- 著者: Manguso RT, Pope HW, Zimmer MD, Brown FD, Yates KB, Miller BC, Collins NB, Bi K, LaFleur MW, Juneja VR, Weiss SA, Lo J, Fisher DE, Miao D, Van Allen E, Root DE, Sharpe AH, Doench JG, Haining WN
- Corresponding author: W. Nicholas Haining (Dana-Farber Cancer Institute)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-07-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 28723893
背景
免疫チェックポイント阻害療法は、一部のがん患者において著明かつ持続的な臨床応答をもたらす画期的な治療法である。しかし、大多数の患者では効果が得られず、治療抵抗性の克服と治療効果の拡大に向けた新たな免疫療法戦略の開発が強く求められているのが現状である。腫瘍細胞が免疫系からの逃避に利用する遺伝子としては、PD-L1やCD47など少数の分子しか同定されておらず、これらの分子を標的とした治療法が開発されてきた Dong et al. NatMed 2002。理論上、腫瘍細胞は免疫応答を制御しうる多数の遺伝子を発現していると考えられるが、これらの遺伝子を系統的に、かつ網羅的に発見する方法はこれまで確立されていなかった。この領域には依然として大きな知識のギャップが存在する。
CRISPR-Cas9システムを用いたpooled genetic screenは、腫瘍細胞の薬剤耐性遺伝子の同定や増殖・生存に関わる遺伝子の特定に活用されてきた Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005。しかし、これらのスクリーニングは主にin vitro環境下で行われており、腫瘍と免疫システムとの複雑な相互作用を直接的に評価することは困難であった。特に、in vitroスクリーニングでは腫瘍細胞の増殖や生存に直接影響する遺伝子は同定できるものの、生体内の免疫選択圧下で機能する免疫逃避や免疫療法感受性に関わる遺伝子は見過ごされる可能性があった。このため、in vivo環境下で免疫選択圧を直接的に適用し、腫瘍の免疫逃避遺伝子や免疫療法感受性遺伝子を系統的に同定する新たなプラットフォームの開発が不足していた。例えば、腫瘍細胞の免疫原性や免疫細胞との相互作用をin vivoで評価する包括的なシステムは未解明な点が多かった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指したものである。
目的
本研究の目的は、CRISPR-Cas9システムを用いた新規in vivo pooled loss-of-functionスクリーニング系を開発し、以下の点を明らかにすることである。(1) マウス移植可能腫瘍モデルにおいて、免疫療法感受性または抵抗性を決定する腫瘍細胞遺伝子を網羅的に同定すること。(2) スクリーニングで同定された候補遺伝子、特にプロテインチロシンホスファターゼPTPN2 (protein tyrosine phosphatase non-receptor type 2) の機能を個別実験により詳細に検証し、その免疫療法における役割と作用機序を解明すること。(3) PTPN2の欠損がIFN-γ (interferon-γ) シグナル伝達、抗原提示、およびサイトカイン応答に及ぼす影響を評価し、免疫療法効果増強のメカニズムを明らかにすること。これにより、新たな免疫療法標的の発見と、既存の免疫療法効果を増強する戦略の開発に貢献することを目指した。
結果
既知免疫逃避分子と抵抗性機序の回収によるスクリーニング系の妥当性検証: 本スクリーニングにより、既知の免疫逃避分子であるPD-L1を標的とするsgRNAが、GVAX単独投与群の腫瘍で有意に枯渇した (FDR = 0.004)。これは、PD-L1の欠損が免疫細胞による攻撃に対する腫瘍細胞の感受性を高めることを示唆する。一方、PD-1遮断が加わるGVAX + 抗PD-1群ではPD-L1 sgRNAの枯渇が見られなかった。これは、PD-L1-PD-1相互作用が既に遮断されている条件下では、PD-L1の欠失が選択的不利を生じないという生物学的一貫性と合致する。さらに、食作用による免疫逃避に関わるCD47を標的とするsgRNAは、GVAX単独群およびGVAX + 抗PD-1群の双方で有意に枯渇し (それぞれFDR = 0.005、FDR = 0.002)、本スクリーニング系が既知の免疫逃避分子を系統的に回収できることが確認された (Fig 1c, d)。CD47欠損B16メラノーマ細胞を用いたin vivo実験では、GVAXと抗PD-1免疫療法により腫瘍増殖が有意に抑制された (p < 0.01, n=10 mice/group)。
IFN-γシグナリング欠損による免疫療法抵抗性: 免疫療法処理群で有意に濃縮されたsgRNAの解析から、IFN-γシグナリング経路の遺伝子(Stat1, Jak1, Ifngr2, Ifngr1, Jak2)を標的とするsgRNAが有意に濃縮されることが判明した (FDR < 0.09)。これは、これらの遺伝子の欠損が免疫療法に対する抵抗性を誘導することを示唆する。in vivo競合アッセイでは、Stat1-null細胞は免疫療法処理マウスにおいて対照細胞と比較して有意な増殖優位性を示した (p < 0.01, n=8-10 mice/group)。Stat1またはIfngr1欠失腫瘍は、野生型腫瘍に比べて免疫療法下で有意に速く成長し、マウスの生存期間を短縮した (p < 0.05, log-rank p < 0.0001)。IFN-γ経路欠失細胞は、IFN-γ刺激後のMHC-Iアップレギュレーションが障害されており、OVA特異的OT-I T細胞との共培養においても有意に高い生存率を示した (p < 0.001)。これらの結果は、IFN-γシグナル伝達経路の機能が腫瘍細胞の免疫療法感受性に不可欠であることを実証した。この知見は、臨床におけるJAK1/2変異がPD-1阻害療法に対する獲得耐性に関連するという報告と一致し、スクリーニング結果の臨床的妥当性を支持する Zaretsky et al. NEnglJMed 2016。
PTPN2を含む新規免疫療法感受性遺伝子経路の同定: GVAX + 抗PD-1処理群とTcra-/-マウス群の比較で枯渇した上位50遺伝子(FDR < 0.08)の解析から、4つの主要な生物学的経路が浮かび上がった。(i) TNFシグナリング/NF-κB活性化経路 (Birc2, Tbk1, Traf3, Rnf31, Rbck1)、(ii) 抗原プロセシングおよびプレゼンテーション経路 (Erap1, Tap2, Calr, H2-T23, Pdia3, Tap1, Tapbp)、(iii) キナーゼシグナリング阻害経路 (PTPN2, Socs1)、(iv) ユビキチン・プロテアソーム経路 (Stub1, Ubqln1)。同一経路内の複数のメンバーが同時に枯渇した事実は、これらの多様な経路が免疫療法感受性において重要であることを裏付けた。代表的な遺伝子(Ptpn2, H2-T23, Ripk1, Stub1)のin vivo競合アッセイでは、各欠失細胞が免疫療法処理マウス (n=3-13 mice/group) において著明な選択的不利(p < 0.01)を示す一方、in vitroおよびTcra-/-マウスでは対照細胞と同等の増殖を示した。これは、これらの遺伝子欠損による効果がT細胞依存性であることを明確に示した (Fig 2a, b, c)。特にH2-T23(Qa-1bをコード)の欠損は、GVAXとPD-1阻害療法を受けたマウスにおいて、対照腫瘍が1/10しか根絶されなかったのに対し、10/10の腫瘍を治癒させた (p < 0.05, n=10 mice/group)。
PTPN2の免疫療法標的としての詳細機序解明: プロテインチロシンホスファターゼPTPN2のsgRNAは、免疫療法群で最も有意に枯渇した遺伝子の一つであった。PTPN2はIFN-γシグナリングの負の制御因子として機能し、JAK1やSTAT1などのシグナル伝達分子を脱リン酸化により抑制することが知られている。PTPN2欠失B16腫瘍細胞は、IFN-γ刺激に対して増幅した応答を示し、MHCクラスI (H-2Kb, H-2Db) の発現が大幅に増強された (p < 0.001)。また、IFN-γによる増殖抑制効果も著明に増大し、PTPN2欠失細胞はIFN-γまたはIFN-βへの感受性が野生型細胞より有意に高かった (p < 0.001)。in vivoでは、PTPN2欠失B16腫瘍は野生型マウスでの免疫療法処理下で強く制御されたが (p < 0.01, n=20 animals/group)、Tcra-/-マウスでは対照と同様に増殖した。これは、PTPN2欠損による免疫療法感受性亢進がT細胞依存性の効果であることを証明した (Fig 3a)。BrafV600E/Pten-/-メラノーマモデルおよびMC38結腸癌モデルでも同様の結果が得られ、PTPN2の免疫療法増感効果がB16モデル特異的でなく、複数のメラノーマモデルで再現できることが示された (n=10 animals/group)。
PTPN2欠損腫瘍では、CD8+ T細胞およびγδ+ T細胞の数が有意に増加し (p < 0.05, n=8-10 animals/group)、CD8α+細胞の浸潤が3-fold増加した (p < 0.01)。さらに、CD8+ T細胞におけるグランザイムBの発現も増加しており (p < 0.01)、PTPN2欠損が活性化された細胞傷害性CD8+ T細胞の腫瘍内浸潤を促進することが示された (Fig 4a, b, c)。OVAを発現するPTPN2欠損B16細胞では、SIINFEKL-H2K(b)複合体の表面発現が有意に高く (p < 0.001)、抗原提示能の向上が確認された (Fig 4d)。PTPN2欠損細胞と抗原特異的OT-I CD8+ T細胞との共培養では、T細胞のIFN-γおよびTNF産生が有意に増加し (p < 0.001)、PTPN2欠損腫瘍細胞がT細胞による殺傷に対してより感受性が高いことが示された (p < 0.05, n=3 replicates)。
PTPN2欠損による免疫療法感受性亢進がIFN-γシグナル伝達に依存するかを検証するため、PTPN2とIFN-γ経路の遺伝子(Stat1, Jak1, Ifngr1, Ifnar2)を同時に欠損させたダブルノックアウト細胞を解析した。PTPN2単独欠損は免疫療法下で有意な増殖不利と関連したが、IFN-γシグナル伝達に必要な遺伝子のいずれかを同時に欠損させると、PTPN2欠損による増殖不利が消失した (p < 0.01, n=5 mice/group)。これは、PTPN2欠損による免疫療法感受性亢進が、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達の感知に依存することを示す (Fig 5g, h)。これらの結果から、PTPN2の機能は腫瘍細胞内でIFN-γシグナルを減衰させることにより、(1) MHC-I依存的なT細胞による抗原認識を低下させ、(2) IFN-γの直接的な腫瘍増殖抑制を回避するという2経路で免疫療法抵抗性に寄与していることが明らかになった。
考察/結論
本研究は、in vivo CRISPRスクリーニングを免疫療法の文脈で初めて実施し、腫瘍免疫に関与する遺伝子を系統的に同定する新たなプラットフォームを確立した。このアプローチにより、腫瘍の免疫逃避および免疫療法抵抗性が、既知のPD-L1やIFN-γ経路だけでなく、抗原プロセシング、NF-κB (nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)、ユビキチン系など多様な経路に分散していることが明らかになった。
先行研究との違い: これまでのin vitroスクリーニングでは、腫瘍細胞の増殖や生存に直接影響する遺伝子が主に同定されてきたが、本研究は生体内の免疫選択圧下で機能する遺伝子を直接的に特定した点で、従来の研究とは異なるアプローチである。特に、IFN-γ経路のJAK1/STAT1変異による免疫療法抵抗性は、実際に臨床でのニボルマブ耐性腫瘍でも報告されており Zaretsky et al. NEnglJMed 2016、前臨床と臨床の一致を示す。この知見は、IFN-γ経路がPD-1阻害療法の効果に必要であるという概念を支持し、治療前のIFN-γシグナリング能の評価が重要な意義を持つことを示唆する。
新規性: 本研究で初めて、プロテインチロシンホスファターゼPTPN2が、IFN-γシグナル伝達を負に制御し、その欠損が抗原提示とサイトカイン応答を増強することで免疫療法感受性を高める新規標的であることを同定した。PTPN2の欠損は、IFN-γシグナル伝達の増幅を介したMHC-I抗原提示の増強という機序により、既存の免疫チェックポイント阻害(T細胞の活性化・疲弊解除)とは相補的な作用点を提供する。これは、これまで報告されていない新たな免疫療法増強メカニズムである。
臨床応用: PTPN2阻害剤の開発は、単独またはPD-1阻害との組み合わせで、特に「免疫原性が低いcold tumor」に対して治療効果を高める戦略として有望である。PTPN2はJAK1やSTAT1の脱リン酸化を介してIFN-γシグナルを抑制するため、その阻害は腫瘍細胞の免疫原性を高め、T細胞の浸潤と活性化を促進することが期待される。実際に、その後TC-S 7010などのPTPN2阻害化合物の前臨床検討が進んでおり、本研究の知見は臨床応用に直結するものである。
残された課題: 今後の検討課題として、PTPN2阻害剤の臨床試験における有効性と安全性評価が挙げられる。また、PTPN2欠損が他の免疫療法モダリティ(例:CAR-T細胞療法、二重特異性抗体)とどのように相乗効果を発揮するか、さらなる研究が必要である。本スクリーニング系は今後、他の腫瘍モデルや免疫療法モダリティへの応用が可能であり、予期しない経路に存在する新たな免疫療法標的を系統的に発見するための汎用プラットフォームとして位置づけられる。本研究と同様のin vivo CRISPRスクリーニングアプローチは、その後多くの研究グループに採用され、腫瘍免疫に関与するLKB1/KEAP1 (liver kinase B1/Kelch-like ECH-associated protein 1)、ULK1 (unc-51-like autophagy activating kinase 1)、PBRM1 (polybromo 1) などの多様な遺伝子が同定されるなど、免疫腫瘍学の基盤研究を大きく前進させた。Limitationとしては、本研究が主にマウスモデルに基づいているため、ヒトのがんにおけるPTPN2の役割やPTPN2阻害の臨床的有効性を確認するためには、さらなるヒト検体を用いた研究や臨床試験が必要である。
方法
スクリーニング系の構築とライブラリー作製: Cas9を発現するB16メラノーマ細胞株 (B16-Cas9細胞) を構築し、PD-L1を標的とするsgRNAを用いて効率的なDNA編集能力を確認した。次に、腫瘍細胞で検出可能な発現レベルを持つ2,368遺伝子を標的とする9,872種類のsgRNAを含むレンチウイルスライブラリーを作製した。このライブラリーは、免疫調節、シグナル伝達、転写因子など、多様な機能カテゴリーの遺伝子を網羅するように設計された。ライブラリーは4つのサブプールに分割され、各サブプールには1遺伝子あたり1つのsgRNAと100の非標的コントロールsgRNAが含まれた。sgRNAはレンチウイルス感染によりB16-Cas9細胞に導入され、hCD19レポーターを用いた磁気選択により形質導入細胞を精製し、in vitroで増殖させた。
in vivo スクリーニングの実施: ライブラリー導入B16-Cas9腫瘍細胞をin vitroで増殖させた後、C57BL/6野生型マウスに皮下移植した。免疫療法として、(1) GVAX (GM-CSF分泌照射腫瘍細胞ワクチン) 単独投与群、(2) GVAX + 抗PD-1抗体投与群の2条件で治療を実施した。免疫選択圧の対照群として、T細胞を欠損するTcra-/-マウス群も設定した。腫瘍移植後12〜14日目に腫瘍を回収し、Qiagen DNA Blood Midi kitを用いてゲノムDNAを抽出した。次世代シーケンシングにより各sgRNAの存在量を定量し、STARS (sgRNA ranking by enrichment and depletion) アルゴリズムを用いて、免疫療法群とTcra-/-マウス群間でのsgRNAの枯渇(免疫療法感受性遺伝子)および濃縮(免疫療法抵抗性遺伝子)を解析した。各サブプールにおいて、n=10 mice/groupで実験を実施した。
個別遺伝子の検証: スクリーニングで同定された上位遺伝子について、in vivo競合アッセイ(tdTomato発現腫瘍細胞とGFP発現対照細胞の混合移植)と個別ノックアウト実験により機能を検証した。特にPTPN2については、in vitroおよびin vivoでMHC-I (major histocompatibility complex class I) 発現、IFN-γ応答、増殖、T細胞による殺傷への影響を詳細に解析した。さらに、BrafV600E/Pten-/-メラノーマモデルおよびMC38結腸癌モデルでもPTPN2欠損の免疫療法増感効果を検証した。
IFN-γ経路の機能解析: IFN-γまたはIFN-β処理後の各ノックアウト細胞の増殖・生存、MHC-I発現のアップレギュレーション、OVA (ovalbumin) 抗原特異的OT-I CD8+ T細胞との共培養における腫瘍細胞の生存率を解析した。STAT1 (signal transducer and activator of transcription 1)、JAK1 (Janus kinase 1)、IFNGR1 (interferon gamma receptor 1)、IFNAR2 (interferon alpha and beta receptor subunit 2) などのIFN-γシグナル伝達経路の遺伝子をPTPN2と同時に欠損させたダブルノックアウト細胞を用いて、PTPN2欠損による免疫療法感受性亢進がIFN-γシグナル伝達に依存するかを遺伝学的エピスタシス実験により評価した。免疫細胞浸潤については、フローサイトメトリーと免疫組織化学染色を用いて、PTPN2欠損腫瘍におけるCD8+ T細胞、γδ+ T細胞、NK細胞、CD4+ T細胞、制御性T細胞、骨髄系細胞の数を定量した。統計解析にはStudent’s t検定およびlog-rank検定が用いられた。