- 著者: Yaqiu Wang, Lijing Su, Matthew D. Morin, Brian T. Jones, Landon R. Whitby, et al., Bruce Beutler
- Corresponding author: Bruce Beutler (Center for the Genetics of Host Defense, UT Southwestern Medical Center, Dallas, TX, USA)
- 雑誌: PNAS
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 30150374
背景
Toll-like Receptor (TLR) アゴニストは、抗原提示細胞 (APC) を活性化し、樹状細胞 (DC) の成熟、抗原提示、共刺激分子の発現上昇、サイトカイン分泌を促進することで、病原体や癌細胞を殺傷する細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) の自然な機能を解き放つアジュバントとして注目されている。特にTLR1/TLR2ヘテロダイマーはリポペプチドを認識し、自然免疫活性化および適応免疫誘導において重要な役割を担うことが知られている。しかし、既存のTLR1/TLR2アゴニスト(例: Pam3CSK4)は、その活性が低く、臨床応用には不十分であった。
一方、抗PD-L1抗体を含む免疫チェックポイント阻害療法は、多くの固形癌において顕著な臨床的成功を収めているが、単独での奏効率は限定的である。これは、腫瘍反応性CTLの数や活性が不十分であること、あるいはCTLが腫瘍に浸潤できないこと、さらには癌環境によって誘導される免疫抑制によって悪化する可能性があるためと考えられている。例えば、Sharma et al. Cell 2017は、免疫チェックポイント阻害に対する原発性、適応性、および獲得性抵抗性のメカニズムを詳細に報告し、CTLの活性化と腫瘍浸潤の重要性を強調している。また、Freeman et al. JExpMed 2000やDong et al. NatMed 1999は、PD-1/PD-L1経路がT細胞活性化を負に制御するメカニズムを明らかにしており、この経路の阻害がCTLの機能を回復させることを示している。しかし、これらの阻害剤の効果を最大化するためには、十分な数の腫瘍特異的CTLが存在することが前提となる。
アジュバントとチェックポイント阻害剤の組み合わせは、腫瘍免疫を相乗的に増強する可能性を秘めているが、強力かつ安全なTLR1/TLR2アゴニストはこれまで存在しなかった。天然のTLRリガンドは合成が困難であり、in vivoで広範に分布し、無差別に骨髄系細胞を活性化することでサイトカインストームを引き起こすなど、毒性が高い場合があるという課題が指摘されている。このため、より優れた薬理学的特性を持ち、明確な構造と分子メカニズムを持つアゴニストの開発が求められていた。100,000化合物ライブラリーから体系的にスクリーニングを行い、新規アジュバントを同定するアプローチが、この知識ギャップを埋めるための有望な戦略として着目されていた。既存のTLRアゴニストは、その毒性プロファイルや合成の複雑さから、臨床応用に際しての課題が未解明な点として残されていた。本研究は、この不足している強力なTLRアゴニストの同定と、その臨床応用可能性の評価を目指すものである。
目的
本研究の目的は、大規模な合成化合物ライブラリーから、ヒトおよびマウスのTLR1/TLR2ヘテロダイマーを標的とする強力な新規アゴニストをスクリーニングによって同定することである。同定された化合物(Diprovocim)の自然免疫活性化メカニズムを詳細に解析し、そのTLR特異性、シグナル伝達経路、およびサイトカイン産生プロファイルを明らかにすることを目指す。さらに、Diprovocimが樹状細胞 (DC) による抗原のクロスプレゼンテーションおよび細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) の誘導能に与える影響をin vitroおよびin vivoで評価する。最終的に、マウスメラノーマモデルにおいて、Diprovocimをアジュバントとした癌ワクチンと抗PD-L1抗体療法との併用効果を評価し、腫瘍増殖抑制、長期生存、および抗腫瘍免疫記憶の誘導における相乗効果を検証する。これらの結果を通じて、Diprovocimが新規のがんワクチンアジュバントとして、また既存の免疫チェックポイント阻害療法との組み合わせ療法における有望な候補となる可能性を示すことを目的とする。
結果
Diprovocimは超低濃度でTLR1/TLR2を選択的に活性化し、強力な自然免疫応答を誘導する: 100,000化合物ライブラリーのスクリーニングから、ヒトTHP-1細胞においてEC50 110 pMという極めて高活性なTLR1/TLR2アゴニストであるDiprovocimが同定された (Fig. 1A)。DiprovocimはヒトPBMCでEC50 875 pM、マウス腹腔マクロファージで1.3 nM (n=3 cells)、マウスBMDCで6.7 nMの活性を示した (Fig. 1B-E)。この活性はTLR1欠損またはTLR2欠損マウス由来細胞ではほぼ完全に消失し、TLR1/TLR2特異性が確認された (Fig. 2A)。シグナル伝達経路の解析では、DiprovocimがMyD88、TIRAP、IRAK4に依存してMAPKおよび古典的NFκB経路を活性化することが示された (Fig. 2C, D)。主要な産生サイトカインはTNFとIL-6であり、TLR3/TLR4/TLR7/TLR9型アゴニストに特徴的なType I IFNの産生は認められなかった (SI Appendix, Fig. S1)。B細胞免疫誘導においては、Diprovocim + OVA免疫がIgG1 (Th2関連) とIgG2b (Th1関連) の両方を産生し、IgG1のみを誘導するalumと比較して優れたTh1誘導能を示すことが明らかになった (Fig. 3B, C)。
Diprovocimは強力なDCクロスプレゼンテーションとin vivo CTL活性を誘導する: Diprovocimで刺激したBMDCは、OVA-SL8ペプチドのMHCクラスI上でのクロスプレゼンテーションを促進し、OT-I CD8 T細胞のCD69発現を誘導した (n=4 mice per group) (Fig. 3D)。in vivo CTL活性アッセイでは、Diprovocim + OVA免疫マウスにCFSE標識したSL8ペプチドパルスターゲット細胞を転入した結果、約70%の特異的溶解が確認された (vehicle対照では約10%) (p<0.001) (Fig. 3E)。このCTL活性はTLR1またはTLR2欠損マウスでは消失した (Fig. 3F, G)。これらのデータは、Diprovocimが抗原特異的な抗体産生とCTL殺傷能力の両方において強力なアジュバント活性を持つことを示している。
Diprovocimと抗PD-L1の組み合わせ免疫でB16-OVAメラノーマの100%長期生存を達成 (予防・治療モデルで有効): 予防実験(腫瘍接種と同日に免疫)において、Diprovocim + OVA + 抗PD-L1抗体群では、観察期間54日目まで8/8 miceが生存し、腫瘍の完全な増殖抑制が認められた (Fig. 4B, C)。抗PD-L1単独またはDiprovocim + OVA単独では、腫瘍増殖の抑制は不十分であった。治療実験(腫瘍接種3日後に免疫)でも、Diprovocim + OVA + 抗PD-L1群は8/8 miceが54日目まで生存した (Fig. 4G, H)。これに対し、alum + OVA + 抗PD-L1群では2/8 (25%) miceのみが生存し、有意な差が認められた (p<0.001, log-rank)。遅延投与(腫瘍接種3日後)での生存中央値は、Diprovocim群で41日、alum群で30日、OVA単独群で22日であり、Diprovocimの優位性が示された (Fig. 4I, J)。腫瘍フリーとなった長期生存マウスにB16-OVA細胞を再移植したところ、全例で腫瘍の拒絶が観察されたが、OVA非発現B16細胞は増殖したことから、OVA抗原特異的な免疫記憶の誘導が確認された (Fig. 4F)。
腫瘍内TILの量的・質的増加と機能的CD8+ T細胞依存性の確認: 腫瘍接種14日目の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 解析では、Diprovocim + OVA + 抗PD-L1群は、alum + OVA + 抗PD-L1群と比較して、総白血球数、CD4⁺ T細胞、CD8⁺ T細胞、活性化CD44high CD4⁺/CD8⁺ T細胞、OVA特異的CD8⁺ T細胞 (H-2Kb/OVAテトラマー陽性)、およびNK細胞のいずれも有意に増加させた (p<0.05) (n=6 mice per treatment) (Fig. 5B-H)。特に、OVA特異的CD8⁺ T細胞の頻度はDiprovocim群で顕著に増加した。細胞除去実験では、抗CD8抗体によるCD8 T細胞の除去により、Diprovocim + OVA + 抗PD-L1の抗腫瘍効果が完全に消失した (Fig. 5L, M)。一方、抗CD4抗体単独または抗NK1.1抗体単独による除去では、抗腫瘍効果の消失は認められなかった。CD4⁺、CD8⁺、NK細胞の三重除去でも効果は完全に消失したことから、CD8⁺ T細胞がこの抗腫瘍効果に必須のエフェクター細胞であることが実証された。
考察/結論
本研究は、Beutlerグループが100,000化合物スクリーニングという大規模なアプローチを通じて、極めて強力なTLR1/TLR2アゴニストであるDiprovocimを同定し、その自然免疫活性化能と、抗PD-L1抗体療法との相乗効果によるマウスメラノーマの100%腫瘍根絶および長期記憶誘導を達成したことを示した画期的な研究である。
新規性: 本研究で初めて、既存の微生物由来TLRアゴニストとは構造的に類似性のない新規合成化合物であるDiprovocimが、ヒトTHP-1細胞でEC50 110 pMという極めて高い活性を持つTLR1/TLR2アゴニストとして同定された。この活性は、既知の強力なTLR1/TLR2リガンドであるPam3CSK4と比較して約10,000倍高いことが示されており、これまで報告されていない強力なアジュバントとしての可能性を提示した。
先行研究との違い: 従来のTLRアゴニスト、特にTLR3/TLR4/TLR7/TLR9アゴニストがType I IFNを誘導し、全身性炎症反応や毒性のリスクを伴うのに対し、DiprovocimはType I IFNを産生しないという特性を持つ。このことは、全身性炎症毒性リスクを低減し、より安全な臨床応用への道を開く点で、これまでのアジュバントとは対照的である。また、DiprovocimがIgG1とIgG2bの両方を誘導することで、Th1/Th2バランスを保ちつつ体液性免疫と細胞性免疫の両方を活性化する能力は、IgG1のみを誘導するalumよりも優れた生理的アジュバントであることを示唆している。
臨床応用: Diprovocimは、その強力な活性とType I IFN非産生という安全性プロファイルから、臨床的に実用可能な濃度での安全なアジュバントとしての大きな可能性を秘めている。特に、腫瘍内CD8+ T細胞およびNK細胞の大幅な増加(腫瘍特異的CD8+ T細胞を含む)と、抗腫瘍効果におけるCD8+ T細胞の必須性は、Diprovocimがワクチン抗原特異的CD8+ T細胞誘導を最大化する能力を持つことを実証している。抗PD-L1との組み合わせ療法は、「自然免疫の誘導(Diprovocim)と適応免疫の解放(抗PD-L1)」という二段階戦略であり、免疫チェックポイント阻害単独では不十分な腫瘍において、アジュバントとの組み合わせが必須であることを強く支持する。この知見は、ネオアンチゲンワクチンやmRNAワクチンなどの次世代がんワクチンのアジュバントとして、また既存の抗癌免疫療法との組み合わせプラットフォームとして、Diprovocimが有望な臨床開発候補であることを示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、Diprovocimのヒトにおける安全性と有効性を評価するための臨床試験が必要である。また、DiprovocimとTLR1/TLR2の相互作用の構造的詳細がX線結晶構造解析により明らかにされることで、免疫原性ペプチドを組み込むためのDiprovocim修飾の機会が生まれ、治療指数を最適化できる可能性がある。さらに、TLR2シグナル伝達が腫瘍促進的または抗腫瘍的の両方の効果を持つという報告がある中で、Diprovocimが腫瘍微小環境においてどのように免疫抑制を克服し、抗腫瘍免疫を誘導するのか、その詳細なメカニズム解析が残された課題である。
方法
本研究では、まず100,000化合物からなる合成ライブラリーを対象に、ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞を用いたNFκB-SEAPレポーターアッセイにより、TNF産生を指標として自然免疫活性化能を持つ化合物をスクリーニングした。同定された化合物のTLR特異性は、TLR1、TLR2、TLR6、MyD88、TIRAP (Toll-interleukin 1 receptor domain containing adaptor protein)、IRAK4 (IL-1 receptor-associated kinase 4) などの各TLRシグナル伝達経路構成要素が欠損したマウス由来の腹腔マクロファージおよびHEK293細胞の各TLRトランスフェクタントを用いて評価した。シグナル伝達経路の解析には、THP-1細胞およびマウス腹腔マクロファージにおけるMAPK (mitogen-activated protein kinase) およびNFκB (nuclear factor-kappa B) 経路のリン酸化およびIκBαの分解をウェスタンブロット法により検出した。サイトカイン(TNF、IL-6、IFN-β)の産生プロファイルは、ヒト末梢血単核球 (PBMC) およびマウス骨髄由来樹状細胞 (BMDC) の培養上清をELISAにより測定した。B細胞活性化能は、卵白アルブミン (OVA) 免疫マウスにおける血清中のOVA特異的IgG、IgG1、IgG2b抗体価をELISAで測定し、既存のアジュバントであるアルミニウム塩 (alum) と比較した。
in vivo CTL活性の評価には、OVAとDiprovocimで免疫したマウスに、CFSE標識したOVAペプチドパルス脾臓細胞と未パルス脾臓細胞を静脈内投与し、48時間後のターゲット細胞の特異的溶解率をフローサイトメトリーで測定した。DCによるクロスプレゼンテーション能は、OVAとDiprovocimで免疫したマウスのリンパ節および脾臓から精製したDCと、OT-I CD8 T細胞を共培養し、OT-I細胞上のCD69発現をフローサイトメトリーで評価した。
腫瘍モデル実験では、C57BL/6Jマウスの右脇腹にB16-OVAメラノーマ細胞 (2 × 10⁵ cells) を皮下接種した。免疫レジメンは、腫瘍接種と同日(予防モデル)または腫瘍接種3日後(治療モデル)に、OVA (100 μg) とDiprovocim (10 mg/kg) またはalum (2 mg/kg) を筋注し、7日後にブースター免疫を行った。抗PD-L1抗体 (200 μg) は、腫瘍接種3日後から3日ごとに腹腔内投与した。腫瘍体積はデジタルキャリパーで測定し、生存曲線はKaplan-Meier解析により評価した。長期生存マウスにおける記憶応答は、腫瘍フリーとなったマウスにB16-OVA細胞およびOVA非発現B16細胞を再移植し、治療なしでの腫瘍増殖を観察することで確認した。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の解析は、腫瘍接種14日後に腫瘍を採取し、単一細胞懸濁液をフローサイトメトリーで解析することで、CD4⁺ T細胞、CD8⁺ T細胞、NK細胞、活性化マーカー (CD44)、およびOVA特異的CD8⁺ T細胞 (H-2Kb/OVAテトラマー) の頻度を評価した。抗腫瘍効果における特定の細胞集団の必要性を確認するため、抗CD4、抗CD8、抗NK1.1抗体を用いた細胞除去実験をin vivoで実施し、腫瘍増殖と生存率への影響を評価した。統計解析にはStudent’s t検定およびKaplan-Meier解析を用いた。