- 著者: Schoenfeld AJ, Hellmann MD
- Corresponding author: Matthew D. Hellmann (Thoracic Oncology Service, Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32289269
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、一部の癌患者に長期生存をもたらす画期的な治療法として、過去10年間で急速にその適用範囲を拡大してきた。2011年のCTLA-4阻害薬の承認を皮切りに、現在ではPD-(L)1阻害薬が20以上の適応で標準治療の一部となっている。例えば、非小細胞肺癌 (NSCLC) においては、かつてはPD-1阻害薬への奏効は稀であったが、現在ではほとんどの転移性肺癌患者がPD-(L)1阻害薬を含む治療を受けている (Brahmer et al., 2010; Gandhi et al. NEnglJMed 2018; Reck et al. NEnglJMed 2016)。しかし、ICI治療の奏効は特徴的に持続性があるものの、多くの患者が初期奏効後に腫瘍の再増大を経験する「獲得耐性」が重大な臨床課題として浮上している。
原発耐性(治療開始時から奏効しない)に対しては、多くの併用療法戦略やバイオマーカー研究が精力的に行われてきた。例えば、化学療法との併用や、腎細胞癌におけるマルチターゲットチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) との併用などが試みられている。また、PD-L1発現、腫瘍変異負荷 (TMB)、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) などが初期奏効の予測バイオマーカーとして検討されてきた (Chen et al., 2016; Cristescu et al., 2018; Garon et al. NEnglJMed 2015; Tumeh et al. Nature 2014)。
一方で、ICIに対する獲得耐性の機序については、系統的な調査がこれまで不足しており、その理解は著しく限定的である。これは、EGFR変異肺癌におけるTKI耐性機序の解明がオシメルチニブのような次世代治療薬の開発に繋がった事例(Mok et al. NEnglJMed 2017; Pao et al., 2005)と対照的である。ICI獲得耐性の基礎的理解の欠如は、新規免疫療法の効果的な開発を阻害する主要な障壁となっており、この知識のギャップが残されている。特に、獲得耐性の発生率は癌種間で異なり、そのメカニズムも多様であるため、統一的な研究アプローチが不足している点が課題として残されている。
目的
本レビューは、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) に対する獲得耐性の発生率、既報の分子機序、および研究上の方法論的課題(用語の不統一、組織サンプルの取得困難性、既存研究ツールの限界)を癌種横断的に体系的に評価し、新規研究ツールの応用可能性を提示することで、将来の獲得耐性克服に向けた研究の方向性を示すことを目的とする。
結果
獲得耐性発生率の癌種間差異: 文献から利用可能な奏効持続期間 (DOR) データに基づき、ICI獲得耐性発生率を癌種別に推計した (Table 1)。黒色腫では、ニボルマブ単剤治療 (Keynote 001、中央値フォロー61ヶ月) での客観的奏効率 (ORR) は42%であったが、獲得耐性率は57%に達した。ニボルマブとイピリムマブ併用療法 (CheckMate 067) ではORR 45%、5年時点での耐性率は39%と報告されている。イピリムマブ単剤ではORR 19%、耐性率60%と、報告によって12%から60%と幅がある。NSCLCでは、ニボルマブの統合解析 (CheckMate 017, 057, 063, 003、4年フォロー) でORR 18%、獲得耐性率は64%と高率であった。ペムブロリズマブ (Keynote 001、二次治療以降) ではORR 23%、耐性率41%、アテゾリズマブ (OAK試験) ではORR 14%、耐性率55%であり、全体として32%から65%という高い獲得耐性率が示された。ホジキンリンパ腫では、高いORR (65%〜73%) にもかかわらず、1〜2年フォローで獲得耐性率は19%〜57%と幅が大きかった。ミスマッチ修復欠損 (dMMR) 腫瘍では、獲得耐性率は11%〜22%と比較的に低率であった。食道・胃・食道胃接合部癌では42%〜71%と高率な獲得耐性が観察された。全体的に、PD-1阻害薬に対するORRが低い癌種ほど、奏効者内での獲得耐性頻度が高い逆相関が示唆された (Figure 1)。これは、癌種特異的な耐性生物学の存在を示唆し、「一旦奏効すれば耐性率は癌種間で同等」という従来の理解に疑問を呈するものである。
研究の障壁と方法論的課題: 本レビューは、獲得耐性研究の進展が遅れた理由として3つの主要な障壁を整理した (Table 2)。
- 用語の不統一: ICI獲得耐性の統一定義が存在せず、奏効の定義 (CR/PR vs. 安定疾患の取り扱い)、ICI中断後の再増悪の解釈、患者レベルと病変レベルの評価が研究によって異なる。EGFR変異肺癌におけるJackman基準のような統一定義の必要性が強調された。
- 組織収集の困難性: ICIでは奏効率が低く (多くの癌種で10%〜25%)、獲得耐性の発生が予測不能であるため、治療前と耐性後のペアバイオプシーを効率よく収集することが困難である。例えば、EGFRドライバー肺癌では80%の患者が奏効し、ほぼ全員が耐性化するため治療前後のサンプリングが合理的であるが、ICIではそれが難しい。さらに、寡増悪 (oligoprogression) がICI獲得耐性の一般的パターンであることが多く、耐性部位が治療前に予測できないため、部位対応サンプリングが困難である。
- 研究ツールの限界: 従来のバルクDNA/RNA次世代シーケンシングは分子標的療法の耐性研究では成功を収めたが、ICI耐性ではゲノム変化の同定に限界がある。腫瘍、宿主免疫、腫瘍微小環境の3者間の動的で複雑な相互作用を捉えるには、単一細胞解析や空間的プロファイリングなどのより高解像度なアプローチが必要である。
臨床報告から同定された獲得耐性機序 (13報告・58例): 計13の臨床報告 (n=58) を系統的に整理し、獲得耐性機序を5つのカテゴリに分類した (Figure 2)。
抗原提示機構の欠損 (最多カテゴリ): β2-ミクログロブリン (B2M) の機能喪失変異が、ICI獲得耐性において最も繰り返し報告された機序である。B2MはMHCクラスI分子の細胞表面安定化と抗原ペプチドのローディングに必須であり、その喪失により腫瘍細胞はT細胞認識を完全に回避できる。Zaretsky et al. (2016) の黒色腫4例のペアバイオプシー解析で1例に後天性ホモ接合型B2M切断変異が同定されたのを皮切りに、Sade-Feldman et al. (2017) の5例中2例、Gettinger et al. (2017) の14例の肺癌患者 (組織ペア10例) 中1例、LeDung et al. Science 2017 のdMMR欠損腫瘍5例中2例にB2M変異が確認された。報告されたB2M変異の5/6例が両アレル性 (biallelic) 変異 (truncating変異+LOH、または2つのframeshift変異) であり、免疫組織化学 (IHC) でもMHCクラスI発現消失が確認された。一方で、B2M変異は前治療組織では稀 (NSCLC 240例中1例、0.4%) であり、原発耐性よりも獲得耐性に特徴的な機序であることが示唆された。なお、B2M変異以外のゲノム変化によるMHCクラスI発現低下も同コホートの4〜3例で確認されており、複数の機序によるMHCクラスI喪失が存在することを示した。
IFN-γシグナリングの欠損: IFN-γはエフェクターT細胞から放出され、JAK1/JAK2を介したJAK-STATシグナリングによって腫瘍細胞でのMHCクラスI上昇、PD-L1誘導、直接的な腫瘍細胞傷害効果を媒介する。Zaretsky et al. (2016) の解析で、ICI治療後に進行した2例にJAK1 (Q503*ナンセンス変異) およびJAK2 (F547スプライスサイト変異) の不活化変異が同定された。これらの変異は野生型アレルのLOHを伴い、機能的タンパク質を完全に喪失していた。CRISPR/Cas9工学的細胞株での機能確認でも、IFN-γ応答性の完全消失 (MHCクラスI・PD-L1誘導なし) が実証された。Sucker et al. (2017) の6例の黒色腫細胞株解析では、JAK変異を持つ細胞株のうち、ホモ接合性欠損 (LOHまたはbiallelic変異) を持つ2例のみがIFN-γ応答を失い、ヘテロ接合性変異例はHLAクラスI・PD-L1の誘導を維持していた。これは、biallelic JAK変異のみがICI耐性の原因となることを示し、単純なJAK変異の存在だけでは耐性の診断として不十分であることを示唆した。
ネオアンチゲン喪失: JAK・B2M変異などの抗原提示機構喪失とは独立した獲得耐性機序として、ICIによる免疫選択圧によるネオアンチゲンの喪失が報告された。Anagnostou et al. (2017) のNSCLC 4例の解析では、B2M・JAK1・JAK2の機能喪失変異は認められず、代わりに治療前後のエクソームデータ比較でネオアンチゲン産生変異の喪失が同定された。in vitroでは、これらの変異由来ペプチドがTILの増殖を誘導し、免疫学的に関連性があることが確認された。養子T細胞移入後の免疫選択圧によるネオアンチゲン喪失も類似機序として報告されており (Verdegaal et al., 2016)、免疫原性の高いクローンが排除されることで腫瘍が免疫から逃避するというダーウィン的選択の原理が示された。
腫瘍による免疫抑制・排除: PTEN (Phosphatase and Tensin Homolog) 両アレル喪失がPI3K/Akt経路を活性化し、免疫抑制性サイトカイン産生、T細胞浸潤阻害、IFN-γエフェクター機能低下を招く機序が前臨床で確立されている。George et al. (2017) では、子宮平滑筋肉腫の1例でペムブロリズマブに対するNear-CR (2年超) 後の耐性時にbiallelic PTEN喪失が後天的に確認された。Trujillo et al. (2019) の2例中1例でも同様にbiallelic PTEN喪失が確認され、もう1例では抵抗病変での新たなβ-カテニン過剰発現が認められた。WNT/β-カテニン活性化は、樹状細胞プライミング障害、制御性T細胞促進、T細胞排除促進によりICI耐性に関与することが示されている。
代替チェックポイントの発現増加: 耐性時にTIM-3 (T-cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3) (Gettinger et al., 2017; Koyama et al., 2016)、LAG-3 (Lymphocyte-activation gene 3) (Gettinger et al., 2017)、VISTA (V-domain immunoglobulin suppressor of T cell activation) (Kakavand et al., 2017) の発現上昇が複数報告されたが、これらがT細胞疲弊と機能的に関連するものか、T細胞活性化の随伴現象であるかは不明であり、因果関係の確立には追加データが必要とされた。
新規研究ツールによる知見: CRISPR/Cas9ゲノムワイドスクリーニングにより、従来の解析では同定困難だった複数の耐性関連遺伝子が発見された。APLNR (Apelin receptor、Gタンパク質共役型受容体、変異を持つ固形腫瘍でJAK1・IFN-γシグナリングを調節)、PTPN2 (チロシンホスファターゼ、JAK1/JAK2の負の調節因子)、SWI/SNF (Switch/Sucrose non-fermentable) クロマチンリモデリング複合体成分 (IFN-γシグナリング抑制)、TRAF2 (TNF (Tumor Necrosis Factor) シグナリング経路内・TNFによるT細胞排除に関与) が同定された。単一細胞RNAシーケンシングでは、TCF1陽性前駆型疲弊CD8+ T細胞 (PD-1再活性化に応答) と末端疲弊CD8+ T細胞の2集団の特性が詳細に解析され、前駆型T細胞の頻度がPD-1阻害への応答・耐性と関連することが示された。Sade-Feldman et al. (2018) の黒色腫48サンプル・32患者での単一細胞プロファイリングでは、TCF1がWnt/β-カテニン経路の下流に位置し、記憶・活性化・生存遺伝子クラスターを持つT細胞集団のマーカーとして奏効と関連した。末梢血の単一細胞解析では、治療中のTCR拡大クローンが腫瘍内TILではなく末梢循環から由来する可能性が示され、血液サンプリングによる動態モニタリングの意義が示唆された。
考察/結論
本レビューは、現時点でのICI獲得耐性研究の包括的現状評価を提供した。B2M変異とJAK変異による抗原提示・IFN-γ経路障害が最もよく記録された機序であり、腫瘍が免疫認識の根幹を担う経路を直接遮断することで免疫逃避を達成することを示す。しかし、報告例数が少なく (n=58)、複数の機序が共存する可能性や癌種特異性が未解明である。
先行研究との違い: 本研究は、これまでの個別の報告とは異なり、ICI獲得耐性の発生率を癌種横断的に推計し、その発生率が癌種間で大きく異なること、特にORRが低い癌種ほど獲得耐性率が高いという逆相関が存在することを初めて示した。これは、従来の「一旦奏効すれば耐性率は癌種間で同等」という理解と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、獲得耐性研究における用語の不統一、組織収集の困難性、既存ツールの限界という3つの主要な障壁を体系的に整理し、CRISPRスクリーニングや単一細胞シーケンシングといった新規ツールの応用が今後の解明に不可欠であることを提言した。
臨床応用: 特にNSCLCでは32%〜65%という高い獲得耐性率に対して有効な次治療が限られており、耐性機序に基づく精密な介入戦略(代替チェックポイント阻害、HDAC阻害薬等によるMHCクラスI発現回復、ネオアンチゲン非依存的免疫療法、抗原提示機構の薬理学的回復)の開発が喫緊の課題である。本レビューで示された獲得耐性メカニズムの理解は、これらの新規治療戦略の臨床応用を加速させる上で重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、多施設協力による大規模なペアバイオプシー研究が残されている。これにより、ICI獲得耐性の真の生物学的全貌を解明し、次世代免疫療法の開発につなげることが不可欠である。また、単一細胞解析や空間的プロファイリングなどの高解像度なアプローチをさらに活用し、腫瘍微小環境における免疫細胞と腫瘍細胞の動的な相互作用を詳細に解明する必要がある。
方法
本研究はレビュー論文であるため、特定の実験方法や患者コホートの募集は実施していない。代わりに、ICI獲得耐性に関する既存の臨床報告および前臨床研究を包括的に分析した。
データソースと選択基準: PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて、2020年3月までに発表されたICI獲得耐性に関する臨床報告および前臨床研究論文を検索した。特に、ICI治療後に初期奏効を示した後に病勢進行を認めた患者を対象とした研究に焦点を当てた。
獲得耐性の定義と評価: 獲得耐性の定義は、各報告で異なる基準が用いられていることを認識しつつ、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) またはWHO基準による部分奏効 (PR) または完全奏効 (CR) の後に病勢進行を認めた症例、あるいは6ヶ月以上の安定疾患 (SD) の後に進行を認めた症例を含めた。患者レベルの奏効と病変レベルの奏効の区別も考慮した。
分子機序の分類: 報告された獲得耐性機序は、以下の5つの主要カテゴリに分類した。
- 抗原提示機構の欠損
- IFN-γ (interferon-gamma) シグナル伝達経路の欠損
- ネオアンチゲンの喪失
- 腫瘍による免疫抑制/排除
- 代替チェックポイントの発現増加
研究の障壁の分析: 獲得耐性研究の進展を阻害する主要な障壁として、「用語の不統一」、「組織サンプルの取得困難性」、「既存研究ツールの限界」の3点を特定し、それぞれについて詳細な分析を行った。
新規研究ツールの検討: CRISPR/Cas9 (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR associated protein 9) ゲノムワイドスクリーニング、単一細胞RNAシーケンシング、末梢血の免疫プロファイリングなど、獲得耐性機序の解明に貢献しうる新規研究ツールとその応用可能性について検討した。
統計的推計: 獲得耐性発生率の推計には、各癌種におけるICI治療後の奏効持続期間 (DOR) データを利用し、Kaplan-Meier曲線から特定の時点での進行割合を算出した。例えば、NSCLCにおけるニボルマブ治療後の4年フォローアップデータなどを用いた。