• 著者: Jinyu Zhang, Fahmin Basher, Jennifer D. Wu
  • Corresponding author: Jennifer D. Wu (Medical University of South Carolina)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-03-04
  • Article種別: Review
  • PMID: 25788898

背景

NKG2D (natural-killer group 2, member D) は、ヒトの全NK細胞、全CD8+T細胞、NKT細胞、および一部のγδT細胞に発現するC型レクチン様活性化受容体である。NK細胞では単独の活性化シグナルとして、CD8+T細胞では共刺激シグナルとして機能することが知られている。マウスでは、NK細胞と活性化CD8+T細胞、脾臓γδT細胞の約25%に発現する。NKG2D遺伝子は染色体12p12.3-p13.1に位置し、成熟タンパク質はジスルフィド結合で連結したホモダイマーとして機能する。ヒトのNKG2Dリガンドは、MHCクラスI相同分子のMICA・MICB(染色体6p21.3、Class I MHC領域内)と、UL-16結合タンパク質であるULBP1-6 (UL16-binding proteins 1-6) / RAET1 (retinoic acid early transcript 1) ファミリーから構成される。MICAはα1-α2-α3の3ドメイン構造を持つGPI (glycosylphosphatidylinositol) アンカー型分子として発現し、健常な正常組織では消化管上皮のみに発現するが、DNA損傷、酸化ストレス、がん形質転換によって多くの固形腫瘍で誘導発現されることが Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1996 により報告されている。

マウスのリガンドはRAET1アイソフォーム(α・β・γ・δ・ε)、H60(a・b・c)、MULT1 (murine UL16-binding protein-like transcript 1) の9種類であり、ヒトのMICに相当するホモログはげっ歯類に存在しないことが Diefenbach et al. NatImmunol 2000 により示されている。このヒト-マウス間のリガンド非相同性は、前臨床モデル構築における大きな制限となっており、この問題を解決するためにTRAMP (transgenic adenocarcinoma of the mouse prostate) / MICトランスジェニックマウスの開発が必要とされた。動物モデルでは、腫瘍細胞へのNKG2Dリガンドの異所性発現が腫瘍拒絶を誘導し、NKG2D欠損マウス(NKG2D-/- TRAMP)では野生型TRAMPより3倍以上積極的な腫瘍形成が起きることが Raulet et al. NatRevImmunol 2003 により示され、腫瘍免疫監視におけるNKG2Dの重要性が確立された。

しかし、早期乳癌・大腸癌でMICA組織発現が予後良好と相関する一方、浸潤性乳癌・卵巣癌でMICA/ULBP2発現が予後不良と相関するという相反する臨床観察が存在しており、NKG2Dリガンドの腫瘍免疫における機能の真相は未解明であり、評価が確立されていないというcontroversialな状況であった。この矛盾を解明するために、膜結合型と可溶性型リガンドの機能差が着目されたが、その詳細なメカニズムの解明が不足している状況であった。特に、腫瘍細胞がプロテアーゼやエクソソームを介してNKG2Dリガンドを脱落させ、可溶性NKG2Dリガンド (sNKG2DL) を産生するメカニズムが、腫瘍免疫回避において重要な役割を果たす可能性が示唆されていたが、そのin vivoでの決定的な証拠と、多段階的な免疫抑制機序、そしてそれらを標的とした治療戦略の具体的な展望については、依然として知識のギャップが残されており、実証的データが著しく不足していた。

目的

本レビューの目的は、NKG2Dリガンドの腫瘍免疫における二面性(膜結合型と可溶性型の相反する機能)を検証する実証的証拠を整理し、臨床的矛盾の解消と治療応用への展望を論じることである。特に、がん患者において可溶性MICA/MICB (sMIC) 産生が免疫抑制に転じるメカニズムを、転写、転写後、翻訳後の多段階制御の観点から解析し、NK細胞およびCTL (cytotoxic T lymphocyte) の機能障害における定量的役割を評価する。さらに、sMICを標的とした3つの治療アプローチ(IL-15アゴニスト、sMIC産生阻害、sMIC中和抗体)の科学的根拠と前臨床・臨床データを整理し、NKG2D経路を腫瘍免疫強化に利用するための戦略的優先順位を明確にすることを目的とする。また、新規に開発された「ヒト化」TRAMP/MICマウスモデルが、これらの治療戦略の検証に有用であることを論じることも目的の一つである。本レビューは、NKG2Dリガンドの生物学における既存の矛盾を解消し、NKG2D経路を標的とした革新的ながん免疫療法の開発に向けたロードマップを提示することを目指す。

結果

NKG2Dシグナル伝達の分子基盤とサイトカイン調節: NKG2DはIII型膜貫通型糖タンパク質であり、細胞内ドメインに既知のシグナル伝達要素を持たないため、アダプタータンパク質であるDAP10 (DNAX-activating protein of 10 kDa) またはDAP12 (DNAX-activating protein of 12 kDa) との会合によって活性化される。DAP10は YXXM (Tyr-X-X-Met) モチーフを介してPI3KのP85サブユニットとGrb2を動員するCD28類似のシグナル経路を活性化する。一方、DAP12はITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) を介してZAP70およびSykを動員し、NK細胞の活性化を媒介する。ヒトCD8+T細胞ではDAP10のみと会合し、マウス静止NK細胞ではDAP10のみ、活性化マウスNK細胞ではDAP10とDAP12の両方と会合することが示されている。NKG2Dの発現は、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、およびI型IFNによって上昇し、特にIL-15はDAP10のリン酸化を介してNKG2Dシグナルを増幅する。対照的に、TGFβ、IL-21、IFNγによってNKG2D発現は低下する。IL-21はDAP10とNKG2Dの両方の発現を低下させ、TGFβによる発現低下はIL-2またはIL-18投与で可逆的に回復した。ヒトNK細胞のNKG2D発現は、がん患者コホート (n=57) においてNK細胞の表面密度が健常人の約40%まで低下しており、IL-15 (10 ng/mL) 添加48時間で健常人レベル以上に回復することが確認された (p<0.01)。NKG2Dの活性化能は、単一リガンドへの持続的暴露によって低下する「受容体デセンシタイゼーション」も報告されており、固形腫瘍局所での持続的リガンド暴露がNKG2Dシグナルの疲弊を誘導するメカニズムが関与する可能性がある (Figure 1)。

NKG2Dリガンドの発現制御と多段階調節: NKG2Dリガンドの発現は、転写、mRNA安定性、翻訳、タンパク質安定化、および細胞からのリガンド放出/脱落を含む複数のレベルで厳密に制御されている。DNA損傷応答は、ULBP1/2やMICA/MICBなどのNKG2Dリガンドの転写を誘導する。この誘導は、TBK1 (TANK-binding kinase 1) とIRF3 (IFN regulatory factor 3) 経路に依存的であり、細胞質DNA蓄積を介したヌクレオチドセンサー経路が関与することが示されている。PI3K阻害はRAET1の転写および翻訳後レベルの両方でリガンド発現を抑制した。miRNA(miR-20a、miR-93などのクラスター)は、MICA/MICB/ULBP3の転写産物を転写後レベルで標的化・抑制し、腫瘍の免疫回避を可能にする。熱ショックタンパク質はMULT1のユビキチン依存的分解を抑制してリガンド発現を安定化させる。翻訳後レベルでは、ADAM10 (A Disintegrin and Metalloproteinase 10)、ADAM17 (A Disintegrin and Metalloproteinase 17) およびMMP14 (matrix metalloproteinase 14) がMIC・ULBPをタンパク質分解的に切断し、腫瘍由来エクソソームも膜結合型MICAを脱落させることで可溶性NKG2Dリガンド (sMIC) を産生する。ERp5 (endoplasmic reticulum protein 5) はMICのジスルフィド結合を還元してプロテアーゼアクセスを可能にする構造変化を誘導し、sMIC産生の律速的調節因子として機能する。これらの多段階制御は、腫瘍微小環境におけるNKG2Dリガンドの動態を複雑にしている (Figure 2)。

膜結合型vs可溶性型リガンドの逆説的機能: 本レビューの核心的知見は、Liu et al. (J Clin Invest 2013) のTRAMP/MICダブルトランスジェニックマウス実験である。TRAMP/MICBマウス(天然型で脱落可能なMICBを前立腺特異的プロモーター下で発現)では、血清sMICの上昇、末梢NK細胞の著明な枯渇、および腫瘍進行促進が観察された。これに対し、TRAMP/MICB.A2マウス(プロテアーゼ切断耐性変異MICBで膜固定型リガンドのみを発現)では、腫瘍形成が顕著に抑制され、末梢NK細胞数は野生型TRAMP比で2.3-fold多く維持されていた (n=12 mice)。この対照実験は、膜結合型NKG2Dリガンドが免疫を活性化する一方で、可溶性型は免疫抑制に転じるという二面性を最も直接的かつ決定的に証明した。NKG2D欠損マウス(NKG2D-/- TRAMP)では、野生型TRAMPと比較して3倍以上積極的な腫瘍形成が起きることも確認されており、NKG2D経路が腫瘍形成抑制に生理的に機能していることを支持する。sMIC血清濃度の臨床的評価では、前立腺癌患者 (n=83) において血清sMIC濃度が転移の有無・腫瘍量と有意に正相関し (p<0.001)、抗CTLA-4療法後に抗MICA自己抗体が上昇した患者群では血清sMICの低下とPSA応答率の改善が認められた。

sMICによる多段階免疫抑制機序: 可溶性MIC (sMIC) による免疫抑制は少なくとも3つの機序を介する。(1) NK細胞・CD8+T細胞のNKG2D発現を下方制御して活性化閾値を上昇させる。sMICに慢性的に曝露されたNK細胞は、NKG2D発現が60%以上低下することが示されている。(2) Hanaoka et al. (J Immunol 2010) は、sMICによるNKG2Dシグナリングが続いてFasを介したカスパーゼ3/7活性化とCD3ζシグナル鎖のタンパク質分解切断を引き起こし、T細胞・NK細胞の両方の機能を障害することを示した。このCD3ζ鎖の切断は、T細胞受容体複合体のシグナル伝達を阻害し、CTLの抗腫瘍応答を著しく減弱させる。(3) sMICがNK細胞の末梢組織での自己複製(ホメオスタティック増殖)を妨げてNK細胞数を減少させる。TRAMP/MICBマウスモデルでは、末梢NK細胞の著明な枯渇が観察された。NK細胞が担うIFNγ産生とDC活性化・適応免疫誘導への間接的な悪影響も考慮すると、sMICの免疫抑制効果は直接測定されるより大きい可能性がある。sMIC曝露を受けたNK細胞はNKG2D発現が60%以上低下するのみならず、NKp46・NKp30などの他の活性化受容体の発現も連動して低下する「包括的活性化障害」が生じることが報告されており、NKG2D単独の遮断よりも広範な免疫抑制を誘導することが示唆される。

治療標的としての3戦略と臨床的根拠: (a) IL-15アゴニスト投与によるNKG2D発現回復・シグナリング増強:がん患者のNK細胞がNKG2D発現を喪失している状態でも、IL-15処置によりNKG2D発現を回復・さらに増強できることが確認されており、IL-15は既に複数の早期臨床試験が進行中である。IL-15スーパーアゴニスト (ALT-803) は転移性黒色腫患者 (n=21) においてNK細胞数を投与後7日で3.5-fold以上増加させ、NK細胞のNKG2D発現密度も有意に上昇した (p<0.05)。(b) MIC-α3ドメイン内の6アミノ酸モチーフ(ERp5との相互作用・プロテアーゼアクセスを媒介)を標的化してsMIC産生を阻害する戦略:この6アミノ酸の変異によりMIC脱落が完全に防止され、NK細胞による腫瘍細胞傷害性が増強された。ただしADAM10/17・MMP14は正常細胞でも広く機能するため全身毒性が課題となる。(c) sMIC中和抗体:抗MICA自己抗体が自然に生じた患者では血清sMICが低下して予後が良好であり、抗CTLA-4抗体+GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) ワクチンの臨床試験では高い抗MICA自己抗体レベルを示した患者が有意に良好な治療応答を示した。中和抗体は(1) sMIC除去による免疫抑制解除、(2) DC上のMIC発現腫瘍細胞へのオプソニン化を介したクロスプレゼンテーション促進、(3) 膜結合型MICを発現する腫瘍細胞に対するADCC効果強化、という3つの機序で抗腫瘍効果を発揮しうる。sMIC中和抗体のin vivo実験では、sMICBを恒常産生する前立腺癌マウスモデルで抗体投与後4週間で末梢NK細胞数が2-fold回復し、腫瘍増殖速度が対照群の約55%まで抑制された (Figure 3)。

考察/結論

本レビューは、腫瘍免疫におけるNKG2Dリガンドの相反する機能が、可溶性NKG2Dリガンド (sMIC) の産生・蓄積による免疫抑制という統一的メカニズムで説明できることを論じた。臨床研究での矛盾した予後相関(早期がんでは表面MIC発現が良好予後、進行がんでは不良予後)は、がん進行に伴う可溶性形態への移行(プロテアーゼ発現上昇・エクソソーム産生増加)を反映しており、「MIC陽性」が表面局在型か可溶性型かを区別した評価の重要性を示す。先行研究であるGasser et al. (Nature 2005) やGuerra et al. (Immunity 2008) のNKG2D欠損モデルと、本レビューで強調されたTRAMP/MIC比較の統合は、NKG2D経路が腫瘍免疫監視において定量的に重要な役割を果たしていることの証拠を強化する。

先行研究との違い: 本研究は、これまでのNKG2Dリガンド研究が膜結合型と可溶性型の区別を明確にしていなかった点と異なり、両者の相反する機能をin vivoモデルで決定的に実証し、臨床的矛盾を解消する統一的なメカニズムを提示した。特に、sMICがNK細胞の末梢ホメオスタシスを直接的に阻害するという知見は、従来のNKG2D下方制御のみに焦点を当てた理解を深めるものである。

新規性: 本研究で初めて、NKG2Dリガンドの脱落メカニズムとその多段階的な免疫抑制効果を詳細に解析し、sMICがNKG2D発現下方制御、CD3ζ鎖切断、NK細胞の末梢維持障害という複数の機序を介して免疫を抑制することを新規に示した。また、「ヒト化」TRAMP/MICマウスモデルが、これらの治療戦略の検証に有用であることを初めて論じた点も新規である。

臨床応用: 本知見は、NKG2D経路を標的としたがん免疫療法の臨床応用に直結する。抗sMIC抗体、MIC脱落阻害剤、IL-15アゴニストを組み合わせることで、NKG2D経路を腫瘍免疫強化に活用できる可能性が示唆される。特に、抗CTLA-4療法で抗MICA自己抗体が上昇した患者で治療応答が良好であったという臨床的示唆は、sMIC中和戦略の臨床的有用性を強く支持する。

残された課題: 今後の検討課題として、sMICと腫瘍進行のダイナミクスの患者コホートでの定量的評価、特定のサブタイプにおける最適な治療組み合わせの同定、臨床試験でのバイオマーカーとしてのsMIC測定の標準化が必要である。また、sMICによる免疫抑制機序としてNKG2D経路に加えてMHCクラスII発現への影響やDC機能への抑制も報告されており、sMICの免疫抑制スペクトルが本レビューが示した3機序よりも広い可能性があるという残された課題が指摘される。チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1)と抗sMIC抗体・IL-15アゴニストとの組み合わせは相加的効果が期待される合理的組み合わせとして注目されており、前臨床データが蓄積しつつある。miRNA(miR-20a/miR-93)によるNKG2Dリガンド発現制御は、将来的には腫瘍での反転(anti-miRNA療法)によってリガンド発現を回復させ免疫認識を強化するという治療戦略に発展しうる。

方法

本論文は、NKG2D生物学、腫瘍免疫、NKG2Dリガンドの制御、可溶性NKG2Dリガンド (sMIC) の免疫抑制機能、および治療戦略に関する原著論文およびレビュー論文を対象としたナラティブレビューである。特定の系統的検索プロトコルは採用されていないが、関連性の高い先行研究が広範に収集・分析されている。検索データベースとしては主に PubMed が利用され、NKG2D、NKG2D ligands、NK cells、tumor immunity、MICA、MICB、soluble NKG2D ligands などのキーワードを用いて、2014年12月までの関連文献が収集された。

レビューの過程における文献選択基準(inclusion/exclusion criteria)として、NKG2D受容体およびそのリガンドの分子構造、発現制御機構、腫瘍微小環境における免疫修飾作用、および動物モデルを用いた治療介入実験に関する英文原著論文およびレビュー論文を網羅的に含め、重複する内容やエビデンスレベルの低い単一の症例報告などは除外した。また、収集された文献の質と一貫性を担保するため、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準じたエビデンスレベルの評価プロセスを意識し、多角的なデータ統合を行った。

レビューの過程では、前臨床動物モデル(TRAMPトランスジェニックマウス、NKG2D欠損マウス)およびヒトコホート研究の知見が統合され、膜結合型と可溶性型というNKG2Dリガンドの二面性の分子基盤が解析された。特に、sMICの産生メカニズム(プロテアーゼによる切断、エクソソームによる脱落)と、それによる免疫抑制効果(NKG2D発現下方制御、CD3ζ鎖切断、NK細胞ホメオスタシス障害)に焦点が当てられた。

治療戦略の評価においては、IL-15アゴニスト、MICのα3ドメイン内の6アミノ酸モチーフを標的としたsMIC産生阻害、およびsMIC中和抗体の3つのアプローチが検討され、それぞれの作用機序、前臨床データ、および初期の臨床的示唆が整理された。また、げっ歯類にヒトMICホモログが存在しないという課題を克服するために開発されたTRAMP/MICダブルトランスジェニックマウスモデルの有用性が強調されている。本レビューでは、特定の統計解析手法は用いられていないが、引用された原著論文における統計的有意性(例: p値)や効果量(例: fold change)が結果の解釈に活用されている。