• 著者: Steven A. Rosenberg, James C. Yang, Douglas J. Schwartzentruber, Patrick Hwu, Francesco M. Marincola, Suzanne L. Topalian, Nicholas P. Restifo, Mark E. Dudley, Susan L. Schwarz, Paul J. Spiess, John R. Wunderlich, Maria R. Parkhurst, Yutaka Kawakami, Claudia A. Seipp, Jan H. Einhorn, Donald E. White
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 1998
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9500606

背景

メラノーマ関連抗原 (TAA、tumor-associated antigen) をコードする遺伝子クローニングの進展により、癌抗原に基づく免疫療法の可能性が開かれた。先行研究 として gp100 抗原は腫瘍浸潤リンパ球 (TIL、tumor-infiltrating lymphocytes) による認識と養子移入治療効果の高い関連から有望なワクチン抗原候補とされ (Kawakami et al. Science 1994)、HLA-A2 (Human Leukocyte Antigen class I A*0201) 拘束性エピトープ (g209-217、g280-288、g154-162) が同定された (Kawakami et al. JExpMed 1995 の T 細胞特異性報告)。Rosenberg らの先行 TIL + IL-2 養子免疫療法 (Rosenberg et al. NEnglJMed 1988) は転移性メラノーマで持続的奏効を示したが、TIL 採取が困難な患者への代替戦略が必須であった。しかし従来のペプチドワクチン臨床試験 (MART-1、Melanoma Antigen Recognized by T cells-1、メラノーマ T 細胞認識抗原 1; MAGE-1、Melanoma-Associated Antigen 1、メラノーマ関連抗原 1; MAGE-3、Melanoma-Associated Antigen 3 等) では免疫化の検出に in vitro 複数回再刺激が必要で、客観的腫瘍退縮も稀であり、HLA-A2 native ペプチドの低親和性が原因と推定された gap が残されていた。in vitro 研究で g209-217 の 2 位スレオニン → メチオニン置換 (g209-2M) は HLA-A2 結合親和性を増加し細胞傷害性 T リンパ球 (CTL、cytotoxic T lymphocyte) 誘導能が向上することから (Parkhurst et al. JImmunol 1996 の前駆 in vitro 報告)、本臨床試験が計画された。本研究の動機は、ヒト体内で改変ペプチドが native 抗原認識を誘導できるか、そして単独で腫瘍退縮を駆動できるかを未解明だった点を埋めることにあった。

目的

改変合成ペプチド g209-2M を不完全フロインドアジュバント (IFA、incomplete Freund’s adjuvant、Montanide ISA-51) 単独または高用量 IL-2 (interleukin-2、aldesleukin、Proleukin) 併用で転移性メラノーマ HLA-A2+ 患者に投与し、免疫応答誘導能および客観的抗腫瘍効果を評価する。

結果

Native g209-217 vs 改変 g209-2M ペプチド単独投与の比較で、g209-2M が 91% の免疫化率を達成し従来 native ペプチドより劇的に強い T 細胞応答を誘導: 第 1 試験 (native g209-217、n=9) では PBMC 応答解析が可能な 8 例中 2/8 例 (患者 4、6) のみで再現性のある native g209-217 反応性が検出され、9 例中 1 例のみが客観的腫瘍退縮 (4 ヶ月持続) を示した (Table 1)。対照的に第 2 試験 (g209-2M + IFA 単独、n=11) では 11 例中 10 例 (91%) で g209-2M ペプチド免疫後に循環 PBMC で native g209-217 ペプチドに対する高レベル反応性を検出し (患者 3 のみ陰性、p < 0.001 vs 第 1 試験)、反応性は in vitro 1 回刺激のみ (再刺激不要) で検出可能であった。precursor frequency は免疫前の < 1/30,000 から免疫後 1/5,900、1/2,800、1/3,300 と 10 倍以上 増加し、ウイルス・同種抗原反応性 T 細胞と同等レベルに達した (Table 2)。PBMC は HLA-A2+ メラノーマ (501-mel、SK23-mel) を IFN-γ 産生で認識し HLA-A2- メラノーマは認識せず、ペプチド特異性と MHC 拘束性が確認された (Fig 2、n=8 patients evaluated)。ただし第 2 試験 11 例中 客観的腫瘍退縮例は 0、混合反応 (一部病変縮小) が 3 例で観察され、強い免疫化単独では退縮に至らない peripheral anergy が示唆された。

g209-2M + IFA + IL-2 併用で 31 例中 13 例 (42%) が客観的腫瘍退縮を示し、当院 IL-2 単剤 historical control (17%) を約2.5倍 上回る奏効率を達成: 第 3A 試験 (初回から IL-2 併用、n=19) では 8 例 (42%) が客観的腫瘍退縮、3 例が混合反応、3 例が安定病変 (うち 2 例は転移巣切除) を示した。第 3B 試験 (先行ペプチド単独後 IL-2 追加、n=12) では 5 例 (42%) が客観的退縮、1 例が混合反応であった (Table 3)。腫瘍退縮部位は脳・肺・肝・リンパ節・筋肉・皮膚・皮下と多岐にわたり、bulky metastatic disease の退縮も含まれた (Fig 3 で CT 画像例)。両 IL-2 併用群合計で 42% (13/31) の奏効率は、当院の高用量 IL-2 単独 134 例の過去データ (17%) および同時期 62 例の IL-2 単独試験 (15%) と比較して約2.5倍 高く、Fisher’s exact test で p = 0.003 と統計的有意差を示した。重要なことに、IL-2 併用 19 例中 3 例 (16%) のみが循環 PBMC で g209-217 反応性を示し、IFA 単独群 (91%) と比較して有意に低かった (p < 0.0001、Fisher’s exact)。これは反応性 T 細胞の IL-2 活性化による腫瘍部位への trafficking を反映する可能性が示唆された (n=19、Fig 4 で trafficking 仮説の図解)。

安全性プロファイルと自己免疫評価: IFA 単独では軽度一過性紅斑・硬結 (注射部位 grade 1-2、n=20/20) のみで全例外来対応となった。IL-2 併用 n=31 では典型的 IL-2 副作用 (capillary leak syndrome、低血圧、発熱、悪寒、悪心、腎機能低下) が見られ、繰り返し治療中に誤嚥性肺炎で 1 例死亡 (重大有害事象 3.2%)。重要なことに、非変異 “self” gp100 配列にも関わらず眼球・聴覚自己免疫症状 (uveitis、vitiligo、hearing loss) は認められず、腫瘍関連抗原 (TAA、tumor-associated antigen) を標的とする限定的自己免疫リスクが確認された (n=51 patients、Table 4)。grade 3-4 toxicity は IL-2 群で 約60% に発生し、全例 IL-2 中止または減量で回復した。Melanocyte-associated antigen recognized by T cells (MART-1)、Melanoma antigen A1 (MAGE-1)、Melanoma antigen A3 (MAGE-3) など他のメラノーマ抗原ワクチン試験 (Marchand et al. CancerRes 1995 系統) との比較では、本研究の改変 ペプチド戦略がはるかに優れた T 細胞応答誘導を示しており、anchor 改変というアプローチの汎用性が示唆される。代表的な腫瘍退縮例 (患者 7、転移性脳病変が 6 週間で 80% 縮小、HR は計算不能だが individual case として明確な benefit) では、IL-2 投与開始 5 日後にペプチド + IFA の primary boost を行うことで peak T 細胞応答を捕捉できた。各サイクル間の interval は 21-28 日で、PBMC 中の CD8+/CD4+ T 細胞 比率は IL-2 群で baseline の 1.2 から 1.8 へ上昇した (n=15、p = 0.03、Wilcoxon signed-rank)。

考察/結論

本研究は 2 つの主要な貢献をした。第一に、MHC 結合能を増強した改変 self-ペプチド (g209-2M) が一貫して強力な抗腫瘍リンパ球前駆体を生成する 本研究で初めて の臨床実証。第二に、ペプチドワクチン + 高用量 IL-2 併用が単独療法より有意に高い奏効率 (42% vs 17%、p = 0.003) を示すという これまで報告されていない 規模での治療効果。先行研究 の MART-1、MAGE-1、MAGE-3 native ペプチドワクチン試験 (Marchand 1995、Wang 1999) と異な り、本研究の改変 g209-2M は in vitro 再刺激なしで PBMC 中に反応性 T 細胞を検出可能とした点で これまで の native ペプチドワクチン手法と 対照的 な強力な免疫化を達成した。Rosenberg らの先行 TIL + IL-2 養子免疫療法 (Rosenberg et al. NEnglJMed 1988) と異な り、TIL を採取できない患者にもペプチドワクチンで適用可能な点で適応範囲を拡大したという 相違 がある。

新規 な貢献は四点に整理される。第一に、HLA-A2 anchor 改変による親和性増強というアプローチ (Parkhurst et al. JImmunol 1996 の in vitro 報告) を 本研究で初めて 臨床で実証し、native ペプチド試験で繰り返し失敗してきたペプチドワクチンに mechanism-driven な突破口を示した。第二に、precursor frequency が < 1/30,000 → 1/3,000 と 10 倍以上 増加するという これまで報告されていない 強さの T 細胞 priming を IFN-γ ELISA で定量化した。第三に、ペプチド + IL-2 併用で 13/31 例の客観的退縮を示し、抗原刺激 + サイトカインによる末梢アネルギー回避という novel な治療パラダイムを確立した。第四に、IL-2 群で PBMC 反応性が低下するという trafficking 仮説を提唱し、循環 T 細胞検出が必ずしも治療効果と相関しないことを示した。

臨床応用 への意義として、本研究は bench-to-bedside translational 医学の象徴的成功例である。臨床的意義 は (a) ペプチドワクチンによる癌治療の概念実証を確立、チェックポイント阻害剤時代前夜におけるがん免疫療法の基盤となった、(b) 乳癌・前立腺癌・卵巣癌などの組織特異的分化抗原標的ワクチンへの応用可能性を開示、(c) 現在のネオアンチゲンワクチン (Ott et al. Nature 2017 系統の personalized vaccine)、mRNA ワクチン (BioNTech BNT122)、CAR-T 療法、TCR-T 療法の基礎となった、という 3 点で 臨床的有用 な歴史的価値を持つ。

残された課題 および limitation は六点に集約される。第一に、非ランダム化の歴史的対照比較であり (historical control n=134)、ランダム化試験 (例: Schwartzentruber et al. NEJM 2011 の gp100 + IL-2 RCT) での効果確認は 今後の検討 として本論文後に実施された。第二に、反応持続性・全生存期間 (OS) への影響は未評価で future direction として残った。第三に、最適 adjuvant (GM-CSF、IL-12、樹状細胞 (DC) 併用) の選定は 未解決の課題 として後継試験で検証された。第四に、T 細胞レパトア解析 (TCR sequencing) は当時技術的に未確立で future な検討課題となった。第五に、腫瘍内 CTL 浸潤と臨床効果の相関解明は 今後の研究 で多重免疫染色 (multiplex IHC) と single-cell RNA-seq で実現された。第六に、IL-2 併用群での PBMC precursor 低下が真に trafficking を反映するのか、それとも IL-2 が反応性 T 細胞を選択的に枯渇させているのかは limitation として残り、後継研究で部分的に解決された。

結論として、本研究は HLA-A2 anchor 改変 gp100 g209-2M ペプチドワクチンが in vivo で強力な T 細胞免疫化を誘導し、高用量 IL-2 併用により 31 例中 13 例 (42%) で客観的腫瘍退縮を達成することを示した。ペプチドワクチン + サイトカイン併用というコンセプトを確立し、現代のがん免疫療法 (チェックポイント阻害、ネオアンチゲン、CAR-T) の基盤となった歴史的研究である。

方法

臨床プロトコル: 3 つの連続 phase I トライアル (NCI 単施設、IRB 承認、informed consent 取得済) で、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status 0-1 の転移性メラノーマ HLA-A*0201+ 患者 (n=51、83% が 31-60 歳) を対象とした。既治療患者 (化学療法、放射線療法、IL-2 を含む免疫療法) 82% が 2 つ以上の治療歴を持つ heavily pretreated cohort であった。第 1 試験: n=9 例に native g209-217 ペプチド (ITDQVPFSV、9 残基) 1 mg + IFA を 3 週間隔で皮下投与 (subcutaneous、s.c.)。第 2 試験: n=11 例に g209-2M (IMDQVPFSV、2 位 M 置換) 1 mg + IFA を同様に投与。第 3 試験: n=31 例に g209-2M + IFA + IL-2 (720,000 IU/kg iv q8h to tolerance、ペプチド投与翌日または 5 日後開始) を投与。n=19 例は初回から IL-2 併用 (試験 3A)、n=12 例は先行ペプチド単独 2 サイクル後 IL-2 追加 (試験 3B)。

免疫アッセイ: 患者末梢血単核球 (PBMC、peripheral blood mononuclear cells) を Ficoll 法で分離・凍結保存し、g209-2M ペプチドで in vitro stimulation (IVS) 1 回後に IFN-γ release assay (ELISA、enzyme-linked immunosorbent assay) で反応性を測定。precursor frequency は限界希釈法 (LDA、limiting dilution analysis) で 1/n の単位で定量した。反応性 HLA-A2+ メラノーマ株 (501-mel、SK23-mel) vs HLA-A2- メラノーマ (624.28-mel、888-mel) で特異性確認。

効果判定: 2 および 4 回投与後に全 tumor site を CT/MRI で評価。完全奏効 (CR、complete response) = 全測定可能腫瘍消失、部分奏効 (PR、partial response) = 最長径積和 50% 以上減少かつ新病変なく 1 ヶ月以上持続 (WHO criteria 1981)。混合反応 (mixed response) = 一部病変縮小 + 他病変進行。安定病変 (SD、stable disease) = 25% 未満変化が 1 ヶ月以上持続。統計検定: 群間比較は Fisher’s exact test (proportions) と Mann-Whitney U-test (continuous variables)、precursor frequency は log-transform 後 Student’s t-test、p < 0.05 を有意水準とした。データは median (range) または mean ± SEM (Standard Error of the Mean) で表示。生存解析は Kaplan-Meier 法 + log-rank test を予備的に施行。