- 著者: Daniela S. Thommen, Viktor H. Koelzer, Petra Herzig, Andreas Roller, Marcel Trefny, Sarah Dimeloe, Anna Kiialainen, Jonathan Hanhart, Catherine Schill, Christoph Hess, Spasenija Savic Prince, Mark Wiese, Didier Lardinois, Ping-Chih Ho, Christian Klein, Vaios Karanikas, Kirsten D. Mertz, Ton N. Schumacher, Alfred Zippelius
- Corresponding author: Daniela S. Thommen, Alfred Zippelius (Department of Biomedicine, University Hospital Basel)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-06-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 29892065
背景
腫瘍微小環境におけるT細胞の機能不全、いわゆるT細胞疲弊は、がん免疫療法における重要な課題である。特に、PD-1(Programmed cell death protein 1)は、T細胞疲弊の主要なマーカーとして広く認識されており、その阻害は多くのがん種で臨床的成功を収めている。しかし、PD-1発現レベルの異なるT細胞サブセットが、疲弊の程度やPD-1阻害薬への応答性においてどのように異なるのかについては、詳細な理解が不足していた。マウスの慢性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)感染モデルでは、PD-1発現量の異なるCD8+ T細胞サブセットがPD-1阻害薬への応答性において異なることが報告されている。具体的には、T-bet高発現/PD-1中程度発現(T-bethi PD-1int)のT細胞はPD-1阻害薬に応答するが、Eomes高発現/PD-1高発現(Eomeshi PD-1hi)のT細胞は応答しないことが示されている (Im et al. Nature 2016)。
ヒトのがん、特に非小細胞肺癌(NSCLC)において、PD-1発現量の異なる腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が同様の疲弊スペクトラムを形成するのか、また、PD-1中程度発現(PD-1N)TILとPD-1高発現(PD-1T)TILが異なる機能状態や腫瘍反応性を持つのかは未解明であった。これまでの研究では、PD-1陽性T細胞が腫瘍特異的T細胞に富むことが示唆されているものの、PD-1高発現と中程度発現のサブセット間での腫瘍認識能の違いは明確にされていなかった (Gros et al. J Clin Invest 2014)。また、がん免疫療法が成熟期を迎える中で (Mellman et al. Nature 2011)、PD-1/PD-L1経路の重要性が強調されているものの、全てのPD-1陽性細胞がPD-1阻害薬に均等に応答するわけではないという先行研究の示唆もあり (Thommen et al. Cancer Immunol Res 2015)、より詳細なT細胞サブセットの特性評価が求められていた。
さらに、T細胞疲弊は慢性ウイルス感染で最初に発見された現象であり (Wherry et al. NatImmunol 2011)、がんにおけるT細胞疲弊が慢性感染におけるそれと完全に同一であるか、あるいは腫瘍微小環境特有の追加的な抑制刺激によって修飾されているのかという知識ギャップが残されていた。特に、T細胞の代謝変化が腫瘍微小環境におけるT細胞機能不全に寄与することが示されているが (Chang et al. Cell 2015)、PD-1発現レベルの異なるTILサブセットにおける代謝プロファイルの詳細な比較は不足していた。これらの背景から、ヒトNSCLCにおけるPD-1発現レベルに基づくCD8+ TILサブセットの包括的な特性評価は、PD-1阻害療法の効果予測バイオマーカーの同定と、新たな治療戦略の開発に不可欠であると考えられた。
目的
本研究の目的は、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の腫瘍浸潤CD8+ T細胞(TIL)をPD-1発現量に基づき、PD-1陰性(PD-1-)、PD-1中程度発現(PD-1N、健常者末梢血単核球と同等レベル)、およびPD-1高発現(PD-1T、健常者末梢血単核球を超えるレベル)の3つのサブセットに分類し、それぞれの転写、代謝、機能プロファイル、および腫瘍反応性の違いを詳細に明らかにすることである。
具体的には、以下の点を検証する。
- PD-1T細胞とPD-1N細胞がヒトのがんにおいて異なる細胞状態を特徴づけるか。
- PD-1T細胞がマウス慢性ウイルス感染モデルで観察される疲弊T細胞と同様の機能的欠陥を示すか。
- 腫瘍反応性がPD-1陽性TILの異なるサブセット間で均等に分布しているか。
- これらのサブセットの存在が、抗PD-1療法に対する奏効および生存期間の予測バイオマーカーとして有用であるか。
これらの解析を通じて、PD-1/PD-L1軸を標的とする治療の新たなバイオマーカーを同定し、治療効果の予測精度向上に貢献することを目指す。
結果
PD-1サブセットの同定と阻害受容体発現: NSCLC患者24例のTILにおいて、PD-1T細胞はCD8+ TIL全体の29.1 ± 17.6%を占めた(健常者PBMCでは平均0.4%)。Tim-3、Lag-3、TIGIT、2B4(CD244)、BTLAなどの他の阻害受容体(immune checkpoint proteins)の発現はPD-1発現レベルと明確に相関し、特にTim-3とLag-3はPD-1T細胞にほぼ限局して発現していた(Fig. 1b)。
機能的欠陥とTCRクローナリティ: PD-1T TILは、抗CD3/CD28刺激下でもIL-2、TNFα、IFNγといった古典的なエフェクターサイトカインを産生できなかった一方、PD-1NおよびPD-1-細胞は正常に産生した(Fig. 1d)。TCRβ鎖シーケンス解析では、PD-1T細胞は有意に高いクローナリティを示し、上位30クローンがレパートリーの約90%を占めた(Fig. 1e)。これらの優勢クローンはPD-1NおよびPD-1-サブセットでは低頻度であった。CD137(4-1BB)のPD-1T細胞での高発現は、最近の抗原暴露を示唆した(Fig. 1g)。8例中7例で、腫瘍反応性(自家腫瘍消化物に対するIFNγ産生)はPD-1T細胞由来の拡大TIL集団にほぼ完全に限定されるか、強く富化しており、PD-1T細胞が腫瘍特異的T細胞プールであることを強く示唆した(Fig. 1i)。
独自の転写プロファイルと増殖能: RNA-seq解析(n=11 donors)の結果、主成分分析ではPD-1T細胞がPD-1NおよびPD-1-細胞とは明確に異なる独自のクラスターを形成した(Fig. 2a)。PD-1T細胞とPD-1N細胞間では577遺伝子が有意に変動したが(log2FC ≥ 1, adjusted P < 0.01)、PD-1N細胞とPD-1-細胞間ではわずか8遺伝子のみであった(Fig. 2b)。PD-1T細胞では、細胞周期制御および増殖関連遺伝子群が最も強く上方制御されており、増殖マーカーKi67のmRNAおよびタンパク質レベルもPD-1T細胞で有意に高かった(S/G2/M期細胞の割合: PD-1T 9.1 ± 4.6% vs PD-1N 1.75 ± 1.1%)(Fig. 2e,f)。これは、PD-1T細胞が古典的な疲弊T細胞とは異なり、増殖能力を保持していることを示唆する。また、CTLA-4、Tim-3、Lag-3、CD200、CD109、CD39、GITR(glucocorticoid-induced TNF receptor-related protein)、LAYN、SNAP47、PHLDA1などの阻害性受容体関連遺伝子も高発現していた(Fig. 3a,b,c)。KLRG1は低く、CD27は高かった(Fig. 3d)。
代謝異常: PD-1T TILは、グルコース取り込み(2-NBDG)、脂質含有量(Bodipy 493)、脂質取り込み(Bodipy 500)、および脂肪酸取り込みを媒介するCD36の発現が全て有意に増加していた(Fig. 4a,b,c)。ミトコンドリア量(Mitotracker Green)は増加するものの、ミトコンドリア膜電位(Mitotracker Red)は有意に低下しており、ミトコンドリア機能不全を示唆した(Fig. 4d)。透過型電子顕微鏡観察では、PD-1T細胞のミトコンドリアはクリステの減少と長さの短縮といった形態異常を呈していた(Fig. 4e)。in vitroでのIL-2拡大培養により、PD-1T細胞の代謝異常および機能は部分的に正常化した。これらの実験はn=11 tumor digestsのTILsを用いて実施された。
IL-10による再発現とCXCL13産生: IL-2拡大後もPD-1T由来TILはTim-3/Lag-3を高発現していた(Fig. 5a)。NSCLC内の単球および腫瘍細胞がIL-10を産生し、その数はPD-1T TIL数と相関した(R²=0.61)(Fig. 5b)。IL-10曝露により、PD-1T由来TILのみがPD-1を急速に再発現し、IFNγ産生が強く抑制された(Fig. 5c,d)。このIL-10に対する感受性は、IL-10R発現の差ではなく、細胞内因性のメカニズムに起因すると考えられた。PD-1T細胞は、古典的なエフェクターサイトカイン産生能が欠損している一方で、ケモカインCXCL13を恒常的に高発現・分泌した(Fig. 6a)。末梢血のCXCR5+ CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、B細胞はCXCL13に遊走応答を示し、特にCXCR5+ CD4+ T細胞(Tfh細胞に相当)が最も強い遊走を示した(Fig. 6b)。デジタル画像解析により、PD-1T TILは腫瘍内および腫瘍周囲の三次リンパ構造(TLS)に集積し、CD4+/Bcl6+ Tfh細胞およびB細胞の集積領域の周囲に局在することが示された(Fig. 6d,f)。
抗PD-1療法への予測性: 独立した21例のステージIV NSCLC患者コホートにおいて、定量的PD-1免疫組織化学アルゴリズムを検証した。PD-1T TILの総細胞比率(奏効群 n=7 vs 非奏効群 n=14)は、Mann-Whitney検定でP < 0.0001と、治療奏効を非常に強く予測した(Fig. 6g)。PD-1T細胞が1%を超える群では、全生存期間(OS)が有意に延長し、ハザード比(HR)は0.16(95% CI 0.05-0.52, P < 0.05)であった(ログランク検定)(Fig. 6h)。PD-1N TILの予測性は低かった。これらの結果は、PD-1T TILの存在がPD-1/PD-L1軸を標的とする治療の新たなバイオマーカーとなる可能性を示唆する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の腫瘍微小環境において、高PD-1発現CD8+ T細胞(PD-1T TIL)が、これまでのマウス慢性ウイルス感染モデルで報告された疲弊T細胞とは異なる、独自の転写、代謝、および機能プロファイルを持つことを初めて明らかにした。PD-1T TILは、阻害性受容体の高発現やエフェクターサイトカイン産生能の欠損といった疲弊T細胞との共通点を持つ一方で、T-bet/Eomes発現との非相関、高い増殖能、独自の代謝異常、および抗原駆動性のクローン拡大といった点で対照的な特徴を示した。これらの知見は、PD-1T TILが「漸進的な疲弊」ではなく、腫瘍抗原刺激に応答して独特に分化した細胞状態であることを強く支持する。
新規性: 本研究で初めて同定されたPD-1T TILの新規な機能として、ケモカインCXCL13の恒常的な高発現と分泌が挙げられる。CXCL13は三次リンパ構造(TLS)への免疫細胞動員を促進することが知られており、PD-1T TILが腫瘍内に他の免疫細胞、特にTfh細胞やB細胞を誘引するハブとしての役割を果たす可能性が示唆された。この所見は、メラノーマ、肝細胞癌、乳癌における同様の報告と一致しており (Zheng et al. Cell 2017, Tirosh et al. Science 2016, Gu-Trantien et al. JCI Insight 2017)、PD-1T TILが腫瘍免疫応答の形成において重要な役割を担うことを示唆する。
臨床応用: 臨床応用として、PD-1T TILの定量的免疫組織化学は、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から実施可能であり、抗PD-1療法に対する奏効と全生存期間を強く予測するバイオマーカーとしての臨床的有用性が示された。特に、PD-1T TILが1%を超える患者群では、全生存期間のハザード比が0.16(95% CI 0.05-0.52, P < 0.05)と有意な延長を示したことは、その臨床的意義を裏付けるものである。この結果は、治療前の生検組織を用いたPD-1T TILの定量が、PD-1/PD-L1軸を標的とする治療の患者選択に役立つ可能性を示唆する。
残された課題: 残された課題として、以下の点が挙げられる。第一に、PD-1T TILが抗PD-1療法によって直接的に腫瘍細胞を殺傷するのか、あるいはCXCL13を介した他の免疫細胞の動員を通じて間接的に抗腫瘍効果を発揮するのか、その詳細な作用機序を解明する必要がある。第二に、PD-1T TILに高発現する多数の阻害性受容体(Tim-3, Lag-3など)に対する多標的介入が、これらの細胞の活性をさらに高めることができるかどうかの検討が今後の研究方向性として重要である。第三に、本研究はNSCLCに焦点を当てたが、他の癌種におけるPD-1T TILの存在と役割、およびその予測性を検証する必要がある。最後に、IL-10に対するPD-1T TILの特異的な高感受性に関わる細胞内因性メカニズムを同定することは、これらの細胞を再活性化するための新たな戦略開発につながる可能性がある。これらの課題解決は、がん免疫療法の効果を最大化するための重要なステップとなる。
方法
本研究では、NSCLC患者の腫瘍組織検体および末梢血単核球(PBMC)を用いて、CD8+ TILの包括的な解析を実施した。
患者検体: NSCLC手術検体24例からCD8+ TILを単離し、フローサイトメトリーによるPD-1発現解析に供した。また、独立した21例のステージIV NSCLC患者から抗PD-1療法前の生検組織を採取し、治療奏効および全生存期間(OS)の予測性評価に用いた。研究は倫理委員会の承認を得て実施され、全ての患者から書面による同意を得た。
T細胞サブセットの同定と単離: 腫瘍組織を機械的および酵素的に消化し、単一細胞懸濁液を調製した。フローサイトメトリーにより、CD8+ TILをPD-1の平均蛍光強度(MFI)に基づき、PD-1-、PD-1N(健常ドナーPBMCと同等)、PD-1T(健常ドナーPBMCを超える)の3サブセットに分類した。これらのサブセットはFACSソートにより高純度で単離された(ソート後純度 >98%)。
機能評価: ソートされたPD-1サブセットは、抗CD3/CD28抗体による刺激の有無にかかわらず、サイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)産生能をビーズベースイムノアッセイで評価した。また、IL-2存在下でのin vitro拡大培養後、自家腫瘍消化物との共培養により腫瘍反応性(IFNγ産生)を評価した。IL-10曝露によるPD-1再発現およびIFNγ産生抑制効果も解析した。
TCRレパートリー解析: RNA-seqデータからTCRβ鎖配列を抽出し、MiXCRツールを用いてTCRクローナリティを解析した。
転写プロファイル解析: 11例のNSCLC患者からソートされたPD-1サブセットのRNAを抽出し、SMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA Kitを用いてcDNAを増幅後、Nextera XTライブラリ調製キットでシーケンスライブラリを作成した。HiSeq4000シーケンサー(Illumina)でRNAシーケンスを実施した。リードはGSNAPを用いてヒトゲノム(hg19)にマッピングされ、GRCh37.75アノテーションに基づき遺伝子発現レベルがRPKM値として算出された。主成分分析(PCA)、階層的クラスタリング、および遺伝子セット濃縮解析(GSEA)を用いて、各サブセット間の遺伝子発現プロファイルの違いを評価した。Benjamini-Hochberg FDR < 0.01かつlog2FC ≥ 1を統計的有意差の基準とした。
代謝プロファイル解析: フローサイトメトリーを用いて、グルコース取り込み(2-NBDG)、脂質含有量・取り込み(Bodipy 493/500、CD36発現)、およびミトコンドリア代謝(Mitotracker Green/Redによるミトコンドリア量および膜電位)を評価した。電子顕微鏡によりミトコンドリアの微細構造(クリステの数と長さ)を観察した。
CXCL13産生と三次リンパ構造(TLS): PD-1T細胞によるCXCL13産生・分泌をビーズベースイムノアッセイで確認した。CXCL13に対する末梢血CXCR5+免疫細胞(CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、B細胞)の遊走能をTranswellアッセイで評価した。CD8、PD-1、CD4、Bcl6、CD21染色を用いた免疫組織化学(IHC)とデジタル画像解析により、PD-1T TILとTLSの共局在を評価した。
抗PD-1療法奏効予測: 21例のステージIV NSCLC患者の治療前生検組織に対し、アルゴリズムベースの定量的PD-1免疫組織化学アッセイを開発・検証した。このアルゴリズムは、フローサイトメトリーによるPD-1T細胞定量値との比較により確立された。PD-1T TILの存在が抗PD-1療法への奏効および全生存期間(OS)を予測するかを評価するため、Mann-Whitney検定およびログランク検定を用いた統計解析を実施した。OSの評価にはCox回帰分析によるハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。本研究では、ヒトのNSCLC患者由来の腫瘍組織検体を使用しており、マウスモデルは使用していない。