• 著者: Viitala M, Virtakoivu R, Tadayon S, Rannikko J, Jalkanen S, Hollmén M
  • Corresponding author: Maija Hollmén (University of Turku)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30755440

背景

癌免疫療法は、多様な悪性腫瘍に対して有効性を示しているものの、奏効する患者は少数に留まることが大きな課題である Chen et al. Immunity 2013。効果的で持続的な免疫応答を誘導するためには、適応免疫、特に抗腫瘍性CD8+ T細胞の活性化と動員が不可欠である。腫瘍は、免疫細胞の浸潤の有無によって「炎症型(inflamed)」と「非炎症型(non-inflamed)」に分類され、抗PD-1療法は主に炎症型腫瘍において奏効することが知られている Chen et al. Nature 2017。しかし、炎症型腫瘍であっても全ての患者が奏効するわけではなく、初期に奏効した患者でも治療抵抗性を獲得するケースがある。このため、免疫療法に対する抵抗性を克服し、より広範な患者群で抗腫瘍免疫を再活性化するための新規治療戦略が強く求められている Sharma et al. Cell 2017

腫瘍関連マクロファージ(TAM: tumor-associated macrophage)および骨髄由来抑制細胞(MDSC: myeloid-derived suppressor cell)は、癌関連炎症、癌の進展、および免疫療法抵抗性の主要な制御因子として認識されている。TAMは通常、腫瘍の進展を促進するM2様(免疫抑制性)の表現型を獲得することが多い。これまでの前臨床研究では、CSF-1R(Colony-Stimulating Factor 1 Receptor)阻害によるTAM枯渇戦略が有望視されてきたが、臨床試験においては単剤療法として有意な臨床的恩恵は得られていない。この状況を受け、マクロファージの可塑性を利用し、免疫抑制的なTAMを免疫刺激性の表現型へと「再教育(reeducation)」する代替アプローチが注目されている。

Common lymphatic endothelial and vascular endothelial receptor-1(Clever-1、別名Stabilin-1またはFeel-1)は、Stab1遺伝子にコードされる保存された多機能性接着・スカベンジャー受容体である。この受容体は、特定のサブセットの内皮細胞、免疫抑制性マクロファージ、およびTAMに発現が認められる。先行研究では、Clever-1陽性単球・マクロファージがT細胞を抑制する機能を持つことが示唆されていた。しかし、Clever-1がTAMを介して腫瘍免疫全体をどのように制御するのか、その詳細なメカニズムは未解明であり、その機能的役割には不明な点が残されている。特に、Clever-1が腫瘍微小環境におけるマクロファージの可塑性やT細胞応答に与える影響については、さらなる解明が不足している状況である。

目的

本研究の目的は、マクロファージに発現するClever-1(Common lymphatic endothelial and vascular endothelial receptor-1)が、腫瘍増殖および抗腫瘍免疫応答において果たす役割を、炎症型および非炎症型の複数のマウス癌モデルを用いて詳細に解明することである。具体的には、Clever-1の遺伝的欠損が腫瘍微小環境および全身性免疫応答に与える影響を評価する。さらに、Clever-1の免疫療法的阻害(抗体療法)が、単剤療法として、また既存の免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体との併用療法において、どのような治療効果を発揮するのか、そしてその根底にある免疫学的メカニズムを検証することを目的とする。本研究は、Clever-1を標的とした新規がん免疫療法の開発に向けた基礎的知見を提供することを目指す。

結果

Clever-1欠損による複数腫瘍モデルでの増殖抑制と免疫編集の進行: LLC1 Lewis肺腺癌の皮下腫瘍モデルにおいて、Clever-1-/-マウス(n=10 mice)およびLyz2-Cre/Clever-1fl/flマウス(n=10 mice)は、野生型マウスと比較して腫瘍増殖が有意に抑制された (Fig 1A)。特にLyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスでの抑制がより顕著であり、day 15における腫瘍重量も両KO群で減少した (Fig 1C)。LLC1腫瘍が産生するサイトカインである血清G-CSFも、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスで有意に低下した (p<0.05) (Fig 1D)。腫瘍内の非造血系腫瘍細胞(CD45-生細胞)数も両KO群で有意に減少し (Fig 1E)、残存腫瘍細胞のPD-L1発現が増加していたことは、免疫編集の進行を示唆した (Fig 1F)。E0771乳腺腺癌モデルでは、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスの全例でday 15までに腫瘍が完全に消退し、EL4リンパ腫モデルでもLyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスで有意な腫瘍抑制が確認された (Fig 1G, H)。一方、内皮特異的KO(Tie2-Cre)マウスではEL4腫瘍増殖に差がなく、腫瘍制御がマクロファージ由来であることを強く示唆した。これらの結果は、Clever-1欠損が複数の固形癌モデルにおいて腫瘍の進行を有意に阻害すること、そしてこの効果が主にマクロファージにおけるClever-1の欠損によって媒介されることを明確に示した。

Clever-1欠損による全身的免疫活性化とCD8+ T細胞応答の増強: LLC1担癌Clever-1-/-マウス(n=10 mice)の血清では、主要な炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-2、IL-12p70、TNFα、および炎症性ケモカインであるCCL3、CCL4、CCL5が有意に上昇していた (Fig 2A, B)。これは全身的な免疫活性化を示唆する。腫瘍内では、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスにおいてCD8+ T細胞の腫瘍浸潤が劇的に増加した (Fig 2C, D)。両KO群でCD4+/CD8+比が有意に低下し (Fig 2E)、腫瘍浸潤CD8+ T細胞において疲弊マーカーであるLag3とPD-1の共発現頻度が有意に増加した (p<0.01) (Fig 2F)。この疲弊マーカーの共発現は、T細胞が強力かつ持続的に活性化されている状態を反映すると解釈された。腫瘍所属リンパ節でも両KO群でClever-1欠損による増殖性CD8+エフェクターT細胞頻度が有意に増加しており (p<0.05) (Fig 2G)、腫瘍外でのCD8+ T細胞のプライミング増強が示唆された。これらのデータは、Clever-1欠損が腫瘍微小環境における免疫抑制を克服し、強力な抗腫瘍CD8+ T細胞応答を誘導することを示している。

Clever-1欠損マクロファージとCD8+ T細胞の協調による腫瘍制御: 骨髄キメラ実験では、Clever-1-/-骨髄を移植したキメラマウス(n=8 mice, Clever-1-/- → wild-type)でLLC1腫瘍増殖が有意に抑制され (Fig 3B)、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスと同程度のCD8+ T細胞腫瘍浸潤が確認された (Fig 3D)。キメラ内のTAMはClever-1発現が欠如し、その頻度が低下するとともに、MHC II高発現・CD206上方制御という免疫刺激表現型へのシフトが観察された (Fig 3G, H)。細胞枯渇実験では、マクロファージ(抗CD115抗体)またはCD8+ T細胞(抗CD8β抗体)のいずれかの枯渇により、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスで観察された優れた腫瘍制御が完全に消失した (p<0.001) (Fig 3J)。この結果は、Clever-1欠損マクロファージがCD8+ T細胞を介した腫瘍制御を開始するために必須であることを明確に証明した。すなわち、Clever-1欠損マクロファージが免疫刺激性となり、CD8+ T細胞の活性化と浸潤を促進することで抗腫瘍効果を発揮するメカニズムが示唆された。

Clever-1欠損TAMの免疫刺激性表現型とmTOR活性化メカニズム: LLC1腫瘍内のTAM組成の詳細解析では、Clever-1-/-マウスでTAM総数が有意に減少する一方、MHC II high TAMの割合が有意に増加し (p<0.01) (Fig 4D)、IL-12p40産生が約2.5-fold増加していた (Fig 4H, I)。PD-L1+ TAMの割合も減少した (Fig 4F)。代謝解析では、Clever-1-/- TAMで細胞外酸性化率(ECAR)および解糖能が有意に増加しており (p<0.05) (Fig 5A, B)、これは免疫刺激型活性化と一致する代謝リプログラミングを示唆した。デキサメタゾンで極性化されたClever-1欠損BMDM(n=4 replicates)は、CD206+MHC II+細胞の頻度増加 (Fig 5C)、PD-L1発現低下 (Fig 5D)、IL-10分泌減少 (Fig 5E)、解糖能増加 (Fig 5F) を示した。重要なことに、LPS刺激後のBMDMでmTORリン酸化(S2448)が急速かつ持続的に約3-fold増加していた (p<0.05) (Fig 5I, J, K)。これらの結果は、Clever-1がエンドソームを介したmTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル調節に関与し、Clever-1欠損によってmTORC1活性が増強され、M1様の代謝・炎症活性化が促進されるというモデルを強く支持する。

免疫療法的Clever-1阻害による抗腫瘍効果とPD-1阻害との相乗効果: LLC1担癌野生型マウス(n=5 mice)への抗Clever-1抗体、抗PD-1抗体、および組み合わせ治療の比較では、3群全てがIgG対照と比較して腫瘍サイズおよび腫瘍重量を有意に低減した (p<0.001) (Fig 6C, D)。抗Clever-1単独治療は、抗PD-1単独治療と同等またはそれ以上の腫瘍縮小効果を示した。抗Clever-1治療のみが非免疫系腫瘍細胞のPD-L1発現を有意に低下させ (p<0.05) (Fig 6F)、抗PD-1による免疫療法耐性メカニズム(PD-L1上方制御)がClever-1阻害に対しては防御的でない可能性が示唆された。腫瘍浸潤免疫細胞の解析では、抗Clever-1単独治療でCD8+ T細胞総数は減少したが、CD44 high CD62L high CD8+メモリーT細胞と増殖性PD-1-CD8+ T細胞は3治療群全てで増加した (Fig 6H)。転移性4T1-luc2モデルでは、抗Clever-1+抗PD-1組み合わせ治療が最も効果的で、腫瘍増殖、生存性、肺転移、所属リンパ節転移を最大限に抑制した (Supplementary Fig S7A-D)。免疫原性の高いCT26.WTモデルでも、組み合わせ治療が抗PD-1単独に対して若干の上乗せ効果を示した (Supplementary Fig S7E-G)。これらの結果は、Clever-1阻害が単独で強力な抗腫瘍効果を発揮し、特に攻撃的な腫瘍モデルにおいてはPD-1阻害との併用で相乗効果が得られることを示した。

考察/結論

本研究の最も重要な意義は、マクロファージを標的とした新規免疫療法アプローチとして、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の枯渇ではなく、TAMの再極性化を介した戦略が有効であることを証明した点にある。Clever-1がTAMの20%〜40%にしか発現していないにもかかわらず、その阻害が顕著な腫瘍制御を達成できたことは、この少数のClever-1+ TAMサブセットが腫瘍免疫応答の重要な制御因子であることを示唆する。

先行研究との違い: CSF-1R(Colony-Stimulating Factor 1 Receptor)阻害によるTAM枯渇戦略が臨床で単剤効果が限定的であったのと異なり、本研究は一部のTAMサブセットが効果的な抗腫瘍制御に必要であることを示唆する根拠を提供する。実際に、Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスでのマクロファージ枯渇は腫瘍制御を完全に消失させた。これは、Clever-1阻害により腫瘍制御に有利なマクロファージサブセットが増加する一方、有害なTAMサブセットを減少させるという「選択的再プログラミング」が起きていると考えられる。

新規性: Clever-1欠損によるmTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)活性増強という知見は機械論的に新規である。Clever-1はエンドソーム内でmTOR複合体の局在・活性を制御している可能性があり、Clever-1の細胞内領域のGGA結合部位がリガンドの細胞内選別に必要であるという知見と整合する。LPS刺激後にClever-1 mRNAが迅速に下方制御されることは、炎症状態での自己制御ループの存在を示唆する。

臨床応用: 抗Clever-1とPD-1のシグナルが補完的に作用することも示された。抗PD-1が適応免疫(疲弊T細胞の再活性化)に主に作用するのに対し、抗Clever-1は自然免疫(TAMの再極性化)を介して抗腫瘍免疫を再活性化する。免疫原性の低い冷免疫腫瘍(LLC1)では抗Clever-1が抗PD-1と同等以上の効果を示し、転移性腫瘍では相乗効果があった。Faron Pharmaceuticalsが開発中のヒトClever-1抗体(3-372、後にFP-1305として臨床試験開始)の先行研究として、本論文の結果は臨床応用を支持する強力な根拠を提供する。特に免疫チェックポイント阻害薬に不応答な非炎症型腫瘍患者への新規治療戦略としての臨床的意義は大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、Clever-1欠損マウスと抗体治療マウスで観察されたPD-L1発現の差異や、Clever-1が血管内皮細胞に発現することによる免疫細胞浸潤への影響など、詳細なメカニズムの解明が残されている。また、ヒトにおけるClever-1阻害の安全性と有効性を評価するためのさらなる臨床試験が必要である。Clever-1がB細胞やCD8+ T細胞の表面にも結合し、未知のリガンドを介してこれらの細胞を直接抑制する可能性も示唆されており、このメカニズムの解明も今後の研究方向性である。

結論として、本研究は、マクロファージスカベンジャー受容体Clever-1が、mTORシグナリング増強を介したTAM再極性化を通じて、免疫抑制的腫瘍に対するCD8+ T細胞応答を制御する重要な免疫チェックポイント分子であることを証明した。免疫療法的Clever-1抗体阻害は抗PD-1と同等の抗腫瘍効果を示し、転移性腫瘍では組み合わせが相乗効果をもたらした。これらの知見は、Clever-1阻害が新規がん治療戦略として臨床評価に値することを示唆する。

方法

遺伝子工学的手法: Clever-1の機能的役割を評価するため、C57BL/6N:129SvJ混合背景のClever-1完全ノックアウト(KO: knockout)マウス(Clever-1-/-)、マクロファージ特異的コンディショナルKOマウス(Lyz2-Cre/Clever-1fl/fl)、および血管内皮特異的KOマウス(Tie2-Cre/Clever-1fl/fl)をそれぞれ作製し、実験に用いた。これらのマウス系統は、Clever-1の全身性欠損、マクロファージ特異的欠損、および血管内皮細胞特異的欠損が腫瘍免疫に与える影響を区別して評価するために不可欠であった。

腫瘍モデル: 複数の腫瘍モデルを用いて、Clever-1の役割を広範に評価した。LLC1 Lewis肺腺癌(皮下)、E0771乳腺腺癌(同所性)、EL4リンパ腫(皮下)をそれぞれのsyngeneicモデルに移植した。さらに、転移性腫瘍の評価には4T1-luc2乳腺癌およびCT26.WT結腸癌モデルも使用した。腫瘍の増殖はデジタルキャリパーで測定し、腫瘍体積は「長径 × 短径^2 / 2」の式で算出した。

骨髄キメラ実験: 骨髄由来細胞におけるClever-1の役割を明確にするため、DsRedおよびDsRed/Clever-1-/-骨髄細胞を致死照射した野生型マウスに静脈内移植し、2ヶ月間の再構築期間を設けた後、LLC1腫瘍を移植して腫瘍増殖を比較した。キメラ形成は、血中のDsRed+細胞の頻度を測定することで確認した。

細胞枯渇実験: Lyz2-Cre/Clever-1fl/flマウスにおける腫瘍制御効果の責任細胞を同定するため、抗CD115抗体(マクロファージ枯渇)または抗CD8β抗体(CD8+ T細胞枯渇)を腫瘍細胞注入の8日前から実験終了まで腹腔内投与した。対照群には同量の無関係なIgGを投与した。

免疫療法試験: LLC1腫瘍を担癌した野生型マウスに、抗Clever-1抗体(mStab1-1.26、マウスIgG1)、抗PD-1抗体(RMP1-14)、またはこれらの組み合わせを、癌細胞注入後のday 3、6、9、12に腹腔内投与した。治療効果は、腫瘍増殖、体重変化、腫瘍浸潤リンパ球(TIL: tumor-infiltrating lymphocyte)、および骨髄細胞の表現型変化を評価することで解析した。

フローサイトメトリー: 腫瘍および所属リンパ節から単一細胞懸濁液を調製し、CD3、CD4、CD8、FoxP3、CD206、MHC II、PD-1、Lag3、Ki67、Nos2、Clever-1などの抗体を用いた多重染色により、免疫細胞の表現型を詳細に解析した。細胞数は腫瘍1mgあたりの細胞数として算出した。

免疫組織化学 (IHC): 腫瘍組織の5μm厚切片をヘマトキシリン/エオシン染色および免疫蛍光染色に供した。免疫蛍光染色では、抗CD3、CD31、F4/80、Clever-1抗体を使用し、Hoechstで核を染色した。画像はCarl Zeiss LSM780レーザー走査型共焦点顕微鏡で取得した。

代謝解析: Seahorse XFe96細胞外フラックスアナライザーを用いて、野生型およびClever-1-/- TAMならびに骨髄由来マクロファージ(BMDM: bone marrow-derived macrophage)の細胞外酸性化率(ECAR: extracellular acidification rate)を測定し、解糖能を比較した。BMDMはM-CSF存在下で1週間培養して分化させ、Clever-1発現を誘導するためにデキサメタゾンで24時間極性化した。LPS刺激後のmTOR(mammalian target of rapamycin)およびNF-κB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)のリン酸化は、ウェスタンブロッティングおよびフローサイトメトリーで評価した。

統計解析: データは平均±SEMで示し、群間比較にはMann-Whitney U検定またはKruskal-Wallis検定後にMann-Whitney U検定を用いた。増殖曲線間の比較には、反復測定二元配置分散分析(repeated measures two-way ANOVA)後にTukey多重比較検定を用いた。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。