- 著者: Benjamin A. Freiberg, Hannah Kupfer, William Maslanik, Joe Delli, John Kappler, Dennis M. Zaller, Abraham Kupfer
- Corresponding author: Abraham Kupfer (National Jewish Medical and Research Center, Denver, CO, USA)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2002
- Epub日: 2002-09-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 12244310
背景
T細胞抗原受容体 (TCR: T cell receptor) は、抗原提示細胞 (APC: antigen-presenting cell) 上の主要組織適合性複合体 (MHC: major histocompatibility complex) に提示された抗原ペプチドを認識することで、リンパ球特異的チロシンキナーゼ (Lck) やゼータ鎖関連プロテインキナーゼ70 (ZAP-70) などのキナーゼ群を活性化し、T細胞の活性化を誘導する。先行研究である Weiss et al. (1994) や Viola et al. (1999) では、TCRの人工的な抗体架橋が容易に受容体を動員するものの、生産的なT細胞応答を誘導できない一方、生理的活性化では極めて少数のTCRで応答が可能であるという感受性の差が報告されている。しかし、この感受性の差を制御する詳細な分子メカニズムは未解明であり、チロシンキナーゼとチロシンホスファターゼのバランスがT細胞-APC相互作用中にどのように調節されるかについては、十分な知見が不足していた。
Lckの活性は受容体型チロシンホスファターゼであるCD45に依存し、C末端チロシンの脱リン酸化がキナーゼの活性化に必須である一方、CD45は活性化部位も脱リン酸化できるため、活性化と抑制の相反する役割を持つ。T細胞-APC接触界面では、TCRやLckが中心超分子活性化クラスター (cSMAC: central supramolecular activation cluster) に、インテグリンであるLFA-1 (lymphocyte function-associated antigen-1) とtalinが末梢超分子活性化クラスター (pSMAC: peripheral supramolecular activation cluster) に集積する超分子構造 (SMAC: supramolecular activation cluster) が形成される。しかし、SMACが活性化を促進する場であるのか、あるいはシグナルを抑制・リセットする場であるのかについては論争があり、特にCD45の空間配置とSMACでの機能は未解明であった。従来のモデルでは、CD45は活性化されたTCRやLckから物理的に排除されると提唱されていたが、これはLckの抑制性リン酸化部位の脱リン酸化というCD45の必須の役割を説明できないという課題があった。生理的なT細胞-APC相互作用におけるキナーゼとホスファターゼの動的な時空間制御メカニズムを解明することが強く求められていた。
目的
本研究の目的は、T細胞-APCコンジュゲートの3次元 (3D) 免疫蛍光顕微鏡と時系列解析を用いて、cSMAC、pSMAC、および新規に同定される遠位超分子活性化クラスター (dSMAC: distal supramolecular activation cluster) におけるCD3、CD45、Lck、talin、リン酸化チロシン (pY)、およびリン酸化ZAP-70の空間配置変化を詳細に追跡することである。これにより、SMAC内部におけるキナーゼ-ホスファターゼの時空間的制御メカニズムと、T細胞活性化の段階構造を解明することを目指した。特に、CD45がTCRエンゲージメントによってcSMACにリクルートされるか、その後の動態、およびLckとZAP-70の活性化状態との関連性を明らかにすることを目的とした。
結果
TalinとpYの時系列動態:
T細胞とAPCのコンジュゲート形成後、talinとpYの時空間的局在を解析した (Fig 1)。45秒時点では、talinは接触領域全体にランダムに分散しており、組織化されたSMACはまだ形成されていなかった。pYはT細胞膜全体に観察され、接触領域には多数の小さなパッチとして散在していた。3分時点では、talinは明確なpSMACにクラスターを形成していた。しかし、この時点のcSMACではpYのラベリングが検出されず、接触領域の他の部位 (pSMACを含む) にpYが観察された。7分時点では、pYラベリングはcSMACおよびpSMACに集積していた。さらに遅い23分時点では、pYは再びcSMACからほとんど消失した。これらのラベリングパターンは、各時間点でコンジュゲートの 78 ± 10% (n=100 cells) で観察された。この結果は、T細胞活性化におけるpYシグナルの二相性を示唆する。未結合T細胞のpYラベリングは、APC非存在下でもT細胞膜全体に存在しており、talinは細胞全体に拡散していた。これは、talinラベリングがSMAC形成前のシグナル伝達を示唆する一方で、pYラベリングはTCR誘導性リン酸化と既存のリン酸化の両方を検出するため、早期cSMACにおけるpYの予期せぬ欠如を明らかにした。
LckとエンゲージされたTCRの早期cSMACへの集積とpYの欠失: 早期cSMACにおけるpYの欠失が、単にTCRやLckの局所的な欠如によるものではないことを確認するため、CD3、Lck、およびエンゲージされたTCRの局在を解析した。CD3はcSMACにクラスターを形成しており、Lckも同様に3分および7分時点でCD3と共にcSMACに共集積していた。さらに、GFP-MCC-I-E^kを発現するAPCを用いた実験では、エンゲージされたMHC-ペプチド複合体がT細胞のcSMACにおけるCD3クラスターと隣接して集積していることが示された。これらの結果は、早期cSMACにはすでにエンゲージされたTCR、CD4、およびLckが存在することを示している。にもかかわらず、3分時点の早期cSMACではpYおよび活性化型Srcキナーゼ (phospho-Src抗体で検出) が検出されなかった。これは、Lckが存在するにもかかわらず、この段階で不活性化されていることを強く示唆する。
CD45のcSMACへの一時的リクルートとdSMACへの排除:
早期cSMACにおけるpY欠失の可能性のある原因を特定するため、CD45の時空間的局在を解析した (Fig 2)。45秒時点では、CD45とLckは細胞接触領域にランダムに分布していた。しかし、3分時点では、コンジュゲートの 78% (n=100 cells) でCD45がLckと共にcSMACに一時的に集積していた。対照的に、7分時点では、ほとんどのコンジュゲートでLckはcSMACに残存していたが、CD45はcSMACから排除されていた。CD45の細胞内C末端ドメインに特異的なポリクローナル抗体を用いたラベリングでも同様のパターンが観察された。定量的な3D解析では、TCRと共クラスター化したCD45は総CD45のわずか 1.9 ± 0.3% であった。CD45がcSMACから排除された後もpSMACからは分離されており、23分時点では、CD45はこれまで認識されていなかった外側の領域であるdSMACにクラスターを形成していた (Fig 3)。このパターンは >90% (n=100 cells) のコンジュゲートで観察された。これらの結果は、少なくとも3つの明確な活性化誘導型接触ドメイン (cSMAC、pSMAC、dSMAC) の存在を初めて確立し、CD45が異なるSMACに順次クラスター化することを示した。
FRETによるCD3-CD45近接性検証:
cSMACで共局在するCD45とCD3が分子的に会合している可能性を検証するため、FRET解析を実施した (Fig 5)。3分時点のAD10-CH12コンジュゲートにおいて、CD3とCD45のFRETシグナルがcSMACでのみ陽性であることが検出された。これは、ドナーとアクセプターのラベル間の距離が 100 Å 未満であることを示しており、クラスター化したCD45が早期cSMACにおいてCD3と密接に会合していることを直接的に証明した。この結果は、解析した 9 個のコンジュゲート中 7 個 (n=9 cells) で再現された。CD45とCD3の染色がT細胞膜全体で検出されたにもかかわらず、FRETはcSMACでのみ検出された。
ペプチド-MHCテトラマービーズによるCD45リクルートの検証:
CD45のリクルートが未同定のCD45リガンドに依存するのか、TCRによって直接誘導されるのかを決定するため、AD10 TCRトランスジェニックT細胞を、多価組換えMCC-I-E^k複合体でコートされたビーズとコンジュゲートさせた (Fig 4)。ビーズとT細胞の結合は、抗原性ペプチドの存在に完全に依存した。1分時点では、T細胞-ビーズ界面でのCD3のクラスター化がCD45のクラスター化に先行した。これは、リクルートされたTCRがペプチド-MHC複合体への結合前にCD45と安定的に会合していなかったことを示唆する。次の6分間では、CD3とCD45の両方がT細胞-ビーズ界面に濃縮された。23分時点では、ほとんどのTCRがT細胞-ビーズ接触部位にリクルートされたが、CD45はこの領域から排除された。これらのラベリングパターンは、T細胞-ビーズコンジュゲートの約 90% (n=30 cells) で観察された。対照実験では、H-2^k抗体で二重染色されたT細胞-ビーズコンジュゲートでは、H-2^kラベリングはT細胞膜を明確に示したが、解析されたどの時間点でも濃縮も枯渇も示さなかった。したがって、T細胞-APC相互作用およびT細胞-ビーズコンジュゲートにおけるCD45のリクルートと排除は、エンゲージされたTCRによって制御され、APC上の未知のリガンドとのCD45の相互作用によるものではないことが示された。
リン酸化ZAP-70の動態:
リン酸化ZAP-70 (活性Lckの直接基質) の時空間的局在を解析した (Fig 6)。細胞混合後45秒時点では、リン酸化ZAP-70の小さなパッチが細胞接触領域に観察された。しかし、3分時点では、細胞接触領域に検出可能なリン酸化ZAP-70のラベリングは認められなかった。7分時点では、cSMACにおいて強いリン酸化ZAP-70のラベリングが再び観察された。23分時点では、リン酸化ZAP-70のラベリングは再び減少したが、45秒時点と同様に明確に検出可能であった。これらのラベリングパターンは、コンジュゲートの 75 ± 10% (n=100 cells, p<0.001) で観察された。これらの結果は、LckがSMAC形成前およびCD45排除後の後期cSMACではZAP-70をリン酸化するが、CD45が存在する早期cSMACではリン酸化しないことを示している。したがって、LckとZAP-70はSMAC形成前に活性化され、早期cSMACで不活性化され、CD45の排除後にcSMACで再活性化されるという、活性化の二相性動態が示された。これらは初期活性化シグナルと比較して、後期cSMAC形成後に 2.5-fold 以上のシグナル増幅を伴う再活性化プロセスであることが示唆された。
考察/結論
本研究は、T細胞活性化が単純なTCRエンゲージメントからキナーゼ活性化、サイトカイン産生へと進む一方向のプロセスではなく、cSMAC内部でキナーゼ (Lck) とホスファターゼ (CD45) が時間空間的に厳密に制御される二相構造を持つことを初めて明らかにした。
先行研究との違い: Monks et al. (1998) による従来のSMACモデルに時間軸と新規dSMACゾーンを追加し、T細胞活性化の動的な時空間制御の重要性を強調した点で、これまでの研究とは異なる。特に、Johnson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2000がCD45の排除がLck活性維持に重要であることを示唆していたが、本研究はCD45の一時的なリクルートとその後の排除という動的なプロセスを明らかにした点で対照的である。また、Lee et al. (2002) がTCRシグナルがSMAC形成に先行すると報告しているが、本研究はSMAC形成後のシグナル伝達の重要性と、CD45によるリセット機構を強調している点で、その後のSMAC内でのシグナル伝達の動態に関する理解を深める。
新規性: 本研究で初めて、T細胞活性化の段階モデルを提示した。具体的には、(1) pre-SMAC phase:初期TCRエンゲージメントでtalinリクルートとLFA-1活性化は達成されるが、生産的な活性化には不十分である。(2) inactivation phase (3分時点):エンゲージされたTCRによってCD45がcSMACに一時的にリクルートされ、LckやZAP-70などのTCR関連タンパク質を脱リン酸化し、pYシグナルが消失する「不活性化期」が存在する。(3) re-activation phase (7分時点):CD45が新規に同定されたdSMACに排除され、cSMAC内でLckが再活性化し、pYやリン酸化ZAP-70が再出現する。(4) steady state:23分時点ではCD45はdSMACに維持され、pSMACのLFA-1は高アビディティ状態で細胞接着を確保する、という4段階モデルである。このdSMACの新規発見は、従来のbull’s-eye SMACモデル (cSMAC+pSMAC) をtriple-zoneモデルに拡張する重要な概念であり、CD45やCD43のような大型糖タンパク質の排除メカニズムを説明する。
臨床応用: 本知見は、免疫学的シナプスのCD45制御破綻が自己免疫疾患やT細胞不応答の病態に直結する可能性を示唆する。例えば、CD45の動態を調節する薬剤は、T細胞応答を増強または抑制する新たな治療戦略の開発に繋がる可能性がある。特に、ホスファターゼモジュレーターやインテグリンアゴニストなどのシナプス標的薬剤の開発指針となる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) CD45のdSMACへの排除を駆動する力学的機構 (アクチン細胞骨格、膜張力、受容体サイズ排除など)、(2) pY再出現段階で活性化される下流のエフェクター分子 (PLC-γ1、Vav1、LATなど) の動態、(3) アゴニストとアンタゴニストペプチドによるSMAC形成の差異と、それらがT細胞活性化の質に与える影響、(4) in vivoにおけるSMACリセット機構の検証、が挙げられる。本研究は、免疫学的シナプス研究の転換点となり、後のDustinらの顕微鏡研究やQi/Germainらのシナプス動的再編機構研究の基盤を提供した。
方法
T細胞-APCコンジュゲート系: AD10 TCRトランスジェニック (AD10) マウス由来のT細胞、またはAND TCRトランスジェニック (AND) マウスT細胞と、ハトチトクロムC (PCC: pigeon cytochrome C) またはカイコチトクロムC (MCC: moth cytochrome C) を負荷したCH12 B細胞株 (CH12) を混合し、45秒、3分、7分、23分の時点で細胞を固定した。AD10 T細胞は、PCC (50 µg/ml) および組換えインターロイキン2 (IL-2) 存在下で処理した脾臓細胞懸濁液から調製され、2-4週間後に残存する小型の休止期T細胞が使用された。細胞コンジュゲートは、T細胞とCH12細胞を同数で5秒間共スピンし、その後37°Cで0-21分間インキュベートし、ポリ-D-リジンコートスライドグラスに30秒間プレートして固定した。
免疫蛍光染色: 固定した細胞は、抗talin (モルモット)、抗pY (ウサギ4G10/他クローン)、抗CD3 (ハムスターモノクローナル抗体 (mAb) F500)、抗CD45 (ラットmAb TIB122)、抗Lck (ウサギ)、抗リン酸化ZAP-70、抗リン酸化Srcなどの抗体を用いて、2色または3色の共染色を行った。CD45については、細胞内C末端特異的ポリクローナル抗体も使用し、異なるエピトープでの局在を確認した。抗CD45 mAb TIB122は、細胞外ドメインは異なるが同一の細胞内ホスファターゼドメインを共有するCD45の全アイソフォームを認識する。
3D解析および統計: Digital-deconvolution 3D microscopyシステム (Intelligent Imaging Innovations社製) を用いて、T細胞-APC接触領域の3D画像を記録し、SlideBookソフトウェア (Intelligent Imaging Innovations社製) でデコンボリューション、解析、レンダリングを行った。3Dレンダリングは、T細胞-APC接触を構成するボクセルの正射影として生成された。接触領域におけるクラスター化は、非接触領域のボクセル強度よりも高い強度を持つ接触ボクセルによって定義された。枯渇は逆の方法で定義された。各時間点につき約30個のコンジュゲートをランダムに選択し定性的に解析し、代表的なラベリングパターンを決定した。定量解析では、各時間点につき100個のコンジュゲートを解析し、主要なラベリング表現型を決定した。群間の統計学的比較には Student t-test を用いた。
FRET解析: 早期cSMACにおけるCD3とCD45の分子近接性を評価するため、Cy3標識抗CD3抗体とCy5標識抗CD45抗体を用いて蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET: fluorescence resonance energy transfer) を測定した。アクセプターフォトブリーチング法を用いてFRETを評価した。Cy5のフォトブリーチング後のCy3蛍光強度増大を指標とした。FRETシグナルは、ドナーとアクセプターのラベル間の距離が100 Å未満であることを示す。
ペプチド-MHCテトラマー/ビーズ実験: ビオチン化MCC-I-E^k (アゴニスト) またはMCC99A-I-E^k (アンタゴニスト) をDynabeads M-280 Streptavidinビーズに固定化し、T細胞-ビーズコンジュゲートを形成させた。これにより、TCRエンゲージメントのみがCD45の動態に与える影響を解析した。ビーズとT細胞の結合は、抗原性ペプチドの存在に完全に依存した。エンゲージされたTCRの同定のため、MCC-緑色蛍光タンパク質 (GFP: green fluorescent protein)-I-E^k融合タンパク質を発現するCH12細胞も使用した。