• 著者: Bernhard Mlecnik, Gabriela Bindea, Helen K. Angell, Pauline Maby, Mihaela Angelova, David Tougeron, Sarah E. Church, Lucie Lafontaine, Franck Pagès, Viia Valge-Archer, Jean-Baptiste Latouche, Jérôme Galon et al.
  • Corresponding author: Jérôme Galon (INSERM UMRS1138, Paris, France)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-03-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26982367

背景

大腸癌 (colorectal cancer、CRC) の予後予測においてAJCC/UICC TNM分類が標準として用いられてきたが、同一病理学的病期内での転帰の大きなばらつきは解消されない根本的問題であった。腫瘍浸潤免疫細胞の予後的意義は段階的に報告が蓄積し、特にCD8+細胞傷害性T細胞 (CTL、cytotoxic T lymphocyte) とCD45RO+ (memory T cell isoform of CD45) エフェクターメモリーT細胞の腫瘍内密度がCRC患者の生存と強く相関することが示されてきた (Galon et al. Science 2006)。この知見をもとに、腫瘍中心部 (CT) と浸潤辺縁部 (IM) の細胞傷害性・メモリーT細胞密度を0〜4点で定量するImmunoscore概念が提唱されたが、TNM分類との比較優位性の定量的実証は進んでいなかった (Fridman et al. NatRevCancer 2012)。

一方、マイクロサテライト不安定性 (MSI、microsatellite instability) はDNAミスマッチ修復 (MMR、mismatch repair) 系の欠損によるフレームシフト変異蓄積と免疫原性ネオ抗原産生を特徴とし、CRCにおける良好な予後と転移リスク低下と関連することが知られていた。抗PD-1療法がMMR欠損腫瘍で顕著な効果を発揮することが報告されてからは (Le et al. NEnglJMed 2015)、MSIの免疫療法バイオマーカーとしての重要性がさらに注目された。しかし、MSI・腫瘍免疫浸潤・ImmunosoreとCRC患者生存の関係を複数コホートで統合的に解析した研究は存在せず、ここが大きな gap in knowledge であった。また、大腸癌腫瘍内における変異特異的T細胞の機能的活性の実証的証拠も手薄であり、ヒトCRCで免疫編集 (immunoediting) が実際に生じているかどうかも不明なままであった。

目的

MSIとImmunoscore・腫瘍免疫浸潤・患者生存の関係を3コホートの統合解析によって解明し、MSI腫瘍における変異特異的CTLの機能的存在を実証する。Cox多変量解析においてImmunoscore対MSIの独立予後予測能を比較する。

結果

MSI腫瘍とMSS腫瘍の免疫遺伝子発現プロファイルと患者生存:コホート1 (n=270) のRNA-seq解析で、MSI腫瘍とMSS腫瘍の間にn=951個の有意差発現遺伝子が同定された (上昇456・低下495; Benjamini補正p<0.05) (Fig 1A)。ClueGO/CluePediaによる経路濃縮解析では、主要過剰発現経路として抗原プロセシング・提示、IFNγシグナル、サイトカイン応答、白血球遊走が特定された (Fig 1B-C)。immunome解析では、CD8、CTL、Th1、Th2、Tfh (T follicular helper)、B細胞マーカーがMSI腫瘍で有意に高発現しており、IFNG・IL-15・グラニュライシン (granulysin、GNLY)・CCL3 (C-C motif chemokine ligand 3)・CXCL16 (C-X-C motif chemokine ligand 16) もMSI腫瘍で有意増加していた (Fig 2A-B)。コホート2 (n=689) のqPCRで同パターンが再現された (Fig 2C)。MSS患者は免疫遺伝子発現において不均質であり、一部はMSI患者と同等の高免疫遺伝子発現サブグループ (MSS-Hi、high immune gene expression) を形成した。MSS-Hi患者はMSS低発現患者より再発リスクが有意に低く (HR=2.1 [1.1-4.1]、p=0.03)、MSI患者との有意差はなかった。一方、MSS患者の腫瘍関連遺伝子の高低発現は無病生存に影響しなかった。

MSI腫瘍における免疫細胞浸潤密度の増大:コホート2 (n=490) のTMAによるIHC解析で、MSI患者はMSS患者と比較してCD8+T細胞の腫瘍腺内浸潤密度 (CT・IM ともp<0.05)、GZMB (IM、p<0.05)、B細胞 (CD20、IM、p<0.05)、腫瘍内マクロファージ (CD68、CT、p<0.001) がいずれも有意に高かった (Fig 3B)。増殖T細胞 (CD3+Ki67+) もリンパ球浸潤巣および浸潤辺縁部で有意に増加した (各p<0.05) (Fig 3D)。エフェクターメモリーT細胞 (CD3+CD45RO+CCR7-CD28-) はフローサイトメトリー解析でMSI患者に有意に多く (p<0.05)、対照的にTh17浸潤はMSS患者のCTで有意に高かった (p<0.05)。Lynch症候群患者はMSI散発例と同等の免疫浸潤密度を示し、高Immunoscore (I3またはI4) 頻度はMSS患者より有意に高く、MSIの由来 (散発性 vs 遺伝性) は浸潤の決定因子ではなかった。

ImmunoscoreによるMSI・TNMを超えた独立予後予測:コホート2のKaplan-Meier解析で、Immunoscore I4患者はI0患者と比較してDSS (HR=6.21 [3.42-11.27]、p=8.55E-12)、DFS (HR=6.35 [3.64-11.08]、p=6.8E-11)、OS (HR=3.96 [2.42-6.47]、p=3.69E-9) のいずれも著明に良好であった (Fig 5F)。高Immunoscore (I3-I4) はMSI・MSS問わず良好なDSS・OS・DFSと関連し (Fig 5G-H)、低Immunoscore (I0-I2) のMSI患者は高Immunoscore患者と比較してDSS (HR=2.4 [1.1-5.24]、p=0.023) および OS (HR=1.8 [1.04-3.11]、p=0.033) が有意に短かった。MSS患者の約50%が高Immunoscoreを示し、高ImmunosocreのMSS患者ではPDCD1 (programmed cell death 1、PD-1をコードする遺伝子)・CD274 (programmed death-ligand 1 gene) mRNA発現が有意に高かった。stepwiseAIC法によるCox多変量解析 (n=367) では、全共変量投入後もImmunoscore (HR=0.61 [0.5-0.74]、p=0.0001) とVELIPI (vascular emboli, lymphatic invasion, and perineural invasion、血管・リンパ管・神経浸潤の複合変数) のみがDSSの独立予後因子として残存し、MSIステータス (HR=1.02 [0.51-2.05]、p=0.9496)・TNM病期・T-stage・N-stage・組織学的グレードはいずれも有意でなかった (Table 1)。DFSおよびOSでも同様にImmunoscore (p=0.0001) のみが有意独立予後因子であった。

フレームシフト変異と免疫編集の遺伝的証拠:ゲノム解析でMSI腫瘍はMSS腫瘍と比較してフレームシフト変異・ミスセンス変異数・腫瘍あたりネオエピトープ数がいずれも有意に多かった (Fig 4A)。免疫編集の証拠として、変異あたりネオエピトープ数が期待値より有意に低下しており、MSI腫瘍ではフレームシフト変異由来ネオエピトープで約2-fold減少、ミスセンス変異由来で約4-fold減少が観察された (Fig 4B-D)。この「観察 vs 期待」の乖離はMSI腫瘍でより顕著で、コホート3 (n=3,659、18がん種) を参照した標準化解析でも確認された。TGFBR2フレームシフト変異はmultiplex PCR (20遺伝子) によりMSI腫瘍に高頻度に検出されたがMSS腫瘍では稀であり (p<0.005) (Fig 4E)、HLA-A*0201デクストラマー染色によってFSP02 (TGFBR2 (+1) 変異由来ネオエピトープ) 特異的T細胞が原発腫瘍内に直接同定された (Fig 4F)。

TGFBR2特異的CTLの機能的同定:HLA-A02陽性患者6例 (n=6) から採取した末梢TLをFSP02提示人工APCで刺激した機能試験で、TGFBR2 (+1) 変異を有するMSI患者2例 (n=2) のTLのみがFSP02パルスT2細胞との接触後にIFNγおよびTNFαを産生した (Fig 4G)。さらにこれらTLはHLA-A0201+HCT116細胞株 (TGFBR2変異陽性MSI) を特異的に溶解したが、TGFBR2変異陰性Colo205細胞株は溶解しなかった (Fig 4H)。ASTE1・TAF1B由来フレームシフトペプチドに対するHLA-A*0201拘束性CTL活性も確認され、CRC腫瘍内免疫応答が複数のネオエピトープに対して成立していることが示された。

考察/結論

本研究は3コホート (n=270、n=689、n=3,659) の統合解析でImmunoscoreがMSIステータスやTNM病期分類と異なり、MSS患者を含む全大腸癌患者において独立した最強の予後予測因子であることをCox多変量解析で確立した。これはこれまでの研究でMSIが独立予後因子として評価されてきた経緯と対照的な結果であり、MSIステータス・T-stage・N-stage・組織学的グレードといった既報の古典的因子が多変量解析で脱落したのに対し、Immunoscore (HR=0.61、p=0.0001) は一貫して有意であり続けた。また、MSS患者の約50%が高Immunoscoreを示し、高ImmunosocreのMSS患者で良好な転帰とPD-1/PD-L1高発現が観察されたことは、MSI検査のみでは免疫活性化の全貌を把握できないことを示す重要な知見である。

新規な点として、本研究ではヒトCRCにおいてフレームシフト変異由来ネオエピトープが免疫選択圧によって排除されているという「免疫編集」を遺伝的証拠 (変異あたりネオエピトープ数の2-fold〜4-fold低下) で本研究で初めて直接示した。さらに、TGFBR2 (+1) 変異特異的CTLが腫瘍内に存在し、末梢血でも機能的 (IFNγ産生・HLA拘束性細胞傷害) に証明されたことは、ヒト大腸癌における適応免疫応答が真の腫瘍特異的ネオ抗原を標的としていることを明確に示すものである。

臨床的意義として、本データはImmunoscore測定が臨床現場での大腸癌の再発リスク評価と免疫療法適応選択において重要なバイオマーカーとなることを支持する。高ImmunosocreとPD-1/PD-L1高発現の相関は、「高ImmunosocreかつPD-1高値」患者がPD-1ブロッケード療法の最良候補であり得ることを示唆し、臨床応用上の階層化基準として有用である。MSI早期患者の多くが高Immunoscoreを有することから、この患者群は免疫チェックポイント阻害療法から最大の恩恵を受ける候補となり得る一方、転移性MSI患者の中でも低Immunoscore群では効果が限定的である可能性がある。また、頻繁なフレームシフト変異に基づくネオ抗原ワクチンや養子T細胞療法の開発根拠も本研究が提供する。

残された課題として、MSS患者においてMSI非依存性の免疫活性化をもたらす分子機序の解明がある。WNT/β-cateninパターン変異は免疫浸潤に一部影響するが決定的因子ではなく、MSS-Hi患者の高免疫活性化の起源は不明のままである。また、Immunoscoreの国際多施設標準化 (SITC基準の検証試験) の完成、MSI腫瘍においてもImmunoscore I3-I4を示さない症例の免疫逃避機構の解明など、今後の研究として重要な課題が残る。limitation として本研究は後ろ向きコホートであり、免疫療法時代における前向き検証が今後の研究として必要である。

方法

3つのコホートを使用した。コホート1: TCGA (The Cancer Genome Atlas) CRC患者n=270例 (RNA-seqデータ・ゲノム変異・染色体不安定性データ)。コホート2: 独立コホートn=689例 (フランス・ルーアン大学病院およびHôpital Européen Georges Pompidou (HEGP) 病院の手術切除CRC患者、組織マイクロアレイ (tissue microarray、TMA) によるCD8/CD45RO/グランザイムB (granzyme B、GZMB)/CD20/CD68 (macrophage surface marker)/IL-17/NKp46 (natural cytotoxicity receptor 1) の免疫組織化学 (immunohistochemistry、IHC) 定量化、定量PCR (quantitative PCR、qPCR) による免疫遺伝子発現確認)。コホート3: TCGAのpan-cancer n=3,659例 (18がん種、免疫編集解析用参照コホート)。

MSIステータスはBethesdaパネル (BAT25、BAT26、NR21、NR24、NR27ほか計11マイクロサテライト座位) で決定し、高MSI (MSI-H、MSI-high) を陰性対照 (低MSI/MSS) と比較した。Immunoscoreの定量はCD8とCD45RO (またはCD3とCD8) によるCTおよびIMの二部位評価で実施し、I0 (両マーカーとも両部位でLow) からI4 (両マーカーとも両部位でHigh) の5段階に分類した。免疫遺伝子発現解析はClueGO/CluePedia (Cytoscape) アプリで経路濃縮を実施し、28種の免疫細胞サブタイプからなるimmunomeを解析した。群間比較にはWilcoxon rank-sum検定を用い、生存解析はKaplan-Meier法とlog-rank検定で実施した。

変異特異的T細胞の機能評価は、HLA-A0201陽性CRC患者6例 (n=6; MSI 2例、MSS/健常対照 4例) から採取した末梢T細胞 (TL、tumor lymphocyte) を、TGFBR2 (+1) 変異由来フレームシフトペプチドFSP02 (frameshift peptide 02) を提示する人工抗原提示細胞 (artificial antigen-presenting cell、AAPC) A2.1で2回刺激後に実施した。IFNγ・TNFαのフローサイトメトリー解析および51Cr放出法による細胞傷害活性測定を標的細胞 (HLA-A0201+HCT116 [TGFBR2変異陽性MSI] およびColo205 [変異陰性]) に対して実施した。Cox多変量比例ハザード解析はstepwiseAIC (Akaike information criterion) 選択法で実施し、疾患特異的生存 (DSS、disease-specific survival)、無病生存 (DFS、disease-free survival)、全生存 (OS) の3エンドポイントを評価した。