- 著者: Wolf Herman Fridman, Franck Pages, Catherine Sautes-Fridman, Jerome Galon
- Corresponding author: Wolf Herman Fridman (Cordeliers Research Centre, INSERM UMRS872, Paris, France)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-03-15
- Article種別: Review
- PMID: 22419253
背景
過去10年間において、がん免疫学および腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の研究は劇的な進展を遂げた。Schreiberらによるがん免疫編集 (immunoediting) 理論の提唱 Schreiber et al. Science 2011 や、Shankaranらによるインターフェロンγ (IFN-γ) とリンパ球が初期腫瘍発生を抑制し免疫原性を形成するという知見 Shankaran et al. Nature 2001、そしてGalonらによる大腸がんにおける浸潤T細胞の臨床的意義の証明 Galon et al. Science 2006 は、腫瘍とホスト免疫系との動的な相互作用を浮き彫りにした。Hanahan & Weinbergによる “Hallmarks of Cancer” の改訂版 Hanahan et al. Cell 2011 においても、“avoiding immune destruction (免疫破壊の回避)” ががんの新たな標識として追加され、がん免疫の重要性は確固たるものとなった。
しかし、腫瘍内に浸潤する免疫細胞のプロファイルは極めて不均一であり、その細胞種、空間的局在、浸潤密度、および機能的極性の4つの軸がどのように患者の予後や治療効果を規定しているのか、その全体像は依然として未解明な部分が多く、がん種横断的な統合的理解が不足していた。特に、制御性T細胞 (Treg: regulatory T cells) やTh17 (T helper 17 cells) 細胞などの特定の免疫細胞サブセットが予後に与える影響については、報告によって好予後と悪予後の双方が示されており、極めてcontroversial (議論百出) な状態であった。このような背景から、腫瘍内の免疫細胞の空間的・機能的配置の総体である「免疫コンテクスト (immune contexture)」を体系化し、臨床的転帰との関連を包括的に整理することが強く求められていた。
目的
本レビュー論文の目的は、過去に発表された124報の原著論文を包括的にレビューし、以下の4点を明らかにすることである。 第一に、主要な腫瘍浸潤免疫細胞種 (T細胞、B細胞、ナチュラルキラー (NK: natural killer) 細胞、マクロファージ、樹状細胞など) の分布パターンと予後的意義をがん種横断的に整理・体系化する。 第二に、TregやTh17細胞、Th2 (T helper 2 cells) 細胞といった、予後への影響について矛盾する報告が存在する細胞種について、その矛盾が生じる原因を腫瘍微小環境の文脈依存性 (context-dependency) の観点から考察する。 第三に、Th1 (T helper 1 cells) /cytotoxic T細胞軸を中心とした免疫細胞の密度および局在情報を予後予測に用いる臨床指標「免疫スコア (Immunoscore)」の概念的枠組みを提示し、従来のTNM (Tumor-Node-Metastasis) 分類を補完する有用性を論じる。 第四に、化学療法や放射線療法、分子標的薬などの治療が腫瘍の免疫コンテクストに与える影響、および治療効果予測因子としての免疫コンテクストの役割を明らかにする。
結果
CD8陽性およびCD45RO陽性メモリT細胞の好予後相関: 腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocytes) の中でも、CD8陽性T細胞 (CD8+ cytotoxic T cells) およびCD45RO陽性メモリT細胞 (CD45RO+ memory T cells) の密度は、がん種を問わず極めて強力な好予後因子であることが示された。レビューされた124報の解析において、大腸がん、非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer)、黒色腫 (melanoma)、卵巣がん、乳がんなどの広範ながん種において、これら2つの細胞群がCTおよびIMに高密度に存在することが、DFSおよびOSの有意な延長と一貫して相関していた (Fig 2)。
大腸がんにおける免疫スコアの予後予測能: 大腸がん患者 (n=602) を対象とした大規模コホート解析において、CTおよびIMにおけるCD3陽性およびCD8陽性T細胞の密度をスコア化した「免疫スコア (Immunoscore)」を適用した結果、高スコア群である IS4 (Immunoscore 4) 群の5年再発率はわずか 4.8% であったのに対し、低スコア群である IS0 (Immunoscore 0) / IS1 (Immunoscore 1) 群の5年再発率は 72% に達した (Table 1)。
免疫スコアによる生存率の予測能とTNM分類の補完:
主要エンドポイントである5年生存率において、全体コホートでは高スコア群 (IS4) が 86.2% であったのに対し、低スコア群 (IS0/1) では 27.5% であり、ハザード比は HR 0.25 (95% CI 0.15-0.42, p<0.001) と極めて有意なリスク低減を示した (Fig 3)。この予後予測能は、従来のTNM病期分類から独立した強力な因子であり、早期大腸がんにおける術後補助化学療法の適応決定をサポートする。
早期大腸がんサブグループにおける免疫スコアの有用性:
ステージII期のサブグループにおいても、高スコア群の5年生存率は 91.5% であったのに対し、低スコア群では 32.0% であり、HR 0.28 (95% CI 0.16-0.49, p<0.001) と同様に顕著な予後予測能が確認された (Fig 3)。この結果は、TNM分類では「低リスク」と判定されながらも術後に再発する早期大腸がん患者を、免疫スコアによって正確に抽出できることを示している。
Tregの浸潤における文脈依存性と予後の矛盾: 制御性T細胞 (Treg) の腫瘍内浸潤が予後に与える影響については、がん種や微小環境の文脈によって結果が大きく異なる「文脈依存性」が明らかになった。Treg (主にCD4+CD25+FOXP3+細胞として同定される、FOXP3: forkhead box P3) は、卵巣がん (n=104) や乳がん、肝細胞がん (HCC: hepatocellular carcinoma) においては、抗腫瘍免疫を抑制することで悪予後と相関し、生存率の低下を招くことが示されている (Table 1)。
Tregの二面性と腫瘍微小環境の炎症状態: しかしその一方で、大腸がん、頭頸部がん、ホジキンリンパ腫、膀胱がんなどにおいては、逆にTregの腫瘍内高密度浸潤が生存率の向上や再発率の低下といった好予後と相関するという、一見矛盾する結果が報告されている (Fig 2)。著者らはこの矛盾について、Tregが慢性炎症 (chronic inflammation) を抑制することで腫瘍の進展を阻害する「有益な側面」と、抗腫瘍エフェクターT細胞の活性化を阻害する「有害な側面」の二面性を持ち、腫瘍微小環境の炎症状態によってその役割が変化するためであると整理した。
Th17細胞およびTh2細胞の浸潤と臨床的転帰: Th17細胞についても同様の文脈依存性が示されており、大腸がんや肺がん、肝細胞がんでは血管新生の促進や慢性炎症を介して悪予後 (生存率 35% vs 60%) と相関する一方、食道がんや胃がんでは抗腫瘍免疫応答の増強を介して好予後と相関することが示された (Table 1)。また、Th2細胞は、B細胞の活性化や免疫抑制性サイトカインである IL-10 (interleukin-10) の産生を介して腫瘍の悪性度を高める傾向があるが、ホジキンリンパ腫や乳がんにおいては、抗体依存性の保護効果により、逆に好予後と相関する場合がある。
三次リンパ構造の形成とケモカインネットワークの役割: 腫瘍に隣接する間質に形成される異所性リンパ組織である三次リンパ構造 (TLS) は、in situ における抗腫瘍免疫応答の誘導部位として極めて重要な役割を果たしていることが示された。TLSは、高内皮静脈 (HEV: high endothelial venules)、濾胞樹状細胞 (FDC: follicular dendritic cells)、B細胞領域、およびT細胞領域から構成され、二次リンパ節に類似した構造を持つ (Fig 1)。NSCLCや乳がん、大腸がんの解析において、腫瘍隣接TLSの存在は、DFSおよびOSの延長と強く相関していた。
ケモカインによるT細胞動員とTLS内での抗原提示: バイオインフォマティクスを用いたケモカインネットワーク解析により、腫瘍細胞や間質細胞が分泌する CX3CL1 (C-X3-C motif chemokine ligand 1)、CXCL9 (C-X-C motif chemokine ligand 9)、CXCL10 (C-X-C motif chemokine ligand 10) などのケモカインが、Th1細胞やCD8陽性T細胞の腫瘍内への動員を駆動していることが同定された (Table 2)。また、TLS内へのナイーブT細胞やメモリT細胞、Tregの動員には CCL19 (C-C motif chemokine ligand 19)、CCL17 (C-C motif chemokine ligand 17)、CCL22 (C-C motif chemokine ligand 22)、CXCL13 (C-X-C motif chemokine ligand 13)、および IL-16 (interleukin-16) が関与しており、これらのケモカインの発現強度は、腫瘍内のT細胞浸潤密度と直接的に相関していた。
骨髄由来抑制細胞およびVEGFAによる免疫抑制: 腫瘍微小環境における骨髄由来の免疫抑制細胞、特にM2型腫瘍関連マクロファージ (TAM: tumor-associated macrophages) や骨髄由来抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cells) は、腫瘍の進展と悪予後に強く寄与している。さらに、腫瘍細胞が産生する血管内皮増殖因子A (VEGFA: vascular endothelial growth factor A) は、樹状細胞の成熟を阻害し、T細胞の機能分子であるインターフェロン調節因子1 (IRF1: interferon regulatory factor 1) やグラニュライシン (GNLY: granulysin) の発現を抑制することで、抗腫瘍免疫を減弱させることが示された (Fig 1)。
抗VEGFA療法によるTreg減少と生存期間の延長: 転移性腎細胞がん患者 (n=105) を対象とした臨床研究において、抗VEGFA作用を持つ分子標的薬 (スニチニブ、ソラフェニブ、またはベバシズマブ) の投与により、末梢血および腫瘍内におけるTregやMDSCの割合が有意に減少することが示された。特に、治療開始後に循環Treg数が減少した患者群は、減少しなかった群と比較して、OSが有意に延長した (生存率 65% vs 30%)。このように、治療介入後の免疫コンテクストの変化をモニタリングすることは、治療効果や予後を予測する上で極めて重要である。
B細胞、NK細胞、および樹状細胞の機能と臨床的意義: 腫瘍浸潤B細胞、NK細胞、および樹状細胞 (DC: dendritic cells) の臨床的意義についても詳細な整理が行われた。B細胞は、一部の乳がんや上皮性卵巣がんにおいて好予後と相関しており、抗原提示細胞として機能することでCD8陽性T細胞の活性化をサポートしている可能性が示唆された。一方、NK細胞は CD57 をマーカーとして検出された場合、大腸がんや胃がん、肺がんなどで好予後と相関するが、NKp46 などのより特異的なマーカーを用いた解析では、NSCLCなどにおいて予後との相関が見られない場合もある。
治療介入による免疫コンテクストの修飾: オキサリプラチンやアントラサイクリン系薬剤、あるいは放射線療法は、がん細胞に免疫原性細胞死 (immunogenic cell death) を誘導し、カルレティキュリンの膜表面発現やHMGB1の放出を介して樹状細胞による抗原提示を促進し、T細胞依存性の抗腫瘍免疫応答を強化する (Box 1)。さらに、イピリムマブ Hodi et al. NEnglJMed 2010 などの免疫チェックポイント阻害剤 (ICI: immune checkpoint inhibitors) は、CTLA4やPD-1/PD-L1経路を遮断することで、メモリT細胞の腫瘍内への再動員と活性化を促し、免疫コンテクストを劇的に改善することが示された。
考察/結論
本レビュー論文は、腫瘍微小環境における免疫細胞の浸潤パターンを単なる「腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の総数」として捉えるのではなく、細胞種、局在、密度、および機能的極性の4つの軸からなる「免疫コンテクスト」として統合的に評価すべきであるという革新的な概念を体系化した。
先行研究との違い: 従来の臨床病理学的評価は、Hanahan & Weinberg によるがんの標識 Hanahan et al. Cell 2011 や Schreiber らの免疫編集理論 Schreiber et al. Science 2011 に代表されるように、がん細胞自体の遺伝子変異や増殖能、あるいは浸潤能に主眼が置かれており、ホストの免疫応答は副次的な要素とみなされる傾向があった。また、初期のがん免疫研究においては、腫瘍内のリンパ球総数を単一の指標として評価することが多く、細胞の空間的配置や機能的サブセットの違いが無視されていた。これに対し、本研究は、免疫細胞が腫瘍中心部 (CT) に存在するのか、あるいは浸潤先進部 (IM) や三次リンパ構造 (TLS) に存在するのかという「空間的局在」が予後予測において決定的な意味を持つことを示し、従来の細胞総数のみを測定するアプローチと異なり、極めて精緻な空間分解能を持った評価法を提示している。特に、CD8陽性T細胞およびCD45RO陽性メモリT細胞がCTとIMの両方で高密度に存在することが、がん種を問わず最強の好予後因子となることを示した点は、局在情報を排除していた先行研究の評価法と一線を画している。
新規性: 本研究は、124報に及ぶ膨大な臨床コホートデータをがん種横断的に統合し、腫瘍微小環境における免疫コンテクストの全体像を初めて体系的に提示した点において極めて高い新規性を有する。本研究で初めて、TregやTh17細胞、Th2細胞といった免疫抑制性あるいは炎症性サブセットの予側意義における「矛盾 (discrepancy)」について、周囲の微小環境のコンテクスト (慢性炎症の有無やホストの免疫状態) に依存してその機能が変化するという「文脈依存性 (context-dependency)」の概念を導入し、学術的な整理を行った。さらに、腫瘍に隣接するTLSが、単なるリンパ球の集積地ではなく、in situ において腫瘍特異的なT細胞やB細胞のプライミングおよびクローン増殖が行われる「局所免疫応答の司令塔」として機能していることを、ケモカインネットワークの解析と結びつけて新規に同定した。このような統合的視野は、これまで報告されていないものであった。
臨床応用: 本知見の臨床的意義および臨床応用への貢献は極めて大きい。著者らが提唱した「免疫スコア (Immunoscore)」は、大腸がんにおいて従来のTNM分類を凌駕する予後予測能を示しており、臨床現場における個別化医療の強力なツールとなる。具体的には、TNM分類では「低リスク」と判定されながらも術後に再発する早期 (ステージII期) 大腸がん患者を、免疫スコア (IS0/1) によって正確に抽出し、術後補助化学療法の適応を決定するトランスレーショナル (translational) な基準を提供できる。また、この免疫コンテクストの概念は、イピリムマブ Hodi et al. NEnglJMed 2010 に代表される免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の治療効果予測因子 (predictive biomarker) としても直結する。腫瘍内にあらかじめ十分なT細胞浸潤が存在する「熱い腫瘍 (hot tumor)」と、浸潤が乏しい「冷たい腫瘍 (cold tumor)」を免疫コンテクストに基づいて分類することは、ICIの適応患者を層別化する上で不可欠なアプローチとなる。
残された課題: 一方で、今後の臨床応用に向けていくつかの残された課題や今後の検討課題 (limitation) も存在する。第一に、TregやTh17細胞などの機能的不均一性をより高精度に識別するための、単一のFOXP3やCD25に依存しないマルチカラー免疫染色やシングルセル解析技術の標準化が必要である。第二に、がん種や転移部位 (例えば大腸がんの肝転移巣など) における微小環境特異的なケモカインネットワークの差異を解明し、それぞれのコンテクストに最適化された治療戦略を構築することが求められる。第三に、化学療法や放射線療法、抗VEGFA抗体などの非免疫療法が、腫瘍の免疫コンテクストをどのように修飾し、抗腫瘍免疫を再活性化するのか、その詳細な動的メカニズムの解明が今後の課題として残されている。
方法
本研究は、腫瘍免疫学および臨床腫瘍学における124報の英文ピアレビュー済みの原著論文を統合したナラティブ・レビュー (narrative review) である。文献の選定にあたっては、主要な医学データベースである PubMed、Web of Science、および Embase を用いて検索を行った。検索キーワードには “tumor-infiltrating lymphocytes”、“immune contexture”、“immunoscore”、“prognosis”、“tumor microenvironment”、および各免疫細胞サブセット名 (“CD8+ T cells”、“regulatory T cells”、“Th17 cells”、“macrophages”、“tertiary lymphoid structures”) を組み合わせて使用した。
対象とした研究は、組織病理学、免疫組織化学 (IHC: immunohistochemistry)、およびバイオインフォマティクス (ケモカイン・サイトカインネットワーク解析) に基づくヒト腫瘍サンプルの解析データを提供するものとし、マウスモデルを用いた基礎研究はメカニズムの補足情報として限定的に援用した。臨床データの統合に際しては、各論文における患者コホートの規模、病期 (TNM分類)、無再発生存期間 (DFS: disease-free survival)、および全生存期間 (OS: overall survival) のデータを抽出し、免疫細胞の密度 (density) および局在 (location:腫瘍中心部 [CT: core of the tumor]、浸潤先進部 [IM: invasive margin]、三次リンパ構造 [TLS: tertiary lymphoid structures]) ごとに予後との相関を整理した。
統計学的な評価手法として、多くの引用文献において生存分析に用いられている Kaplan-Meier 法による生存曲線の比較、log-rank 検定による有意差の評価、および Cox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) を用いた多変量解析のデータを精査し、免疫コンテクストが独立した予後予測因子であるか否かを検証した。また、遺伝子発現プロファイルやケモカインネットワークの解析においては、Cytoscapeなどのバイオインフォマティクスツールを用いたネットワーク再構築データを統合した。