- 著者: Sarah A. Best, Patrick M. Gubser, Shalini Sethumadhavan, Ariena Kersbergen, Yashira L. Negrón Abril, Joshua Goldford, Katherine Sellers, Waruni Abeysekera, Alexandra L. Garnham, Jackson A. McDonald, Clare E. Weeden, Dovile Anderson, David Pirman, Thomas P. Roddy, Darren J. Creek, Axel Kallies, Gillian Kingsbury, Kate D. Sutherland
- Corresponding author: Sarah A. Best; Kate D. Sutherland (Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Melbourne, Australia)
- 雑誌: Cell Metabolism
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-05-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 35504291
背景
KRAS変異肺腺癌において、KEAP1およびSTK11/Lkb1 (Lkb1) の共変異は免疫チェックポイント阻害薬に対する治療抵抗性と深く関連することが知られている。KRAS/Lkb1 (KL) サブタイプは、CD8 T細胞浸潤の低下、免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment)、および抗PD-L1抗体への応答不良が特徴的な「immune-cold」表現型を呈することが Skoulidis et al. CancerDiscov 2015 や Skoulidis et al. CancerDiscov 2018 によって報告されていた。一方、KEAP1変異腫瘍細胞は、NRF2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2) 経路の活性化を介してグルタミン取り込みと利用を亢進させ、グルタミナーゼ阻害薬であるCB-839への感受性を示すことが、細胞株レベルの解析から Barretina et al. Nature 2012 や Cancer et al. Nature 2014 によって示されていた。KEAP1変異腫瘍がTME中のグルタミンを枯渇させることでT細胞機能を制限するという仮説から、グルタミナーゼ阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせが相乗効果を示すと期待されていた。しかし、免疫微小環境が intact な自家発生モデルである遺伝子改変マウスモデル (GEMM; genetically engineered mouse model) での検証はこれまで不足しており、その効果は未解明であった。特に、STK11/Lkb1変異とKEAP1変異がKRAS変異肺腺癌の異なるサブセットを形成することが Rizvi et al. Science 2015 や Cristescu et al. Science 2018 によって示されており、それぞれの変異が代謝環境と免疫応答に与える影響の解明が課題として残されていた。このように、免疫完全な生体内モデルにおける代謝阻害と免疫療法の相互作用に関する知見は不十分であり、治療開発における大きなギャップとなっていた。
目的
本研究の目的は、KRAS変異肺腺癌においてKEAP1およびSTK11/Lkb1 (Lkb1) 共変異の有無が代謝環境と免疫微小環境に与える影響を、免疫完全な遺伝子改変マウスモデル (GEMM) を用いて詳細に解析することである。さらに、腫瘍細胞の代謝依存性を標的としたグルタミナーゼ阻害薬CB-839と、抗PD-1抗体による免疫療法の併用療法が、生体内 (in vivo) において相乗的な抗腫瘍効果を示すか、あるいは免疫細胞の機能に予期せぬ影響を及ぼすかを検証することを目的とする。
結果
KRAS共変異による腫瘍代謝の差異: 各GEMMコホートの腫瘍結節の代謝物をPCA (主成分分析) 解析すると、KK (KRAS/KEAP1)、KL (KRAS/Lkb1)、KKL (KRAS/KEAP1/Lkb1) 腫瘍が明確に異なるクラスターを形成した (Figure 1B)。KK腫瘍ではNRF2経路活性化を反映してペントースリン酸経路代謝物・グルタチオン (GSH) が増加した Mitsuishi et al. CancerCell 2012。KL腫瘍では、KK腫瘍と比較してグルタミン量は同等ながらグルタミン酸 (Glu) が有意に増加しており (p=0.0001)、GLS1 (glutaminase 1) 活性の亢進を示唆した (Figure 2F)。K、KP、KK腫瘍ではKL腫瘍ほどのGlu増加は認められず、KL腫瘍のGlu増加は他のKRAS共変異モデルにはない特異的な代謝特徴であった (Figure 2G)。腫瘍潜伏期はLkb1欠失が主要な決定因子であり、KKが 71 days、KLが 48 days、KKLが 49 days であり、Lkb1喪失がKrasG12D腫瘍形成を著しく促進することが示された (Figure 1A, p<0.0001)。
KL腫瘍微小環境の免疫学的特徴: KL腫瘍ではKK腫瘍と比較してCD8 T細胞浸潤数が著明に少なく、immune-cold表現型を呈していた (Figure 4A, p=0.015)。scRNA-seq解析でもKL腫瘍ではCytotoxic T細胞クラスターが乏しく、M2様マクロファージが優位であることが示された。抗PD-1単独投与はKL腫瘍においてCD8 T細胞の部分的活性化 (Ki67・IFN-γ上昇) を誘導し、グルタミン酸増加のTMEでのT細胞活性化が一定程度生じることが示された。KL腫瘍内のグルタミン酸亢進環境がCD8 T細胞の活性化シグナルを部分的に支持していた可能性が示唆された。さらに、Gls1 mRNA発現はKL腫瘍結節で高く、STK11/Lkb1変異と強い相関を示した (Figure 3A)。
CB-839+抗PD-1の予想外の阻害効果: 仮説とは対照的に、KL腫瘍モデルではCB-839+抗PD-1の組み合わせはin vivoで抗腫瘍効果が得られなかった (Figure 5A)。CB-839+抗PD-1の組み合わせ治療群ではCD8 T細胞のTCRクロノタイプ解析で腫瘍特異的クローンの増殖が顕著に抑制されており (Figure 5B, p<0.0001)、Ki67陽性 (増殖)・グランザイムB (GzmB) 陽性 (細胞傷害)・IFN-γ産生CD8 T細胞が有意に減少した (Figure 6G, IFN-γ: p=0.036, GzmB: p=0.037, Ki67: p=0.0096)。CB-839単独群でも同様のCD8 T細胞機能抑制が認められ、グルタミナーゼ阻害がT細胞機能阻害の直接的原因であることが示された。これは、グルタミンがグルタミナーゼ依存的に抗PD-1で活性化されたCD8 T細胞のクローン増殖と細胞傷害機能に必須であることを示した予想外の発見である。in vivo実験において、CB-839投与群 (n=6 mice) では対照群 (n=6 mice) と比較して、抗PD-1療法によるCD8 T細胞のクローン増殖が有意に抑制され、TCRクローン Vβ21.3 の増殖はCB-839併用群で有意に抑制された (Figure 5E, p=0.014)。
グルタミンのT細胞活性化への必須性: in vitroおよびin vivoの実験から、活性化CD8 T細胞はグルタミンおよびグルタミナーゼ活性に依存して増殖・エフェクター機能を発揮することが確認された。グルタミン除去培地での実験ではCD8 T細胞の活性化マーカー (Ki67・グランザイムB) が著明に低下し、外因性グルタミン補充で回復した。ヒトPBMCを用いたin vitro実験では、抗PD-1刺激によるIFN-γ産生亢進はグルタミン濃度が 0.37 mM を超えた場合にのみ認められた (Figure 6D, p=0.0042)。グルタミナーゼ阻害によりT細胞内のグルタミンからグルタミン酸への変換が抑制されると、T細胞活性化に必要なmTOR活性・TCA回路基質供給・グルタチオン合成が損なわれることが分かった。Gls1欠損CD8 T細胞は、LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus) 感染モデルにおいて効率的な増殖を示さず、Gls1+/+対照群 (n=9 mice) と比較してGls1fl/fl;CD4Cre群 (n=10 mice) では著明な増殖抑制が認められた (Figure 4F, day 6 p<0.0001, day 13 p=0.0008)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、KRAS/STK11 (KL) 欠失を持つ肺腺癌において、グルタミナーゼ阻害薬CB-839と抗PD-1の組み合わせが免疫療法応答を増強するのではなく、逆に活性化CD8 T細胞のクローン増殖と細胞傷害機能を阻害するという予想外の「negative finding」を実証した。この結果は、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を報告する先行研究である Im et al. Nature 2016 や Cristescu et al. Science 2018 とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、KRAS/STK11 (KL) 共変異肺腺癌のTMEにおいてグルタミン酸が亢進しており、この環境が抗PD-1療法によるCD8 T細胞の活性化を部分的に支持する可能性を新規に同定した。さらに、グルタミナーゼ阻害がこのT細胞活性化シグナルを遮断するという逆説的機序を提示したことは、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、KL肺腺癌患者への単純なCB-839と免疫チェックポイント阻害薬の併用戦略に警鐘を鳴らすものであり、臨床応用に際しては慎重な検討が必要であることを示唆する。最重要な含意は、腫瘍細胞の代謝標的 (グルタミナーゼ) を阻害する際には、T細胞 (抗腫瘍免疫担当細胞) が同じ代謝基質 (グルタミン) に依存していることを考慮しなければならないという一般原則の実証である。このことは、 Rizvi et al. Science 2015 や Chalmers et al. GenomeMed 2017 が示すように、腫瘍の遺伝子変異プロファイルに基づいた精密医療的アプローチの重要性を強調する。KEAP1変異腫瘍 (KK) とSTK11変異腫瘍 (KL) が異なる代謝依存性を持つという知見は、CB-839の適応をKEAP1変異陽性例に限定することを支持する。
残された課題: 今後の検討課題として、KEAP1単独変異LUADでのCB-839と免疫療法の併用効果の評価、グルタミン利用を維持しながら腫瘍細胞選択的に代謝を阻害する方策の開発、およびKL腫瘍における代替免疫療法標的の探索が挙げられる。また、本研究はGEMMを用いたものであり、ヒトの複雑なTMEにおける同様のメカニズムの検証が今後の課題 (limitation) として残されている。
方法
KrasG12D/+マウス (K) に、Keap1fl/fl (Keap1fl) および/またはLkb1fl/fl (Lkb1fl) マウスを交配し、Ad5-CMV-Cre (Cre recombinase-expressing adenovirus) アデノウイルス吸入投与により肺腫瘍を誘導した。この手法は DuPage et al. NatProtoc 2009 に準拠した。各GEMMコホートからの腫瘍結節の定常状態代謝解析は、LC-MS/MS (液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析) を用いたメタボロミクスにより実施した。KK (KRAS/KEAP1)・KL (KRAS/Lkb1)・KKL (KRAS/KEAP1/Lkb1)・K・KP (TP53欠失) 腫瘍結節の代謝物を比較した。生体内でのグルタミン代謝フラックスを評価するため、U-13C, U-15N-グルタミン (uniformly carbon-13 and nitrogen-15 labeled glutamine) を用いたトレーサー実験を実施した。腫瘍微小環境のCD8 T細胞およびその他の免疫細胞サブセットの解析は、フローサイトメトリーおよびscRNA-seq (single-cell RNA sequencing) を用いて行った。in vivo治療実験では、C57BL/6J 背景のマウスを用い、CB-839 (グルタミナーゼ阻害薬、100 mg/kg、1日2回経口投与) 単独、抗PD-1抗体 (200 ug、腹腔内投与) 単独、およびCB-839+抗PD-1抗体の併用群を設定し、KLマウスに投与した。TCR (T細胞受容体) クロノタイプ解析によりクローン増殖を評価し、細胞傷害性CD8 T細胞の活性化指標であるKi67、IFN-γ (interferon-gamma)、グランザイムB (GzmB) を測定した。ヒトPBMC (peripheral blood mononuclear cells) を用いたin vitro実験では、SEB (staphylococcal enterotoxin B) 刺激下でグルタミン濃度勾配および抗PD-1刺激の有無がIFN-γ産生に与える影響をELISAで評価した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを用い、ペアワイズ比較には Student t-test、多変量比較には one-way ANOVA または two-way ANOVA を用いた。