• 著者: Mark E. Dudley, John R. Wunderlich, Paul F. Robbins, James C. Yang, Patrick Hwu, Douglas J. Schwartzentruber, Suzanne L. Topalian, Richard Sherry, Nicholas P. Restifo, Amy M. Hubicki, Michael R. Robinson, Mark Raffeld, Paul Duray, Claudia A. Seipp, Linda Rogers-Freezer, Kathleen E. Morton, Sharon A. Mavroukakis, Donald E. White, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2002
  • Epub日: 2002-09-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 12242449

背景

がんに対する免疫療法、特に養子免疫療法(adoptive immunotherapy)において、生体内で高い反応性を持つ抗腫瘍リンパ球を大量に維持し、固形腫瘍に対する持続的な免疫応答を確立することは極めて重要な課題である。しかし、従来の治療アプローチには多くの限界が存在していた。例えば、Rosenberg et al. NatMed 1998 らの先行研究では、合成ペプチドワクチンを用いた免疫付与により、循環血中の CD8 陽性細胞傷害性 T リンパ球前駆細胞である pCTL (precursor cytotoxic T lymphocyte: 循環血中CD8陽性細胞傷害性Tリンパ球前駆細胞) の数を増加させることには成功したものの、これが臨床的な腫瘍縮小には結びつかないことが示された。これは、誘導された pCTL の機能や活性化状態に何らかの不全があることを示唆している。また、腫瘍浸潤リンパ球である TIL (tumor-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) クローンを単独で移入する治療法においても、移入された細胞が生体内で長期に生着・持続しないことが大きな障壁となっていた。

一方、マウスの腫瘍モデルを用いた基礎研究においては、事前に宿主のリンパ球除去(lymphodepletion)を行う前処理が、移入された T 細胞の生存や抗腫瘍効果を劇的に高めることが報告されていた。この現象には、免疫抑制性細胞(regulatory T cells など)の除去や、恒常性維持(homeostatic)機構の破綻に伴うサイトカイン環境の改善などが関与していると考えられている。例えば、North et al. JExpMed 1982 らの既報では、アルキル化剤である cyclophosphamide を用いた前処理が、宿主のサプレッサー T 細胞を排除し、移入リンパ球による抗腫瘍効果を増強することが示されていた。しかし、このようなリンパ球除去前処理を組み合わせた TIL 移入療法が、ヒトの転移性固形がん、特に標準治療に抵抗性の転移性メラノーマ患者において、実際に治療用 T 細胞の持続的な生着やクローナルな再構築を誘導し、劇的な腫瘍退縮をもたらすかについては未解明であり、臨床データが決定的に不足していた。このように、ヒト生体内における移入 T 細胞の生存維持機構や、宿主環境を最適化する前処理レジメンの確立には大きな gap が残されており、効果的な治療法の開発に向けた知見が不足している状況であった。

目的

本研究の目的は、標準的な治療法に対して不応性を示す HLA (human leukocyte antigen: ヒト白血球抗原)-A2 陽性の転移性メラノーマ患者を対象として、新規の治療戦略の安全性と有効性を検証することである。具体的には、非骨髄破壊的である NMA (non-myeloablative: 非骨髄破壊的) な化学療法によるリンパ球除去前処理レジメンを導入し、その後に高度に選択された自己の腫瘍反応性 TIL の移入および高用量インターロイキン-2(IL-2: interleukin-2)投与を行う。この宿主環境の修飾を伴う養子 T 細胞移入療法により、移入された抗腫瘍 T 細胞がヒト生体内(in vivo)で持続的に生存・増殖し、機能的な活性を維持したまま腫瘍局所へと遊走(trafficking)するか、そして最終的に劇的かつ客観的な腫瘍退縮および臨床的奏効を誘導できるかを明らかにすることを目的とする。

結果

臨床奏効と抗メラノサイト自己免疫反応の誘導: 非骨髄破壊的リンパ球除去化学療法に続く TIL 移入および高用量 IL-2 投与を受けた 13 例(n=13 patients)において、主要エンドポイントである客観的奏効率は ORR 46% (95% CI 19-75%, p=0.01) であり、6 例(46%)において客観的な部分奏効(PR; partial response)が確認された(Table 1)。腫瘍の縮小は、肺、肝臓、リンパ節、腹腔内腫瘤、ならびに皮膚および皮下組織の転移病変において観察された。さらに、サブグループ解析として MART-1 特異的 TIL の投与を受けた患者群(n=8 patients)における奏効率を評価したところ、ORR 50% (95% CI 16-84%, p=0.03)(4 例 / 8 例)と、同様に極めて高い治療効果が示された。奏効を示した患者のうち 5 例(38%)において、正常なメラノサイトに対する自己免疫反応が惹起され、4 例で白斑(vitiligo)、1 例で両側性の急性前部ぶどう膜炎(uveitis)を発症した(Table 1)。全例において、TIL 移入後 11 日目までに絶対好中球数である ANC (absolute neutrophil count: 絶対好中球数) が 500/mm³ 以上に回復したが、CD4 陽性 T 細胞の回復は fludarabine 投与の影響により遅延した(Fig. 1A)。

末梢血における劇的なクローナル再構築とリンパ球増多: 治療後に末梢血サンプルを解析できた 6 例(n=6 patients)のうち 5 例において、移入された TIL の TCR Vβ レパトアと極めて類似した、高度に偏向した T 細胞集団が末梢血中に確認された(Table 1)。特に、Patient 9 および Patient 10 においては、IL-2 投与終了から数日以内に著明なリンパ球増多症(lymphocytosis)が観察され、末梢血中の絶対リンパ球数である ALC (absolute lymphocyte count: 絶対リンパ球数) は Patient 9 で投与後 7 日目に 21,000/mm³ 以上、Patient 10 で 8 日目に 16,000/mm³ 以上のピーク値に達した(Fig. 1A)。このリンパ球増多のピーク時において、末梢血リンパ球である PBL (peripheral blood lymphocyte: 末梢血リンパ球) の大部分が CD8 陽性 T 細胞であり、Patient 9 では CD8 陽性細胞の 94% のうち 63% が Vβ12 を発現し、Patient 10 では CD8 陽性細胞の 96% のうち 97% が Vβ7 を発現するという極端なクローナルな偏り(skewing)を示した(Fig. 1B)。これらの優位な T 細胞クローンは、いずれもメラノーマの主要な分化抗原である MART-1:27-35 エピトープを特異的に認識する T 細胞であった(Fig. 1C)。

移入 T 細胞クローンの生体内における長期持続性と増殖: MART-1 特異的な T 細胞クローンの生体内における持続性を FACS およびテトラマー解析により追跡したところ、極めて長期にわたる生着が確認された。Patient 9 においては、MART-1 反応性の Vβ12 陽性クローンが、TIL 移入後 123 日以上にわたって CD8 陽性 T 細胞全体の 60% 以上を占め続けた(Fig. 1E)。また、Patient 10 においては、MART-1 反応性の Vβ7 陽性クローンが、159 日以上にわたり CD8 陽性 T 細胞の 75% 以上を維持した(Fig. 1E)。Patient 9 において循環血中に存在する Vβ12 陽性リンパ球の総数は 5.0×10¹⁰ 個以上と推計され、これは初期に投与された Vβ12 陽性 TIL の総数(1.2×10¹⁰ 個)を大きく上回っていた。このことは、移入された単一の T 細胞クローンが生体内で約 4.1-fold に達する顕著なクローン増殖(in vivo clonal expansion)を遂げ、宿主の免疫システムを再構築したことを定量的に示している。

腫瘍局所への遊走と機能的活性の維持: 治療前の腫瘍生検組織では CD8 陽性 T 細胞の浸潤は極めてわずかであったが、治療後の生検組織(Patient 9 では投与後 20 日目、Patient 10 では 14 日目)においては、広範な腫瘍壊死像とともに、CD8 陽性 T 細胞の極めて高密度かつびまん性の浸潤が確認された(Fig. 3A)。免疫組織化学染色および TCR 配列解析により、腫瘍局所に浸潤していた T 細胞は、末梢血で優位であった MART-1反応性クローン(Patient 9 では Vβ12 陽性、Patient 10 では Vβ7 陽性)と同一であることが確認された(Fig. 3A)。さらに、治療後の腫瘍細胞においては MHC (major histocompatibility complex: 主要組織適合遺伝子複合体) class I および class II 分子の発現が著しく増強しており、これは浸潤 T 細胞から分泌された IFN-γ などの炎症性サイトカインの作用によるものと考えられた(Fig. 3B)。末梢血から回収された T 細胞は、活性化された大型の芽球様形態(blastic morphology)を呈しており(Fig. 2B)、ex vivo において HLA-A2 陽性メラノーマ細胞株 526 に対する直接的な細胞傷害活性(lysis)を示した一方、HLA-A2 陰性株 938 には反応しなかった(Fig. 2A)。また、MART-1 ペプチド刺激に対して IFN-γ などの特異的なサイトカイン分泌能を高度に維持していた(Fig. 2C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、事前に非骨髄破壊的なリンパ球除去を行わずに TIL や T 細胞クローンを移入していた従来の臨床試験と異なり、極めて良好な生着と抗腫瘍効果を示した。これまでの養子免疫療法では、移入された T 細胞が生体内で速やかに消失し、持続的な生着や臨床的効果を得ることができなかった。本研究では、cyclophosphamide および fludarabine による前処理を組み合わせることで、宿主の免疫抑制性細胞を排除し、T 細胞の生存に必要な恒常性サイトカインである IL-7 (interleukin-7: インターロイキン-7) や IL-15 (interleukin-15: インターロイキン-15) の受容ニッチを開放した。この宿主環境の修飾が、移入 T 細胞の爆発的な増殖と長期持続を可能にした主因と考えられ、従来の知見とは一線を画する成果である。

新規性: 本研究は、非骨髄破壊的リンパ球除去前処理を組み合わせた自己の腫瘍反応性 TIL 移入療法により、移入された単一の抗腫瘍 T 細胞クローンがヒト生体内で大規模に増殖し、4ヶ月以上にわたって末梢血中の主要なリンパ球集団として持続する「クローナル再構築(clonal repopulation)」を誘導できることを、本研究で初めて実証した。これは、がん患者の免疫システムを治療用 T 細胞によって完全に再構築可能であることを示した新規かつ画期的な発見である。

臨床応用: 本研究の成果は、進行固形がんに対する細胞療法の臨床応用に極めて大きな進展をもたらした。特に、自己抗原である MART-1 のような正常組織と共有される分化抗原であっても、白斑やぶどう膜炎といった忍容可能かつ局所制御が可能な自己免疫副反応を伴うのみで、劇的な抗腫瘍効果(13例中6例の客観的奏効)を安全に達成できることを示した。この知見は、前立腺、乳房、卵巣、甲状腺など、その機能が生命維持に必須ではない、あるいは代替可能な臓器に由来したがん種に対しても、同様の標的抗原を用いた養子免疫療法を臨床展開するための強固な理論的基盤(translational foundation)を築いた。

残された課題: 一方で、残された課題として、いくつかの重要な limitation や懸念事項が残されている。第一に、Patient 9 において治療 4 ヶ月後に発生したエプスタイン・バーウイルスである EBV (Epstein-Barr virus: エプスタイン・バーウイルス) 関連リンパ増殖性疾患のように、強力なリンパ球除去前処理に伴う重篤な日和見感染症や二次性悪性腫瘍のリスク管理が挙げられる。第二に、本研究では polyclonal な TIL を用いたことで CD4 陽性ヘルパー T 細胞の寄与が CD8 陽性 T 細胞の持続性をサポートした可能性が示唆されているが、CD8 陽性 T 細胞クローン単独での生着不全を克服するための最適な細胞組成や、腫瘍局所への効率的な trafficking をさらに高めるための遺伝子改変技術の導入など、治療プロトコルのさらなる最適化が今後の課題である。

方法

対象患者と試験デザイン: 本臨床試験(臨床試験登録番号: NCT00001413)は、高用量 IL-2 療法を含む標準治療に不応性であり、かつ化学療法にも抵抗性を示した HLA-A2 陽性の転移性メラノーマ患者 13 例(n=13 patients)を対象とした単一アームの phase I/II 臨床試験(single-arm phase I/II clinical trial)である。本試験は探索的試験であり、事前に定義された統計学的な sample size calculation は行われず、13例の登録を目標として実施された。本試験における主要エンドポイント(primary endpoint)は、客観的奏効率(ORR)および治療に伴う安全性の評価である。

前処理レジメン(非骨髄破壊的リンパ球除去): 治療開始 7 日前より、非骨髄破壊的化学療法として cyclophosphamide 60 mg/kg を 2 日間、続いて fludarabine 25 mg/m² を 5 日間連続で静脈内投与した。この前処理により、末梢血中のリンパ球数および好中球数が 20/mm³ 未満に減少した状態で、翌日に TIL の移入を行った。

TIL の調製と迅速拡大プロトコル: 患者から切除したメラノーマ組織より TIL を分離し、ex vivo で培養した。自己腫瘍細胞または HLA-A2 陽性のメラノーマ細胞株に対する特異的な反応性(IFN-γ (interferon-gamma: インターフェロンγ) 分泌能など)を指標に、高度に選択された TIL 培養ラインを同定した。その後、放射線照射済みの他家フィーダー細胞、抗 CD3 抗体(OKT3)、および 6000 IU/mL の高濃度 IL-2 存在下で、迅速拡大プロトコルである REP (rapid expansion protocol: 迅速拡大プロトコル) を用いて 1〜2 サイクルにわたり大規模に増幅した。患者には、平均 7.8×10¹⁰ 個(範囲: 2.3×10¹⁰〜13.7×10¹⁰ 個)の TIL を 30〜60 分かけて静脈内投与した。

IL-2 投与: TIL 移入後、高用量 IL-2(720,000 IU/kg)を 8 時間ごとに、忍容性の限界まで静脈内 bolus 投与した(平均 9 回、範囲: 5〜12 回)。

免疫学的および分子的解析と統計解析: 移入 T 細胞の生体内における運命を追跡するため、T 細胞受容体である TCR (T-cell receptor: T細胞受容体) の β 鎖可変領域(Vβ)特異的抗体を用いたフローサイトメトリー(FACS (fluorescence-activated cell sorting: 蛍光活性化細胞選別法))解析、HLA-A2/MART-1 テトラマー染色、RT-PCR (reverse transcription polymerase chain reaction: 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)、および相補性決定領域 3 である CDR3 (complementarity-determining region 3: 相補性決定領域3) の塩基配列決定(sequencing)を実施した。また、末梢血単核球である PBMC (peripheral blood mononuclear cell: 末梢血単核球) および腫瘍浸潤リンパ球の機能評価として、HLA-A2 陽性メラノーマ細胞株である 526 および HLA-A2 陰性メラノーマ細胞株である 938 を標的とした特異的細胞傷害活性試験(51Cr放出試験)および各種サイトカイン(IFN-γ、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor: 顆粒球単球コロニー刺激因子)、TNF-α (tumor necrosis factor-alpha: 腫瘍壊死因子α))の分泌測定試験(ELISA)を行った。統計的解析においては、各群間の有意差検定のために t検定(Student’s t-test)および Mann-Whitney の U 検定が用いられた。