- 著者: Wei Yang, Yibing Bai, Ying Xiong, Jin Zhang, Shuokai Chen, Xiaojun Zheng, Xiangbo Meng, Lunyi Li, Jing Wang, Chenguang Xu, Chengsong Yan, Lijuan Wang, Catharine C. Y. Chang, Ta-Yuan Chang, Ti Zhang, Penghui Zhou, Bao-Liang Song, Wanli Liu, Shao-cong Sun, Xiaolong Liu, Bo-liang Li, Chenqi Xu
- Corresponding author: Chenqi Xu (cqxu@sibcb.ac.cn); Bo-liang Li (blli@sibcb.ac.cn) — Institute of Biochemistry and Cell Biology, Shanghai Institutes for Biological Sciences, Chinese Academy of Sciences, Shanghai, China
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-03-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 26982734
背景
CD8+T細胞は抗腫瘍免疫において中心的な役割を果たすが、腫瘍微小環境における免疫抑制によりその活性が障害されることが知られている Mellman et al. Nature 2011。近年、免疫チェックポイント遮断療法はがん治療において顕著な効果を示しているものの、その奏効率にはさらなる改善の余地がある Sharma et al. Science 2015。したがって、異なる経路を介してCD8+T細胞の抗腫瘍活性を増強する新たな治療法の開発は、臨床的に大きな関心を集めている。
先行研究では、細胞膜脂質がT細胞シグナル伝達と機能を直接的に制御することが示されている。コレステロールは細胞膜脂質の主要な構成要素であり、T細胞受容体(TCR)クラスタリングと免疫シナプス形成に必須であることが報告されている。活性化CD8+T細胞ではコレステロール代謝が再プログラムされることが示唆されていたが、その詳細なメカニズムは未解明な点が多かった。特に、T細胞のコレステロール代謝を標的とすることで、抗腫瘍免疫応答を増強できるか否かについては、知識のギャップが残されていた。
ACAT1 (acyl-CoA:cholesterol acyltransferase 1) は、細胞内の遊離コレステロールをコレステリルエステルに変換し貯蔵する主要な酵素である。ACAT1は全身に広く発現しているが、CD8+T細胞の抗腫瘍免疫におけるその役割はこれまで十分に確立されていなかった。特に、ACAT1がCD8+T細胞の機能、TCRクラスタリング、免疫シナプス形成にどのように影響し、ひいては抗腫瘍応答にどのような影響を与えるかについては、未開拓な領域であった。本研究は、この未開拓な領域に焦点を当て、ACAT1がCD8+T細胞の抗腫瘍免疫を制限するメカニズムを解明し、がん免疫療法における新たな治療標的としての可能性を探ることを目的とした。
目的
本研究の目的は、CD8+T細胞におけるACAT1 (acyl-CoA:cholesterol acyltransferase 1) の役割を、遺伝子欠損マウスおよび薬理学的阻害剤(avasimibe)を用いて詳細に解析することである。具体的には、ACAT1の阻害が細胞膜コレステロールレベルの上昇、TCR (T-cell receptor) クラスタリングの増強、免疫シナプス形成の効率化、そして最終的な抗腫瘍免疫応答の増強という一連の経路を介して機能するかどうかを明らかにすることを目指した。さらに、ACAT1阻害剤と既存の抗PD-1 (programmed cell death protein 1) 療法との組み合わせが、単剤療法と比較してより優れた抗腫瘍効果を示すかを検証することも重要な目的とした。これにより、ACAT1ががん免疫療法の新たな標的となりうるか、また併用療法の可能性を探る。
結果
活性化CD8+T細胞におけるACAT1発現の早期上昇とコレステロールエステル化の促進: 活性化CD8+T細胞において、Acat1 (acyl-CoA:cholesterol acyltransferase 1) mRNAレベルが早期に著明に上昇したが、Acat2 mRNAレベルは初期に減少し、後期に増加した (Fig. 1a)。ACAT1のタンパク質レベルも同様に上昇したが、ACAT2のタンパク質レベルはCD8+T細胞ではほとんど検出されなかった (Extended Data Fig. 2a)。ACAT1/ACAT2阻害剤であるCP-113,818またはACAT1特異的阻害剤K604を用いてコレステリルエステル合成を阻害すると、CD8+T細胞の細胞傷害性顆粒(パーフォリン、グランザイムB)産生、IFN-γおよびTNF-α産生が有意に増加し、細胞傷害活性も増強された (p<0.01〜0.001) (Fig. 1c-g)。対照的に、Acat2遺伝子欠損ではこれらの変化は観察されなかった (Fig. 1h)。コレステロール生合成阻害剤(ロバスタチン)やコレステロール輸送阻害剤(U18666A)はT細胞機能を低下させ、細胞膜コレステロールの維持がT細胞機能に不可欠であることを示唆した (Extended Data Fig. 1g-i)。これらのデータは、ACAT1がCD8+T細胞における主要なコレステロールエステル化酵素であり、その阻害が細胞のエフェクター機能を著しく増強しうることを強く支持する。
Acat1 CKOマウスのCD8+T細胞における機能の選択的増強: Acat1 CKO (T細胞特異的Acat1条件付きノックアウト) マウスのCD8+T細胞は、in vitro活性化時にIFN-γ、TNF-α、パーフォリンの産生が野生型と比較して有意に増加した (p<0.001) (Fig. 2a-c)。また、増殖と生存も促進された (Extended Data Fig. 3k-n)。しかし、CD4+T細胞では機能の増強は認められなかった (Extended Data Fig. 4a, b)。これは、CD4+T細胞ではACAT2が部分的にACAT1の機能を補完している可能性が示唆された (Extended Data Fig. 4c-e)。in vivoのListeria monocytogenes感染モデルでは、Acat1 CKOマウスにおいてCD8+T細胞のIFN-γ産生が約2.5-fold増加し、血清IFN-γレベルが上昇し、細菌量が減少した (Extended Data Fig. 5a-d)。一方、CD4+T細胞のIFN-γ産生には変化がなかった (Extended Data Fig. 5e)。さらに、Acat1 CKO OT-I CD8+T細胞は、強い抗原(OVA257-264 (N4))または弱い抗原(A2, T4, G4)刺激に対してエフェクター機能が増強されたが、自己抗原(CatnbまたはR4ペプチド)に対する反応性は生じず、自己免疫のリスクがないことが示唆された (Extended Data Fig. 5f, g)。血清抗dsDNA IgGおよびIFN-γレベルも野生型と同等であった (Extended Data Fig. 3g, h)。これらの結果は、ACAT1欠損がCD8+T細胞の抗原特異的応答を増強し、自己反応性を誘導しないことを示す。
メカニズム:ACAT1欠損による細胞膜コレステロール増加、TCRクラスタリング増強、免疫シナプス効率化: Acat1 CKO CD8+T細胞の細胞膜コレステロールレベルは、3種類の測定法(フィリピンIII染色、酸化法、ビオチン化法)全てで野生型よりも著明に高値を示した (Fig. 3a-d)。例えば、フィリピンIII染色では、活性化CD8+T細胞で約1.5-foldの細胞膜コレステロール増加が認められた (Fig. 3b)。この細胞膜コレステロールの増加はCD8+T細胞に特異的であり、CD4+T細胞では変化がなかった (Extended Data Fig. 4f)。STORMイメージングにより、Acat1 CKO CD8+T細胞のTCRマイクロクラスターは、ナイーブ細胞および活性化細胞のいずれにおいても有意に大きく (p<0.001)、TCRシグナル伝達(pZAP70、pLAT、pERKなど)が増強されることが明らかになった (Fig. 3f-i)。TIRFMを用いた免疫シナプス解析では、Acat1 CKO CD8+T細胞では免疫シナプスがより高速かつコンパクトに形成され (p<0.05〜0.01)、TCRマイクロクラスターのシナプス中心への移動速度が増加した (Fig. 3j-n)。結果として、細胞傷害性顆粒の分極化と脱顆粒がいずれも有意に増強された (p<0.001) (Fig. 3o, p)。これらの結果は、ACAT1欠損が細胞膜コレステロールレベルを上昇させ、TCRクラスタリングと免疫シナプス形成を効率化することで、CD8+T細胞の殺傷能力を増強することを示している。
Acat1 CKOマウスにおける腫瘍増殖制御と生存期間延長: B16F10皮膚メラノーマモデルにおいて、Acat1 CKOマウス (n=8 mice) は野生型 (n=9 mice) と比較して腫瘍増殖が有意に抑制され (Day 16時点でp<0.05)、生存期間が延長した (WT n=15 mice vs CKO n=14 mice; log-rank p<0.05) (Fig. 2d, e)。腫瘍浸潤CD8+T細胞数およびCD8+/CD4+T細胞比が増加し、Ki67発現とエフェクター機能マーカーが強化された (Fig. 2f, g)。B16F10-Luc肺転移モデルでも、腫瘍結節数の減少と生存期間の延長が観察された (Extended Data Fig. 6d-g)。同様に、ルイス肺癌(LLC)モデルでも腫瘍増殖抑制効果が確認された (Extended Data Fig. 6j-l)。腫瘍浸潤CD8+T細胞上のPD-1およびCTLA-4の発現レベルはACAT1欠損によって変化せず、PD-1遮断との組み合わせ療法の根拠となった (Fig. 2h)。OT-I CTL養子移入実験(B16F10-OVA)では、Acat1 CKO OT-I CTLを移入した群で腫瘍縮小と生存期間延長が認められた (p<0.05) (Fig. 2j, k)。
avasimibeによる腫瘍免疫増強と抗PD-1との相加効果: 臨床安全性プロファイルが良好なACAT阻害剤avasimibe(アバシミブ)をB16F10担持マウスに腹腔内投与(5回)すると、腫瘍増殖が抑制され、生存期間が延長した (Fig. 4a, b)。avasimibe処理群の腫瘍浸潤CD8+T細胞は、数が増加し、エフェクター機能が強化され、エフェクター/エフェクターメモリーT細胞比が上昇した (Extended Data Fig. 10a-c)。また、TCRクラスタリングも有意に増強された (Fig. 4c-e)。avasimibe単剤療法は、PD-1高発現およびPD-1低発現の両方のCD8+T細胞のエフェクター機能を増強した (Fig. 4h, i)。抗PD-1抗体処置は、Acat1やコレステロールエステル化関連遺伝子の発現を変化させなかったことから、avasimibeと抗PD-1抗体は異なる経路で作用することが示唆された (Fig. 4j)。avasimibeと抗PD-1抗体の併用療法は、各単剤療法よりも有意に優れた腫瘍制御効果と生存期間延長を示し、相加効果が確認された (p<0.05) (Fig. 4f, g)。LLC肺転移モデルでもavasimibeの有効性が示された (Fig. 4k-m)。さらに、avasimibeはヒトCD8+T細胞 (n=3 donors) のIFN-γおよびTNF-α産生を増強することも確認された (p<0.001) (Fig. 4n-p)。
考察/結論
本研究は、CD8+T細胞におけるコレステロールエステル化酵素ACAT1が、細胞膜コレステロールレベルを制限し、TCRクラスタリングおよび免疫シナプス形成を阻害することで、抗腫瘍免疫応答を負に制御するという新規メカニズムを解明した。これは、代謝(コレステロール代謝)が免疫シナプス形成という物理的プロセスを通じてT細胞機能を決定するという、代謝免疫学(immunometabolism)における重要な概念を提示するものである。
先行研究との違い: これまでの研究では、T細胞の代謝リプログラミングがその機能に影響を与えることは知られていたが、ACAT1が細胞膜コレステロールレベルを直接的に調節し、TCRクラスタリングと免疫シナプス形成に影響を与えるという具体的なメカニズムは、本研究で初めて詳細に示された。特に、ACAT1阻害が既存の抗PD-1経路とは独立した機構で機能し、相加効果を示したという知見は、これまでの免疫チェックポイント阻害剤単独の作用機序とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、ACAT1の遺伝子欠損または薬理学的阻害(avasimibe)が、CD8+T細胞の細胞膜コレステロールを増加させ、エフェクター機能と増殖を促進し、マウスモデルにおいてメラノーマおよびルイス肺癌の増殖と転移を抑制することを示した。この発見は、ACAT1ががん免疫療法の新たな標的となりうるという新規な治療戦略の可能性を提示するものである。
臨床応用: avasimibeは、アテローム性動脈硬化症の臨床試験で良好な安全性プロファイルが確認されている薬剤である。本研究の結果は、この既存薬をがん免疫療法に再利用(drug repurposing)する具体的な候補としてavasimibeが有望であることを示唆しており、臨床応用への道筋を開くものである。avasimibeと抗PD-1抗体の併用療法が単剤療法よりも優れた抗腫瘍効果を示したことは、がん免疫療法の組み合わせ戦略において代謝介入が非常に有望であることを示している。
残された課題: 今後の検討課題としては、ヒト腫瘍におけるACAT1の発現と免疫機能の相関関係をさらに詳細に解析すること、avasimibeの臨床試験をがん患者で実施し、その有効性と安全性を確認すること、他のコレステロール代謝酵素(例:コレステロール輸出関連分子)とCD8+T細胞機能との関係を解明すること、そしてCD8+T細胞の疲弊状態におけるコレステロール代謝の役割を明らかにすることが挙げられる。これらの研究は、ACAT1を標的としたがん免疫療法の開発をさらに推進するために不可欠である。
方法
本研究では、T細胞特異的Acat1条件付きノックアウトマウス(Acat1 CKOマウス)を作製するために、Acat1 flox/floxマウスとCD4-Creマウスを交配した。抗原特異的T細胞の機能評価には、Acat1 CKOマウスとOT-I TCRトランスジェニックマウスを交配したAcat1 CKO OT-Iマウスを用いた。ACAT1の薬理学的阻害は、各種阻害剤(CP-113,818、K604、avasimibe)を用いて実施した。
細胞膜コレステロールレベルの定量には、フィリピンIII染色、酸化法、およびビオチン化法の3種類の異なる方法を組み合わせて用いた。TCRマイクロクラスターの超解像イメージングにはSTORM(確率論的光学再構成顕微鏡)を、免疫シナプス形成の可視化にはTIRFM(全反射蛍光顕微鏡)を用いた。TCRマイクロクラスターの移動解析には、平均二乗変位(MSD)プロットと累積確率分布(CPD)が用いられた。
腫瘍免疫の評価は、B16F10皮膚メラノーマモデル、B16F10-Luc (ルシフェラーゼ発現B16F10細胞) 肺転移モデル、およびLLC(Lewis lung carcinoma)モデルを用いてin vivoで実施した。さらに、OT-I CTL養子移入実験を行い、ACAT1欠損CD8+T細胞の抗腫瘍活性を直接評価した。Listeria monocytogenes感染モデルを用いて、in vivoにおけるCD8+T細胞の免疫応答を評価した。ヒトCD8+T細胞を用いたex vivo評価も行い、avasimibeのヒト細胞への効果を確認した。
統計解析にはGraphPad Prismを使用し、Mann-Whitney検定、log-rank (Mantel-Cox) 検定、二元配置分散分析 (two-way ANOVA)、および対応のないt検定など、適切な統計手法を適用した。p値が0.05未満の場合を有意差ありと判断した。動物実験は、上海生物科学研究所の動物実験倫理委員会(IACUC)の承認を得て実施された。細胞株としてB16F10、Lewis lung carcinoma、EL-4細胞株が使用され、マイコプラズマフリーであることが確認された。