- 著者: Caroline Robert, Jacob Schachter, Georgina V. Long, Ana Arance, Jean Jacques Grob, Laurent Mortier, et al.
- Corresponding author: Caroline Robert (Institut Gustave Roussy, Villejuif, France); Antoni Ribas (University of California, Los Angeles, CA, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 25891173
背景
進行メラノーマの治療において、免疫チェックポイント阻害薬であるイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)は、これまでの標準治療として確立されていた。しかし、イピリムマブ単剤療法では、奏効率(ORR)が10〜15%と限定的であり、全生存期間(OS)中央値も約10〜11ヶ月に留まっていた。さらに、イピリムマブは重篤な免疫関連有害事象(irAE)の発生率が高いという課題も抱えていた。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010やRobert et al. NEnglJMed 2011といった先行研究では、イピリムマブの有効性と安全性プロファイルが報告されているが、より効果的で安全性の高い治療法の開発が求められていた。特に、イピリムマブの毒性プロファイルは、その作用機序であるCTLA-4阻害がT細胞のプライミング段階で広範な免疫活性化を引き起こすことに関連すると考えられており、その管理には専門的な知識が必要であった。
このような背景の中、プログラム細胞死1(PD-1)経路を阻害するモノクローナル抗体であるペムブロリズマブが登場した。ペムブロリズマブは、先行する第I相試験(KEYNOTE-001)において、進行メラノーマ患者に対し33%のORRと23ヶ月のOS中央値を示し、その有望性が示唆されていた。この結果を受け、2014年9月にはイピリムマブ既治療の進行メラノーマ患者に対してFDAから加速承認を受けていた。しかし、イピリムマブ未治療の進行メラノーマ患者に対する一次治療としてのペムブロリズマブの優越性は、直接比較試験によって検証される必要があった。従来の治療法に代わる新たな標準治療を確立するためのエビデンスが不足している状況において、そのギャップを埋めることが喫緊の課題であった。
PD-1/PD-L1シグナル経路は、CTLA-4とは異なるメカニズムでT細胞の活性化を制御することがPardoll et al. NatRevCancer 2012によって報告されており、PD-1阻害薬がイピリムマブと比較して異なる安全性プロファイルと高い有効性を示す可能性が考えられた。特に、腫瘍微小環境におけるPD-L1の発現が、PD-1阻害薬の奏効予測因子となる可能性も指摘されており、Tumeh et al. Nature 2014やRizvi et al. Science 2015などの研究でそのメカニズムが詳細に解析されている。しかし、PD-L1発現のカットオフ値や評価方法の標準化は未解明な点が多く、臨床的有用性についてはさらなる検証が求められていた。
本試験(KEYNOTE-006)は、ペムブロリズマブの2つの投与スケジュール(2週ごとおよび3週ごと)とイピリムマブを直接比較する多施設共同ランダム化第III相試験として計画された。この試験は、PD-1阻害薬が進行メラノーマの一次治療として確立されるか否かを決定づける重要なピボタル試験であり、従来の治療法に代わる新たな標準治療を確立するためのエビデンスが不足している状況において、そのギャップを埋めることを目的としていた。
目的
本研究の目的は、未治療またはイピリムマブ未治療の進行メラノーマ患者において、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ(10 mg/kgを2週ごとまたは3週ごとに投与)が、イピリムマブ(3 mg/kgを3週ごとに4サイクル投与)と比較して、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)において優越性を示すかを検証することである。これにより、ペムブロリズマブが進行メラノーマの一次治療として確立されるか否かを判断するための決定的なエビデンスを提供することを目指した。
副次評価項目として、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間、安全性プロファイル、および患者の生活の質(QOL)を評価した。特に、ペムブロリズマブの異なる投与スケジュール間(2週ごと vs 3週ごと)で有効性と安全性の比較を行うことも重要な目的の一つであった。また、PD-L1発現レベルがペムブロリズマブの有効性に与える影響についても探索的に評価し、バイオマーカーとしての可能性を検討することも目的とされた。本試験は、国際的な多施設共同試験として実施され、多様な患者集団におけるペムブロリズマブの有効性と安全性を検証することを意図していた。
結果
患者背景: 登録された834例の患者背景は、3つの治療群間でバランスが取れていた(Table 1)。年齢中央値は約62歳、男性が約61%を占めた。ECOGパフォーマンスステータス0の患者が約69%、BRAF V600変異陽性患者が約36%であった。PD-L1陽性腫瘍の患者は約80%を占め、約66%の患者がM1cステージの疾患を有していた。乳酸脱水素酵素(LDH)値の上昇は全体の約32%で認められた。約66%の患者が前治療歴なしであり、約34%の患者が1レジメンの前治療を受けていた。
無増悪生存期間(PFS)の有意な延長: 最初のPFS中間解析(データカットオフ日:2014年9月3日)において、ペムブロリズマブ群はイピリムマブ群と比較して有意なPFSの延長を示した(Figure 1A)。6ヶ月PFS率は、ペムブロリズマブ2週ごと投与群で47.3%、ペムブロリズマブ3週ごと投与群で46.4%であったのに対し、イピリムマブ群では26.5%であった。疾患進行または死亡のハザード比(HR)は、ペムブロリズマブ2週ごと投与群対イピリムマブ群で0.58 (95% CI 0.46-0.72, p<0.001) であり、ペムブロリズマブ3週ごと投与群対イピリムマブ群でも0.58 (95% CI 0.47-0.72, p<0.001) であった。PFS中央値は、ペムブロリズマブ2週ごと群で5.5ヶ月 (95% CI 3.4-6.9)、3週ごと群で4.1ヶ月 (95% CI 2.9-6.9)、イピリムマブ群で2.8ヶ月 (95% CI 2.8-2.9) であった。このPFSの優位性は、事前に規定されたすべてのサブグループ(ECOG PS、PD-L1発現、前治療歴、BRAF変異状態など)で一貫して観察された(Figure 2A)。
全生存期間(OS)の優越性: 2回目のOS中間解析(データカットオフ日:2015年3月3日)において、ペムブロリズマブ群はイピリムマブ群と比較して有意なOSの延長を示した(Figure 1B)。12ヶ月OS率は、ペムブロリズマブ2週ごと投与群で74.1%、ペムブロリズマブ3週ごと投与群で68.4%であったのに対し、イピリムマブ群では58.2%であった。死亡のハザード比(HR)は、ペムブロリズマブ2週ごと投与群対イピリムマブ群で0.63 (95% CI 0.47-0.83, p=0.0005) であり、ペムブロリズマブ3週ごと投与群対イピリムマブ群で0.69 (95% CI 0.52-0.90, p=0.0036) であった。データカットオフ時点では、いずれの治療群においてもOS中央値は未到達であった。OSの有意な改善が事前規定された有意水準を超えたため、独立データ安全性モニタリング委員会は試験の早期中止を勧告し、イピリムマブ群の患者にペムブロリズマブへのクロスオーバーを許可した。OSのベネフィットも、PD-L1陰性患者の一部を除き、ほとんどのサブグループで観察された(Figure 2B)。PD-L1陰性サブグループでは、ペムブロリズマブ2週ごと群のHRは0.91、3週ごと群のHRは1.02であったが、このサブグループのサンプルサイズは小さく、信頼区間は広かった。
客観的奏効率(ORR)と奏効持続期間: ORRは、ペムブロリズマブ2週ごと投与群で33.7% (p<0.001 vs イピリムマブ)、ペムブロリズマブ3週ごと投与群で32.9% (p<0.001 vs イピリムマブ) であったのに対し、イピリムマブ群では11.9%であった。完全奏効(CR)率は、それぞれ5.0%、6.1%、1.4%であり、ペムブロリズマブ群でより高いCR率が認められた。奏効までの期間中央値は、ペムブロリズマブ2週ごと群で86日、3週ごと群で85日、イピリムマブ群で87日と類似していた。奏効持続期間中央値は、いずれの群でもデータカットオフ時点で未到達であり、ペムブロリズマブ群では奏効の89.4%および96.7%が、イピリムマブ群では87.9%が継続中であった。腫瘍サイズの最大変化率の評価でも、ペムブロリズマブ群の優位性が支持された(Figure 3)。
安全性プロファイルの比較: 治療関連のGrade 3-5有害事象の発生率は、ペムブロリズマブ2週ごと投与群で13.3%、3週ごと投与群で10.1%であったのに対し、イピリムマブ群では19.9%と、ペムブロリズマブ群で有意に低かった(Table 2)。治療中止に至った治療関連有害事象の発生率も、ペムブロリズマブ2週ごと群で4.0%、3週ごと群で6.9%、イピリムマブ群で9.4%と、ペムブロリズマブ群で低かった。イピリムマブ群で1例の治療関連死が報告されたが、ペムブロリズマブ群では致死的な有害事象は報告されなかった。 最も頻繁に報告された治療関連有害事象(全グレード)は、ペムブロリズマブ群では疲労(20.9-19.1%)、下痢(16.9-14.4%)、発疹(14.7-13.4%)、そう痒症(14.4-14.1%)であった。イピリムマブ群ではそう痒症(25.4%)、下痢(22.7%)、疲労(15.2%)、発疹(14.5%)が多かった。 免疫関連有害事象(irAE)では、甲状腺機能低下症(ペムブロリズマブ群10.1-8.7% vs イピリムマブ群2.0%)、甲状腺機能亢進症(ペムブロリズマブ群6.5-3.2% vs イピリムマブ群2.3%)はペムブロリズマブ群で高頻度であった。一方、大腸炎(ペムブロリズマブ群1.8-3.6% vs イピリムマブ群8.2%)および下垂体炎(ペムブロリズマブ群0.4-0.7% vs イピリムマブ群2.3%)はイピリムマブ群で高頻度であった。肺炎はペムブロリズマブ群で0.4-1.8%の発生率であった。
QOLおよびペムブロリズマブの2スケジュール間の比較: ペムブロリズマブ両群ではQOLが維持または改善される傾向が見られたのに対し、イピリムマブ群ではQOLが低下する傾向が示された。また、ペムブロリズマブの2週ごと投与と3週ごと投与の間で、有効性および安全性プロファイルに臨床的に意味のある差は認められなかった。
考察/結論
KEYNOTE-006試験は、未治療またはイピリムマブ未治療の進行メラノーマ患者において、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブがイピリムマブと比較して、PFS、OS、およびORRのすべてにおいて優越性を示した画期的な第III相試験である。本研究の結果は、抗PD-1抗体が進行メラノーマの新たな標準一次治療として確立されるための決定的なエビデンスを提供した。また、Grade 3-5の治療関連有害事象の発生率もペムブロリズマブ群で低く、効果と安全性の両面で優れたプロファイルを示した。
先行研究との違い: これまでのイピリムマブ単剤療法では、限られた奏効と高い毒性が課題であったが、本研究ではペムブロリズマブがイピリムマブを上回る有効性と良好な安全性プロファイルを示すことが明確に示された。これは、CTLA-4阻害とは異なるPD-1阻害のメカニズムが、進行メラノーマ治療においてより優れた臨床的利益をもたらすことを示唆する。同時期に発表されたRobert et al. NEnglJMed 2015や、Wolchok et al. NEnglJMed 2013と合わせて、本研究はメラノーマ治療のパラダイムシフトを象徴する重要な成果である。
新規性: 本研究で初めて、イピリムマブに対するペムブロリズマブの直接比較において、PD-1阻害薬が一次治療としてPFSとOSの両方を延長することが示された点は新規性がある。特に、ペムブロリズマブの2つの投与スケジュール間(2週ごと vs 3週ごと)で有効性と安全性に差がないことが確認された。これにより、患者の利便性や医療経済性を考慮した投与スケジュールの選択肢が提供されることになった。また、PD-L1発現のサブグループ解析も行われ、PD-L1陽性患者におけるペムブロリズマブの強い有効性が示唆された。
臨床応用: 本研究の知見は、進行メラノーマの臨床現場における治療戦略に大きな影響を与えた。ペムブロリズマブは、その優れた有効性と良好な安全性プロファイルから、イピリムマブ未治療の進行メラノーマ患者に対する第一選択薬として広く採用されるようになった。これにより、患者の長期生存とQOLの改善に大きく貢献している。2015年12月には、FDAが本研究の結果に基づき、ペムブロリズマブを進行メラノーマの一次治療として承認した。現在では、ペムブロリズマブ単剤療法、または他の免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が、進行メラノーマの標準治療として確立されている。
残された課題: 今後の検討課題として、免疫チェックポイント阻害薬治療後に病勢進行した患者に対するサルベージ戦略の確立が挙げられる。また、BRAF変異陽性メラノーマ患者における免疫療法とBRAF/MEK阻害薬の最適な治療シーケンスは未解明な点が多く、さらなる研究が必要である。PD-L1発現が陰性である患者群におけるペムブロリズマブの有効性については、本研究のサブグループ解析で効果量が小さく、サンプルサイズも限定的であったため、より詳細なバイオマーカー研究が今後の課題である。さらに、ネオアジュバント療法やアジュバント療法における免疫チェックポイント阻害薬の役割、脳転移を有する患者に対する有効性、および治療期間の最適化(例:2年間の治療完了後の長期奏効維持)なども、今後の研究で明らかにされるべき重要な論点である。
方法
試験デザイン: 本研究は、多施設共同、ランダム化、非盲検、第III相試験(KEYNOTE-006、NCT01866319)として実施された。試験デザインは、ペムブロリズマブの2つの投与スケジュールをイピリムマブと比較する3アーム構造であった。
対象患者: 進行メラノーマ(切除不能なステージIIIまたはステージIV)患者が対象とされた。主要な適格基準は、イピリムマブ未治療であること、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であること、および前治療が1レジメン以下であることであった。BRAF V600変異陽性患者の場合、BRAF/MEK阻害薬による前治療歴があっても組み入れられた。ただし、活動性脳転移、眼球メラノーマ、または重篤な自己免疫疾患の既往がある患者は除外された。PD-L1発現の評価のため、腫瘍組織検体の提出が必須とされた。
ランダム化と治療: 2013年9月18日から2014年3月3日までの期間に、合計834例の患者が登録され、1:1:1の比率で以下の3群にランダムに割り付けられた。
- ペムブロリズマブ 10 mg/kgを2週ごとに投与する群 (n=279)
- ペムブロリズマブ 10 mg/kgを3週ごとに投与する群 (n=277)
- イピリムマブ 3 mg/kgを3週ごとに4サイクル投与する群 (n=278)
ランダム化は、ECOGパフォーマンスステータス(0 vs 1)、治療ライン(一次治療 vs 二次治療)、およびPD-L1発現状態(陽性 vs 陰性 vs 測定不能)によって層別化された。ペムブロリズマブは疾患進行、許容できない有害事象、患者の同意撤回、または最長24ヶ月の治療期間まで継続された。イピリムマブは4サイクル投与された。
評価項目:
- 主要評価項目: 無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)であった。PFSはランダム化からRECIST v1.1(Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)に基づく疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。OSはランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。
- 副次評価項目: 客観的奏効率(ORR、RECIST v1.1に基づく完全奏効または部分奏効の割合)、奏効持続期間、安全性(NCI-CTCAE v4.0に基づく有害事象の評価)、および患者報告アウトカム(QOL)が含まれた。
PD-L1評価: PD-L1発現は、中央検査室で22C3抗体を用いた免疫組織化学(IHC)法により評価された。腫瘍細胞の1%以上で膜染色が認められた場合をPD-L1陽性と定義した。
統計解析: Kaplan-Meier法を用いてPFSおよびOSの推定値が算出された。治療群間のPFSおよびOSの差は、層別ログランク検定を用いて評価された。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、層別Cox比例ハザードモデルを用いて算出された。奏効率の比較には、層別Miettinen and Nurminen法が用いられた。事前規定された中間解析計画に基づき、2つのペムブロリズマブ群を統合してイピリムマブ群と比較する解析が行われた。最初のPFS中間解析は260例以上の疾患進行または死亡が発生し、かつ全患者が6ヶ月以上追跡された後に行われた。OS中間解析は290例以上の死亡が発生し、かつ全患者が9ヶ月以上追跡された後、または最低追跡期間が12ヶ月に達した時点で行われた。優越性の判断には、PFSで片側α=0.002、OSで片側α=0.005の有意水準が設定された。