• 著者: Kenneth G. Johnson*, Shannon K. Bromley†, Michael L. Dustin†‡, Matthew L. Thomas*†
  • Corresponding author: Michael L. Dustin (dustin@immunology.wustl.edu), Department of Pathology and Immunology, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO, USA
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences USA (PNAS)
  • 発行年: 2000
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10963676

背景

CD45はT細胞活性化に不可欠な膜貫通型タンパク質チロシンホスファターゼ (transmembrane protein tyrosine phosphatase) であり、p56lckおよびp59fynのC末端抑制性リン酸化部位を恒常的に脱リン酸化することでこれらsrcキナーゼを「プライム」状態に維持し、TCR engagement時の迅速なシグナル伝達を可能にする正の制御因子として確立されていた (Kishihara et al. 1993 Cell; Byth et al. 1996 J Exp Med; Seavitt et al. 1999 Mol Cell Biol)。一方でCD45は広い基質特異性を持ち、srcキナーゼの自己活性化部位脱リン酸化・TCR複合体成分の脱リン酸化・インテグリン活性化阻害を通じてシグナルを負に制御する二面性を持つことも示されており、チロシンホスファターゼがシグナルの正と負の両方の調節因子として機能する枠組みが提唱されていた (Thomas & Brown 1999 Immunol Today; Roach et al. 1997 Curr Biol; D’Oro & Ashwell 1999 J Immunol)。

IS (immunological synapse、免疫シナプス) 研究においては、1999年にGrakoui・Dustinらが平面脂質二重層系を用いたライブイメージングでSMAC (supramolecular activation cluster) ―MHC-pep (MHC-peptide complex) とTCR複合体が集積するcSMAC (central SMAC) をLFA-1 (leukocyte function-associated antigen-1)/ICAM-1 (intercellular adhesion molecule-1) 接触域のpSMAC (peripheral SMAC) が取り囲む同心円構造― を実証し (Grakoui et al. 1999 Science 285, 221)、Monks・Kupferらも超分子活性化クラスターの三次元分離を報告した (Monks et al. 1998 Nature 395, 82)。これらの研究によりIS形成の分子地図は描かれたが、IS形成に際してCD45がいつ・どこに・どのように局在変化するかについての定量的・動態的解析は不足しており、CD45の二面的作用がどのように空間的・時間的に制御されるかに明確な gap in knowledge が存在した。特に「IS形成初期の除外によるLFA-1活性化促進」と「その後の中央再集積によるp56lck持続維持」を一体の動的シーケンスとして実験的に実証した研究はなく、CD45の超分子レベルでの機能的局在の実態は不足していた。自己寛容とT細胞活性化のバランスが免疫応答において根幹的役割を担うことは確立されており (Goodnow et al. Nature 2005)、その観点からもTCRシグナリング近傍でのホスファターゼ活性の空間制御機構の解明が求められていた。

目的

2B4 TCRトランスジェニックマウスT細胞と平面脂質二重層 (planar lipid bilayer) システムを用いたライブ共焦点イメージングにより、IS形成中のCD45のリアルタイム動的局在変化をTCRとの空間的・定量的関係として解析する。具体的には: (1) IS形成に伴うCD45分子密度変化の時系列定量、(2) CD45とTCRの時間依存的共局在の定量解析、(3) IS内CD45の移動度評価による制限的分子交換の実証、(4) CD45のIS内三次元超分子構造の解明を目的とし、T細胞持続活性化におけるCD45の超分子的役割を明らかにする。

結果

成熟免疫シナプス内でのCD45中央集積とLFA-1接触域からの抗原依存性除外:活性化抗原を提示する平面脂質二重層上で、約30%のT細胞が30分以内に成熟IS ―直径5μm以上のICAM-1蓄積リングに囲まれた中央MHC-pep/TCR集積クラスター― を形成した (n=300細胞)。三色蛍光オーバーレイ解析により、成熟IS形成細胞の90%超においてTCR/MHC-pep中央クラスター近傍にCD45の高密度蓄積を確認した (Fig. 1A・B)。重要なことに、CD45密度はLFA-1/ICAM-1蓄積域 (pSMAC) において有意に低下しており、この除外は完全に抗原依存性であった (Fig. 1B・C)。抗原なし (ICAM-1単独基板) またはpoly-L-lysine基板上ではCD45の再分布は認められなかった。IS外縁に観察される明輝度のCD45外環 (outer ring) は密着膜の2層イメージングによるものと解釈され、先行研究 (Sperling et al. 1998) でIS内中央CD45が検出されなかった理由は、この外環が中央部をマスクしていた技術的問題にあったことが判明した。共焦点レーザー走査顕微鏡を用いることで初めてIS内中央部のCD45集積が可視化され、CD45の機能的局在が実証された。

二相性動態:3.5分以内の初期除外から10分以内の中央再集積へ、n=9実験で再現:TCRとCD45を同時標識したライブイメージングにより、CD45分布の二相性動態を単一細胞レベルで直接可視化した (Fig. 2A・B)。T細胞が抗原含有二重層に接触して移動停止後3.5分以内に、ICAM-1蓄積域に対応する接触中央部からCD45密度が-1,500分子/μm²低下した。この除外の大きさはn=9 independent experimentsにおいて-750〜-2,000分子/μm²の範囲でばらつきがあったが、全例 (9/9実験) で除外方向の変化が確認された (Fig. 3A)。続く10分以内にCD45は細胞-二重層接触中央部へ集積し、基線値 (2,500分子/μm²) を超える高密度となった。同時にTCRは+700分子/μm²、MHC-peptide (pep) は+400分子/μm²の中央集積を示し、TCR蓄積量はMHC-pep蓄積量に対して2-fold〜3-fold (n=9実験の全例で一貫) の高値を示した (Fig. 3A)。個々の細胞での動態には若干のばらつきがあり、Cell 2ではCD45の中央集積がTCRに先行して急速に生じ、Cell 3ではTCRが先行してCD45が後から追随する動態が観察された。CD45の一部プールは非常に高い移動性を示し、LFA-1リングを越えてIS内外を行き来し、IS中央部へ独立した離散的凝集体として流入する動態が複数細胞で確認された (補足Movies 2-4)。

TCRとCD45の空間的分離:5分時点で29%共局在、0.5μm以内近接の定量的実証:定量的ピクセルアライメント解析により、IS内でのTCRとCD45の精細な空間関係を時系列で明らかにした (Fig. 3B)。MHC-pepはTCRと5分以内に70%の共局在に達し、実験終了時まで70%以上を一貫して維持した。一方、CD45のTCRとの共局在は接触後5分時点でわずか29%にとどまり (MHC-pepの70%と対照的)、11分時点で最大70%まで上昇後、40分時点で再び30%未満に低下するという独特の時間的推移を示した (Fig. 3B)。高解像度プロファイリング (850データポイント/μm²) では、>60%のTCRがMHC-pepと共局在する一方、CD45とは30%のみ共局在しており (Fig. 4C・D)、多くのTCRがCD45高密度部位から空間的に分離されている状態が維持されることが確認された。しかし全例で、TCRはCD45高密度集積部位から常に0.5μm以内に位置していた (Fig. 2C・D)。この「30%の部分的共局在と0.5μm以内の近接」というパラドキシカルな空間関係が、持続的TCRシグナリング全期間を通じて維持された。なお、MHC-pepは実験終了まで高いTCR共局在を維持したのに対し、CD45はTCRとは独立してIS内を移動することができ、IS中央部へ独自のプールとして進入可能であることも示された。

IS内CD45の三次元ドーム状超分子構造と移動度制限 (FRAP 30秒で15%回復、最大60%):Confocal z-stack解析 (Fig. 4E・F) により、IS内のCD45はTCRおよび平面二重層平面の上方にドーム状に投影される新規超分子構造を形成することを発見した。この三次元ドーム状構造は、細胞-二重層界面の二次元断面では環状構造 (ring structure) として観察される (Fig. 1A・C、Fig. 4A)。蛍光色素交換実験と三蛍光ビーズの分析的イメージングにより、これが共焦点イメージングのアーティファクトでないことを確認した。ドーム形成のメカニズムとして、CD45の大きな細胞外ドメインによる立体的制約や膜マイクロドメインからの排除機構が関与する可能性が示唆された。FRAP法によるCD45移動度評価 (Fig. 5) では、IS外周辺の自由拡散CD45プールが30秒以内に100%蛍光回復を示したのに対し、IS中央集積CD45は30秒でわずか15%の回復にとどまり、45分後も最大60%を超えなかった (n=5実験)。対照的にIS内MHC-pep複合体は45分を通じて回復ゼロであった。以上のFRAP結果はn=5 independent experiments全例で再現された (n=3-7細胞/実験)。IS周辺の自由拡散CD45 (100%回復) とIS中央固定CD45 (最大60%回復) の差は4.0-fold以上であり、Student t検定で有意差が確認された (p<0.05)。これらの結果は、IS中央CD45がIS外の自由拡散プールとの限定的な交換を維持しつつ、相当程度は固定化された状態にあることを示す。この制限的回復の物理的実体として、周辺高密度CD45リングからLFA-1リングを越えて流入する離散的プールによる限定的交換が考えられた。

考察/結論

本研究は、IS形成中のCD45動的局在をライブセル高解像度共焦点イメージングで初めて定量的に実証した。「初期 (3.5分以内) のLFA-1域からの除外 (-1,500分子/μm²) によるインテグリン活性化促進」と「続く10分以内のTCR近傍への再集積によるp56lck持続維持」という二段階の超分子制御モデルを提唱し、CD45の二面的作用が空間的・時間的シーケンスによって制御されることを実験的に示した。この二段階モデルは、CD45の正の制御機能 (p56lckプライミング) と負の制御機能 (インテグリン活性化阻害) が時間的に分離されており、IS形成過程が両者を適切に調整することを意味する。

既存研究との違い: 先行研究と比較して、慣用蛍光顕微鏡を用いた研究ではIS外縁の明輝度CD45外環がIS内中央部をマスクしCD45の中央集積が検出されなかった。本研究は共焦点レーザー走査顕微鏡を導入することでこの限界を克服した点で先行研究と異なり、先行報告 (Sperling et al. 1998) が「CD45はISから除外される」と結論した解釈に修正を加えた。CD45がIS内に積極的に再集積し、かつTCRから30%という部分的共局在を保ちながら0.5μm以内に位置する複雑な空間関係は、これまで報告されていない新規な定量的発見である。

新規の超分子制御概念: 本研究で初めて示されたIS内CD45のドーム状三次元超分子構造は、T細胞免疫シナプス生物学における新規の構造的枠組みを提供する。二次元の環状分布とその上方に突出するドーム構造の組み合わせは、CD45がTCRを取り囲むように三次元的に配置されることを意味し、p56lckの活性維持に最適な立体的アクセシビリティを提供する構造的根拠となる。なお、類似のT細胞受容体シグナリングの空間制御は腫瘍免疫においても重要であり、腫瘍微小環境内でのB7ファミリー抑制分子による免疫回避機構 (Zou et al. NatRevImmunol 2008) と対照的に、正常T細胞がp56lck活性化を精巧な超分子配置で自律維持することが本研究で実証された。

臨床的意義と橋渡し: IS内CD45局在の動的制御の実証は、免疫応答の基盤理解において重要な臨床的意義を持つ。CD45の初期除外はLFA-1/ICAM-1接触の確立 (T細胞-APC (antigen-presenting cell) 物理的接着) に必要であり、その後の中央再集積はTCRシグナリングの「持続」を可能にする。この二段階制御の破綻は、T細胞機能不全 (exhaustion) や自己免疫疾患のメカニズムに直接つながる。

定量的観点では、p56lckが中央CD45集積部位からTCRまでの0.5μmを拡散するのに要する時間は二次元拡散方程式 (t = distance²/4D、拡散係数D = 0.1 μm²/s) から0.5秒以内である。対照的にCD45が外環に留まっていた場合、TCRへ到達するには約1分を要する。IS内中央CD45局在がシグナリング効率の物理的根拠となることが定量的に示された。

CD45の空間組織化への介入は、T細胞活性化の増強・抑制を制御する治療標的として橋渡し研究の観点から意義がある。さらに、ガンマデルタT細胞の免疫認識機構 (Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1999) と同様に、T細胞の超分子レベルの活性化制御は腫瘍免疫における多様なT細胞サブセットに広く関連する。

残された課題: 残された課題として多くの問題が存在する。第一に、CD45のIS中央移行を駆動する細胞内・膜貫通メカニズムの同定が求められる。CD45-associated protein (CD45AP) や細胞骨格成分 (アクチン・アネキシン) との連結、あるいは特定の脂質マイクロドメイン (lipid raft) からの排除が候補として挙げられたが、2000年時点では実験的実証がなかった。第二に、CD45の推定リガンドの同定が必要である。平面脂質二重層にはCD45リガンドが存在しないため、T細胞-APC接触でのT細胞自身の表面分子がリガンドとして機能する可能性が指摘された。第三に、PAG (phosphoprotein associated with glycosphingolipid-enriched microdomains)/Cbp (Csk-binding protein) を介したCsk (C-terminal Src kinase) とCD45の動的協調制御の解明が課題である。PAGはT細胞活性化後に急速に脱リン酸化されCskを放出することが報告されており、IS内でのCsk排除とCD45集積の時間的協調によるsrcキナーゼ活性化の維持メカニズムの今後の検討が不可欠である。第四に、CD45のコンパートメント化とカルシウムシグナリング持続性・増殖応答との直接的因果関係の機能的実証が残された課題である。さらに、本研究は生体外の平面脂質二重層モデルを使用しており、生体内の実際のT細胞-APC接触でのCD45動態の検証が今後の重要な展望として残されている。

方法

細胞と抗原提示系: 2B4 TCRα鎖ノックイン (knock-in) トランスジェニックマウス (BALB/c背景、H-2d) から脾臓細胞を回収し、MCC (moth cytochrome c) 91-103ペプチド1 μMで3日間刺激後、IL-2 (interleukin-2) 100 units/mlで増殖させ (day 5-7使用)。抗原提示システムとしてGPI (glycosylphosphatidylinositol)-E^k MHC-pep (MHC-peptide complex, Oregon green標識) とGPI-ICAM-1 (glycosylphosphatidylinositol-anchored intercellular adhesion molecule-1、Cy5標識) を1:1混合してリポソーム調製し、平行流路フローセル内のガラス表面上に平面脂質二重層として再構成した。再構成二重層に50 μMペプチドを37℃ 4時間パルスして抗原提示面を作製した。

標識プロトコル: CD45を全アイソフォーム認識抗体I3/2.3 (anti-CD45 monoclonal antibody、全アイソフォーム認識) のFab断片 (Alexa546またはCy5標識) で室温15分間標識した。TCRβをH57 (anti-TCRβ monoclonal antibody clone H57-597) のFab断片 (Alexa546標識) で標識した。いずれのFab断片もT細胞増殖能を有意に阻害しないことを確認した (H57 Fab飽和量使用時でも標識なし対照の80%の増殖を維持)。ラジオイムノメトリックアッセイ (cold-competition immunoradiometric assay) でCD45基線密度 (2,500分子/μm²) とTCR密度 (150分子/μm²) をpoly-L-lysineコントロール基板上のイメージングと対比して校正した。

定量的共焦点イメージングと解析: Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡、Plan Apochromat 63×/1.4 oil対物レンズ、37℃ライブイメージング、xy平面分解能約200 nm、1.0 μm厚光学切片。干渉反射顕微鏡 (IRM, interference reflection microscopy) でT細胞-二重層密着域を定義した。分子密度蓄積 = [蛍光強度/基線蛍光強度] × 基線密度 - 基線密度 の式で定量した。共局在解析: 各チャンネルを閾値 (最低150ピクセル強度単位、約60%) で二値化後、共局在 (%) = 2チャンネル間重複ピクセル数/1チャンネル陽性ピクセル数で算出した。Fig. 4の高解像度プロファイリングでは85Å解像度 (850データポイント/μm²) を使用した。Confocal z-stackでIS内CD45の三次元構造を解析した。

蛍光光退色回復 (FRAP, fluorescence photobleaching recovery): IS中央部に100%レーザー強度 (488 nm・620 nm) で1μm径スポットを照射し、蛍光色素を不可逆的に退色させた後、45分間にわたり蛍光回復率 (%) を追跡した。IS周辺プールのCD45、IS中央集積CD45、IS内MHC-pep複合体の3条件を比較解析した (n=5実験)。各時点の蛍光回復率の差はStudent t検定 (two-tailed) で統計評価し、p<0.05を有意差の基準とした。分子密度の時系列比較には一元配置分散分析 (one-way ANOVA) を適用した。