- 著者: Takahiro Kamiya, See Voon Seow, Desmond Wong, Murray Robinson, Dario Campana
- Corresponding author: Dario Campana (Department of Pediatrics and National University Cancer Institute Singapore, National University of Singapore, Singapore)
- 雑誌: The Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-03-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 30860984
背景
ナチュラルキラー (natural killer; NK) 細胞を用いた養子免疫細胞療法は、急性骨髄性白血病 (acute myeloid leukemia; AML) などの血液がんにおいて部分的な臨床効果が報告されてきた。しかしながら、その治療反応性は予測困難であり、体内での持続性も不十分で、AML以外の固形がんに対する有効性については未開拓な領域として残されている。NK細胞の活性は、細胞表面に発現する活性化受受容体と抑制性受容体のシグナルバランスによって厳密に制御されている。その中でも、CD94 (cluster of differentiation 94) とNKG2A (natural killer group 2 member A) からなるCD94/NKG2Aヘテロ二量体は極めて強力な抑制性受容体として知られている。NKG2Aは、腫瘍細胞側に発現する非古典的MHCクラスI分子であるHLA-E (human leukocyte antigen E) をリガンドとして認識し、免疫受容体チロシン抑制モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif; ITIM) を介してNK細胞の脱顆粒やサイトカイン産生を強力に抑制する。HLA-Eは多くのヒト固形がんや血液がんで過剰発現しており、その高発現は患者の不良な予後と相関することが既報で示されている。さらに、腫瘍微小環境に浸潤したNK細胞は、非腫瘍部位のNK細胞と比較してNKG2Aの発現が著しく亢進している。この抑制経路を遮断するため、NKG2Aに対する治療用モノクローナル抗体であるmonalizumabなどの臨床開発が進められてきた (Andre et al. Cell 2018)。しかし、抗体医薬によるアプローチには、血中半減期による制限、腫瘍組織への浸潤性の低さ、そしてIL-12 (interleukin-12) などのサイトカイン刺激によってNK細胞上に de novo (新規) で誘導されるNKG2A発現を完全に防ぐことができないという技術的限界が存在した。このように、持続的かつ完全にNKG2Aシグナルを遮断する技術が不足している点が、NK細胞療法の効果を最大化する上での重大な課題であった。これまでの先行研究である Miller et al. (2005) や Romee et al. (2016) においても、NK細胞の活性化や養子移植後の持続性向上は試みられてきたものの、腫瘍側のHLA-E発現を介した強力な免疫逃避シグナルを完全に無力化する手法は未確立であり、臨床現場における治療抵抗性を克服するための持続的な受容体抑制技術が決定的に不足しているという明確な gap が残されていた。
目的
本研究の目的は、HLA-Eを発現する腫瘍細胞による免疫逃避機構を打破するため、抗NKG2A単鎖可変領域 (single-chain variable fragment; scFv) と小胞体 (endoplasmic reticulum; ER) 保留シグナルを融合させた新規遺伝子構築物 PEBL (protein expression blocker) を開発することである。このPEBL技術を用いて、ヒト末梢血由来のプライマリーNK細胞におけるNKG2Aの細胞表面発現を細胞内でトラップして完全に消失 (abrogation) させた「NKG2A null NK細胞」を創出し、その表現型、in vitroにおけるHLA-E陽性腫瘍株や患者由来AML細胞に対する細胞傷害活性、およびin vivo異種移植マウスモデルにおける抗腫瘍効果を検証することである。
結果
腫瘍におけるHLAE発現とKLRC1発現の相関: TCGAデータベースに登録された10,375サンプルの解析から、HLAE遺伝子は解析した33がん種すべてにおいて広範に発現しているものの、顕著な不均一性を示すことが明らかになった (Fig 1)。特に、肺腺がん (LUAD)、頭頸部扁皮上皮がん (HNSC)、皮膚黒色腫 (SKCM) などの固形がんにおいて高い発現中央値が確認された。全腫瘍を統合した解析において、HLAEの発現量はNKG2AをコードするKLRC1 (Pearson r=0.48) およびCD94をコードするKLRD1 (Pearson r=0.57) の発現量と有意な正の相関を示した。一方で、活性化受容体NKG2CをコードするKLRC2との相関は認められなかった (Pearson r=0.07)。さらに、HLAEの発現はIFNγ (interferon-gamma) や穿孔素 (perforin)、顆粒酵素A (granzyme A) といった細胞傷害活性マーカー遺伝子の発現とも強く相関しており、免疫細胞浸潤が活発な腫瘍微小環境においてHLA-E/NKG2Aチェックポイントが代償的に活性化している実態が示された。
PEBL導入によるNKG2A表面発現の完全な消失: 設計した4種類のPEBL構築物をNK92細胞にレトロウイルス導入したところ、すべての構築物において細胞表面のNKG2A発現がほぼ完全に消失した (Fig 2)。特にPEBL2は、プライマリーNK細胞において極めて優れた除去効率を示した。9ドナーの末梢血から調製したNKG2A陽性選択NK細胞 (導入前NKG2A陽性率 98.8% ± 1.6%) に対し、PEBL2を導入したGFP陽性画分におけるNKG2A陽性率は 7.5% ± 5.9% まで劇的に低下したのに対し、対照群 (GFP単独導入) では 97.6% ± 3.2% と高発現が維持された (p<0.0001, n=10 replicates) (Fig 3)。PEBL自体は細胞表面には一切検出されず、設計通り細胞内 (小胞体/ゴルジ体) に留まって新たに合成されたNKG2Aタンパク質をトラップしていることが確認された。
NKG2A null NK細胞の表現型解析と機能維持: NKG2Aの細胞内トラップに伴い、共受容体であるCD94の細胞表面発現も対照群の 96.8% から PEBL群では 37.8% (n=7 donors) へと有意に減少した (Fig 4)。細胞透過処理後の解析から、CD94タンパク質自体は細胞内で正常に合成されているものの、パートナーであるNKG2Aが欠損したことで膜移行が阻害されたと考えられた。一方で、他の主要なNK細胞受容体 (CD16、NKG2D、NKp46、CD56など) や細胞傷害分子 (perforin、granzyme B) の発現、およびIL-2依存的な細胞増殖能はPEBL導入後も完全に維持された。RNA-Seqを用いた44種類のNK関連遺伝子の網羅的解析 (Dobin et al. Bioinformatics 2013, Liao et al. Bioinformatics 2014) においても、NKG2Aノックダウンによる意図しない遺伝子発現プロファイルの変化 (off-target効果) は検出されなかった。また、HLA-E陰性のK562野生株に対する細胞傷害活性やCD107a脱顆粒能、IFNγ分泌能は対照群と同等であり、PEBL導入によるNK細胞本来の基本機能への悪影響は認められなかった。
HLA-E陽性腫瘍に対する細胞傷害活性の劇的な回復: GpHLA-Eを強制発現させたK562、U2OS、ES8、EW8細胞株を標的とした4時間細胞傷害試験において、NKG2A null NK細胞は対照群NK細胞と比較して、すべての標的細胞に対して極めて強力かつ有意に高い殺傷活性を示した (p<0.0001, n=11 donors for K562) (Fig 5)。さらに、臨床開発中の抗NKG2A抗体 (Z199) を添加した対照群NK細胞と比較しても、PEBLを導入したNKG2A null NK細胞の方が一貫して高い殺傷効率を達成した。また、IFNγ (300 ng/ml) 曝露によって内因性にHLA-E発現が誘導されたEW8、PLC/PRF/5、U937細胞に対しても、NKG2A null NK細胞は有意に高い殺傷活性を維持した (p<0.0001, n=3 donors)。患者由来のプライマリーAML細胞 (n=4 patients) を標的とした実験においても、HLA-E高発現を示すサンプルにおいてNKG2A null NK細胞は対照群を凌駕する有意な細胞傷害活性を示した (p<0.0001)。さらに、IL-12 (20 ng/ml) 刺激によって対照群NK細胞で誘導されるde novoのNKG2A発現とそれに伴う細胞傷害活性の低下が、PEBL導入NK細胞では完全に阻止され、GpHLA-E陽性K562細胞に対して 2.5-fold increase 以上の優れた殺傷活性維持効果を示した。
in vivo 異種移植モデルにおける強力な抗腫瘍効果: GpHLA-E陽性ES8細胞を腹腔内移植したNSGマウスモデル (n=23 mice) において、対照群NK細胞の投与は生存期間をわずかに延長させるにとどまった (生存期間中央値 22 vs 36 days) (Fig 7)。これに対し、NKG2A null NK細胞を投与した群では、極めて強力な腫瘍抑制効果が観察され、観察期間269日以上において生存期間中央値に達せず、大半のマウスが長期生存を達成した (p<0.001, log-rank test, n=7 mice per group)。同様に、U2OS-GpHLA-Eを用いた骨肉腫モデルにおいても、NKG2A null NK細胞投与群は対照群 (生存期間中央値 32 days) と比較して、60日以上の観察期間において生存期間中央値に達しない極めて有意な生存期間延長効果を示し、腫瘍シグナルの log2FC -3.5 以上の低下を達成した (p<0.01, n=15 mice)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、抗体医薬を用いて細胞外からNKG2A-HLA-E結合を阻害する従来のアプローチ (Andre et al. Cell 2018) とは異なり、PEBL技術を用いてNK細胞の内部からNKG2Aの表面発現を恒久的に消失させるという全く新しいコンセプトを提示した。抗体療法では、受容体の細胞表面への持続的な供給や、腫瘍微小環境におけるIL-12などのサイトカイン刺激による de novo のNKG2A発現誘導を完全に防ぐことは困難であったが、PEBL技術は翻訳されたNKG2Aタンパク質を小胞体内で持続的にトラップするため、これらの限界を完全に克服している。
新規性: 本研究は、抗NKG2A scFvにER保留シグナルを融合させたPEBL構築物が、プライマリーヒトNK細胞において極めて特異的かつ安全にNKG2AおよびCD94の発現を消失させ、HLA-E陽性腫瘍に対する抵抗性を完全に解除できることを本研究で初めて実証した。この遺伝子改変アプローチは、ゲノム編集技術 (Manguso et al. Nature 2017) のような二本鎖DNA切断を伴わないため、オフターゲット変異のリスクがなく、極めて安全性が高いという新規の優位性を有する。
臨床応用: 本研究で確立されたPEBL導入NK細胞製造プロトコルは、現行の臨床グレード (GMP) 細胞調製プロセスに容易に組み込むことが可能である。HLA-Eは肺がん、頭頸部がん、黒色腫など広範ながん種で高発現しているため、NKG2A null NK細胞療法は、従来の免疫チェックポイント阻害剤 (Topalian et al. CancerCell 2015, Sharma et al. Cell 2023) に抵抗性を示す固形がん患者に対する極めて有望な「off-the-shelf」型細胞治療薬としての臨床応用に直結する。
残された課題: 今後の検討課題として、自家 (autologous) 設定と他家 (allogeneic) 設定における治療効果の最適化、キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor; CAR) との共導入 (CAR-NKG2A null NK) による腫瘍特異性のさらなる強化、および他の抑制性受容体 (KIR、TIGIT、PD-1など) を同時に標的とするマルチPEBL戦略の有効性と安全性の検証が挙げられる。また、本研究における異種移植モデルは免疫不全マウス (NSGマウス) を用いた短期的な評価にとどまるため、ヒト免疫系を再構築したモデルでの長期的な安全性評価が limitation として残されている。
方法
がんゲノムアトラス (The Cancer Genome Atlas; TCGA) の10,375検体 (33がん種) のRNA-Seqデータを用い、HLAE発現量とKLRC1 (killer cell lectin like receptor C1; NKG2Aをコードする遺伝子)、KLRD1 (killer cell lectin like receptor D1; CD94をコードする遺伝子)、KLRC2 (killer cell lectin like receptor C2; NKG2Cをコードする遺伝子) の発現相関をPearson相関分析にて解析した。次に、抗NKG2Aモノクローナル抗体 (Z199クローン) の重鎖・軽鎖可変領域からなるscFv配列に、CD8αシグナルペプチドおよび異なるER/ゴルジ保留ドメインを連結した4種類のPEBL構築物 (PEBL1-4) を設計した。PEBL1にはKDEL受容体に結合する (GGGGS)4AEKDEL配列、PEBL2-4にはCOPI (coat protein complex I) 複合体に直接結合するKKMP配列を含むドメインを付加した。これらの構築物をMSCV (murine stem cell virus) レトロウイルスベクターに組み込み、ヒトNK細胞株NK92および健康ドナー由来のプライマリーNK細胞に導入した。プライマリーNK細胞は、K562-mb15-41BBL細胞を用いて5-7日間共培養して拡大培養したものを使用した。遺伝子導入効率はGFP (green fluorescent protein) 発現を指標とし、NKG2AおよびCD94の表面発現はフローサイトメトリーで評価した。統計解析には、2群間比較として unpaired t-test、生存曲線分析として Kaplan-Meier 法および log-rank テストを用いた。細胞傷害活性は、ルシフェラーゼ標識した標的細胞 (K562、U2OS、ES8、EW8) を用いた4時間発光アッセイ、およびIncucyteを用いた長期リアルタイムイメージングアッセイにより評価した。in vivo抗腫瘍効果の検証には、免疫不全マウスである NSG (NOD/SCID IL2RG null) マウスにGpHLA-E (HLA-Gシグナルペプチド融合HLA-E) を過剰発現させたES8細胞またはU2OS細胞を腹腔内移植した異種移植モデルを用いた。