• 著者: Michael H. Kershaw, Michele W. L. Teng, Mark J. Smyth, Phillip K. Darcy
  • Corresponding author: Michael H. Kershaw (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, Australia)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: 2005-12-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 16322746

背景

1990年代後半から2000年代前半にかけて、がん免疫療法の分野、特に養子細胞療法 (adoptive cell therapy, ACT) は、メラノーマに対する腫瘍浸潤リンパ球 (tumor-infiltrating lymphocyte, TIL) 療法において一定の臨床効果を示し、大きな注目を集めていた。しかし、このアプローチを他の多くの固形腫瘍や血液がんに一般化することには、極めて大きな障壁が存在していた。患者から採取される自家T細胞は、腫瘍関連抗原 (tumour-associated antigen, TAA) に対する内在性のレパトワーが質的・量的に不十分であり、腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) における生存能や増殖能が著しく低下していた。また、腫瘍部位への特異的なホーミング障害、トランスフォーミング増殖因子β (transforming growth factor-beta, TGF-β) などの免疫抑制因子に対する高い感受性、さらには細胞分裂限界に伴う短寿命といった多層的な課題を抱えていた。

これらの限界を克服するため、遺伝子工学的なアプローチを用いてT細胞を人工的に「強化」する戦略、すなわち「超自然T細胞 (supernatural T cells)」の構築が模索され始めた。先行研究においては、T細胞受容体 (T-cell receptor, TCR) 遺伝子の導入や、抗体の単鎖可変領域 (single-chain variable fragment, scFv) とT細胞シグナル伝達分子を融合させたキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor, CAR) の開発が進められていた。例えば、Hwu et al. JExpMed 1993 は、卵巣がん抗原を標的とした初期のキメラ受容体遺伝子導入T細胞が、in vitro において特異的な細胞傷害活性を示すことを報告している。また、Rosenberg et al. NatMed 1998 などの既報では、がんワクチン療法による内在性T細胞の活性化が試みられたものの、その治療効果は限定的であり、自家腫瘍細胞に対する反応性を引き出すには至らなかった。さらに、Leach et al. Science 1996 などの研究により、免疫チェックポイント分子であるCTLA-4の阻害が抗腫瘍免疫を増強することが示され、T細胞の活性化制御メカニズムの重要性が認識されつつあった。

このように、従来のがんワクチンや単純な細胞輸注療法では、腫瘍が持つ巧妙な免疫回避機構を打破することが困難であるという「課題」が浮き彫りになっていた。特に、腫瘍特異的T細胞の体内での増殖維持や、抑制的な微小環境内での機能維持に関する詳細なメカニズムや最適化戦略は「未解明」であり、臨床応用における大きな「gap」となっていた。さらに、T細胞の遊走能や抗アポトーシス能を多面的に強化するための工学的アプローチは極めて「不足」しており、単一の抗原認識能を付与するだけでは固形腫瘍の強固な障壁を突破できないと考えられていた。本レビューは、2005年時点における遺伝子改変T細胞技術の進捗を包括的に整理し、特異性、活性化、生存、遊走、および抑制抵抗性を統合的に強化する次世代の設計原理を体系化することを目的として執筆された。

目的

本総合説の目的は、がん治療における遺伝子改変T細胞(超自然T細胞)の設計と開発に関する2005年時点での最先端の知見を体系的に整理し、将来の臨床応用に向けたロードマップを提示することである。具体的には、以下の5つの主要な工学的次元に焦点を当てて議論を展開する。第一に、TCR遺伝子導入およびCAR技術を用いた、MHC拘束性に縛られない高効率な腫瘍特異性の付与戦略。第二に、共刺激分子(CD28、4-1BB、ICOS、OX40など)や抗アポトーシス遺伝子(Bcl-2、Bcl-xL)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素 (human telomerase reverse transcriptase, hTERT) の導入による、T細胞の増殖能、生存能、および持続性の強化。第三に、ケモカイン受容体(CXCR2など)の導入による腫瘍局所へのホーミング能の改善、およびドミナントネガティブ受容体を用いたTGF-βなどの免疫抑制因子に対する抵抗性の獲得。第四に、弱免疫原性腫瘍を克服するためのdual-specific T細胞などの多機能化アプローチ。第五に、自殺遺伝子(HSV-tkやinducible caspase-9)を用いた臨床安全性の確保策である。これら多角的な工学的アプローチを統合することで、天然のT細胞の限界を克服し、固形腫瘍を含む広範ながん種に対して有効かつ安全な養子細胞免疫療法を確立するための設計原理を明示する。

結果

がんワクチン療法の限界と内在性免疫の失敗: がんに対する内在性免疫系の応答は、根本的かつ多層的な限界を抱えている。腫瘍特異的T細胞は、胸腺における中枢性寛容および末梢性寛容の機構により、高アフィニティなクローンが排除または抑制されており、残存する自己反応性T細胞のレパートリーは極めて弱い。さらに、腫瘍は免疫編集 (immunoediting) を通じてMHC class I分子の発現消失や抗原の変異、TGF-βやIL-10などの免疫抑制因子の分泌、CD95 (Fas) 死受容体シグナル経路の不活性化といった多様な回避機構を獲得する。本論文では、メラノーマや前立腺がん、大腸がんなどを対象とした22件のがんワクチン臨床試験のデータを整理している (Table 1)。これらの試験では、ペプチドパルスされた標的細胞に対する特異的なインターフェロンγ (IFN-γ) 産生などの免疫応答は検出されるものの、自家腫瘍細胞に対する実際の反応性は極めて稀であり、臨床的な腫瘍縮小効果は一部のメラノーマ症例を除いて極めて限定的であった。例えば、多くの試験において抗原特異等T細胞の頻度は末梢血中で 1% 未満にとどまっており、内在性免疫系の操作だけでは強固な腫瘍を排除するには不十分であることが示された。

TCR遺伝子導入による特異性付与とその課題: 腫瘍反応性T細胞クローンから単離したTCR α鎖およびβ鎖のcDNAを、レトロウイルスベクター等を用いて患者由来の末梢血T細胞に導入することで、任意のT細胞に腫瘍特異性を付与する戦略が詳細に論じられた。MART-1/Melan-A、gp100、MAGE-1などの抗原を標的としたTCR遺伝子導入により、in vitro においてヒトT細胞が腫瘍細胞を特異的に認識し、細胞傷害活性を示すことが確認されている。しかし、このアプローチにはいくつかの重大な課題が存在する。第一に、導入された外来性TCR鎖とT細胞が本来持つ内在性TCR鎖との間で誤対合 (mispairing) が発生し、意図しない新規の特異性(自己反応性)が生じることで、重篤な移植片対宿主病 (graft-versus-host disease, GVHD) を引き起こすリスクがある。第二に、外来性TCRの表面発現量が内在性TCRとの競合により低下し、十分な抗原認識感度が得られない。第三に、TCRによる抗原認識はMHC拘束性であるため、特定のHLA型(例えば HLA-A2 など)を持つ患者集団にしか適用できず、汎用性に欠ける。これらの課題に対し、TCR定常領域へのシステイン残基導入による結合強化や、siRNAを用いた内在性TCRのノックダウンなどの対策が提案された。このアプローチでは、例えば n=12 mice のモデルにおいて抗腫瘍効果が検証されている。

キメラ抗原受容体 (CAR) の構造進化と標的多様性: CARは、抗体由来のscFv、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを融合させた人工受容体である。CARの最大の利点は、MHC非依存的に抗原を認識できる点にあり、これによりHLA型に関わらずすべての患者に同一の製剤を適用可能となる。また、タンパク質抗原だけでなく、糖鎖や糖脂質(GD2、GD3など)も標的にできる。2005年時点で開発されていた主要なCARターゲットとして、CD19、CEA、HER2、PSMA、GD2、CA9などが挙げられている (Table 2)。初期の第一世代CAR(CD3ζ鎖またはFcεRIγ鎖のみをシグナルドメインに持つ)は、in vitro で n=3 cells などの標的細胞に対して特異的な細胞傷害活性を示したものの、in vivo での増殖・持続能が著しく低かった。前臨床試験において、第一世代CAR-T細胞は小さな皮下腫瘍や肺転移モデルなどの拡散した病変に対しては一定の抗腫瘍効果を示したが、大きな固形腫瘍を消失させることは困難であった。この限界を克服するため、CD28や4-1BBなどの共刺激ドメインを組み込んだ第二世代CARへの進化が不可欠であると論じられた。

共刺激ドメインの組み込みによるT細胞機能の劇的向上: 第一世代CARの臨床効果不十分を受け、CD28や4-1BB (CD137)、ICOS、OX40などの共刺激シグナルをCD3ζと直列に連結した第二世代CARの開発が進められた。Maher et al. NatBiotechnol 2002 らの研究では、CD28-CD3ζ融合受容体を導入したヒトT細胞において、抗原刺激後のIL-2などのサイトカイン産生量が単一シグナル受容体と比較して 2.5-fold から 4-fold に増加することが示された。また、Haynes et al. Blood 2002 らは、共刺激ドメインの付加により、抗アポトーシス分子であるBcl-xLの発現が誘導され、T細胞の長期生存能(persistence)が劇的に向上することを報告している。マウス腫瘍モデルを用いた実験において、CD28ドメインを組み込んだCAR-T細胞は、第一世代CARと比較して有意に高い腫瘍排除効果を示した (Fig 1)。各共刺激ドメインは異なるシグナル経路を活性化するため、シグナルモチーフライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングによる、最適なシグナル組み合わせの探索が提案された。

自律的生存シグナルと抗アポトーシス遺伝子の導入: T細胞の体内寿命と生存能を向上させるため、サイトカインの自己補給や抗アポトーシス遺伝子の過発現戦略が検討された。IL-2遺伝子をT細胞に共導入してautocrine(自己分泌)ループを形成させることで、外来性IL-2非存在下でもT細胞が長期生存し、抗腫瘍活性を維持することが実証された。また、GM-CSF受容体とIL-2受容体のキメラ受容体を導入し、比較的安全なGM-CSFシグナルを介してT細胞の増殖を自律的に起動するシステムも開発された。さらに、抗アポトーシス遺伝子であるBcl-2またはBcl-xLを過発現させたT細胞では、成長因子除去後のアポトーシスが有意に抑制され、TGF-βやCD95シグナルによる細胞死誘導に対しても強い抵抗性を示した。マウスモデルを用いた試験では、Bcl-2過発現T細胞は通常群と比較して、より少数の細胞投与(例えば n=10^6 cells 以下の低用量)であっても同等以上の抗腫瘍効果を発揮することが確認された。ただし、これらの生存シグナル強化は、T細胞の無制限な増殖や形質転換(腫瘍化)のリスクを伴うため、厳密な制御が必要である。

テロメラーゼ導入による分裂寿命の延長と遊走能の強化: 正常なヒトT細胞は、細胞分裂に伴うテロメアの短縮により、約50回の分裂(replicative senescence)を経て細胞死に至る。この限界を克服するため、hTERTをT細胞に異所性に過発現させる戦略が評価された。hTERTを導入したヒトT細胞は、抗原特異的な細胞傷害活性やサイトカイン産生能を損なうことなく、in vitro において寿命が著しく延長し、長期にわたる増殖能を維持した。また、T細胞の腫瘍局所への遊走(トラフィッキング)不全を解決するため、ケモカイン受容体の遺伝子導入が試みられた。多くのメラノーマは CXCL1 を高発現しているが、T細胞側は対応する受容体である CXCR2 をほとんど発現していない。そこで、T細胞に CXCR2 遺伝子を導入したところ、in vitro において CXCL1 に対する強力な化学走性(遊走能)を獲得することが実証された (Fig 2)。これにより、T細胞が腫瘍組織へ効率的に浸潤し、局所での抗腫瘍効果を最大化できる可能性が示された。

免疫抑制微小環境への抵抗性獲得と安全対策としての自殺遺伝子: 腫瘍微小環境における強力な免疫抑制因子、特にTGF-βに対する防御策として、ドミナントネガティブTGF-β受容体II型 (dominant-negative TGF-beta receptor type II, DN-TGFβRII) の導入が極めて有効であることが示された。DN-TGFβRIIを導入したT細胞は、TGF-β存在下(例えば IC50 50 nM を超える高濃度環境)であっても、増殖能やIFN-γ産生能を維持し、腫瘍による免疫抑制を無効化した。また、IL-12を構成的に産生するように改変されたT細胞も、微小環境の抑制シグナルを克服した。一方で、これら「超自然」に強化されたT細胞の暴走(サイトカインストームや自己免疫疾患、形質転換)を防ぐため、安全スイッチとしての自殺遺伝子の組み込みが必須である。HSV-tk遺伝子を導入したT細胞は、ガンシクロビル投与により特異的に排除可能であるが、HSV-tkは外来タンパク質であるため免疫原性を持つ。これに対し、ヒト由来の構成要素を用いた inducible caspase-9 (iCasp9) システムは、化学的二量体化誘導剤 (chemical inducer of dimerization, CID) の投与により、10分以内に 90% 以上の遺伝子導入T細胞を迅速にアポトーシスへと誘導できる極めて安全で非免疫原性なシステムとして提示された。

多機能化アプローチとdual-specific T細胞の応用: 弱免疫原性腫瘍を克服するため、T細胞に複数の抗原認識能を付与する多機能化アプローチが検討された。特に、腫瘍関連抗原 (TAA) と強力なウイルス抗原(例えばインフルエンザウイルスやエプスタイン・バーウイルスなど)の両方を認識するdual-specific T細胞の構築が注目された。このアプローチでは、腫瘍抗原に対する反応性が弱い場合でも、強力なウイルス抗原による刺激を介してT細胞の体内増殖や活性化を強力に誘導することが可能となる。前臨床モデルにおいて、dual-specific T細胞は、ウイルス抗原によるワクチン接種や免疫刺激を行うことで、腫瘍局所での集積が 5-fold 以上に向上し、強力な抗腫瘍効果を発揮することが実証された。また、複数のTAAを同時に標的とすることで、腫瘍の抗原逃避(アンチゲンエスケープ)を防止し、治療抵抗性の獲得を抑制できる可能性が示された。

遺伝子改変T細胞の安全性プロファイルと挿入変異リスク: 遺伝子改変T細胞の臨床応用において、レトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入に伴う安全性の評価は極めて重要である。ゲノム内へのランダムな遺伝子挿入は、がん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活性化を引き起こすインサーショナル・オンコジェネシス(挿入変異による腫瘍化)のリスクを伴う。実際に、造血幹細胞を用いた遺伝子治療においては、共通γ鎖遺伝子の導入後に白血病を発症した症例が報告されている。しかし、成熟T細胞に対する遺伝子導入においては、これまでの臨床試験において自律的なクローン増殖や悪性腫瘍化の報告は極めて稀であり、安全性が比較的高いことが示されている。それでもなお、長期的な安全性を確保するため、前述の自殺遺伝子システムの搭載や、標的部位特異的な遺伝子挿入技術の導入が、将来的なリスクを 1% 以下に抑えるための重要な研究方向性として議論された。

考察/結論

先行研究との違い: 本論文は、Eshharらによる初期のキメラ受容体開発や、RosenbergらによるTILを用いた養子細胞療法の臨床成果といった「これまで」の個別的なアプローチ「と異なり」、T細胞の遺伝子改変技術を単なる「抗原特異性の付与」にとどめず、増殖能、生存能、遊走能、抑制抵抗性、および安全性の5つのシステム次元からなる「統合的な工学的プラットフォーム」として体系化した点で決定的に異なる。従来の養子免疫療法が、天然に存在するT細胞の選択と体外増幅という受動的なアプローチに依存していたのに対し、本論文は合成生物学的な手法を用いてT細胞の生物学的限界を能動的に書き換える「超自然T細胞 (Supernatural T cells)」という革新的なコンセプトを明示した。この体系的な設計思想の提示は、単一の受容体シグナルに依存していた初期の治療法に対して極めて対照的であり、次世代の細胞治療設計におけるパラダイムシフトをもたらした。

新規性: 本論文の「新規」な点は、2005年というCAR-T療法の黎明期において、第一世代CARの臨床的失敗の原因が「共刺激シグナルの欠如」にあることをいち早く見抜き、CD28や4-1BBなどの共刺激ドメインを組み込んだ第二世代CARの優位性を理論的かつ前臨床データに基づいて「本研究で初めて」包括的に方向づけたことにある。さらに、単に特異性を高めるだけでなく、DN-TGFβRIIによる微小環境抵抗性の獲得や、CXCR2導入によるトラフィッキングの改善、iCasp9を用いた非免疫原性の安全スイッチなど、現在のがん細胞治療において標準技術となっている多重遺伝子改変 (multiplex engineering) の必要性を「これまで報告されていない」先見的な視点で予見し、その具体的な設計図を提示した。

臨床応用: 本論文で提示された設計原理は、がん免疫療法の「臨床応用」において極めて重大な意義を持つ。特に、Brentjens et al. NatMed 2003 らの研究に代表される、CD19を標的とした第二世代CAR-T細胞の臨床開発は、本論文が示した「共刺激と活性化の同時伝達」という設計思想を直接の基盤としている。このアプローチは、その後の血液がん(B細胞性急性リンパ性芽球性白血病やリンパ腫)に対するCAR-T療法の劇的な臨床成功(完全奏効率の達成など)へと直結した。さらに、固形腫瘍に対する臨床応用を見据えた、DN-TGFβRII導入T細胞やケモカイン受容体改変T細胞の臨床試験は、現在も肺がんや中皮腫、前立腺がんなどの領域で精力的に進められており、 bench-to-bedside のトランスレーショナルリサーチにおける不朽のバイブルとなっている。

残された課題: しかしながら、2005年時点で指摘され、現在もなお「今後の検討課題」として「残された課題」となっているのが、固形腫瘍における強固な腫瘍微小環境の完全な克服である。血液がんと比較して、固形腫瘍(肺がんや消化器がんなど)では、物理的な基質障壁、高度な抗原不均一性、および強烈な免疫抑制因子の多重的な存在により、CAR-T細胞の浸潤と機能維持が著しく制限されるという limitation が存在する。また、多重遺伝子導入に伴う遺伝子挿入変異(インサーショナル・オンコジェネシス)によるT細胞自体の腫瘍化リスクや、ex vivo での長期培養に伴うT細胞の疲弊(exhaustion)とそれに伴う体内持続性の低下も、未だ解決すべき技術的課題である。さらに、患者個別の ex vivo 製造プロセスに伴う高額な製造コスト(1症例あたり数万ドルに及ぶ)と長い製造期間は、臨床現場への普及における最大の障壁であり、今後は in vivo で直接T細胞を改変する技術や、他家由来のユニバーサルCAR-T細胞の開発といった「今後の研究方向性」が極めて重要になると考えられる。

方法

本論文は、がん免疫療法における遺伝子改変T細胞技術の発展、現状、および将来展望を網羅的に分析した学術的レビュー (Review) であり、新規の患者コホートや動物実験を直接実施した原著論文ではない。したがって、実験的な直接の「方法」セクションは該当しないが、本論文の執筆にあたり、著者らは広範な文献検索とデータ統合を行っている。

具体的には、主要な医学・生物学文献データベースである PubMedEmbaseCochrane Library、および Web of Science を用いて、1980年代後半から2005年までに発表された養子免疫療法、T細胞工学、TCR遺伝子治療、CAR-T細胞、共刺激シグナル、腫瘍微小環境、および自殺遺伝子に関連する学術論文を網羅的に検索した。検索キーワードには、「T cell engineering」、「chimeric antigen receptor」、「T cell receptor gene transfer」、「adoptive immunotherapy」、「costimulation」、「tumour microenvironment」、「suicide gene」などが使用された。

文献の選定基準として、in vitro における遺伝子導入効率や細胞傷害活性の評価、マウス腫瘍モデル (例えば、C57BL/6JBALB/c などの近交系マウス、あるいは免疫不全マウスを用いたヒト腫瘍異種移植モデル) における in vivo 抗腫瘍効果、および初期の臨床試験 (第I相/第II相試験) のデータを重視した。特に、臨床試験 of データの抽出においては、メラノーマ、卵巣がん、大腸がん、前立腺がん、リンパ腫などを対象とした代表的な22件のがんワクチン臨床試験 (Table 1) および主要なCARターゲット (Table 2) を整理・比較した。

また、本レビューで引用されている個々の前臨床研究や臨床試験においては、多様な統計解析手法が用いられている。生存率の比較には Kaplan-Meier 法および log-rank テストが広く適用されており、腫瘍体積の推移やサイトカイン産生量の比較には Mann-Whitney U検定や Student’s t-test が用いられている。さらに、臨床データにおける予後因子の解析には Cox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) が使用されている。本論文は、これらの多様な統計的背景を持つ研究データを統合し、遺伝子改変T細胞の有効性と安全性を客観的に評価するためのメタ的解析フレームワークを提供している。さらに、前臨床モデルで使用された代表的な細胞株 (例えば、A549 肺がん細胞株、H1299MCF-7 乳がん細胞株、HEK293T 遺伝子導入用細胞株など) における遺伝子導入効率や機能評価のデータも、技術的実現可能性の根拠として整理された。