• 著者: Campi G, Varma R, Dustin ML
  • Corresponding author: Michael L. Dustin (Department of Pathology, Skirball Institute of Biomolecular Medicine, NYU, New York, NY, USA)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 2005
  • Epub日: 2005-10-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 16216891

背景

T細胞が抗原提示細胞 (APC: Antigen Presenting Cell) と接触し、その表面に提示された主要組織適合遺伝子複合体 (MHC: Major Histocompatibility Complex)-ペプチド複合体を認識することは、適応免疫応答の根幹をなすプロセスである。この抗原認識に伴い、T細胞とAPCの界面では大規模な分子再編成が起こり、組織化された免疫シナプス (IS: Immunological Synapse) が形成される。古典的なISモデルでは、中心部にT細胞受容体 (TCR: T cell receptor) が集積する中心部超分子活性化クラスター (cSMAC: central Supramolecular Activation Cluster) が形成され、その周囲を接着分子である LFA-1 と ICAM-1 (Intercellular Adhesion Molecule-1) からなる末梢部超分子活性化クラスター (pSMAC: peripheral SMAC) が囲む構造が Monks et al. (1998) や Grakoui et al. (1999) によって報告されてきた。

しかし、その後の研究により、T細胞の初期シグナル伝達はISが完全に成熟する数分前、すなわち接触開始直後から開始されていることが明らかになってきた。Freiberg et al. NatImmunol 2002 は、cSMACが形成される頃にはシグナル伝達がむしろ減衰している可能性を示唆し、cSMACはシグナルの維持ではなく下方制御の場であるという概念を提示した。また、Johnson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2000 は、持続的な活性化における分子の空間的配置の重要性を論じている。

近年、IS形成に先立って「TCRマイクロクラスター」と呼ばれる微細な構造が界面全体に形成されることが観察されているが、生理的なアゴニストMHC-ペプチド刺激に応答した際のこれらのクラスターの動態、シグナル分子の集積、および形成に必要な分子基盤については依然として未解明な点が多い。特に、マイクロクラスターがどのようにして初期のカルシウム (Ca²⁺) 上昇を駆動し、どのような生化学的依存性を持つのかという定量的データが不足している。本研究は、これらの知識のギャップを埋めるため、高解像度の全反射照明蛍光顕微鏡 (TIRFM: Total Internal Reflection Fluorescence Microscopy) を用いて、TCRマイクロクラスターの機能的役割を詳細に解析したものである。

目的

本研究の目的は、アゴニストMHC-ペプチドによって誘導されるTCRマイクロクラスター形成の時空間的キネティクス (動態) を、TIRFMを用いて単一クラスターレベルで解明することである。具体的には、以下の3点を検証する。第一に、TCRマイクロクラスターの形成と、T細胞活性化の重要な指標である細胞質Ca²⁺濃度の上昇との時間的相関を明らかにすること。第二に、Srcファミリーキナーゼである Lck (Lymphocyte-specific protein tyrosine kinase) や ZAP-70 (Zeta-chain-associated protein kinase 70)、およびアダプタータンパク質である LAT (Linker for Activation of T cells) のリン酸化状態を指標として、マイクロクラスターがシグナル伝達の「足場 (scaffold)」として機能しているかを検証すること。第三に、マイクロクラスターの形成におけるSrcキナーゼ活性およびアクチン細胞骨格の重合の必要性を、特異的阻害剤を用いて評価することである。これにより、T細胞が抗原を感知してからISを形成するまでの初期プロセスにおけるマイクロクラスターの生物学的意義を定義する。

結果

TCRマイクロクラスター形成とCa²⁺フラックスの極めて早い時間的相関: T細胞がアゴニストMHCを含む二重層に接触を開始すると、数秒以内に TIRFM で微細なTCRマイクロクラスターが検出された。解析の結果 (n=20 cells 以上)、最初のマイクロクラスターが検出されてから平均して約 5 s 以内に細胞質Ca²⁺濃度の上昇が開始されることが判明した (Fig 1)。興味深いことに、単一のマイクロクラスターが形成された段階ではCa²⁺レベルは基底状態 (basal range) に留まっていたが、マイクロクラスターの数が 2-3 個に達した時点で、Fluo-LOJO の蛍光強度が有意に上昇し始めた。ICAM-1 のみを組み込んだ二重層では、このようなクラスター形成や持続的なCa²⁺上昇は観察されず、この現象がアゴニストMHC-ペプチド特異的であることが確認された。

初期マイクロクラスターにおける活性型シグナル分子の高度な集積: 接触開始後 30 s の初期段階において、形成されたすべてのTCRマイクロクラスターには、活性型キナーゼである pLck^Y394、pZAP-70^Y319、およびリン酸化アダプター pLAT^Y191 が高度に共局在していた (Fig 2)。定量的解析により、この時点での共局在率は極めて高く、マイクロクラスターがシグナル伝達を開始・増幅するための主要な「足場」として機能していることが示された。初期のマイクロクラスターは、細胞が広がるにつれて中心部へと移動し、互いに融合する挙動を示した。各マイクロクラスターは平均して約 140 TCRs を含み、その面積は約 0.35-0.5 μm² と推定された。

成熟免疫シナプスにおけるシグナル活性の空間的分離: 接触から 5 min が経過し、成熟したISが形成されると、シグナル分子の分布に劇的な変化が生じた。中心部の cSMAC に集積した巨大なTCRクラスターでは、pLck や pLAT のシグナルが著しく減衰していた。対照的に、ISの末梢部 (pSMACの外縁) には、広視野顕微鏡では判別困難なほど微細で暗い「新生マイクロクラスター」が絶えず形成されており、これらが極めて強いリン酸化シグナルを保持していた (Fig 3)。TIRFM を用いた定量評価では、末梢の新生クラスターにおけるシグナリング効率 (pKinase/TCR比) は、中心部の cSMAC と比較して約 30-fold 高いことが示された。また、細胞内の全 pLck および pZAP-70 シグナルの 95% 以上が、これら末梢の微細なクラスターに局在していた。

Srcキナーゼ阻害下でのマイクロクラスター形成の維持: Srcファミリーキナーゼ阻害剤 PP2 を用いた実験 (n=3 experiments) では、予想外の結果が得られた。100 μM の PP2 処理により、細胞全体の pLck^Y394 レベルは 95% 以上抑制され、Ca²⁺上昇や LFA-1 依存的な接着 (pSMAC形成) も完全に消失した。しかし、このような強力なシグナル阻害条件下においても、TCRマイクロクラスターの形成自体は阻害されず、界面に多数のクラスターが観察された (Fig 4)。この結果は、TCRの物理的なクラスタリング (初期の足場形成) が、Srcキナーゼによる下流のリン酸化カスケードに依存しない独立したプロセスであることを示唆している。

アクチン細胞骨格への絶対的な形成依存性: 一方で、アクチン重合阻害剤 latrunculin A (1 μM) で処理したT細胞では、TCRマイクロクラスターの形成が完全に阻害された。この条件下では、TCRとMHC-ペプチドの相互作用自体が界面で検出されなくなり、Ca²⁺上昇も全く起こらなかった。興味深いことに、latrunculin A 処理下でも、約 42% の細胞は LFA-1 と ICAM-1 の相互作用を介して二重層に接着し、IRM で確認可能な接触面を形成することが可能であったが、TCRの組織化は一切見られなかった。これにより、TCRマイクロクラスターの形成には、Srcキナーゼ活性よりもむしろアクチン細胞骨格による構造的な支援が不可欠であることが証明された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、従来の「cSMACがT細胞活性化の主戦場である」というドグマと明確に異なり、cSMACはむしろシグナルの停止や受容体の分解を担う場であることを実証した。Bunnell et al. (2002) が抗CD3抗体を用いた系で示したマイクロクラスターの重要性を、生理的なアゴニストMHC-ペプチド刺激下で、かつ動的なCa²⁺フラックスとの相関を含めて初めて示した点が、これまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究は、TCRマイクロクラスターが「アクチン依存的かつSrcキナーゼ独立的に形成されるシグナル足場」であることを本研究で初めて明らかにした。特に、Lck活性を 95% 以上阻害してもクラスター形成が維持されるという知見は、TCRの初期組織化における非古典的な制御機構の存在を提示する新規な発見である。また、TIRFMを駆使することで、成熟ISの末梢部で全シグナルの 95% 以上が発生していることを定量的に示した点も極めて独創的である。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法におけるキメラ抗原受容体 (CAR)-T細胞の設計において重要な臨床的意義を持つ。CARのシグナルドメインの構成だけでなく、受容体が細胞表面でどのようにマイクロクラスターを形成し、アクチン骨格と連動するかという「空間的ダイナミクス」が、T細胞の疲弊や持続的な活性化を決定する鍵となる。本研究が示したシグナル足場の概念は、より効率的な人工受容体設計や、免疫チェックポイント阻害薬の作用機序解明に向けた臨床応用への基盤となる。

残された課題: 今後の検討課題として、Srcキナーゼに依存せずにアクチン重合を駆動する具体的な分子 (例えば、Vav1 や WASP の Lck 独立的な活性化経路) の特定が挙げられる。また、本研究では n=20 以上の細胞で再現性を確認しているが、より低密度の抗原 (1-10 molecules/μm²) における単一分子レベルでのマイクロクラスター遷移動態の解明も必要である。cSMACへの輸送に伴うシグナル遮断の物理的・化学的トリガーの解明も、limitation を克服するための次なるステップである。

方法

細胞系およびマウス: B10.AND TCRトランスジェニックマウス (C57BL/6J 背景) 由来の脾細胞を使用。MCC (Moth Cytochrome C) 88-103 ペプチド (1 μM) を用いて in vitro で活性化した T cell blast を実験に使用した。

支持型平面脂質二重層 (Supported Planar Bilayers): ガラス支持型 dioleoylphosphatidylcholine 二重層に、GPI (Glycosylphosphatidylinositol) アンカー型の I-E^k (200 molecules/μm²) および ICAM-1 (300 molecules/μm²) を組み込んだ。I-E^k には 100 μM の MCC 88-103 ペプチドを負荷し、アゴニストMHC-ペプチド刺激とした。

顕微鏡観察: Olympus TIRFM モジュールを搭載した自動顕微鏡および Hamamatsu Orca-ER CCD カメラを使用した。TIRFM により、界面から 100-200 nm 以内の蛍光を高解像度で撮像した。TCRは Alexa488 または Alexa546 標識した H57 Fab 断片で可視化した。また、接触面の広さを評価するために干渉反射顕微鏡 (IRM: Interference Reflection Microscopy) を併用した。

Ca²⁺測定: 細胞質Ca²⁺感受性色素 Fluo-LOJO (KCa2+ = 440 nM) を使用。TIRFM による TCR 像と、広視野顕微鏡による Ca²⁺ 像を 1 s の遅延で交互に取得し、時空間的相関を解析した。

免疫染色: 細胞を 2% ホルムアルデヒドで固定し、0.05% Triton X-100 で透過化した後、抗 phospho-Lck^Y394、抗 phospho-ZAP-70^Y319、抗 phospho-LAT^Y191 抗体を用いて染色した。

阻害剤実験: Srcキナーゼ阻害剤として PP2 (10-100 μM)、アクチン重合阻害剤として latrunculin A (1 μM) を使用。細胞を各薬剤で 1 h 前処理した後、二重層に導入した。

定量解析: Improvision Volocity ソフトウェアの colocalization algorithm を用い、classifier threshold 1.5x に設定して共局在を定量化した。シグナリング効率は、リン酸化キナーゼ強度をTCR強度で除した比 (pKinase/TCR ratio) として算出した。統計的比較には t検定 を用い、p<0.05 を有意とした。