与した。
投与シーケンスの最適化: 36 Gy/3 fractions (12 Gy × 3回) の高線量照射を基軸とし、α-OX40 (200 μg/回、計3回) の投与タイミングを以下の3条件で比較検証した。
- 導入療法 (Induction): XRT開始前にα-OX40を投与
- 同時療法 (Concurrent): XRT期間中にα-OX40を投与
- アジュバント療法 (Adjuvant): XRT終了48時間後からα-OX40を逐次投与
アブスコパル実験および肺転移評価: 最適化された治療プロトコル (36 Gy/3 fractions + アジュバントα-OX40、200 μg/回 × 5回) を用い、両側腫瘍モデルにおいて一次腫瘍および二次腫瘍の増殖を50日以上にわたり追跡した。生存率を記録し、実験エンドポイントにおいて肺を摘出してブアン液 (Bouin’s fixative) で染色し、肉眼的な肺転移結節数をカウントした。
免疫学的解析: フローサイトメトリー解析のため、照射後48時間または7日目に脾臓および腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) を回収した。組織をリベラーゼ (Liberase, 250 μg/mL) で酵素消化し、単細胞懸濁液を調製した。抗CD45、抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD11c、抗CD103、抗OX40、および抗OX40L (OX40 ligand) 抗体を用いて染色し、LSR II (LSR Fortessa) フローサイトメーターでデータを取得、FlowJoソフトウェアで解析した。
統計解析: 統計解析にはGraphPad Prism 6を使用した。2群間の比較にはStudent’s t-test、複数群の腫瘍増殖曲線の比較にはtwo-way ANOVA、生存率の比較にはKaplan-Meier法およびlog-rank検定を用いた。p値が0.05以下 (p⇐0.05) の場合を統計学的に有意と判定した。