• 著者: Luke JJ, Bao R, Sweis RF, Spranger S, Gajewski TF
  • Corresponding author: Thomas F. Gajewski (University of Chicago, Chicago IL)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-11
  • Article種別: Original Article (Translational)
  • PMID: 30635339

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の有効性は腫瘍微小環境 (TME) の状態に深く依存する。T細胞炎症シグネチャー (T-cell-inflamed phenotype) を示す腫瘍は抗CTLA-4・抗PD-1抗体をはじめとする複数の免疫療法への奏効と一貫して相関し (Robert et al. NEnglJMed 2015)、一方で非T細胞炎症 (non-T-cell-inflamed) TMEはICB、特に抗PD-1抗体への無効例と密接に関連することが多数の臨床データから示されてきた (Larkin et al. NEnglJMed 2015Ayers et al. JClinInvest 2017)。PD-1阻害薬は扁平上皮非小細胞肺癌・腎癌・悪性中皮腫など複数癌種でFDA承認を得たが、各癌種内でも応答するのは一部患者に限られ、一次耐性の分子機序は不十分にしか解明されていなかった。

腫瘍内在性のシグナル経路がT細胞排除 (immune exclusion) を引き起こす最初の証拠は、メラノーマにおけるWNT/β-cateninシグナルの解析から得られた。先行研究 (Spranger et al., Nature 2015) では遺伝子操作マウスモデルを用いて、腫瘍細胞内在性β-catenin活性化がBatf3 (Basic leucine zipper ATF-like transcription factor 3) lineage樹状細胞 (DC) の動員に必要なケモカイン遺伝子の転写を抑制し、Batf3+ DC欠如→CD8+ T細胞のプライミング・腫瘍内浸潤の失敗という経路で免疫排除を引き起こすことが因果関係レベルで証明された。このβ-catenin依存的免疫排除はチェックポイント阻害・腫瘍抗原ワクチン・養子T細胞移入の3方式すべての有効性を喪失させ、腫瘍内在性シグナルが免疫療法全般の障壁となりうることを示した。またB16F10メラノーマ・4T1乳腺癌・Neuro2A神経芽腫・Renca腎腺癌の同系モデルでRNA干渉によるβ-catenin抑制がCD8+ T細胞の浸潤とIFNγ関連遺伝子発現を回復させ、ICBとの併用で多くの動物で腫瘍完全退縮が得られることが示されていた。

しかし、WNT/β-cateninシグナルと非T細胞炎症TMEの関連を検証した先行研究はメラノーマにほぼ限定されており、他癌種への広がりについてはデータが手薄であった。この知識上のギャップ (gap in knowledge) により、β-catenin経路阻害がICBの組合せパートナーとして汎癌的に開発すべき優先標的かどうかを判断するためのエビデンスが不足していた。

目的

TCGA 31固形癌種のRNAseqデータを用いてT細胞炎症/非炎症腫瘍を系統的に分類し、WNT/β-cateninシグナル活性化と非T細胞炎症TMEの関連をpan-cancer規模で定量的に解析する。β-catenin活性化は独立した3つのアプローチ — (1) CTNNB1 (catenin beta-1) /APC/APC2/AXIN1 (axis inhibition protein 1) /AXIN2 (axis inhibition protein 2) の体細胞変異・高度コピー数変化 (SCNA; somatic copy number alteration)、(2) 下流標的遺伝子発現に基づくパスウェイ活性化スコア、(3) 逆相転写タンパク質アレイ (RPPA; reverse phase protein array) によるβ-cateninタンパク量 — で評価し、収束的エビデンスを構築する。

結果

T細胞炎症の汎癌的分布:全解析対象9,244腫瘍のうち、非T細胞炎症腫瘍 vs T細胞炎症腫瘍は3,137例 (33.9%) vs 3,161例 (34.2%) の比率で、中間群2,946例 (31.9%) を含むほぼ3等分に分布した (Fig 1A)。癌種別では、非T細胞炎症比率が最高の癌種は傍神経節腫・ぶどう膜黒色腫・副腎皮質癌で、最低は肺腺癌・悪性中皮腫・腎明細胞癌であった。この分布は臨床における抗PD-1/PD-L1単剤の活性パターンと概ね一致する — ぶどう膜黒色腫での有効性は乏しく、肺癌・腎癌・悪性中皮腫では有意な臨床活性が確認されている。

正常組織との比較では、正常組織が入手可能な癌種において、非T細胞炎症腫瘍は対応正常組織より有意に低いT細胞炎症遺伝子発現を示し (P=1.10e-111、両側Welch t検定)、一方T細胞炎症腫瘍は正常組織より有意に高かった (P=2.23e-106) (Fig 1B)。この結果は、非T細胞炎症表現型が癌化の過程で正常組織の免疫浸潤状態が能動的に「失われる」ことで生じることを示唆し、免疫排除が腫瘍生物学の積極的なプロセスである可能性を支持する。例外として腎明細胞癌・腎乳頭状細胞癌・腎嫌色素細胞癌の3型では正常腎もT細胞炎症スコアが低く腫瘍との差が統計的に有意でなかった (P>0.05)。

β-catenin変異/SCNAの非炎症腫瘍への3倍濃縮:CTNNB1 exon3のミスセンス変異 (Ser/Thrリン酸化部位、GSK3β依存性タンパク分解シグナルに影響) は、非T細胞炎症腫瘍においてT細胞炎症腫瘍の3倍の頻度で有意に濃縮されていた (P<0.0001、両側Fisher正確検定) (Fig 2B)。CTNNB1高度コピー数増加も同様に非T細胞炎症腫瘍で高頻度であった。非T細胞炎症腫瘍全体では15.21%がβ-cateninシグナル活性化変異/SCNAを有し、T細胞炎症腫瘍の10.06%を有意に上回った (Fig 2C)。変異の主体はCTNNB1活性化変異とAPC機能喪失変異であり両者はほぼ相互排他的であった。

癌種別では19癌種で非T細胞炎症腫瘍においてβ-cateninシグナル変異・高度SCNA・またはその両方の割合が高く確認された (Fig 2D)。一方で各癌種内のβ-catenin変異/SCNA保有率とT細胞炎症シグネチャースコアの相関は弱く統計的に有意でなかった。これは変異・SCNAだけではβ-cateninシグナル活性化の全体像を説明できず、他の転写制御・エピゲノム機構による活性化が重要な役割を果たすことを示唆する。

β-catenin転写活性化スコアの汎癌的免疫排除関連:IPA CTNNB1下流標的分子を用いたパスウェイ解析では、31癌種中14癌種で非T細胞炎症腫瘍においてβ-catenin活性化スコア>0.5を示す患者の割合が有意に高かった (FDR調整P<0.05、Fisher正確検定) (Fig 3A, 3B)。代表的な値として副腎皮質癌で81% (非T細胞炎症) vs 64% (T細胞炎症)、肉腫で55%の群間差が確認された。合計201のβ-catenin標的分子が少なくとも1癌種で同定され、BMP7・WNT11・TDGF1が腎明細胞癌・卵巣癌・胃癌に共通する標的として同定された。特にWNT11は腎乳頭状細胞癌・卵巣漿液性嚢腺癌・胃腺癌・精巣胚細胞腫瘍で有意に上方制御されており、治療標的候補として注目された。

間質細胞の寄与を評価するため、14癌種でβ-catenin活性化/非活性化サンプル間の免疫スコア・間質スコアを比較した。免疫スコアは14中13癌種で有意に低下していたが (FDR P<0.05、食道癌のみP=0.080)、間質スコアの有意な変化は3癌種のみで確認され方向も一致しなかった。この非対称な結果はβ-catenin活性化に伴う変化が腫瘍細胞内在性の免疫排除を反映しており、間質細胞の寄与は支配的ではないことを支持した。

RPPAタンパク量-免疫シグネチャー逆相関:全31癌種統合解析 (n=9244例) で、RPPAで測定されたβ-cateninタンパク量とT細胞炎症シグネチャー発現スコアの間に有意な逆相関 (Pearson r=-0.44、P<0.0001) が確認された (Fig 4)。個別癌種では20癌種でFDR調整P<0.05の有意な逆相関が得られた。代表例として膀胱尿路上皮癌 (Pearson r=-0.44、P<0.0001)、腎乳頭状細胞癌 (r=-0.42、P<0.0001)、卵巣漿液性嚢腺癌 (r=-0.37、P<0.0001)、肝細胞癌 (r=-0.32、P<0.0001) が示された (Fig 4B)。副腎皮質癌では最強の逆相関 (r=-0.55) が得られたがサンプル数がn=46と限定的であった。

3方法を統合した分析では、31癌種中28癌種 (90%) が非T細胞炎症サブセットにおいていずれかの方法によるβ-catenin活性化エビデンスを有した (Table 1)。Tier 3 (全3方法陽性): 9癌種 — 副腎皮質癌・膀胱癌・食道癌・腎明細胞癌・肉腫・転移性メラノーマ・直腸癌・胃癌・精巣胚細胞腫瘍。Tier 2 (2方法): 8癌種 — 乳癌・結腸癌・腎乳頭状細胞癌・肝細胞癌・卵巣癌・前立腺癌・子宮癌など。Tier 1 (1方法): 11癌種。変異/SCNA保有サンプルとパスウェイ活性化サンプルの一致率は、非T細胞炎症腫瘍で291/348 (83.6%) とT細胞炎症腫瘍の127/225 (56.4%) を有意に上回り (P<0.0001、OR [odds ratio]=3.93)、変異とパスウェイ活性化の間の機能的連関が免疫排除コンテキストで特に高いことが示された。

考察/結論

本研究は、WNT/β-cateninシグナル活性化がメラノーマ固有の現象ではなく、31固形癌種の28種 (90%) において非T細胞炎症TMEと関連する汎癌的な免疫排除メカニズムであることを初めて体系的に示した。先行研究がメラノーマという単一癌種にほぼ限定されていた知見と異なり、本研究はTCGAという大規模公開データベースを用いて複数の独立した評価手法を組み合わせたpan-cancer解析を実現した。この横断的エビデンスはβ-catenin経路阻害が広範ながん種において免疫療法耐性克服の治療標的として追求すべき根拠を大幅に強化するものであり、これまで報告されていない規模の関連を実証した点で新規の知見である。

メカニズム面では、先行マウスモデルでβ-catenin活性化腫瘍がBatf3-DC動員に必要なCXCL9・CXCL10などケモカイン発現を転写レベルで抑制し、CD8+ T細胞のプライミングおよび腫瘍浸潤を阻害することが示されている。本pan-cancer相関が示す逆相関の一貫性はこの機序が癌種を超えて広く機能していることを示唆し、β-catenin活性化腫瘍は本質的にDC欠乏・T細胞欠乏のコールドTMEを形成するというモデルを支持する。非T細胞炎症腫瘍でCD8+ T細胞だけでなく樹状細胞も乏しいという事実は、β-catenin活性化がプライミング段階から免疫を遮断することと整合する。

3評価手法の不一致については重要な考察を要する。変異/SCNAのみでは全体的なT細胞炎症シグネチャーとの相関が弱く、転写制御・エピゲノム変化・シグナルクロストーク等によるβ-catenin活性化が各癌種で追加的に寄与している可能性が高い。また間質細胞由来のβ-cateninシグナルが解析に混入する可能性は完全には排除できないが、間質スコアとβ-catenin活性化の一致性が限定的であったことは腫瘍細胞内在性シグナルが主体であるという解釈を支持する。

臨床応用としての含意は大きい。既存のβ-catenin阻害薬はいずれも単剤での抗腫瘍効果を主エンドポイントとして開発されており登録試験まで進んだものはない。しかしβ-cateninの免疫排除機能 — ケモカイン・サイトカイン遺伝子発現の転写抑制 — を解除するという観点では、免疫促進特化型の阻害薬、あるいは低用量での免疫調節効果に特化した化合物の開発が合理的戦略として示唆される。PTEN/PI3K喪失・FGFR3活性化・PPARγ活性化 (膀胱癌)、WNT+MYC+RAS複合活性化 (大腸癌) など他の免疫排除経路との相互作用も考慮した治療戦略が求められる。またFGFR阻害薬とPD-1/PD-L1阻害薬の組合せ (NCT02393248) は免疫排除型オンコジェニック経路を標的としてICB有効性を拡張する概念実証となりうる。

残された課題として、本研究はin silicoのTCGA解析に基づくものであり、個別患者でのICB治療後臨床転帰との直接的な関連は未検証である。また解析対象をpoint mutation・indel・高度SCNAに限定しており、構造変異や遺伝子融合など他のゲノム変化によるβ-catenin活性化は探索されていない。今後の検討として、非T細胞炎症型腫瘍が多い癌種 (副腎皮質癌・膀胱癌・食道癌・肉腫・転移性メラノーマ・直腸癌・胃癌・精巣癌) でのbaseline β-cateninバイオマーカー (変異体CTNNB1 + 安定化タンパク量のIHCの組合せ) を組み込んだ前向き臨床試験が優先的に求められる。さらに、β-catenin阻害薬単剤の免疫促進効果をエンドポイントに置いた初期臨床試験と、ICBとの組合せ試験のデザインが重要な将来研究である。

方法

データソースとコホート: The Cancer Genome Atlas (TCGA) から31固形癌種のRNA-seq (level 3、2015年2月リリース)、体細胞変異データ (2016年1月)、コピー数データ (2016年1月)、RPPA抗体アレイデータ (2016年1月、MD Anderson Cancer Center処理) をダウンロード。急性骨髄性白血病・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・胸腺腫を除いた9,244腫瘍および683例の対応正常組織を解析対象とした。皮膚悪性黒色腫は原発と転移で別組織として計2ヒストロジーを計上。

T細胞炎症スコアリング: 既報の160遺伝子T細胞炎症シグネチャーに基づき各遺伝子の発現をz-score換算し、係数b_i >0.1で+1、0.1で-1、その他0と分類して合算スコアを算出した。合算スコア80を非T細胞炎症、>+80をT細胞炎症、それ以外を中間群と定義。このシグネチャーは既報の免疫細胞傷害活性スコア (Rooney et al. Cell 2015) との高い相関 (Pearson r=0.83、P=3.57e-09) を示した。

β-cateninシグナル活性化の評価:

  • 方法1 (変異/SCNA): CTNNB1 exon3の非同義変異 (GSK3β [glycogen synthase kinase 3 beta] リン酸化部位aa 29-49) をT細胞炎症群 vs 非炎症群で頻度比較。APC/APC2/AXIN1/AXIN2の機能喪失変異 (非同義変異・ストップゲイン・スプライシング部位変異・フレームシフト)、CTNNB1高度コピー数増加、APC/AXIN1/AXIN2高度コピー数欠失 (GISTIC2基準 ±2) も解析対象とした。
  • 方法2 (パスウェイ遺伝子発現): T細胞炎症/非炎症群間の差次発現遺伝子 (limma voom法、FDR調整P<0.05、fold change ≥1.5) をIngenuity Pathway Analysis (IPA) のCTNNB1下流標的分子と照合し、各患者のβ-catenin活性化スコア (癌種特異的標的分子の≥50%が上方制御) を算出。スコア>0.5を活性化と判定し、T細胞炎症/非炎症群での頻度をFisher正確検定で比較した。xCell (v1.1.0; cell type enrichment scoring algorithm) を用いて64種の間質・免疫細胞型の富化スコアを算出し、β-catenin活性化/非活性化サンプル間でMann-Whitney U検定 (FDR補正) で比較。
  • 方法3 (RPPA): 癌種内でβ-cateninタンパク量とT細胞炎症シグネチャーの一側Pearson相関検定 (R: cor.test, alternative=“less”) を実施し、FDR補正後P<0.05を有意な逆相関とした。

統計解析: 頻度比較にFisher正確検定 (両側)、遺伝子発現比較にlimma voom線形モデル、複数比較補正にBenjamini-Hochberg FDR法を使用。有意水準P<0.05。解析はRおよびBioconductorで実施。