• 著者: André P, Denis C, Soulas C, Bourbon-Caillet C, et al.
  • Corresponding author: Pascale André (Innate Pharma), Eric Vivier (Innate Pharma / CIML)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-11-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30503213

背景

がん治療における免疫チェックポイント阻害剤の登場は、腫瘍学に革命をもたらした。特に、PD-1 (programmed-cell death protein 1) やPD-L1 (programmed-cell death ligand 1) を標的とする抗体療法は、多様ながん種において持続的な治療効果を示している。しかし、これらの治療法に良好な応答を示すのは患者の一部に留まり、多くの症例で初期抵抗性や獲得抵抗性が課題となっている Sharma et al. Cell 2017。免疫チェックポイント療法の未来を切り拓くためには、新たな分子標的の同定とそれらを組み合わせた併用療法の確立が不可欠である Sharma et al. Science 2015。また、腫瘍特異的ネオアンチゲンに対するT細胞応答を増強する戦略も模索されているが、自然免疫系と獲得免疫系の双方を包括的に活性化するアプローチは未だ手薄であり、治療戦略としてのエビデンスが不足している Schumacher et al. Science 2015。さらに、PD-1受容体は免疫応答の加減抵抗器 (rheostat) として機能し、そのシグナル伝達経路の理解は臨床応用に不可欠である Okazaki et al. NatImmunol 2013。近年では、in vivoでのCRISPRスクリーニングにより、新たな免疫治療標的の探索も進められている Manguso et al. Nature 2017

ここで注目されるのが、NK (natural killer) 細胞およびCD8+ T細胞の双方に発現する ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif) 含有抑制性受容体であるNKG2A (natural killer group 2 member A) である。NKG2AはCD94とヘテロ二量体を形成し、非古典的 MHC (major histocompatibility complex) クラスI分子である HLA (human leukocyte antigen) -E (マウスでは Qa-1b) を認識する。HLA-Eは多くの固形腫瘍において高発現しており、これがNKG2A陽性の TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) の機能を抑制することで、腫瘍の免疫逃避を誘導していると考えられている。しかし、NKG2A阻害が実際の腫瘍微小環境において、NK細胞とT細胞の抗腫瘍活性をどのように回復させるか、また既存のPD-1/PD-L1経路阻害とどのように相乗作用を示すかについては、詳細な分子機構や臨床的有用性が未解明であり、治療戦略としてのエビデンスが不足している。このように、自然免疫と獲得免疫の双方を同時に標的とする治療法は未開拓であり、既存の免疫チェックポイント阻害剤に対する抵抗性を克服するための知見が決定的に不足している。

目的

本研究の目的は、抑制性受容体NKG2Aを標的とする新規治療用抗体の抗腫瘍効果とその作用機序を、前臨床モデルおよび臨床試験を通じて包括的に検証することである。具体的には、ヒト化抗NKG2A阻害抗体であるモナリズマブ (monalizumab、開発コード: IPH2201) を開発し、NK細胞およびCD8+ T細胞のエフェクター機能活性化における役割を解明する。さらに、抗PD-L1抗体デュルバルマブ (durvalumab) との併用による相乗的な抗腫瘍免疫の増強効果、および抗EGFR (epidermal growth factor receptor) 抗体セツキシマブ (cetuximab) との併用による ADCC (antibody-dependent cellular cytotoxicity) 活性の促進効果をin vitroおよびin vivoで評価する。最終的には、HLA-Eを高発現する既治療の再発・転移性 (R/M: recurrent or metastatic) SCCHN (squamous cell carcinoma of the head and neck) 患者を対象とした第II相臨床試験において、モナリズマブとセツキシマブ併用療法の有効性と安全性を実証することを目的とする。

結果

Qa-1b欠損による腫瘍排除とNKG2A陽性リンパ球の腫瘍内浸潤: マウスモデルにおいて、NKG2Aの非古典的MHCクラスIリガンドであるQa-1bを欠損させたA20 B細胞リンパ腫細胞株 (A20 Qa-1b KO) をBALB/cマウスに移植したところ、野生型A20腫瘍が全例で増殖したのに対し、KO腫瘍を移植したマウスの70%において腫瘍が自然排除された (Fig 1A)。この腫瘍抑制効果は、抗asialo-GM1抗体によるNK細胞の枯渇、または抗CD8a抗体によるCD8+ T細胞の枯渇によって完全に消失し、生存率が著しく低下した (p=0.0020、Fig 1B, 1C)。腫瘍浸潤リンパ球のフローサイトメトリー解析 (n=12 mice) では、腫瘍浸潤NK細胞の約60%がNKG2A陽性であり、腫瘍浸潤CD8+ T細胞の約45%がPD-1陽性であった (Fig 2A)。さらに、これらPD-1陽性CD8+ T細胞の約半数がNKG2Aを共発現しており、腫瘍微小環境においてNKG2AがPD-1と並ぶ重要な抑制性チェックポイントとして機能していることが示された。

抗NKG2A抗体と抗PD-L1抗体の併用による相乗的抗腫瘍効果と免疫記憶の形成: A20腫瘍担持マウスにおいて、抗NKG2A単剤治療の効果は限定的であったが、抗PD-L1抗体との併用療法により、約75%のマウスで腫瘍の完全退縮が誘導された (Fig 2B)。この相乗効果は、NK細胞およびCD8+ T細胞の双方の活性化に依存していた (Fig 2C)。また、C57BL/6Jマウスを用いたRMA-Rae-1b腫瘍モデル (n=8 mice) においても、抗NKG2A抗体と抗PD-L1抗体の併用により45%のマウスで腫瘍が消失した (p<0.0001、Fig 3B)。この併用治療により治癒したマウスでは、脾臓内においてCD62L-CD44+型のエフェクターメモリーCD8+ T細胞の割合が約10.1%に増加しており、腫瘍再チャレンジに対して100%の拒絶反応を示した (Fig 3D)。これは、NKG2A阻害が持続的な抗腫瘍免疫記憶を誘導することを示している。

ヒトNK細胞およびCD8+ T細胞に対するモナリズマブの機能回復作用: ヒト化抗NKG2A抗体モナリズマブは、NKG2A陽性NK細胞およびCD8+ T細胞に対して極めて高い親和性を示し、結合の EC50 (half-maximal effective concentration) はNK細胞で4.5 ng/mL、CD8+ T細胞で11.4 ng/mLであった (Fig S5B)。in vitro共培養アッセイにおいて、モナリズマブはHLA-E発現K562細胞に対するNK細胞の脱顆粒活性 (CD107a発現) を 2.5-fold に増強した (Fig 5A)。さらに、IL-15で刺激したNK細胞を用いた実験 (n=13 donors) では、モナリズマブとデュルバルマブの併用により、NKG2A+PD-1+二重陽性NK細胞の脱顆粒活性が単剤群と比較して有意に向上した (Fig 5D)。インフルエンザウイルス特異的CD8+ T細胞を用いたアッセイ (n=14 donors) でも、両剤の併用は標的細胞の特異的溶解活性を相乗的に高めることが確認された (Fig 5G)。

各種固形がんにおけるHLA-E発現とNKG2A陽性細胞の浸潤プロファイル: 臨床検体を用いた IHC (immunohistochemistry) 解析により、HLA-Eが SCCHN (n=65) や CRC (colorectal cancer) (n=48) を含む多様な固形腫瘍の腫瘍細胞上で高頻度に発現していることが明らかになった (Fig 4A, 4B, 4C)。特にSCCHNでは、腫瘍細胞の多くがスコア2または3 of 強陽性を示した (Fig 4B)。これに対し、PD-L1の発現は一部の腫瘍に限定されていた (Fig S4)。また、これらの腫瘍組織内には、NKG2A陽性のNK細胞およびCD8+ T細胞が豊富に浸潤していることが確認され、NKG2A/HLA-E経路が広範ながん種において治療標的となり得ることが示された (Fig 4D)。さらに、卵巣がん (n=40) や子宮内膜がん (n=40) においても、腫瘍細胞でのHLA-E高発現と、腫瘍局所へのNKG2A陽性細胞の浸潤が同様に観察された (Fig 4C)。

第II相臨床試験におけるモナリズマブとセツキシマブ併用の有効性と安全性: 既治療のR/M SCCHN患者を対象とした第II相臨床試験において、有効性評価が可能な n=26 patients の解析結果、ORRは31% (8/26例) に達し、病勢コントロール率 (DCR (disease control rate) ) は85% (14/26例のSDを含む) を記録した (Fig 6B)。奏効した8例のうち2例は、過去に抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を有する症例であった。安全性評価対象となった n=31 patients において、主な治療関連 AE (adverse event) は倦怠感 (17%)、発熱 (13%)、頭痛 (10%) であり、その93%がグレード1または2の軽度なものであった (Table 1)。セツキシマブ特有 of 皮膚毒性の増悪は認められず、治療関連死亡も発生しなかった。この良好な臨床効果の背景には、モナリズマブがNK細胞のNKG2Aブレーキを解除することで、セツキシマブが誘導するADCC活性を 3.0-fold に増強するという相乗的な作用機序が存在することがin vitro実験で裏付けられた (p<0.0001、Fig 6A)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の免疫チェックポイント阻害剤は、主にT細胞の活性化に焦点を当てて開発されてきた Sharma et al. Science 2015。これら従来の治療法と異なり、本研究で標的としたNKG2A経路は、獲得免疫系であるCD8+ T細胞だけでなく、自然免疫系であるNK細胞の双方を同時に活性化できるという点で、これまでの治療戦略と大きく異なる。また、腫瘍細胞における古典的MHCクラスI分子の低下はT細胞からの逃避機構として知られるが、非古典的MHCクラスIであるHLA-Eは腫瘍細胞上で発現が維持される傾向にあり、NKG2A阻害はPD-L1陰性腫瘍に対しても有効である可能性が示唆された。

新規性: 本研究は、ヒト化抗NKG2A抗体モナリズマブが、NK細胞およびCD8+ T細胞の双方のエフェクター機能を回復させ、抗腫瘍効果を発揮することを世界で本研究で初めて実証した。特に、NKG2AがPD-1と共発現してT細胞の疲弊を増悪させていることを見出し、モナリズマブと抗PD-L1抗体デュルバルマブの併用が相乗効果をもたらすことを新規に解明した。さらに、モナリズマブがNK細胞の抑制を解除することで、セツキシマブなどの治療用抗体がおこなうADCC活性を劇的に増強するという新たな治療コンセプトを提示した。

臨床応用: 本研究の臨床的有用性は極めて高い。HLA-Eが高発現する既治療のR/M SCCHN患者において、モナリズマブとセツキシマブの併用療法は31%という高いORRを達成し、良好な安全性プロファイルを示した。この結果は、既存の治療選択肢が極めて限定的な再発・転移性頭頸部がんにおける新たな標準治療としての臨床応用を強く支持するものである。また、MSS (microsatellite stable) 大腸がん患者を対象としたモナリズマブとデュルバルマブの併用試験 (NCT02671435) においても有望な初期効果が示されており、免疫療法抵抗性のがん種に対する translational なアプローチとして期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、モナリズマブの治療効果を予測するためのバイオマーカーの同定が挙げられる。腫瘍微小環境におけるHLA-Eの発現強度や、患者のHLA遺伝子型との関連性について、さらなる検証が必要である。また、本研究における臨床試験は単アームの小規模な第II相試験であるため、有効性と安全性を確定するためには、より大規模なランダム化比較試験による検証が不可欠である。さらに、NKG2A陽性細胞の動態や、他の免疫チェックポイント阻害剤との最適な併用順序に関する基礎的な検討も、今後の重要な研究方向性である。本研究の limitation として、マウスモデルとヒト臨床試験の間の免疫応答の差異が挙げられ、さらなるトランスレーショナルな解析が求められる。

方法

前臨床研究におけるin vivo実験では、BALB/c マウスおよび C57BL/6J マウスを用い、Qa-1b陽性のA20 B細胞リンパ腫細胞株および RMA-Rae-1b (retinoic acid early transcript 1bを発現するRMAリンパ腫細胞株) を皮下移植した腫瘍モデルを構築した。CRISPR/Cas9システムを用いてQa-1b欠損 (KO: knockout) A20細胞株を作製し、野生型腫瘍との増殖比較を行った。抗NKG2A抗体 (20d5のフェザーサイレントマウスIgG1改変体) および抗PD-L1抗体、抗PD-1抗体を投与し、腫瘍体積の経時的変化を測定した。NK細胞およびCD8+ T細胞の寄与を検証するため、抗 asialo-GM1 抗体や抗NK1.1抗体、抗 CD8a 抗体を用いた体内細胞枯渇実験を実施した。腫瘍浸潤リンパ球の表現型解析は、腫瘍組織を酵素的に消化した後にフローサイトメトリーを用いて行い、NKG2AおよびPD-1の発現パターンをプロファイリングした。

ヒトin vitroアッセイでは、健康ドナー由来 of PBMC (peripheral blood mononuclear cell) から分離したNK細胞およびCD8+ T細胞を使用し、HLA-EおよびPD-L1を強制発現させた K562 細胞株との共培養系を確立した。モナリズマブおよびデュルバルマブの存在下で、脱顆粒マーカーであるCD107aの発現、IFNγの産生、およびクロム51 (51Cr) 放出アッセイによる標的細胞傷害活性を測定した。また、セツキシマブまたはオビヌツズマブ (obinutuzumab) を用いたADCC活性の評価には、SCCHN細胞株であるCAL-27やB細胞株である721.221を使用した。

臨床試験としては、既治療のR/M SCCHN患者を対象とした多施設共同オープンラベル単アーム第II相試験 (NCT02643550) を実施した。モナリズマブ (10 mg/kg、2週に1回) とセツキシマブ (初回400 mg/m2、以降週1回250 mg/m2) を併用投与し、主要エンドポイントとしてRECIST 1.1基準に基づく ORR (objective response rate) を評価した。生存解析および群間比較における統計学的有意差の判定には、log-rank テスト、Kruskal-Wallis検定、およびWilcoxon符号付き順位検定を用いた。