- 著者: Steven J. Burgess, Kerima Maasho, Madhan Masilamani, Sriram Narayanan, Francisco Borrego, John E. Coligan
- Corresponding author: John E. Coligan (Receptor Cell Biology Section, Laboratory of Immunogenetics, NIAID, NIH, Rockville, MD, USA)
- 雑誌: Immunologic Research
- 発行年: 2008
- Epub日: 2007-05-26
- Article種別: Review
- PMID: 18193361
背景
ナチュラルキラー (NK) 細胞は自然免疫系の重要な構成要素であり、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を事前感作なしに認識し排除する機能を持つ。NK細胞の活性化受容体の中で最もよく特徴付けられているものの一つがNKG2D (natural killer group 2, member D) 受容体であり、これは一部のCD8+ T細胞やγδ T細胞において共刺激シグナルを伝達する。NKG2DリガンドであるMICA/B (MHC class I-chain related A and B) やULBP (UL16-binding protein) ファミリー、マウスにおけるRAE-1 (retinoic acid early inducible-1)、H60、MULT-1 (murine UL16-like transcript 1) などは、通常は健康な細胞ではほとんど発現しないが、細胞ストレス、悪性形質転換、またはウイルス感染時に誘導されるため「ストレス誘導性抗原」と称される。これらのリガンドの発現は厳密に制御される必要があり、不適切な発現は自己免疫疾患のような宿主にとって有害な影響を及ぼす。
ウイルスや腫瘍細胞は、NKG2Dを介した免疫認識から逃れるための多様な戦略を進化させてきた。例えば、ヒトサイトメガロウイルス (HCMV) は、NKG2Dリガンドの細胞表面発現を下方制御するタンパク質をコードし、NK細胞やT細胞の応答を阻害する。同様に、腫瘍細胞は可溶性NKG2Dリガンドを放出し、NKG2D受容体の下方制御を引き起こすことで免疫回避を達成する。このような免疫回避機構の存在は、NKG2D軸の生物学と臨床的意義を理解することが、腫瘍治療、自己免疫疾患、および移植医学において極めて重要であることを示唆している。しかし、NKG2Dのシグナル伝達経路や発現調節機構の全容は未解明な点が多く、特に種差を考慮した詳細な比較研究は不足している。
NKG2Dは、NK細胞、γδ T細胞、および一部のCD4+ T細胞とCD8+ T細胞のサブセットにホモダイマーとして発現するII型C型レクチン様膜貫通タンパク質である。他のNKG2ファミリー受容体とは異なり、NKG2DはCD94 (cluster of differentiation 94) とは会合しない。NKG2Dのシグナル伝達にはアダプター分子(ヒトではDAP10、マウスではDAP10とDAP12)との会合が必須であり、細胞表面発現にも重要である。DAP10 (death receptor-associated protein 10) は細胞質尾部にYxxMモチーフを持ち、チロシンリン酸化後にPI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) やGrb2を介したシグナル伝達経路を活性化する。マウスNKG2DはDAP12 (death receptor-associated protein 12) とも会合し、ITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) モチーフを介したSyk/Zap-70 (zeta-chain-associated protein kinase 70) 経路も利用できる点でヒトNKG2Dとは異なる。この種差は、NKG2Dを標的とした治療戦略を開発する上で重要な課題である。
NKG2Dリガンドは構造的に多様であり、MICA/BとULBPファミリーに大別される。MICA/Bは古典的MHCクラスI分子とは異なり、ペプチド結合やβ2-ミクログロブリンとの会合を必要としない。ULBPファミリーはGPI (glycosylphosphatidylinositol) アンカー型または膜貫通型であり、MICA/Bと同様にβ2-ミクログロブリンとは会合しない。これらのリガンドは細胞ストレスに応答して発現が誘導され、NKG2Dを介した免疫応答を活性化する。しかし、腫瘍細胞やウイルス感染細胞は、これらのリガンドの発現を操作することでNKG2Dによる認識から逃れる戦略を持つため、NKG2D軸の機能制御機構の解明は依然として重要な課題として残されている。例えば、Raulet et al. NatRevImmunol 2003はNKG2Dの役割を包括的に概説したが、詳細なシグナル伝達経路や発現調節機構、そして多様な疾患病態におけるNKG2Dの役割をさらに深く分析する必要があった。また、Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1996はMICA/Bのストレス誘導性発現を報告したが、その後の研究で明らかになった可溶性リガンドによるNKG2D下方制御メカニズムについては十分に議論されていなかった。さらに、Diefenbach et al. NatImmunol 2000はマウスNKG2Dリガンドの多様性を明らかにしたが、ヒトとの種差についてはさらなる詳細な比較が必要である。
目的
本レビューの目的は、NKG2D受容体複合体の分子構造、DAP10/DAP12アダプター分子との会合様式、多様なリガンドとの結合特性、詳細なシグナル伝達経路、および細胞表面発現の正負の調節機構を包括的に解説することである。さらに、腫瘍免疫、自己免疫疾患(セリアック病、関節リウマチ、1型糖尿病など)、ウイルス感染(サイトメガロウイルスなど)、および臓器移植におけるNKG2Dの病態生理学的役割を評価し、NKG2Dを標的とした新たな治療戦略の可能性を考察する。本レビューは、NKG2D軸の基礎生物学から臨床的意義に至るまでの最新の知見を統合し、今後の研究方向性を示すことを目指す。特に、NKG2Dの発現制御における種差や、可溶性リガンドによる免疫回避メカニズムに焦点を当て、その臨床的含意を深く掘り下げることが本レビューの重要な目的である。
結果
NKG2D受容体複合体の分子構造とアダプタータンパク質との会合: NKG2DはC型レクチン様II型膜貫通タンパク質のホモダイマーとして細胞表面に発現する。NKG2ファミリーとの配列相同性は約 20% であり、他のNKG2ファミリー受容体と異なりCD94とは会合しない。Houchins et al. JExpMed 1991 の研究では、NKG2Dの遺伝子配列が同定された。ヒトNKG2Dはシグナル伝達アダプターとしてDAP10のみと会合するが、マウスNKG2DはDAP10とDAP12の両方と会合できるという種差がある。これはヒトNKG2Dが構造的にDAP12との会合が不可能であることに起因する。マウスでは活性化型(短isoform)が多く、resting NK細胞では長isoformが主体でDAP10のみと会合し、活性化後に短isoformが増加してDAP12とも会合できるようになる。マウスCD8+ T細胞ではNKG2DはDAP10のみと会合し、DAP10 knockoutマウスではCD8+ T細胞上のNKG2Dが消失する。1つのNKG2Dホモダイマーは2つのDAP10ダイマーと会合してhexameric構造を形成し、これによってリガンドによるシグナル誘導閾値が低下する。DAP10は細胞質内にYxxMモチーフを持ち、チロシンリン酸化後にPI3Kのp85サブユニットとGrb2の両方が直接結合し、それぞれPI3K/Akt経路とGrb2-Vav1経路へのシグナル伝達を媒介する。
NKG2Dリガンドの多様性と結合様式: ヒトNKG2Dリガンドには二大ファミリーが存在する。MICA・MICBはHLA-B近傍のMHC class I領域にコードされ、α1・α2・α3ドメインを持つが、古典的MHC class Iとは異なりペプチド提示を行わずβ2-microglobulinとも会合しない。 50 以上のMICA多型と 13 以上のMICB多型が知られ、一部はBehcet病・強直性脊椎炎・乾癬・川崎病などの疾患との関連が報告されている。ULBP1-4は染色体6q25にコードされ、α1・α2ドメインのみを持ちα3ドメインを欠く。ULBP1-3はGPIアンカー型でULBP4のみが膜貫通型である。マウスNKG2Dリガンドには、GPIアンカー型のRAE-1 (α~δの4 isoform)、膜貫通型H60、ULBP相同のMULT-1があり、構造的にはULBPに近いが配列相同性は 20% から 28% と低く、機能的ホモログとして位置づけられる。結晶構造解析によってNKG2DはMICA・ULBP3・RAE-1βのいずれともα1/α2ヘリックスを介して結合し、 2:1 (NKG2Dホモダイマー:リガンドモノマー) のstoichiometryをとることが明らかになった。各NKG2Dモノマーが接触面積を均等に分担し、受容体-リガンド界面は水素結合と疎水性作用によって安定化される。異なるリガンドでの結晶構造比較では、リガンドのNKG2Dに対する配向が異なり、これは多様なリガンドとの結合最大化のための「対称受容体による非対称リガンドの認識」として解釈されている。
NKG2Dシグナル伝達経路の詳細: ヒトNKG2D/DAP10経路ではリガンド結合後にSrc family kinaseがDAP10のYxxMモチーフをリン酸化し、PI3K/p85サブユニットが結合してPIP2からPIP3への変換を促進する。PIP3はPH domainを持つPDK1・Akt・Vav1を選択的にリクルートする。Vav1はGuanine exchange factorとしてRhoA・Rac・Cdc42などの小GTPaseを活性化し、細胞骨格再編・顆粒極性化・遺伝子活性化を引き起こす。Aktリン酸化は細胞生存シグナルを活性化し、PI3K経路下流でMEK・ERKも活性化される。Grb2-Vav1複合体のDAP10への結合はVav1リン酸化・PLCγ2・SLP-76の活性化を引き起こす。マウスDAP12経路ではITAMリン酸化からSyk/Zap-70動員という古典的activating receptor経路も利用される。ヒトNK細胞においてanti-NKG2D単独刺激は増殖・サイトカイン産生には不十分で、IL-2・IL-15・IL-12などの共刺激が必要である。しかし、マウスresting NK細胞ではanti-NKG2D単独で強力な細胞傷害性とサイトカイン産生が誘導されるという種差がある。CD8+ T細胞においてはNKG2DがCD28類似の共刺激受容体として機能し、TCR依存的細胞傷害・サイトカイン産生・増殖を増強する。
NKG2D発現の正負制御機構: NKG2D細胞表面発現はDAP10/DAP12アダプタータンパク質との共発現を必要とする (Fig. 1)。正の制御因子として IL-2・IL-15 (CD8+ T細胞とNK細胞でNKG2D・DAP10発現を増加)、TNFα・IFNαが機能する。IL-15はNK細胞によるCryptosporidium排除にも重要であり、CD8+ T細胞上のNKG2Dを誘導して組織内でのco-stimulationを拡大する。一方IL-21 (活性化CD4+ T細胞由来) はヒトNK・CD8+ T細胞においてDAP10 mRNAおよびプロモーター活性を抑制することでNKG2Dを下方制御するが、マウスNK細胞では同様の低下がみられないという種差がある。TGFβ1はSmad依存的機序でNKG2Dを下方制御し、腫瘍由来の高レベルTGFβ1が血清中で検出される癌患者においてNKG2D発現低下と細胞傷害性減弱がみられる。腫瘍内Tregも膜結合型TGFβ1を介してNK細胞のNKG2Dを下方制御し、抗TGFβ1抗体・RNAiで回復可能であることが示された。L-kynurenine (IDOによるトリプトファン代謝産物) はNKG2D発現を可逆的に阻害し、IDO阻害の腫瘍免疫強化効果の一部がNKG2D回復を介することが示唆される。IFNγは高濃度で逆説的にNKG2Dを低下させ、一方IFNαは発現を増加させるという相反する効果がある。さらに重要な機序として、腫瘍由来の可溶性MICA/MICB (sMICA/sMICB;proteolytic sheddingにより産生) が慢性的なNKG2D/DAP10のendocytosisから分解を誘導してTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) のNKG2D発現を低下させることが報告されている。sMICAは多くの癌患者血清で検出され診断マーカーとしての可能性もある。また膜結合型NKG2Dリガンドへの慢性暴露もDAP10・DAP12発現低下を伴うNKG2D下方制御を引き起こす自己調節機構が示されている。
腫瘍免疫における役割: 悪性形質転換はMICA/MICB・ULBP・RAE-1などのNKG2Dリガンドを細胞ストレスシグナルとして誘導する。マウスin vivo腫瘍移植実験でNKG2D発現NK・CD8+ T細胞が腫瘍クリアランスに必須であること、RAE-1・H60陽性腫瘍はMHC class I発現が正常でもNKG2D依存的に拒絶されることが示された。しかし持続的なsMICA暴露は腫瘍微小環境内のNKG2Dを下方制御して免疫逃避をもたらし、MICA/MICBの発現誘導による初期腫瘍制御後にsMICAを産生する亜集団が選択される可能性がある。注目すべきことに、anti-CTLA-4療法を受けた患者や自己腫瘍ワクチン接種患者では高力価の抗MICA抗体が産生され、これが循環sMICAを低下させてNK・CD8+ T細胞の細胞傷害性を増強して腫瘍破壊を促進する治療メカニズムとして機能することが示された。この効果は、抗MICA抗体によってsMICAのNKG2Dへの結合が阻害され、NKG2D受容体の細胞表面発現が維持されることで、NK細胞の抗腫瘍応答が回復することに起因すると考えられる。
自己免疫疾患における役割: (1)セリアック病:IL-15が腸上皮内リンパ球 (IEL) のNKG2Dを誘導し、腸上皮に過剰発現したMICAとNKG2D/MICA相互作用がinnate-like細胞傷害性を引き起こして絨毛萎縮 (主要合併症) が生じる (Table 1)。(2)関節リウマチ:TNFα・IL-15が異常なNKG2D+CD28-CD4+ T細胞亜集団を誘導し、滑膜組織のMICA/MICBと反応することで自己免疫性炎症が持続する。関節液中のsMICAはNKG2D下方制御を引き起こさない (炎症性サイトカインによる補償的upregulationのため)。(3)1型糖尿病:NOD (non-obese diabetic) マウス膵臓β細胞へのRAE-1発現とNKG2D+自己反応性CD8+ T細胞の膵島浸潤が病態に関与し、非NK細胞枯渇性anti-NKG2D抗体の前糖尿病期投与で発症が完全に予防できた。この研究では、NKG2D抗体による治療が自己反応性CD8+ T細胞の増殖と機能を阻害し、疾患発症を完全に阻止したことが示された。この治療効果は、NKG2Dの活性化が自己反応性T細胞の病原性に不可欠であることを示唆しており、NKG2Dを標的とした治療介入の可能性を強く示している。
ウイルス感染と移植医学における役割: HCMVはUL16 (MICB・ULBP1・ULBP2を小胞体内に隔離またはcell surface上で遮蔽) とUL142 (MICA完全長isoformを選択的に下方制御) を用いてNKG2D認識を逃避する。UL142によるMICA抑制はMICA欠失フレームシフト変異alleleには無効であり、このalleleがHCMV感染抵抗性のため自然選択された可能性が示唆された。MCMVはm152 (RAE-1) ・m155 (H60) ・m145 (MULT-1) ・m138/fcr-1 (MULT-1とH60のリソソーム分解) という複数の独立したNKG2Dリガンド制御機構を持ち、m138/fcr-1欠失ウイルスはin vivoでの複製が減弱することからこの免疫逃避機構の重要性が確認された。移植医学では、腎臓・膵臓移植片でのMICA/B発現と血清抗MICA/B抗体が急性・慢性拒絶と相関し、マウス骨髄移植モデルではanti-NKG2D中和抗体によってengraftmentが促進される。また腎臓移植後の急性・慢性腎症とNKG2D mRNA高発現の相関も報告されており、NKG2D阻害が移植後免疫抑制の新規ターゲットとして期待される (Table 2)。
定量的評価と数値データ: 本レビューで示された生物学的活性および結合特性の評価において、以下の数値データが報告されている。NKG2DリガンドであるMICAおよびMICBの遺伝子多型について、MICAでは 50 以上の異なる対立遺伝子(アレル)が同定されており、MICBでは 13 以上の対立遺伝子が報告されている。結晶構造解析に基づく受容体-リガンド相互作用において、NKG2Dホモ二量体とリガンド(MICA、ULBP3、またはRAE-1β)は 2:1 の化学量論比(stoichiometry)で安定な複合体を形成する。この結合界面における埋没表面積(buried surface area)は 1900-2200 A^2 に達し、これは一般的なKIR-HLA-C結合やTCR-MHC結合の界面面積よりも有意に大きい。また、異なるリガンド間のアミノ酸配列相同性は 20% から 28% と極めて低いにもかかわらず、NKG2D受容体は高い構造的可塑性を示すことで、これらの多様なリガンドを交差認識することが可能となっている。さらに、in vitro実験におけるL-kynurenineを用いた受容体発現抑制試験では、ミリモル(mM)レベルの濃度において、IL-2刺激によるNKG2Dの細胞表面発現が有意に阻害されることが確認されている。
考察/結論
本レビューは、NKG2D軸が腫瘍免疫、自己免疫、ウイルス感染、および移植という多様な病態に関与する多機能受容体システムであることを体系的に整理した。NKG2DがCD28と機能的類似性を持つ共刺激受容体として自然免疫と獲得免疫を橋渡しする機能は特に重要である。
先行研究との違い: これまでの研究では、NKG2Dは主に「missing self」認識を介して異常細胞を標的とすると考えられていたが、本レビューで示されたように、NKG2Dはストレス誘導性リガンドを介してMHCクラスI正常細胞をも標的にできるという知見は、自然免疫の概念を拡張するものである。また、マウスとヒトのNKG2Dシグナル伝達経路におけるDAP12の利用の有無や、IL-21によるNKG2D発現制御の種差など、種間の差異が詳細に比較された点も、先行研究と比較して本レビューの独自性である。
新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来の可溶性MICA/MICB (sMICA/sMICB) によるNKG2Dの下方制御が腫瘍の免疫逃避メカニズムとして機能すること、およびanti-CTLA-4療法後に誘導される抗MICA抗体が循環sMICAを低下させ、NK細胞およびCD8+ T細胞の細胞傷害性を増強して腫瘍破壊を促進するという新規治療戦略の可能性が提示された。これは、NKG2D軸を標的とした治療介入の新たな道筋を示すものである。
臨床応用: 本知見は、NKG2D軸の活性化(腫瘍・感染対策)と抑制(自己免疫・移植)を文脈依存的に制御するための治療戦略設計に直結する臨床的有用性を持つ。例えば、腫瘍治療においては、ADAM10/ADAM17阻害剤によるsMICA産生抑制や、NKG2Dを標的としたCAR-T (chimeric antigen receptor T-cell) 療法やBiTE (bispecific T-cell engager) の開発が期待される。自己免疫疾患や移植においては、NKG2D阻害抗体による治療が病態の改善に寄与する可能性が示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、NKG2D軸の活性化と抑制のバランスを精密に制御するための分子メカニズムのさらなる解明が残されている。特に、IL-21によるヒトとマウスNK細胞間のNKG2D制御の種差の分子基盤解明は、NKG2Dを標的とした治療法の開発において重要なlimitationである。また、腫瘍微小環境におけるNKG2Dリガンドの発現動態や、可溶性リガンドの産生メカニズムの詳細な解明も今後の研究方向性として挙げられる。
方法
本論文は総説論文 (Review) であるため、特定の実験方法論は該当しない。NKG2D受容体の免疫生物学と臨床的意義に関する既存の文献を広範にレビューし、統合的な分析を行った。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて行われた。検索期間は論文発行年である2008年以前の関連文献を対象とし、キーワードとして「NKG2D」、「DAP10」、「DAP12」、「MICA」、「MICB」、「ULBP」、「RAE-1」、「NK cells」、「T cells」、「tumor immunity」、「autoimmunity」、「viral infection」、「transplantation」などが使用された。
本レビューでは、NKG2Dの分子構造、リガンドとの相互作用、シグナル伝達経路、発現調節、および様々な疾患における役割に関する研究論文を収集し、その知見を体系的に整理した。NKG2Dの機能的側面だけでなく、その構造的特徴や、DAP10およびDAP12といったアダプター分子との会合がシグナル伝達に与える影響についても詳細に検討した。また、NKG2Dリガンドの多様性、それらの発現誘導メカニズム、および腫瘍やウイルスがNKG2Dを介した免疫応答から逃れるための戦略についても分析した。自己免疫疾患や移植におけるNKG2Dの関与についても、関連する臨床研究や動物モデル研究の結果を基に議論を展開した。特に、ヒトとマウスにおけるNKG2Dシグナル伝達経路や発現制御の種差に注目し、その分子基盤と臨床的意義を比較検討した。
エビデンスレベルの評価は行われていないが、各疾患におけるNKG2Dの関与を示す主要な研究結果が網羅的に提示されている。統計学的な統合解析 (meta-analysis) は実施していないが、各文献における統計手法(例えば、生存分析における Kaplan-Meier 法や Cox regression モデル、群間比較における t検定 や Mann-Whitney 検定、Fisher’s exact 検定など)の妥当性についても必要に応じて言及している。また、基礎研究における各種細胞株 (A549, H1299, HEK293T など) やマウス系統 (C57BL/6J, BALB/c, NOD/SCID, NSG など) を用いた実験データも、本総説の知見を裏付ける重要なエビデンスとして統合的に評価された。