- 著者: Im SJ, Hashimoto M, Gerner MY, Lee J, Kissick HT, Burger MC, Shan Q, Hale JS, Lee J, Nasti TH, Sharpe AH, Freeman GJ, Germain RN, Nakaya HI, Xue HH, Ahmed R
- Corresponding author: Rafi Ahmed (Emory University)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-09-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 27501248
背景
慢性ウイルス感染やがんにおいて、抗原特異的CD8+ T細胞は機能的疲弊(exhaustion)の状態に陥り、増殖能、エフェクター機能、サイトカイン産生が著しく低下することが知られている Zajac et al. Nature 1998。疲弊CD8+ T細胞の最も顕著なマーカーは抑制性受容体PD-1の高発現であり、複数の研究から疲弊CD8+ T細胞プールが表現型および機能の面で不均一であることが明らかになっていた Barber et al. Nature 2006。例えば、PD-1とTim-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3) の共発現はより重度の疲弊状態を示すことが報告されている Jin et al. Proc Natl Acad Sci USA 2010。また、CD8+ T細胞のprogenitorとterminalなサブセットが慢性ウイルス感染の制御に協力することも示唆されていた Paley et al. Science 2012。
PD-1阻害療法は疲弊T細胞の機能を部分的に回復させ、慢性感染やがんの免疫応答を強化する画期的な治療法として注目されている Sharma et al. Science 2015。しかし、この治療後に観察されるT細胞の増殖バーストが、疲弊T細胞プールのどのサブセットから生じるのかは未解明であった。先行研究では、ヒトのCD8+ T細胞にCXCR5 (C-X-C chemokine receptor type 5) 陽性サブセットが存在すること Quigley et al. Eur J Immunol 2007、およびマウスの自己免疫モデルでCXCR5+ CD8+ T細胞が自己免疫の制御に関与することが記載されている Kim et al. Nature 2010。しかし、慢性ウイルス感染におけるこのCXCR5+ CD8+ T細胞の役割、特にPD-1阻害後の応答における役割はこれまで検討されていなかったため、この領域には知識のギャップが残されており、この点が不足していた。
LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus) 感染マウスモデルはT細胞疲弊が最初に記載された代表的モデルであり、本研究ではこのモデルを用いて、PD-1阻害後の増殖バーストを提供するCD8+ T細胞サブセットの同定とその分子機序の解明を試みた。特に、CXCR5の発現に着目し、その表現型、遺伝子シグネチャー、組織局在、自己複製能、およびPD-1阻害に対する応答性を詳細に解析することで、PD-1阻害療法の作用機序をより深く理解し、治療効果の最適化に貢献することを目指した。
目的
慢性LCMV感染マウスモデルにおいて、(1) PD-1阻害後の増殖バーストを担うCD8+ T細胞サブセットを同定し、(2) その遺伝子シグネチャー、組織局在、幹細胞様特性を解明する。さらに、(3) 転写因子TCF1 (T-cell factor 1) がこの新規CD8+ T細胞サブセットの生成に細胞固有の必須役割を果たすことを検証することを目的とする。本研究は、T細胞疲弊のメカニズムとPD-1免疫療法の作用機序に関する理解を深め、将来的な免疫療法の最適化に貢献することを目指す。具体的には、PD-1阻害に応答するprogenitor集団の特定と、その維持に関わる分子メカニズムの解明を通じて、がんや慢性感染症に対するより効果的な治療戦略の開発に繋がる知見を提供することを目指す。
結果
CXCR5+PD-1+ CD8+ T細胞サブセットの同定とフェノタイプ: 慢性LCMV感染マウスの脾臓において、GP33およびGP276特異的CXCR5+ CD8+ T細胞の明確な集団を同定した (Fig 1a, Extended Data Fig 1a)。このサブセットはウイルス排除後の急性感染マウスには存在せず、高ウイルス量 (2 × 10⁶ PFU) による持続感染条件でのみ誘導されたことから、抗原持続刺激がこのサブセットの生成に必要であることが示された (Extended Data Fig 2)。感染day 8から検出され、慢性感染期間を通じて安定して維持された (Fig 1b)。
CXCR5+ CD8+ T細胞はICOS、Bcl-6、CD28陽性かつTim-3陰性で、CD4+ TFH細胞に類似するシグネチャーを示した。一方、CXCR5- CD8+ T細胞はTim-3+、ICOS-、Bcl-6-であり、パーフォリン、グランザイム A/B、IFN-γを高発現するがIL-2とTNFを産生せず、より終末分化 (terminal exhaustion) の状態であることが示された (Fig 1c, Extended Data Fig 4)。転写因子プロファイルでは、CXCR5+細胞がTcf7 (TCF1)、Bcl6、Plagl1、Id3を高発現 (CD4+ TFHおよびCD8+メモリー前駆細胞との類似性) し、CXCR5-細胞がPrdm1 (Blimp-1)、Id2を高発現 (CD4+ TH1およびエフェクターCD8+ T細胞との類似性) することが判明した (Fig 1c, Fig 1d)。GSEAによる分析で、CXCR5+細胞は造血幹細胞 (HSC) プロジェニターとの有意な類似性も示した (Fig 1e)。さらに、CXCR5+細胞はミトコンドリア脂肪酸β酸化およびmTORシグナリングに関連する遺伝子を豊富に発現していた (Extended Data Fig 5)。これらのデータは、CXCR5+ CD8+ T細胞が独自の遺伝子発現プログラムを持つことを示唆している。
幹細胞様の組織局在と自己複製・分化能: 組織分布解析で、LCMV特異的CXCR5+ CD8+ T細胞はリンパ組織 (脾臓、骨髄、腸間膜リンパ節) にのみ存在し、非リンパ組織 (肝臓、脳、腸管上皮) では検出されなかった (Fig 2a, Extended Data Fig 7a, b)。CXCR5- CD8+ T細胞はリンパ・非リンパ組織の両方に広く分布していた。脾臓内ではCXCR5+細胞はT細胞ゾーン (白脾髄) に局在し、CXCR5-細胞はLCMV感染の主要部位である赤脾髄に局在した (Fig 2b-d)。CXCR5+細胞のT細胞ゾーン局在は、CCR7の高発現とCCL19/21への機能的遊走能により説明された (Fig 2f, g)。また、CXCR5+細胞はCD69を高発現しており、これがT細胞ゾーンへの保持に寄与する可能性が示唆された (Fig 2h)。in vivo抗CD45.2蛍光標識実験 (n=4 mice) では、CXCR5- CD8+ T細胞のほとんどが血管内にアクセス可能であったのに対し、CXCR5+ CD8+ T細胞は脾臓白脾髄に優先的に局在し、血管へのアクセスが限定的であることが示された (Fig 2e)。
養子移入実験 (n=7-14 mice per group) で、CXCR5+ CD8+ T細胞は移入後21日間で自己増殖 (self-renewal) しつつCXCR5- Tim-3+終末疲弊細胞を新たに産生した (Fig 3b, c)。CXCR5- CD8+ T細胞は最小限の分裂しか示さず、表現型を維持したままであった。ナイーブマウスへの移入後のclone 13感染実験でも、CXCR5+細胞のみが血液、脾臓、肝臓で著明な増殖を示し、CXCR5+とCXCR5-の両サブセットを再構成した (Fig 3d, e, Extended Data Fig 9)。これらの結果は、CXCR5+ CD8+ T細胞が慢性感染中に幹細胞として機能し、自己複製と終末分化能を持つことを明確に示している。移入されたCXCR5+ CD8+ T細胞は、脾臓において平均で約10⁵個の細胞数にまで増殖した (Fig 3c)。
PD-1阻害後の増殖バーストはCXCR5+集団にほぼ単独で依存: 感染マッチ受容体マウスへの養子移入後に抗PD-L1抗体を投与した実験で、CXCR5- CD8+ T細胞はPD-1阻害に対して増殖応答をほとんど示さなかった (Fig 3f)。一方、CXCR5+ CD8+ T細胞はPD-L1遮断後に著明な増殖バーストを示し、CXCR5- Tim-3+終末疲弊細胞への分化もPD-1遮断後に30倍以上増大した (Fig 3g, Extended Data Fig 10b)。このデータから、PD-1阻害療法後の増殖バーストはこの新規PD-1+CXCR5+ CD8+ T細胞サブセットにほぼ完全に依存していることが明らかになった。PD-L1阻害により、CXCR5+ CD8+ T細胞の総細胞数は約10⁴から約10⁵へと顕著に増加した (Fig 3f)。
転写因子TCF1の細胞固有かつ必須の役割: TCF1はCXCR5+ CD8+ T細胞に高発現しており (CXCR5-細胞では低発現)、このサブセットの機能的マーカーとして利用できることが示された (Fig 1d, Extended Data Fig 8a)。Tcf7-/- P14細胞はLCMV clone 13感染後に増殖するが、CXCR5+ Tim-3-サブセットの形成が著しく障害されていた (Fig 4b, c, e)。野生型P14細胞はCXCR5+とCXCR5-の両サブセットを正常に生成した。内因性のLCMV特異的CD8+ T細胞でも同様の結果が得られた (Fig 4d)。さらに、Tcf7-/- P14細胞はリンパ組織および非リンパ組織の両方で著しい細胞数の減少を示した (Fig 4f-i)。例えば、脾臓におけるTcf7-/- P14細胞の数は、野生型に比べて約10倍低かった (Fig 4f)。以上から、TCF1はこの幹細胞様CD8+ T細胞progenitorサブセットの生成に細胞固有かつ必須の役割を持つことが証明された。
考察/結論
本研究は慢性LCMV感染における疲弊CD8+ T細胞プール内に「幹細胞様」progenitorサブセット (CXCR5+PD-1+TCF1+Tim-3-) が存在し、このサブセットが自己複製能と終末疲弊細胞への分化能を持つstem cell-like特性を示すことを初めて実証した。最も重要な発見は、PD-1阻害療法後の治療効果を担う増殖バーストがほぼ完全にこの集団に依存しているという点である。CXCR5- Tim-3+の終末疲弊細胞はPD-1遮断に応答しないことから、治療効果の鍵はこの「まだ応答できるprogenitor集団」の温存にある。これは、これまでPD-1阻害後のT細胞応答の起源が不明であった先行研究と異なり、応答細胞の明確なアイデンティティを提示する新規な知見である。
転写因子TCF1の細胞固有の必須役割の発見は、このprogenitor集団の維持機構への洞察を提供する。TCF1はWntシグナリング経路の重要なメディエーターであり、造血幹細胞やCD4+ TFH細胞の維持に関与することが知られている。本サブセットが造血幹細胞との遺伝子シグネチャー類似性を示すことも、その「幹細胞様」特性を支持する。TCF1の下流にあるWnt/β-catenin経路やId3・Bcl-6等の転写因子ネットワークの制御が、このprogenitor集団の長期維持に重要な役割を持つと考えられる。本研究で初めて、TCF1が慢性感染におけるCD8+ T細胞のprogenitor集団の生成に必須であることを示した。
本知見は腫瘍免疫療法においても直接的かつ大きな臨床的意義を持つ。がん患者の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) や末梢血中のTCF1+PD-1+ CD8+ T細胞 (「progenitor exhausted T cells」) の頻度がPD-1阻害療法の応答を予測するバイオマーカーとなる可能性が示される。このprogenitor集団を治療開始前に温存し、治療後に効率的に動員することが免疫療法最適化の戦略として重要である。また、腫瘍内で終末疲弊T細胞が優勢となっている「奥深く疲弊した」腫瘍微小環境では、PD-1阻害単独の有効性が限られる機序が本研究で示され、複合療法 (PD-1 + TCF1 progenitor集団を活性化する戦略等) の根拠となる。その後の複数の臨床研究により、実際にヒトのがんにおいてもTILおよび末梢血中のTCF1+CD8+ T細胞頻度がPD-1阻害療法の応答と正相関することが確認され、本前臨床知見の臨床的妥当性が支持された。
残された課題としては、TCF1がこのprogenitor集団の分化と自己複製をどのように制御しているのか、その詳細な分子メカニズムを解明する必要がある。また、がんモデルにおいて、このprogenitor集団の腫瘍微小環境における動態や、他の免疫細胞との相互作用についても今後の検討が求められる。さらに、ヒトのがん患者におけるこの細胞集団の臨床的意義を、より大規模なコホートで検証することも重要な今後の方向性である。
方法
感染モデルと比較:C57BL/6マウスにLCMV clone 13 (持続感染誘導株、2 × 10⁶ PFUを静脈内投与) またはLCMV Armstrong (急性感染・ウイルス排除株、2 × 10⁵ PFUを腹腔内投与) を感染させ、慢性感染マウスと急性感染後の記憶T細胞を比較した。LCMV特異的CD8+ T細胞はGP33-41エピトープに特異的なテトラマーおよびGP276テトラマーで同定した。一部の慢性LCMV感染モデルでは、CD4+ T細胞の一過性枯渇を誘導し、高ウイルス血症を伴う生涯にわたる全身感染を確立した。
フェノタイプ解析:CXCR5+とCXCR5-のGP33特異的CD8+ T細胞について、表面マーカー (ICOS、Bcl-6、Tim-3、CD28、CTLA-4、2B4、CD160、CD39、LAG-3など)、転写因子 (TCF1、Eomes、T-bet、Blimp-1、Bcl-6など)、エフェクター分子 (パーフォリン、グランザイム A/B、IFN-γ、TNF、IL-2など)、ケモカイン受容体 (CXCR5、CCR7、CXCR3など) のタンパク質およびmRNA発現をフローサイトメトリーとマイクロアレイ解析で解析した。フローサイトメトリーでは、BD Biosciences、eBioscience、BioLegendなどから購入した蛍光標識抗体を使用し、CXCR5検出には3段階染色プロトコルを採用した。細胞内転写因子検出にはFoxp3 Permeabilization/Fixation Kit (eBioscience) を使用した。
転写プロファイリング:CXCR5+とCXCR5- CD8+ T細胞をセルソーティング (FACS Aria II) で分離し、RNAを抽出後、Affymetrix mouse 430 2.0アレイを用いてマイクロアレイ解析を行った。データはRMAで正規化し、limma Rパッケージを用いて差次発現解析 (調整済みp値 < 0.05、fold-change > 1.5) を実施した。Gene Set Enrichment Analysis (GSEA) を用いて、CD4+ TFH細胞、CD4+ TH1細胞、CD8+メモリー前駆細胞、造血幹細胞などとの遺伝子シグネチャーの類似性を評価した (nominal p値 < 0.01)。
養子移入実験:コンジェニックマーカーで区別したCTV (Cell-trace Violet) 標識CXCR5+またはCXCR5- CD8+ T細胞を慢性感染マウスに移入し、21日後の増殖・分化を解析した (少数2,500細胞、多数90,000細胞の2条件)。また、ナイーブマウスへの移入後LCMV clone 13感染実験も実施し、血液、脾臓、肝臓におけるドナー細胞の増殖と分化を評価した。これらの実験にはC57BL/6マウス (n=8-10 mice per group) を用いた。
PD-1遮断実験:CXCR5+またはCXCR5- CD8+ T細胞を感染マッチ受容体マウスに移入し、一部に抗PD-L1抗体を投与した。各サブセットの増殖応答をBrdU取り込みおよびフローサイトメトリーで定量した。
TCF1欠損実験:Tcf7欠損P14トランスジェニックCD8+ T細胞 (GP33エピトープ認識) と野生型P14細胞をナイーブコンジェニックマウスに移入し、LCMV clone 13感染を実施した。野生型vs Tcf7-/-細胞のCXCR5+サブセット形成能を比較した。
組織局在解析:多重共焦点イメージングとヒストサイトメトリー (histocytometry) を組み合わせ、TCF1染色で代替したCXCR5+ vs CXCR5- CD8+ T細胞の脾臓内解剖学的局在 (T細胞ゾーン、赤脾髄、B細胞ゾーン) を定量した。in vivo抗CD45.2蛍光標識により、白脾髄 (CXCR5+優位) と赤脾髄 (CXCR5-優位) の分布を確認した。ケモカインCCL19/21およびCXCL13に対するin vitro遊走アッセイも実施した。
統計解析:全ての実験データはPrism 6 (GraphPad Software) を用いて解析された。統計的有意差は両側非対照または対照Studentのt検定を用いて評価し、p値 < 0.05および < 0.01を有意差ありとした。