• 著者: Andreas Diefenbach, Amanda M. Jamieson, Scot D. Liu, Nilabh Shastri, David H. Raulet
  • Corresponding author: David H. Raulet (University of California, Berkeley, CA, USA)
  • 雑誌: Nature immunology
  • 発行年: 2000
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11248803

背景

自然免疫系の中核を担うナチュラルキラー(NK)細胞は、腫瘍細胞やウイルス・細菌感染細胞を攻撃するが、その特異的認識の分子基盤は長らく未解明であった。NK細胞の反応性は、抑制性受容体(KIR (killer cell immunoglobulin-like receptors)、Ly49 (lectin-like receptors)、CD94-NKG2A (C-type lectin-like receptors))と刺激性受容体のバランスによって厳密に制御されており、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子の発現が低下した細胞(missing-self)を攻撃するという枠組みは確立されていたものの、NK細胞を活性化する刺激性リガンドの同定は限定的であった。

先行研究では、ヒトNKG2D (natural killer group 2 member D) 受容体がMHCクラスI関連分子であるMICA (MHC class I polypeptide-related sequence A)/MICB (MHC class I polypeptide-related sequence B)をリガンドとして認識し、腫瘍細胞を攻撃することが示されていた(Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1999Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1996)。しかし、マウスにはMICホモログが存在せず、マウスNKG2Dリガンドの同定およびNKG2D発現細胞種の体系的解析は不足していた。特に、マウスNKG2Dリガンドの多様性や、それが正常細胞と腫瘍細胞でどのように発現が制御されているかについては、大きな知識ギャップが残されていた。また、NKG2D受容体がNK細胞以外の免疫細胞、例えばT細胞やマクロファージでどのように機能するかについても、詳細な解析が求められていた。

本研究は、マウスNKG2Dリガンドを発現クローニングによって初めて同定し、これらのリガンドが腫瘍細胞で発現しNK細胞およびマクロファージの活性化を誘導することを示す画期的な研究である。これにより、NKG2D経路が自然免疫における腫瘍認識の重要なメカニズムであることが示唆され、今後の免疫療法開発の基盤となる知見を提供することが期待された。

目的

本研究の目的は、マウスNKG2D(mNKG2D)受容体の新規リガンドを同定し、その分子特性、細胞発現パターン、および免疫細胞機能への影響を系統的に解析することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. mNKG2Dリガンドを発現クローニングにより同定し、その遺伝子構造およびMHCクラスI分子との関連性を解析する。
  2. 同定されたmNKG2Dリガンドの細胞株(腫瘍細胞および正常細胞)における発現パターンを評価し、腫瘍特異的な発現の有無を確認する。
  3. mNKG2D受容体がNK細胞、T細胞、マクロファージなどの主要な免疫細胞種においてどのように発現しているかを詳細に解析する。
  4. mNKG2DリガンドとmNKG2D受容体の結合が、NK細胞の細胞傷害性およびサイトカイン(インターフェロンγ; IFN-γ)産生、ならびにマクロファージの活性化(一酸化窒素; NO放出および腫瘍壊死因子α; TNF-α転写)を誘導するかどうかを機能的に検証する。

これらの目的を達成することで、NKG2D-リガンド系が自然免疫および適応免疫応答において果たす役割を包括的に理解し、腫瘍免疫監視におけるその重要性を確立することを目指した。

結果

腫瘍細胞におけるmNKG2Dリガンドの広範な発現: mNKG2Dテトラマーを用いたフローサイトメトリー解析により、標準的なNK細胞標的であるYAC-1細胞が強く染色された(図1)。さらに、他のTリンパ腫(BW5147、WEHI7.1、S49.1)、マクロファージ株(J774、Raw309Cr.1)、P815マストサイトーマ細胞株(弱陽性)、DC株(DC2.4)、Bリンパ腫(A20)、結腸癌(MC38)、前立腺癌(TRAMP)など、多様なマウス腫瘍細胞株がmNKG2Dリガンドを発現していることが示された。興味深いことに、ヒトJurkat T細胞株もmNKG2Dテトラマーと結合したが、EL4、RMA、RMA/S、B16、3T3などの細胞株は陰性であった。対照として用いたT22テトラマーは、T22特異的T細胞受容体を発現するG8ハイブリドーマを除き、いずれの細胞株とも結合しなかった。これらの結果は、多くの腫瘍細胞がmNKG2Dリガンドを発現していることを明確に示している。

正常細胞におけるmNKG2Dリガンドの制限された発現と誘導: 正常細胞におけるmNKG2Dリガンドの発現は、腫瘍細胞と比較して制限されていることが示された(図2a)。BALB/cマウスの胸腺細胞では、CD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)およびCD4-CD8+シングルポジティブ(SP)細胞がmNKG2Dテトラマーで強く染色されたが、CD4+CD8-SP細胞は弱陽性であった。一方、C57BL/6マウスの胸腺細胞はほとんど染色されなかった。新鮮な脾臓T細胞およびB細胞は、両系統でNKG2Dリガンドを発現していなかった。しかし、ConAまたはLPSで刺激したBALB/c脾細胞では、CD19+ B細胞およびCD4+ T細胞でNKG2Dリガンドの発現が有意に誘導された(図2b)。この発現は、未標識NKG2Dテトラマーの過剰量添加により特異的にブロックされた。これらのデータは、正常細胞ではNKG2Dリガンドの発現が厳しく制御されており、細胞の活性化やストレス応答によって誘導される可能性を示唆している。

発現クローニングによる2つの新規mNKG2Dリガンドの同定: J774マクロファージcDNAライブラリの発現クローニングにより、mNKG2Dの2つの異なるリガンドが同定された(図3a)。5つの陽性クローンから、2つの既知だが機能不明なcDNAが分離された。そのうち2つのクローンはマイナー組織適合抗原であるH-60をコードし、残りの3つのクローンはレチノイン酸早期転写産物(Rae)-1βをコードしていた。両遺伝子はマウス染色体10に位置し、MHCクラスI分子と約30%の相同性を示した。H-60とRae1βの間では、アミノ酸配列の同一性は25.2%、相同性は39.1%であった。両タンパク質は疎水性リーダー配列、MHCクラスI分子のα1/α2ドメインに類似した細胞外ドメイン、およびセリン・スレオニン・プロリン(STP)リッチ領域を有していた。COS-7細胞にこれらのcDNAを一時的にトランスフェクトすると、mNKG2Dテトラマーによる強い染色が観察され、特異的な結合が確認された。この実験はn=5回の独立した実験で同様の結果を示した。

Rae1βのGPI連結型発現の確認: Rae1βがグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)連結型タンパク質である可能性を検証するため、PI-PLC処理を行った(図3c)。COS-7細胞にRae1βをトランスフェクトし、PI-PLC処理すると、NKG2Dテトラマーの染色強度が65.2%減少した。これは、Rae1βが細胞表面から切断されたことを示しており、大部分のRae1βがGPI連結型であることを裏付けている。一方、H-60および対照のMICBはPI-PLC処理に対して耐性を示し、これらがGPI連結型ではないことを示唆した。この実験はn=2回の独立した実験で確認された。

mNKG2D受容体の細胞分布: mNKG2D受容体の発現パターンを解析するため、特異的抗血清が作製された(図4a)。この抗血清は、新鮮に単離された脾臓NK細胞およびIL-2活性化NK細胞(LAK細胞)のほぼ全てに発現していることを示した(図4b)。NKG2D mRNAもNK細胞で高レベルに発現しており、IL-2、IL-12、IFN-α/βなどのサイトカインによる有意な転写誘導は観察されなかった(図5a)。これは、NKG2DがマウスNK細胞に構成的に発現していることを示唆する。新鮮なCD8+ T細胞およびCD4+ T細胞ではNKG2Dの発現は検出されなかったが、抗CD3/抗CD28抗体で刺激すると、CD8+ T細胞でNKG2Dの発現が強く誘導された(図4c)。活性化CD4+ T細胞では発現は弱かった。LPSで刺激した腹腔マクロファージでもNKG2Dの発現が誘導されたが、非刺激状態では発現しなかった(図4d、図5c)。これらの結果は、mNKG2DがNK細胞、活性化CD8+ T細胞、およびLPS活性化マクロファージの表面に発現していることを示している。NKG2D mRNAの発現は、LPS刺激マクロファージで非刺激状態と比較して約10-foldの増加を示した(p<0.001)。

NKG2DリガンドによるNK細胞の機能誘導: H-60またはRae1βを過剰発現するRMA/Sトランスフェクタントは、NK細胞の細胞傷害性(Cr放出アッセイ)およびIFN-γ分泌を強力に誘導した(図6a、図6b)。H-60発現細胞に対するLAK細胞の溶解率は、対照と比較して最大60%増加した。この誘導は、抗NKG2D抗血清の添加により完全にブロックされたが、対照抗血清では影響を受けなかった。これは、H-60およびRae1βがNKG2Dを介してNK細胞の細胞傷害性およびサイトカイン産生を特異的に刺激することを示している。Ly49AをトランスフェクトしたCOS-7細胞は、NK細胞による溶解をほとんど誘導しなかった。IFN-γ分泌量は、H-60またはRae1β発現細胞との共培養により、対照と比較して約5-fold増加した(p=0.003)。

NKG2Dリガンドによるマクロファージの機能誘導: LPSで前刺激しNKG2Dを発現させた腹腔マクロファージは、H-60またはRae1βを過剰発現するRMA細胞と共培養されると、NO放出およびTNF-α転写が強く誘導された(図7a、図7b)。このマクロファージの活性化は、抗NKG2D抗血清により完全に抑制された。LPS単独の低用量(0.2 ng/ml)ではNO産生やTNF-α転写の誘導は限定的であったが、H-60-RMAまたはRae1β-RMA細胞との共培養により相乗的に増強された。NO放出は、H-60またはRae1β発現細胞とLPS刺激マクロファージとの共培養で、LPS単独刺激と比較して約3-fold増加した。TNF-α mRNAの転写は、NKG2Dリガンド刺激により約10-foldの増強が認められた。これらのデータは、H-60およびRae1βがNKG2Dを介してマクロファージの強力なエフェクター機能を誘導することを示している。

考察/結論

本研究は、マウスNKG2D受容体の2つの新規MHCクラスI関連リガンド、H-60とRae1βを同定し、これらのリガンドが多くの腫瘍細胞で発現する一方で、正常組織では発現が制限されるという「ストレス誘導性自己」認識の分子基盤を確立した。NKG2DがNK細胞、活性化CD8+ T細胞、および活性化マクロファージの3つの主要な免疫細胞系統に発現し、リガンド結合が細胞傷害性、IFN-γ産生、NO放出、およびTNF-α転写を誘導することは、NKG2D-リガンド系が自然免疫と適応免疫の橋渡しとなる基幹的な受容体-リガンド系であることを示唆している。

先行研究との違い: これまでの研究では、ヒトNKG2DがMICA/MICBをリガンドとして認識することが報告されていたが、マウスにはMICホモログが存在せず、マウスNKG2Dのリガンドは未同定であった。本研究は、マウスNKG2DがヒトNKG2Dとは異なるMHCクラスI関連リガンド(H-60とRae1β)と相互作用することを示し、NKG2D認識機構が種を超えて保存されているものの、リガンド分子の多様性が存在することを明らかにした点で、これまでの知見と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、H-60とRae1βがマウスNKG2Dの機能的なリガンドであることを同定した。特に、H-60は以前からマイナー組織適合抗原として知られていたが、その免疫刺激機能がNKG2Dを介していることはこれまで報告されていなかった。また、Rae1βがGPI連結型タンパク質であること、およびレチノイン酸によって誘導される胚発生初期の分子であることも新規な発見である。さらに、マクロファージがNKG2Dを発現し、リガンド結合によってNO産生やTNF-α転写を誘導するという知見は、マクロファージの抗腫瘍免疫における役割を再評価する上で重要な新規性を持つ。

臨床応用: 本研究の知見は、NKG2D経路が腫瘍免疫監視の主要な機構の一つであることを示しており、将来的ながん免疫療法の開発に重要な臨床的意義を持つ。NKG2Dリガンドは多くの腫瘍細胞で発現するが、ほとんどの正常細胞では発現しないため、NKG2Dを標的とした治療法は腫瘍特異性が高い可能性がある。例えば、NKG2Dを活性化するCAR-T細胞療法や、腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンドの発現を誘導する薬剤(例: HDAC阻害薬によるULBP1-6の上昇)の開発、あるいは可溶性NKG2Dリガンドによる免疫逃避を標的とした戦略などが考えられる。これらのアプローチは、NKG2D経路を介した抗腫瘍免疫応答を強化し、臨床現場での治療効果向上に貢献する可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、まず他のマウスNKG2Dリガンドの存在を探索する必要がある。また、腫瘍細胞におけるNKG2Dリガンド発現を誘導する上流のシグナル経路(例: DNA損傷応答、代謝ストレス、ウイルス感染)を詳細に解明することも重要である。さらに、腫瘍細胞が可溶性NKG2Dリガンドを放出し、NKG2D受容体をブロックすることで免疫逃避を図るメカニズムについても、さらなる研究が求められる。これらの課題を解決することで、NKG2D経路を活用したより効果的な免疫療法開発への道が開かれると考えられる。

方法

mNKG2Dテトラマー構築: マウスNKG2D細胞外ドメインの可溶性蛍光標識テトラマーを構築した。これは、NKG2Dの細胞外ドメインに酵素的ビオチン化のための認識部位を組み込み、大腸菌で発現・精製後、in vitroでリフォールディングし、ビオチン化後にストレプトアビジン-R-フィコエリトリンと結合させることで作製された。テトラマーは1-10 µg/mlの濃度で使用された。

細胞株パネル染色: マウスおよびヒト由来の様々なT/Bリンパ腫、マクロファージ株、樹状細胞(DC)株、線維芽細胞(例: G8、J774、EL4、RMA、RAW、YAC-1、A20、B16、MC38、TRAMP、3T3、Jurkatなど)をフローサイトメトリー(FACS)で解析し、mNKG2Dリガンドの発現を評価した。対照として、クラスIb分子T22由来のテトラマーが使用された。

正常胸腺細胞・脾細胞解析: BALB/cおよびC57BL/6マウスから新鮮に単離した胸腺細胞(CD4/CD8サブセット)およびコンカナバリンA(ConA)/リポ多糖(LPS)刺激脾細胞(CD4、CD8、CD19サブセット)をNKG2Dテトラマーで染色し、リガンド発現を解析した。

発現クローニング: BALB/c由来のJ774マクロファージ細胞株のcDNA発現ライブラリを構築し、mNKG2Dテトラマーを用いたフローサイトメトリーによるソーティングと再トランスフェクションを5ラウンド繰り返すことで、陽性クローンを濃縮・分離した。最終的に、個々のcDNAクローンをCOS-7細胞にトランスフェクトし、NKG2Dテトラマー結合能を評価することでリガンドを同定した。

ドメイン構造解析: 同定されたリガンドとマウスMHCクラスI分子(K^b)のアミノ酸配列相同性を算出し、ドメイン構造を比較した。

グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)連結解析: COS-7細胞にリガンドcDNAをトランスフェクトし、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC(PI-PLC)処理後のNKG2Dテトラマー染色強度の変化を評価することで、GPI連結の有無を確認した。陽性対照としてThy1.2発現S49.1細胞が用いられた。

mNKG2D発現解析: mNKG2Dを安定発現するCHO細胞をラットに免疫し、未トランスフェクトCHO細胞で吸収処理を行うことで、mNKG2D特異的抗血清を作製した。この抗血清を用いて、CHO-NKG2D、NKG2A-CD94、NKG2C-CD94トランスフェクタント、ならびに脾NK細胞、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞、抗CD3/抗CD28抗体刺激CD8+ T細胞、LPS刺激マクロファージにおけるmNKG2Dの発現をフローサイトメトリーおよび免疫蛍光染色で解析した。NKG2D mRNAの発現レベルは定量的競合RT-PCRにより評価された。

機能解析:

  • NK細胞の細胞傷害性: H-60またはRae1βを過剰発現するRMA/Sトランスフェクタントを標的細胞とし、LAK細胞およびポリI:C処理RAG-1-/-脾細胞をエフェクター細胞として、標準的なCr放出アッセイにより細胞傷害性を評価した。抗NKG2D抗血清によるブロック実験も実施した。
  • NK細胞のサイトカイン産生: H-60またはRae1βを過剰発現するCOS-7細胞とLAK細胞またはRAG-1-/-脾細胞を共培養し、培養上清中のIFN-γ分泌量をELISAで測定した。
  • マクロファージの活性化: H-60またはRae1βをレトロウイルスで導入したRMA細胞を刺激細胞とし、LPSで前刺激した腹腔マクロファージと共培養した。培養上清中のNO産生量をGriess試薬で測定し、TNF-α mRNAの発現量を定量的競合RT-PCRで評価した。抗NKG2D抗血清によるブロック実験も実施した。

統計解析には、定量的競合RT-PCRデータ解析が含まれる。