- 著者: R. Virtakoivu, J.H. Rannikko, M. Viitala, F. Vaura, A. Takeda, T. Lönnberg, J. Koivunen, P. Jaakkola, A. Pasanen, S. Shetty, M.J.A. de Jonge, D. Robbrecht, Y.T. Ma, T. Skyttä, A. Minchom, S. Jalkanen, M.K. Karvonen, J. Mandelin, P. Bono, M. Hollmén
- Corresponding author: M. Hollmén (University of Turku, Turku, Finland)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-06-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 34078651
背景
腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) は、免疫抑制性の腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) を形成することで、T細胞を標的とした免疫療法の有効性を大幅に損なう主要な因子である。抗PD-1/CTLA-4療法は近年、がん治療に革命をもたらし、一部の患者には予期せぬ治癒の可能性を提供している。しかし、Sharma et al. Cell 2017が報告したように、多くの患者が原発性または獲得性耐性を示し、その理由は未解明な部分が多い。したがって、マクロファージを炎症促進状態に再プログラミングできる薬剤は、固形がんに対する新規免疫療法として期待されている。
Clever-1 (common lymphatic endothelial and vascular endothelial receptor-1) は、Stabilin-1やFEEL-1 (fasciclin EGF-like, laminin-type EGF-like, and link domain-containing scavenger receptor-1) とも呼ばれる多機能スカベンジャー受容体および接着受容体であり、ヒトの単球、免疫抑制性マクロファージのサブセット、リンパ管内皮細胞、肝臓および脾臓の類洞内皮細胞に発現する。マクロファージにおいて、Clever-1は受容体介在性エンドサイトーシスとリサイクリング、細胞内ソーティング、および変化した自己成分や正常な自己成分のトランスサイトーシスに関与している。Clever-1は炎症性サイトカイン分泌を抑制することで抗原特異的T細胞応答を阻害することが示されており、Viitala et al. ClinCancerRes 2019らのマウス腫瘍モデルを用いた先行研究では、Clever-1を阻害するとCD8+ T細胞媒介性の抗腫瘍応答が誘導され、抗PD-1療法への感受性が増強されることが報告されていた。この知見は、がん治療におけるClever-1標的抗体の臨床開発を強く支持するものである。
しかし、Clever-1がヒトの免疫抑制性腫瘍微小環境において、適応免疫細胞を抑制する非冗長的な役割を果たすかどうか、またその詳細な作用機序については、臨床レベルでのエビデンスが不足していた。特に、Clever-1を標的とすることで、マクロファージの機能がどのように変化し、それが全身性および腫瘍内のT細胞応答にどのように影響するかは未解明であり、ヒトを対象としたトランスレーショナルなデータが圧倒的に不足しているという課題が残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、ヒト化IgG4抗Clever-1抗体FP-1305 (bexmarilimab) のin vitroでの作用機序を詳細に解明すること、および進行固形腫瘍患者を対象としたMATINS (Macrophage Antibody To Inhibit Immune Suppression) Phase I/II試験 (NCT03733990) のパート1 (用量探索) における全身免疫活性化プロファイルを包括的に評価することである。具体的には、FP-1305がマクロファージのエンドリソソーム酸性化と抗原分解に与える影響、およびそれによるT細胞活性化への寄与を明らかにすることを目指した。さらに、患者におけるFP-1305投与後の循環単球の表現型変化、遺伝子発現プロファイル、末梢T細胞の活性化、増殖、細胞傷害性、および免疫チェックポイント分子の発現変化を解析し、抗腫瘍免疫応答誘導のメカニズムをin vivoで検証することを目的とした。本研究は、Clever-1がヒトの免疫抑制性腫瘍微小環境において適応免疫細胞を抑制する非冗長的な役割を果たすか否か、およびその詳細な作用機序に関する臨床レベルでのエビデンスが不足しているという課題に取り組むものである。
結果
FP-1305によるv-ATPase複合体との相互作用とエンドリソソーム酸性化の調節: プルダウンアッセイとLC-MS/MS解析により、FP-1305はClever-1と液胞型ATPase (v-ATPase; vacuolar ATPase) のV0ドメイン (ATP6V0A1、TCIRG1など) との多タンパク質複合体と相互作用することが判明した。in vitro試験において、siRNAを用いたClever-1ノックダウン (n=3 replicates) により、KG-1マクロファージのエンドリソソーム酸性化とDQ-OVA抗原分解が有意に障害され (p<0.01)、リソソームへのATP6V0A1リクルートが阻害された。FP-1305処理は、ヒト一次マクロファージにおいてエンドリソソームpHを一時的に低下させた後、24時間後には上昇させ、抗原分解を抑制した。M2分極ヒト一次マクロファージ (n=3 donors) にFP-1305を添加したMLRでは、アイソタイプ対照と比較してCD8+ T細胞増殖が有意に増加し (p<0.0001)、CD8+ T細胞増殖の fold change は約2.0倍の増加を示した (Figure 2J)。
MATINS試験パート1における安全性と循環単球の表現型変化: MATINS試験パート1 (n=30 patients, 0.1〜10 mg/kg) において、最大用量10 mg/kgまでの用量漸増段階で用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) は観察されず、FP-1305は良好な忍容性を示した。FP-1305投与7日後 (D7) に、患者のCD14high単球上でCD206とCD163 (M2マクロファージマーカー) の有意な発現低下が確認された (p<0.05)。単球はサイズと顆粒度が増大し、Clever-1受容体占有率 (R-O; receptor occupancy) は投与24時間後 (D1) に中央値71%に達した。CD14+単球のRNA-seq解析 (n=4 patients) では、D7サンプルでLXR/RXR (liver X receptor/retinoid X receptor) およびPPAR (peroxisome proliferator-activated receptor) 経路の有意な発現抑制 (log2FC < -1.0) と、炎症関連遺伝子 (IL1R2、IL1B、JUN、TNFRSF1A) の上方制御 (log2FC > 1.0) が認められた (Figure 3G, H)。
末梢T細胞の活性化と免疫チェックポイント分子の発現低下: CyTOF解析 (n=7 patients) により、FP-1305投与7日後、naïve CD4+ T細胞 (クラスター#5) とCD8+ T細胞 (#11、#15) でCXCR3・CD25の発現増加が確認された。CD8+ T effector memory (TEM) 細胞集団 (#18) の誘導も観察された。CD4+ T細胞上の免疫チェックポイント分子CTLA-4、LAG-3、PD-1、PD-L1が有意に発現低下した。CD8+ T effector (TEFF) 細胞、TEM細胞、およびダブルネガティブT細胞においてKi67発現増加 (6例中5例、83%) がD7後に観察され、perforin増加も認められた。2例 (n=5 patients中) でperipheral CD8+ T細胞のIL-2・IFN-γ産生増加を確認した (Figure 4E, F, G)。
全身免疫活性化と部分奏効 (PR) を示したCRC患者の解析: 大多数の患者でNK細胞、CD8+ T細胞、B細胞が増加し、FOXP3+CD127low TREG (regulatory T) 細胞が減少した。CD8+ T細胞の増加は0.3 mg/kg群で有意であった (p<0.05) (Figure 5B)。Eisenhauer et al. EurJCancer 2009のRECIST 1.1基準でPR (部分奏効) を示した大腸癌 (CRC) 患者 (n=1 patient) の循環CD8+ T細胞のscRNA-seq+TCR-seqでは、サイクル4でGZMAhigh (グランザイムA) の細胞傷害性T細胞クローンの拡大が観察され、GZMA発現レベルの fold change は治療前と比較して約2.5倍に上昇した (Figure 6C)。腫瘍浸潤解析では、治療後に腫瘍周囲型から腫瘍内CD8+ T細胞プロファイルへの転換が確認され、Clever-1+マクロファージの数が治療後に減少する傾向 (p<0.05) が認められた (Figure 6F)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究で示されたFP-1305の作用機序は、Viitala et al. ClinCancerRes 2019らの先行研究で示唆されたClever-1阻害によるCD8+ T細胞応答の再活性化を、ヒトの臨床データで裏付けるものである。本研究は、従来のT細胞を直接活性化する免疫チェックポイント阻害剤とは異なり、マクロファージのスカベンジャー機能を調節することで間接的に適応免疫を活性化するという点で、これまでの治療戦略と大きく異なる。
新規性: 本研究で初めて、FP-1305がマクロファージのエンドリソソーム酸性化を直接的に調節し、抗原分解を抑制することでT細胞活性化を促進するという新規メカニズムを同定した。これは、Clever-1が適応免疫細胞の抑制において非冗長的な役割を果たすことを示す世界初の臨床エビデンスである。
臨床応用: DLTなしで10 mg/kgまで投与可能であったこと、FP-1305が単球の免疫抑制表現型を変化させ (CD206↓、CD163↓)、末梢T細胞活性化・チェックポイント分子低下 (CTLA-4、LAG-3、PD-1、PD-L1)・IFN-γ産生増加を引き起こしたことは、自然免疫チェックポイントとしてのClever-1の臨床的有用性を強く支持する。CRC患者でのPR例では、腫瘍内CD8+ T細胞浸潤の増加とグランザイムA陽性クローン拡大が観察されており、マクロファージ再プログラミングからT細胞活性化、腫瘍内浸潤、そして抗腫瘍応答へと続く免疫応答の連鎖的活性化という作業仮説を支持する。これらの知見は、免疫的に「冷たい」腫瘍を「熱い」腫瘍へと転換させる可能性を秘めており、がん免疫療法の臨床応用に新たな道を開くものである。
残された課題: 残された課題として、奏効例が限定的であったため、免疫応答の予測バイオマーカー (受容体占有率、ベースラインIFN-γ、CXCL10など) の開発が今後の検討課題である。また、治療後の腫瘍生検が限られていたため、腫瘍内免疫細胞の変化と全身性免疫応答との直接的な関連性をさらに検証する必要がある。FP-1305がリンパ管内皮細胞上のClever-1を標的とすることでT細胞応答に寄与する可能性も否定できず、今後の研究で詳細な解析が求められる。
方法
in vitro試験: FP-1305とClever-1の相互作用を解析するため、プルダウンアッセイを実施し、LC-MS/MS (liquid chromatography-mass spectrometry/MS) を用いてタンパク質相互作用を同定した。具体的には、ヒトM2マクロファージから得られたライセートをFP-1305または対照抗体で免疫沈降させ、共沈降したタンパク質をLC-MS/MSで解析した。エンドリソソーム酸性化、抗原分解、およびCD8+ T細胞活性化能に対するFP-1305の影響を、ヒト一次マクロファージおよびClever-1高発現急性骨髄性白血病細胞株KG-1 (CCL246; ATCC) を用いて評価した。KG-1細胞ではRNA干渉 (RNAi) によりClever-1発現をノックダウンし、エンドリソソーム酸性化、DQ-OVA (DQ-ovalbumin) 抗原分解、およびアセチル化低密度リポタンパク質 (acLDL; acetylated low-density lipoprotein) エンドサイトーシスと酸性化の kinetics を測定した。また、混合リンパ球反応 (MLR; mixed leukocyte reaction) を用いて、FP-1305処理したM2分極マクロファージがアロジェニックT細胞の増殖に与える影響を評価した。統計解析には、Mann-Whitney U検定やStudentのt検定、Wilcoxon符号順位検定が用いられた。
臨床試験 (MATINS試験パート1) : 2018年12月〜2020年4月に、免疫療法抵抗性黒色腫、膵管腺癌、胆道癌、肝細胞癌、卵巣癌、大腸癌 (CRC; colorectal cancer) 患者30例 (ECOG PS 0〜1) を多施設で登録した。本試験は臨床試験登録IDとして NCT03733990 に登録されている。患者は、進行性 (手術不能または転移性)、治療抵抗性、組織学的に確認された肝胆道系がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、または皮膚悪性黒色腫で、標準治療選択肢がない患者が対象とされた。黒色腫患者は抗PD-1/CTLA-4療法後に進行した免疫療法抵抗性患者であった。FP-1305を3週ごと静脈内投与 (0.1〜10 mg/kg) した。安全性、忍容性、および早期有効性を評価した。末梢血単核細胞 (PBMC; peripheral blood mononuclear cells) は、指定された時点 (投与前 (D0)、投与1日後 (D1)、投与7日後 (D7) など) で採取された。CyTOF (mass cytometry) を用いて循環免疫細胞集団の包括的プロファイリングを実施し、CD14+単球のRNA-seq、サイトカインプロファイル、フローサイトメトリー、免疫組織化学 (IHC; immunohistochemistry)、およびsingle-cell RNA-seq (scRNA-seq) +TCR-seqを用いて、FP-1305による全身免疫活性化プロファイルを評価した。RNA-seqデータはGene Expression Omnibus (GEO) に accession code GSE151085 (バルクRNA-seq) および GSE152169 (scRNA-seq) として提出された。統計解析には、GraphPad Prism 9を使用し、P < 0.05を統計的有意差とみなした。比較には、一元配置ANOVA、Friedman検定、二元配置ANOVA、またはStudentのt検定、Mann-Whitney U検定、Wilcoxon符号順位検定を用いた。