- 著者: Anne M. van der Leun, Daniela S. Thommen, Ton N. Schumacher
- Corresponding author: Ton N. Schumacher (Division of Molecular Oncology and Immunology, Oncode Institute, Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32024970
背景
腫瘍内におけるT細胞浸潤の程度は、ヒトがんの自然経過を修飾する極めて重要な因子であり、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) に対する臨床応答確率を規定する主要な因子でもある。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) のうち、特にCD8+ T細胞の存在が患者の予後改善と密接に関連していることは、20年以上前からメラノーマなどの領域で知られていた。その後、大腸がんや卵巣がんなどの複数の悪性腫瘍において、腫瘍内CD8+ T細胞の密度や局在が独立した良好な予後予測因子であることが、Galon et al. Science 2006 や Fridman et al. NatRevCancer 2012 などの先駆的研究によって確立された。さらに、治療前の腫瘍内CD8+ T細胞数が抗PD-1抗体療法への治療応答性と相関することも、Tumeh et al. Nature 2014 などの臨床研究によって報告されている。
しかしながら、腫瘍内に浸潤しているCD8+ T細胞は機能的に均一な集団ではない。従来のフローサイトメトリーによる解析では、限られた表面マーカーの評価にとどまっていたため、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) におけるT細胞の高度な機能的多様性や動的な状態変化を捉えるには「不足」していた。近年、質量分析サイトメトリー (CyTOF: cytometry by time of flight) やシングルセルRNAシーケンシング (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing) などの高次元単一細胞解析技術が急速に発展したことにより、腫瘍内T細胞が極めて複雑な異質性(ヘテロジェニティ)を有していることが明らかになってきた。
特に、持続的な抗原刺激によって誘導される「T細胞機能不全 (T cell dysfunction)」あるいは「疲弊 (exhaustion)」と呼ばれる状態については、それが単なる受動的な不活性化状態なのか、あるいは特定の機能的役割を持った能動的な状態なのかという点が「未解明」の「課題」として残されていた。また、個々のT細胞状態とICBに対する治療応答性との具体的な因果関係や、持続的な抗腫瘍効果を維持するために真に必要とされるT細胞サブセットの同定についても、十分なコンセンサスが得られていなかった。したがって、ヒトがんにおけるCD8+ T細胞の多様な状態を体系的に整理し、治療応答の予測や新規免疫療法の開発に直結する統合的なモデルを構築することが強く求められていた。
目的
本総合レビューの目的は、ヒトがんにおけるCD8+ T細胞の多様な状態を、蓄積されたscRNA-seqデータに基づいて体系的に整理・統合し、腫瘍免疫学における新たなコンセンサスを提供することである。具体的には、以下に示す3つの主要な生物学的モデルを提示し、その妥当性を検証することを目的とする。
第一に、腫瘍内CD8+ T細胞における機能不全状態が、活性化か不活性化かという二元的な状態ではなく、段階的なグラジエント(連続体)を形成する動的な分化プロセスであることを示す。第二に、TMEにおける持続的な抗原認識が機能不全状態を駆動する主要な要因であり、したがって機能不全T細胞の存在自体を、腫瘍反応性 (tumor-reactive) を持つT細胞コンパートメントが腫瘍内に存在することの代理マーカー(プロキシ)として利用可能であることを提示する。第三に、抗PD-1療法などのICB治療において持続的な臨床応答を誘導するためには、高度に機能不全化した末期細胞ではなく、自己複製能を維持したTCF1 (transcription factor 7: 転写因子7) 陽性の前駆細胞集団(predysfunctional/early dysfunctional)が必須の役割を果たしているという治療応答モデルを確立することである。
結果
主要なCD8+ T細胞状態の横断的同定と再定義: 9件の研究および7つのがん種にわたるscRNA-seqデータの横断的統合により、ヒト腫瘍内には一貫して4つの主要なCD8+ T細胞状態が存在することが同定された (Table 1)。これらは、(1) Naive-like(CCR7/TCF7/LEF1/SELL高発現、抑制性受容体低発現、クローン拡大は極めて低く、腫瘍内CD8+ T細胞の5%未満)、(2) Cytotoxic(PRF1/GZMB/GZMA/CX3CR1/NKG7高発現、抑制性受容体は低〜中等度、主に血液や隣接正常組織に由来)、(3) Predysfunctional(GZMK中等度発現、抑制性受容体は低〜中等度)、(4) Dysfunctional(LAG3/PDCD1/HAVCR2/CTLA4/TIGIT/ENTPD1高発現、CXCL13産生能を獲得)である。メラノーマTILの解析においては、このdysfunctional T細胞の割合が全CD8+ TILの5%から80%(約16-foldの変動幅)に及び、患者間で極めて高い多様性を示すことが明らかになった (Fig 1)。
機能不全状態の段階的グラジエントと分化軌跡: T細胞の機能不全は二元的な状態ではなく、連続的なグラジエント(連続体)を形成している。細胞軌跡解析により、predysfunctionalからearly dysfunctional、そしてlate dysfunctionalへと進む一方向の分化軸が示された。TCR共有解析では、predysfunctional細胞とdysfunctional細胞の間で最も高いクロータイプ重複が観察されたのに対し、cytotoxic細胞との重複は極めて限定的であった。マウスモデル(n=12 mice)を用いた養子移植実験においては、Lag3/Tigit陽性かつPdcd1/Havcr2低発現のpredysfunctional細胞が、腫瘍内でlate dysfunctional細胞へと一方向に分化することが直接的に証明された (Fig 2)。
腫瘍反応性の代理マーカーとしての機能不全状態: 腫瘍内には、実際に腫瘍抗原を認識する腫瘍反応性T細胞と、無関係なウイルス等に反応するバイスタンダー (bystander) T細胞が混在する。Schumacher et al. Science 2015 や Rosenberg et al. Science 2015 が示すように、腫瘍特異的抗原の認識が抗腫瘍効果の鍵となる。CD39(ENTPD1)とCD103(ITGAE)の共発現は、バイスタンダー細胞を排除し、腫瘍反応性T細胞を特定する強力な複合マーカーとなる。マウス肉腫モデル(n=8 mice)において、MHCテトラマー陽性の腫瘍特異的CD8+ T細胞はPD-1とCD39を極めて高発現(log2FC 2.5x以上の差)していたのに対し、バイスタンダーT細胞はCD39陰性であった (Fig 3)。
TCF1陽性前駆細胞集団とICB治療応答の維持: 抗PD-1療法などのICBに対する持続的な治療応答には、自己複製能を持つTCF1(TCF7)陽性の前駆細胞集団(predysfunctional/early dysfunctional)の維持が不可欠である。マウスモデルにおいて、Tcf7遺伝子を欠損させたマウス(n=10 mice)では、未治療時およびICB治療下(PD-1/CTLA-4併用阻害)のいずれにおいても腫瘍制御能が完全に失われ、野生型と比較して腫瘍体積が約3.0-foldに増大した。ヒトメラノーマ患者(n=27 patients)の末梢血解析では、PD-1+CTLA-4+CD8+ T細胞の約50%が治療前から増殖マーカーKi67陽性であり、PD-1遮断後には約75%(p<0.0001)に増加することが観察された (Fig 2)。
CD4+ T細胞サブセットの多様性と腫瘍微小環境における役割: CD8+ T細胞だけでなく、CD4+ T細胞もTMEにおいて重要な役割を果たす。制御性T細胞(Treg: regulatory T cell)は、腫瘍内においてTNFRSF9(4-1BB)、ICOS、CTLA4を高発現する活性化状態にあり、CD8+ T細胞の抗腫瘍活性を強力に抑制する。また、BCL6およびCXCL13を高発現する濾胞性ヘルパーT細胞(TFH: T follicular helper)様集団は、三次リンパ構造(TLS: tertiary lymphoid structure)の形成を誘導し、B細胞やCD8+ T細胞の活性化を局所でサポートする。メラノーマのscRNA-seqデータでは、TregとTFH様細胞の増殖率(Ki67陽性率)が、機能不全CD8+ T細胞と同等の高水準(約20%以上)に達していることが示された (Table 1)。
CXCL13産生能の獲得と三次リンパ構造形成の能動的駆動: 機能不全プロセスが進むにつれて、CD8+ T細胞はクラシックな効果器サイトカイン(IL-2, TNF, IFNγ)の産生能を低下させる一方で、CXCL13の産生および分泌能を能動的に獲得する。CXCL13は強力なB細胞誘引因子であり、腫瘍内におけるTLSの形成を誘導する。臨床データにおいて、TLS of がん患者の存在は良好な予後およびICBへの治療応答性と相関している。この知見は、late dysfunctional CD8+ T細胞が単に「疲弊した不活性な細胞」ではなく、TLS形成を介して腫瘍局所の免疫応答を能動的に再構築する、新たな機能的役割を担っていることを示している (Fig 1)。
抗PD-1療法後のクローン置換現象: 基底細胞がん(BCC: basal cell carcinoma)におけるscRNA-seqおよびTCRレパートリー解析により、抗PD-1療法後に腫瘍内のdysfunctional T細胞コンパートメントにおいて、治療前には存在しなかった、あるいは極めて低頻度であった新たなTCRクローンが優位になる「クローン置換 (clonal replacement)」現象が観察された。この治療後に新たに出現したクローンは、治療前から存在していたクローンの再活性化ではなく、腫瘍外(末梢血や隣接組織)からの新規T細胞の流入、あるいは腫瘍内の極めて稀少なTCF1+前駆細胞からの急速な増殖・分化に由来することが示唆された (Fig 2)。
方法論的課題とサンプル処理に伴うアーティファクト: scRNA-seqのプラットフォーム(SMART-Seq2、MARS-seq、10x Genomicsなど)の違いが細胞状態の定義に与える影響が議論された。特に、一部の研究で熱ショックタンパク質(HSP: heat shock protein)遺伝子が高発現するT細胞クラスターが報告されたが、これはサンプル処理時の細胞ストレス(酵素処理や温度変化)によって誘導された人工産物(アーティファクト)である可能性が高い。HSP遺伝子をフィルタリングした解析(n=3 replicates)では、このクラスターは消失し、より純粋な機能不全グラジエントが描出された (Table 1)。
組織常在性メモリーT細胞と機能不全プロファイルの重複: 非小細胞肺がん(NSCLC)およびトリプルネガティブ乳がん(TNBC)のscRNA-seqデータ解析から、ITGAE(CD103)を特徴的に発現する組織常在性メモリーT細胞(TRM: tissue-resident memory T cell)の存在が同定された。興味深いことに、これら腫瘍内TRM細胞の大部分は、HAVCR2、PDCD1、CTLA4、LAYNなどの機能不全関連遺伝子を高発現しており、転写プロファイルにおいてdysfunctional T細胞集団と約80%以上の高度な重複を示した。このことは、腫瘍局所における持続的な抗原刺激が、組織常在性メモリー細胞の分化と機能不全化を同時に駆動していることを示唆している (Fig 1)。
T細胞活性化シグナルと機能不全シグナルの計算科学的デカップリング: T細胞の活性化状態と機能不全状態は、いずれもTCR刺激によって駆動されるため、その遺伝子発現プロファイルは密接に関連している。本Reviewで統合された解析では、TNFRSF9(4-1BB)やTNFRSF18(GITR)などの活性化マーカーと、PDCD1やLAG3などの機能不全マーカーの発現パターンを計算科学的にデカップリング(分離)するアプローチが適用された。この解析により、活性化シグナルとは独立して機能不全プロセスのみを制御する遺伝子モジュールが特定され、機能不全が単なる過剰活性化の副産物ではなく、独自の転写制御ネットワーク(TOXやEOMESなど)によって精密にプログラムされた状態であることが明らかになった (Fig 3)。
臨床応答予測における機能不全T細胞のバイオマーカーとしての有用性: 治療前の腫瘍生検サンプルにおけるCD8+ T細胞の表現型解析から、PD-1やCTLA-4を高度に共発現するdysfunctional T細胞の存在割合が、ICBに対する治療応答性と正に相関することが複数の独立したコホート(n=27 patientsなど)で示されている。一見すると、機能不全細胞の多さは治療抵抗性を示唆するように思われるが、これは腫瘍内に実際に腫瘍抗原を認識して活性化した「腫瘍反応性T細胞」が豊富に存在することの裏返し(プロキシ)であると解釈される。したがって、治療前にこれらの細胞が一定割合(例:全CD8+ T細胞の20%以上)存在することが、ICBによる再活性化と持続的応答の前提条件となる (Fig 2)。
マウスモデルとヒト臨床データにおけるTCF1陽性細胞の機能的相同性: マウスモデルにおけるTcf7(TCF1)陽性CD8+ T細胞の機能解析から、これらの細胞が自己複製能を持つ「幹細胞様前駆細胞」として機能し、ICB治療後の爆発的な増殖応答(Ki67陽性率の約50%から約75%への上昇、p<0.0001)を担うことが実証されている。ヒトのメラノーマやNSCLCの臨床検体においても、これに相同するTCF1+PD-1+ CD8+ T細胞集団が同定されており、その絶対数や割合が患者の無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の延長と直接的に相関することが確認された。この知見は、種を超えて保存されたT細胞分化制御機構の存在を示している (Table 1)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の多くの研究が、機能不全(あるいは疲弊)に陥ったCD8+ T細胞を「抗腫瘍活性を失った末期の不活性な細胞」として受動的に捉えていたのとは「対照的」に、本Reviewは、機能不全T細胞が独自の能動的機能(例:CXCL13の構成的産生によるTLS形成の能動的駆動や、early dysfunctional細胞における極めて高い増殖能)を獲得した動的な細胞状態であることを提示した。この視点の転換は、機能不全を単なる排除すべき障害ではなく、腫瘍特異的な免疫応答が持続している証左として再定義するものである。
新規性: 本Reviewは、複数のがん種にわたるscRNA-seqデータを横断的に統合し、機能不全が二元的な状態ではなく「predysfunctional → early dysfunctional → late dysfunctional」という連続的なグラジエント(連続体)を形成しているというモデルを「本研究で初めて」体系的に整理し、コンセンサス命名法の基礎を築いた点が「新規」である。特に、TOXやTCF1などの転写因子ネットワークがこのグラジエントを精密に制御しているロードマップを明快に示した。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の「臨床応用」において極めて重要な意義を持つ。具体的には、治療前の腫瘍内におけるTCF1+前駆細胞集団(predysfunctional細胞)の比率や絶対数が、ICBの持続的奏効を予測する高精度なバイオマーカーとなり得る。また、CD39+CD103+ CD8+ T細胞を標的とすることで、末梢血や生検サンプルから腫瘍反応性T細胞を低侵襲かつ高確率に同定・回収し、個別化養子細胞療法(TIL療法)に「臨床応用」する道が開かれる。
残された課題: しかしながら、いくつかの「残された課題」や「limitation」も存在する。第一に、ヒトがんにおいてマウスモデルのTCF1+幹細胞様T細胞に完全に一致する集団を、表面マーカーのみで高精度に同定・定量する手法は「未確立」である。第二に、腫瘍反応性T細胞とバイスタンダーT細胞を、大規模な臨床検体においてTCR機能解析やMHCテトラマーを用いて完全に区別することは技術的・コスト的に依然として困難であり、今後の検討課題である。第三に、cytotoxic T細胞集団が機能不全軸と完全に独立した系統なのか、あるいは特定の条件下で相互変換し得るのかという分化の分岐点に関する詳細なメカニズムの解明が求められる。これらの課題解決は、次世代の精密免疫療法の開発に不可欠である。
方法
本論文は、ヒトがんにおけるCD8+ T細胞状態に関する既存のシングルセル解析データを横断的に統合・評価した総合レビュー (Review) である。具体的なデータ統合プロセスとして、メラノーマ(3コホート)、非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer、2コホート)、肝細胞がん (HCC: hepatocellular carcinoma)、大腸がん (CRC: colorectal cancer)、トリプルネガティブ乳がん (TNBC: triple-negative breast cancer)、基底細胞がん (BCC: basal cell carcinoma) を含む7つの主要ながん種を対象とした、計9件 of 独立したscRNA-seq研究(Tirosh et al. Science 2016 などを含む)を抽出した。文献の選定にあたっては、PubMed などの主要な学術データベースを用いて網羅的な検索を行い、単一細胞レベルでトランスクリプトームおよびT細胞受容体 (TCR: T cell receptor) レパートリーが解析されている高品質なデータセットを厳選した。
解析の統合にあたっては、各研究で使用されているシーケンシングプラットフォーム(SMART-Seq2 (switching mechanism at 5’ end of the RNA transcript sequencing 2)、MARS-seq (massively parallel RNA single-cell sequencing)、10x Genomics Chromiumなど)の技術的特性や感度の違いを考慮した。特に、異なるプラットフォーム間で生じるバッチ効果を克服し、一貫した細胞状態の定義を行うため、各研究で報告されたT細胞クラスターのマーカー遺伝子を再検証した。具体的には、CCR7, TCF7, LEF1 (lymphoid enhancer-binding factor 1: リンパ球エンハンサー結合因子1), SELL, GZMK, PRF1, GZMB, PDCD1, LAG3, HAVCR2, CTLA4, TIGIT, CXCL13 などの主要な機能マーカー遺伝子の発現パターンを抽出し、これらを横断的に比較することで、研究間で異なっていたT細胞サブセットの命名法を統一した。
さらに、各原著論文において細胞の分化経路やクローン関係を追跡するために用いられた、高度なバイオインフォマティクス解析手法の知見を統合した。これには、遺伝子発現の類似性に基づいて細胞の分化軸を擬時間的に描出する細胞軌跡解析(trajectory analysis)、同一のTCR配列を持つ細胞の分布を追跡するTCR共有解析(TCR sharing analysis)、およびTOXやTCF1などの主要な転写因子を中心とした転写因子ネットワーク解析が含まれる。また、臨床応答や生存期間との相関を評価するために各研究で適用された、Kaplan-Meier 法による生存曲線解析、log-rank 検定、および Cox regression 比例ハザードモデルなどの統計解析手法の妥当性についても横断的な比較評価を行った。