• 著者: Maija Hollmén, Mikael Maksimow, Jenna H. Rannikko, Matti K. Karvonen, Marita Vainio, Sirpa Jalkanen, Markku Jalkanen, Jami Mandelin
  • Corresponding author: Maija Hollmén (MediCity Research Laboratory, Faculty of Medicine, University of Turku, Turku, Finland)
  • 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-05-02
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35500016

背景

腫瘍関連マクロファージ (tumor-associated macrophage: TAM) は腫瘍微小環境における免疫抑制の主要な担い手として、T 細胞を標的とした免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 抵抗性の中心的要因と位置づけられている (Li et al. NatImmunol 2021)。特に M2 様 TAM は腫瘍細胞の遊走促進・血管新生・免疫回避を支援し、これらの除去が腫瘍増殖を遅延させることがマウスモデルで示されてきたが、ヒト臨床試験への外挿は困難であった (Chanmee et al. Cancers 2014)。Clever-1 (common lymphatic endothelial and vascular endothelial receptor-1、別名 Stabilin-1/STAB1) は 280 kDa の 1 回膜貫通型スカベンジャー受容体で、循環単球・M2 TAM・脾臓・肝臓・リンパ節・骨髄の洞様内皮細胞に発現し、acetylated LDL (acLDL) 等の不要自己成分のエンドサイトーシスを介して免疫抑制環境を維持する (Palani et al. J Immunol 2016)。マウスモデルでは Clever-1 の遺伝的欠損または抗体ブロックが CD8+ T 細胞依存性の腫瘍殺傷を黒色腫・大腸癌・肺癌モデルで誘導することが報告されており (Viitala et al. ClinCancerRes 2019)、ヒト進行固形腫瘍患者を対象とした MATINS 第 I/II 相試験 (NCT03733990) においても bexmarilimab の全身投与がリンパ球活性化と checkpoint 分子発現低下を伴う免疫活性化を誘導することが示されている (Virtakoivu et al. ClinCancerRes 2021)。しかし、bexmarilimab の詳細な結合特性・生物学的効力・グリコシル化プロファイル・Fc 受容体/補体結合特性・in vivo 安全性を体系的に評価した前臨床的根拠が不足しており、臨床開発を支える包括的な前臨床特性データの確立が求められていた。

目的

抗 Clever-1 ヒト化 IgG4 モノクローナル抗体 bexmarilimab (FP-1305) のヒト化プロセス・Clever-1 結合親和性・エピトープ・モノサイト受容体占有・生物学的効力・グリコシル化安全性・Fc 受容体および補体結合特性・ヒト全血サイトカイン遊離試験・カニクイザルにおける in vivo 受容体占有・薬物動態・安全性を包括的に評価し、MATINS 臨床試験の前臨床的根拠を確立する。

結果

Clever-1 への高親和性結合とエピトープの特定: 競合 ELISA において、親マウス抗体 3-372 (IC50 4.12 nM)・chimeric 抗体 (IC50 4.51 nM) に対し、3 種のヒト化候補は IC50 2.22・1.86・2.48 nM と親和性が向上し (95% CI を Table 記載、Fig. 1A)、最終候補 VH3/VK5 が最高の親和性を示した。SPR 解析では bexmarilimab が KD 0.75 nM で Clever-1 に結合し、親抗体 3-372 (KD 0.55 nM)・VH3/VK5 (KD 0.65 nM) と同等の高親和性を維持した (Table 1A)。ヒト Clever-1 (KD 0.75 nM) とカニクイザル Clever-1 (KD 0.92 nM) で同等の親和性を示した一方、マウス・ラット Clever-1 との結合はリンパ節免疫蛍光で確認されなかった (Fig. 1C)。エピトープ解析により bexmarilimab はヒト Clever-1 の FAS1・FAS2 ファシクリンドメインと EGF 様ドメイン 9 からなる不連続エピトープを認識し、9-11 抗体とは異なることが示された (Fig. 1B)。ヒト末梢血 CD14+ 古典的単球 (CD33+/CD14Br/CD16-) での EC50 は mean 5.28 nmol/L (ドナー間変動あり、Fig. 1D)、Clever-1 高発現 KG-1 細胞での EC50 は 2.20 nmol/L であった (Fig. 1E)。shRNA による KG-1 細胞の Clever-1 ノックダウンが bexmarilimab 結合を消失させることで Clever-1 特異性を確認した (Fig. 1F)。古典的・中間的単球 (CD33+/CD14+/CD16+) での受容体占有試験では、非標識 bexmarilimab が標識 bexmarilimab の結合を阻害したが、異なるエピトープを認識する 9-11 抗体の結合は阻害されなかった (Fig. 1G-H)。

acLDL 取り込み阻害と TNF-α 産生増強: KG-1 細胞に対する flow cytometry 競合アッセイで、bexmarilimab の 2 つの製造バッチは親抗体 3-372 と同等の acLDL 取り込み阻害活性を示した (Fig. 2B)。一方、S. aureus 粒子の monocyte 貪食は bexmarilimab によって有意に変化せず、細菌貪食機能への干渉なしが確認された (Fig. 2A)。ヒト全血中での acLDL 取り込み阻害実験では、1.33 μg/mL bexmarilimab で acLDL 取り込みを mean ± SD: 20.2% ± 3.6 阻害し、受容体占有 (RO) は 21.2% ± 2.1 であった。13.3 μg/mL では阻害率 22.8% ± 5.3 (RO 31.5% ± 14.2)、133 μg/mL では 20.0% ± 4.2 (RO 37.8% ± 7.7) と、RO が上昇しても阻害率がほぼ頭打ちとなり、低 RO・低濃度でも最大 Clever-1 阻害に達することを示した (Fig. 2E-F)。M2 マクロファージ (n=7 ドナー) での LPS 刺激下 TNF-α 産生は、bexmarilimab 0.1-1 μg/mL で有意に増強され (p<0.01 vs isotype control、one-way repeated measures ANOVA + Dunnett 検定)、高濃度ではベル型減衰を示した (Fig. 2C-D)。この用量依存性は炎症前刺激 (TLR4 リガンド LPS) の二次シグナルが存在する条件に限定された。

グリコシル化安全性と Fc 受容体非結合性: N-グリカン定量プロファイリング (3 連測定) により、bexmarilimab の主要グリコフォームは核フコシル化 G0 二分岐グリカンであり、免疫原性が懸念されるシアル化オリゴ糖の割合は <0.6%、galactose-α-1,3-galactose は ≤1% と極めて低く、Fab 部位のグリコシル化が除去されていることも確認された (Fig. 3A)。L248E 変異による Fc エフェクター機能消去を SPR で検証した結果、bexmarilimab は陽性対照 rituximab と比較して FcγRI・FcγRIIa・FcγRIIIa・FcγRIIIb への結合が著明に低下した (Fig. 3B)。抑制性 FcγRIIb への結合は KD 1.14×10-5 M で検出されたが rituximab の KD 5.13×10-6 M より 2.2 倍低親和性であり、循環内因性 IgG (約 10 g/L) が 10 mg/kg bexmarilimab の Cmax (<0.3 g/L) を大幅に上回るため FcγRIIb 介在性の免疫影響は実質的に生じないと評価された。C1q 結合は測定濃度範囲内で認められず (rituximab では EC50 1.4-1.6 μg/mL で結合)、補体古典経路活性化リスクが低いことが示された (Fig. 3C)。

ヒト全血サイトカイン遊離とカニクイザル in vivo 安全性: 健常ドナー n=21 の全血を bexmarilimab 0.1-100 μg/mL で処理した結果、IL6・IL10・IFN-γ・TNF-α の遊離は低サイトカイン放出抗体 cetuximab と同等であった (Fig. 4A-D)。IL8 は 0.1-10 μg/mL bexmarilimab 処理群で cetuximab より有意に低値を示した (p<0.001 および p<0.0001; Fig. 4E)。陽性対照 alemtuzumab は IL6・IL8・IFN-γ・TNF-α の著明な上昇を示し、細胞生存・機能性を確認した。カニクイザル単回投与試験 (3・30・100 mg/kg IV、n=6/群) において、bexmarilimab は投与 0.5 時間後から CD14+ 単球への labeled bexmarilimab 結合の低下 (初回 16-90% 減少) を示し、回復は用量依存的であった: 3 mg/kg では Day 3 (48 時間)、30 mg/kg では Day 7 (144 時間)、100 mg/kg では Day 20 まで受容体占有が持続した (Fig. 5A-C)。薬物動態では末端半減期が雄 10.7-25.1 時間・雌 16.9-24.3 時間であり、AUC∞ は 33 倍の用量増加に対して約 200 倍の非線形増加 (用量以上の増加) を示した。体重・食餌摂取・ECG・眼科所見・組織病理に毒性学的に重篤な変化は認められず、抗薬物抗体 (ADA) も検出されなかった。雌 Day 7 に中等度の一過性 ALT 上昇が観察されたが AST・ビリルビン・トリグリセリドは正常範囲内であり (Fig. 5D)、100 mg/kg でもサイトカインストームは誘導されなかった。

考察/結論

本研究は抗 Clever-1 ヒト化 IgG4 抗体 bexmarilimab の物理化学的特性・結合特異性・生物学的効力・グリコシル化安全性・Fc エフェクター機能消去・カニクイザル in vivo 安全性・受容体占有動態を一体的に示した、新規な前臨床総括報告である。

既報の TAM 標的戦略である CSF1R 阻害薬 (pexidartinib 等) による TAM 除去や CD47/SIRPα ブロックはヒト単剤試験での効果が限定的であり、これまでの研究と対照的に本研究の Clever-1 標的アプローチは「TAM 除去」ではなく「acLDL スカベンジャー機能の抑制を通じた免疫抑制環境の解除と炎症促進サイトカイン誘導」という相違した機序を示した。特に L248E 変異による FcγR 結合の完全消去と C1q 非結合の組み合わせが新規に体系的に検証されており、Fc 介在性の標的外毒性リスクを最小化した本研究で初めて確立された完全ヒト化・エフェクター機能消去型 Clever-1 抗体設計として位置づけられる。TNF-α 産生のベル型用量曲線と LPS 刺激依存性は、腫瘍微小環境に豊富な DAMPs/PAMPs (pathogen/danger-associated molecular patterns) の存在下でのみ bexmarilimab が免疫刺激作用を発揮し、正常組織では過剰活性化が起きにくいという臨床的意義を持つ生物学的根拠となる。

臨床応用に向けた重要な示唆として、bexmarilimab は細菌貪食を障害せずに acLDL 取り込みを選択的に阻害し、低 RO (約 20%) でも最大の Clever-1 機能的阻害を達成できることが判明した。これは他の抗体薬と比べて低用量・低血中濃度での治療が成立することを示唆する。カニクイザルでの 100 mg/kg 単回投与においても忍容性が確認され、進行固形腫瘍患者を対象とした MATINS 試験 (NCT03733990) での臨床適用を支持する前臨床安全性データが確立された。

残された課題として、カニクイザルで観察された非線形薬物動態 (AUC∞ の 200 倍増加) の機序解明 (Clever-1 高発現肝洞様内皮細胞での受容体介在性クリアランス飽和の可能性) とヒトにおける薬物動態予測が必要である。また、雌カニクイザルでの一過性 ALT 上昇の臨床的意義の明確化と長期安全性データの取得が今後の検討課題として挙げられる。limitation として bexmarilimab はマウス・ラット Clever-1 を認識しないため齧歯類を用いた長期毒性評価が不可能であり、安全性評価が霊長類一種に限定される。妊婦の胎盤マクロファージは Clever-1 を発現することから、妊娠中の使用に関するリスクは別途評価が必要である。

方法

抗体作製とヒト化: 親マウス抗体 3-372 (ヒトリンパ管懸濁液免疫マウス由来) から Composite Human Antibody™ 技術 (Abzena) を用い、T 細胞エピトープを回避するよう設計した複合配列から VH2/VK5・VH3/VK5・VH4/VK5 の 3 種のヒト化候補を作製した。最終的に VH3/VK5 に IgG4 ヒンジ安定化変異 S241P (半抗体形成防止) と Fc エフェクター機能消去変異 L248E を導入して bexmarilimab (FP-1305) を確立した。結合親和性評価: 競合 ELISA (三パラメータ非線形曲線 fitting、IC50 算出) と surface plasmon resonance (SPR、Biacore) で KD・Ka・Kd 値を測定。エピトープは CLIPS (chemically linked peptides on scaffolds) 技術 (Pepscan Presto BV) を用いた最大 10,000 の合成ペプチドコンストラクトライブラリで同定。in vitro 機能評価: KG-1 細胞 (ヒト急性骨髄性白血病、ATCC) での acLDL 取り込み阻害を flow cytometry 競合アッセイで測定。M2 マクロファージ (健常ドナー n=7、CD14 Microbeads 分離単球を M-CSF 50 ng/mL 7 日→dexamethasone 100 nmol/L + IL4 20 ng/mL 48 時間で M2 誘導) に bexmarilimab 0.1-50 μg/mL 処理後 LPS 刺激下の TNF-α を ELISA で測定、one-way repeated measures ANOVA + Dunnett 多重比較検定を適用。S. aureus 貪食試験では健常ドナー 3 名の PBMC で AF488 標識 S. aureus 粒子 (10:1 比) を flow cytometry で解析した。安全性評価: Fc 受容体結合は SPR、C1q 結合は ELISA で確認 (rituximab IgG1 を陽性対照)。N-グリカンプロファイルは GlycoWorks RapiFluor-MS N-Glycan Kit を用いて 3 連測定。全血サイトカイン遊離試験は健常ドナー 21 名の全血に bexmarilimab 0.1-100 μg/mL を 24 時間処理し IL6・IL8・IL10・IFN-γ・TNF-α を高感度 Milliplex で測定、one-way ANOVA + paired Student t 検定でcetuximab・alemtuzumab と比較。カニクイザル試験: 雄雌各 3 匹 (n=6/群、2 歳、体重 1.85-2.98 kg) に bexmarilimab を 3・30・100 mg/kg 単回静脈内投与し 21-22 日間観察、受容体占有を flow cytometry で、血清中濃度をサンドイッチ ELISA で測定した。