- 著者: Jedd D. Wolchok, Harriet Kluger, Margaret K. Callahan, Michael A. Postow, Naiyer A. Rizvi, Alexander M. Lesokhin, Mario Sznol
- Corresponding author: Jedd D. Wolchok (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-06-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 23724867
背景
腫瘍は免疫監視機構からの回避により進展することが認識されており、腫瘍免疫を強化する治療法の開発は合理的な治療戦略である Schreiber et al. Science 2011、Hanahan et al. Cell 2011。免疫チェックポイント阻害は、いくつかの種類の癌で腫瘍退縮を誘導するアプローチの一つとして確立されている。細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4 (CTLA-4) を阻害する完全ヒトIgG1モノクローナル抗体であるイピリムマブは、進行メラノーマ患者の全生存期間 (OS) を延長することが示され、2011年に承認された最初の免疫チェックポイント阻害剤である Hodi et al. NEnglJMed 2010、Robert et al. NEnglJMed 2011。一方、プログラム細胞死1 (PD-1) 受容体を阻害する完全ヒトIgG4抗体であるニボルマブは、第I相試験 (CA209-003) において、メラノーマ、腎細胞癌、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者で持続的な客観的奏効 (OR) を生じることが報告された Topalian et al. NEnglJMed 2012。
CTLA-4とPD-1は、適応免疫の調節において相補的な役割を果たすと考えられている。PD-1が末梢組織におけるT細胞疲弊に寄与するのに対し、CTLA-4はT細胞活性化のより初期の段階で抑制的に作用する。前臨床モデルでは、PD-1とCTLA-4の両経路を同時に阻害することで、いずれかの経路を単独で阻害するよりも顕著な抗腫瘍活性が得られることが示されている。これらの観察に基づき、本研究では、進行メラノーマ患者におけるCTLA-4とPD-1の併用阻害 (イピリムマブとニボルマブを使用) の安全性と有効性を調査する第I相試験を実施した。これまでの単剤療法では、一部の患者でしか深い奏効が得られず、また奏効期間も限られるという課題が残されていた。特に、既存の免疫チェックポイント阻害剤単独では、高い奏効率と深い腫瘍退縮を両立させることは未解明であり、併用療法による相乗効果の可能性が指摘されていたものの、その臨床的安全性と有効性に関するデータは不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、進行メラノーマ患者を対象として、ニボルマブとイピリムマブの併用療法における安全性プロファイルと臨床的有効性を評価することである。具体的には、同時投与 (concurrent regimen) と、イピリムマブ既治療患者に対するニボルマブ投与 (sequenced regimen) の2つのレジメンについて、最大耐容用量 (MTD) の特定、治療関連有害事象 (TRAE) の発生率と重症度、および客観的奏効率 (ORR) を含む臨床的活性を評価する。本研究は、ClinicalTrials.gov識別子NCT01024231として登録された。さらに、腫瘍におけるPD-L1発現と末梢血絶対リンパ球数 (ALC) が治療奏効と関連するかどうかを探索的に解析することも目的とした。これにより、単剤療法と比較して、併用療法がより迅速かつ深い腫瘍退縮をもたらす可能性を検証し、今後の大規模臨床試験の基盤となるデータを提供することを目指す。
結果
患者背景と安全性プロファイル: 2009年12月から2013年2月までに合計86例の患者が治療を受け、concurrent regimen群に53例、sequenced regimen群に33例が割り付けられた (Table 1)。concurrent regimen群の患者の38%が以前に全身療法を受けており、sequenced regimen群の患者は全例がイピリムマブによる治療歴を有していた。sequenced regimen群の患者の73%は、以前のイピリムマブ治療中に画像診断で進行が認められた症例であった。両群ともに、大部分の患者がM1c病期であり、30%以上の患者で血清乳酸脱水素酵素 (LDH) レベルが高値であった。
Concurrent regimenにおける安全性: concurrent regimen群の53例中、93%の患者で治療関連有害事象が認められ、グレード3または4の治療関連有害事象は53%の患者で発生した (Table 2)。最も頻度の高いグレード3または4の治療関連有害事象は、リパーゼ上昇 (13%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇 (13%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇 (11%) であった。グレード3または4の治療関連有害事象として、肝臓イベントが15%、消化管イベントが9%、腎臓イベントが6%で報告された。肺炎とぶどう膜炎の単発症例も観察され、これは単剤療法での経験と一致する。治療関連有害事象により21%の患者が治療を中止した。コホート3 (ニボルマブ3 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg) では、6例中3例でグレード3または4の無症候性リパーゼ上昇が3週間以上持続し、最大耐容用量 (MTD) を超えたと判断された。コホート2 (ニボルマブ1 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg) が、許容可能な有害事象レベルと関連する最大用量として特定された (グレード3ぶどう膜炎1例、グレード3 AST/ALT上昇1例)。治療関連死は報告されなかった。
Concurrent regimenにおける有効性: concurrent regimen群全体では、modified WHO criteriaに基づく客観的奏効率 (ORR) は40% (95% CI, 27-55) であった。従来の奏効、未確認奏効、免疫関連奏効、または24週間以上の安定疾患 (SD) を含む臨床的活性は65%の患者で観察された。特に、許容可能な有害事象レベルと関連する最大用量であるコホート2 (ニボルマブ1 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg) では、ORRは53% (95% CI, 28-77) に達した。奏効した9例の患者は全て、治療開始時の初回評価でベースライン測定値から80%以上の腫瘍縮小を達成しており、そのうち3例は完全奏効であった (Figure 1A)。これは「深い奏効 (deep response)」と定義され、単剤療法では稀な所見であった。ウォーターフォールプロット (Figure 1B) は、concurrent regimenにおける深い腫瘍退縮の顕著な効果を示している。奏効した21例中19例で奏効が継続しており、データ解析時点での奏効期間は6.1週から72.1週であった。
Sequenced regimenにおける安全性と有効性: sequenced regimen群の33例中、治療関連有害事象は73%の患者で認められ、グレード3または4の治療関連有害事象は18%の患者で発生し、concurrent regimen群よりも低頻度であった。最も頻度の高い治療関連有害事象は掻痒 (18%) とリパーゼ上昇 (12%) であった。ORRは20% (95% CI, 8-39) であり、1例で完全奏効が認められた。4例 (13%) で8週時点で80%以上の腫瘍縮小が認められた。イピリムマブに不応であった患者の一部でも、その後のニボルマブ治療で奏効が認められた。
安全性管理: 両レジメン群における治療関連有害事象は、質的には単剤療法で観察されるものと同様であり (発疹、掻痒、疲労、下痢、肝炎、大腸炎、肺炎、ぶどう膜炎など)、確立されたアルゴリズムに従って免疫抑制剤 (または内分泌障害に対するホルモン補充療法) を用いて管理可能であり、大部分が可逆的であった。治療関連死は報告されなかった。86例中73例 (38%) の患者が全身性糖質コルチコイドで治療され、3例がインフリキシマブまたはミコフェノール酸モフェチルによる追加の免疫抑制療法を必要とした。
PD-L1発現と絶対リンパ球数: 腫瘍細胞におけるPD-L1発現は、concurrent regimen群の56例中21例 (38%) で陽性であった。concurrent regimen群では、PD-L1陽性腫瘍サンプル (13例中6例) とPD-L1陰性腫瘍サンプル (22例中9例) の両方で客観的奏効が観察され、PD-L1発現と奏効との間に有意な相関は認められなかった (Fisherの正確検定による事後比較でp>0.99)。sequenced regimen群では、PD-L1陽性腫瘍サンプル (8例中4例) の方がPD-L1陰性腫瘍サンプル (13例中1例) よりも奏効例が多かったが、症例数が少なかった。イピリムマブ単剤療法で観察されたような末梢血絶対リンパ球数 (ALC) の増加は、いずれのレジメン群でも顕著ではなかった。
考察/結論
本研究は、進行メラノーマ患者におけるニボルマブとイピリムマブの併用免疫チェックポイント阻害療法の最初の臨床データを提供するものであり、単剤療法を上回る迅速かつ深い腫瘍退縮を伴う顕著な臨床的活性を示した点で画期的な論文である。Concurrent regimen群では、客観的奏効率が40% (95% CI, 27-55) に達し、特に推奨用量であるニボルマブ1 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kgのコホートでは53% (95% CI, 28-77) の患者が奏効し、その全てで80%以上の深い腫瘍縮小を認めた。これは、これまでのニボルマブまたはイピリムマブ単剤療法で報告された奏効率を上回るものであり、特に深い奏効の割合は単剤療法では稀であったことと対照的である Hodi et al. NEnglJMed 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012。
新規性: 本研究で初めて、CTLA-4とPD-1の同時阻害が、単剤療法では得られなかった迅速かつ深い腫瘍退縮を誘導しうることを臨床的に実証した。これは、前臨床データで示唆されていた相乗効果が臨床現場で再現されたことを示すものであり、免疫チェックポイント阻害の新たな治療パラダイムを確立する上で極めて新規性の高い知見である。特に、奏効した患者の大部分で80%以上の腫瘍縮小が認められた「深い奏効」は、これまでの免疫療法では報告されていない特徴である。
安全性プロファイル: Concurrent regimen群におけるグレード3または4の治療関連有害事象の発生率は53%と、単剤療法と比較して高頻度であったが、その質は単剤療法で観察されるものと同様であり (発疹、掻痒、疲労、下痢、肝炎、大腸炎、肺炎、ぶどう膜炎など)、専門施設での適切な管理 (ステロイドや他の免疫抑制剤の使用) により可逆的であることが示された。治療関連死は報告されなかった。Sequenced regimen群では、イピリムマブ不応例においてもニボルマブ単独で20%のORRが認められ、CTLA-4阻害への不応がPD-1阻害による臨床的利益を妨げないことが示唆された。これは、両経路が非冗長的なメカニズムでT細胞活性を調節するという仮説を支持する。
臨床応用: 本研究の知見は、進行メラノーマ患者に対する併用免疫療法の臨床応用への道を開くものである。特に、深い奏効と持続的な効果は、患者の長期的な予後改善に大きく貢献する可能性を示唆している。この結果は、その後のCheckMate-067試験 (進行メラノーマにおけるニボルマブ単独、イピリムマブ単独、および併用療法の第III相比較試験) で確認され、併用療法がORR 58%、PFS 11.5 vs 7.2 months (HR 0.42, 95% CI 0.34-0.52, p<0.001)、5年OS 52%という前例のない長期生存率を示し、2015年のFDA承認に至った。さらに、非小細胞肺癌 (NSCLC) 領域においても、CheckMate-227、CheckMate-9LA、POSEIDONなどの試験で併用免疫療法が一次治療の標準治療に組み込まれるなど、本研究のトランスレーショナルな意義は非常に大きい。
残された課題: 本研究は第I相試験であり、患者数が限定的であること、PD-L1 IHCが特定のクローン (28-8) のみで評価されたこと、および長期的なフォローアップ期間が短いことがlimitationとして挙げられる。また、PD-L1発現と奏効の相関については、症例数が少ないため明確な結論は得られなかった。今後の検討課題として、より大規模な無作為化比較試験による有効性と安全性のさらなる検証、バイオマーカーによる奏効予測因子の特定、および長期的な生存データと有害事象プロファイルの評価が必要である。これらの課題を解決することで、併用免疫療法の最適な適用戦略が確立されると期待される。
方法
本研究は、切除不能なステージIIIまたはIVの測定可能メラノーマを有する患者86例 (concurrent regimen群53例、sequenced regimen群33例) を対象とした第I相非盲検多施設共同試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01024231) である。患者は18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0または1、十分な臓器機能、および4ヶ月以上の余命を有することが適格基準とされた。活動性で未治療の中枢神経系転移、自己免疫疾患の既往、T細胞調節抗体による治療歴 (sequenced regimen群のイピリムマブを除く)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染、B型またはC型肝炎感染は除外基準とされた。
Concurrent regimen群では、ニボルマブとイピリムマブを3週間隔で4回同時静脈内投与し、その後ニボルマブ単独を3週間隔で4回投与 (維持療法)、さらに併用療法を12週間隔で最大8回継続した。ニボルマブはイピリムマブの前に投与された。Concurrent regimenの用量レベルは、コホート1 (ニボルマブ0.3 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg)、コホート2 (ニボルマブ1 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg)、コホート2a (ニボルマブ3 mg/kg + イピリムマブ1 mg/kg)、コホート3 (ニボルマブ3 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg)、コホート4 (ニボルマブ10 mg/kg + イピリムマブ3 mg/kg)、コホート5 (ニボルマブ10 mg/kg + イピリムマブ10 mg/kg) で構成された。用量制限毒性 (DLT) の評価期間は9週間とされた。
Sequenced regimen群では、イピリムマブ既治療患者にニボルマブを1 mg/kgまたは3 mg/kgで2週間隔で最大48回投与した。イピリムマブによる治療歴が少なくとも3回あり、最終投与から4~12週間経過していることが求められた。完全奏効、臨床的悪化を伴う進行、または高グレードのイピリムマブ関連有害事象の既往がある患者は除外された。
腫瘍評価は、CTまたはMRIを用いて、modified WHO criteriaおよび免疫関連奏効基準 (immune-related response criteria) に基づいて実施された Wolchok et al。Concurrent regimen群では治療開始後12、18、24、30、36週、その後12週ごとに評価された。Sequenced regimen群では治療開始後8週、その後8週ごとに評価された。有害事象の重症度は、NCI-CTCAE v3.0に従ってグレード分類された。
PD-L1発現は、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織検体を用いて、ウサギモノクローナル抗ヒトPD-L1抗体 (クローン28-8) とDako社が開発した自動アッセイによる免疫組織化学 (IHC) 染色で測定された。腫瘍細胞の5%以上で膜PD-L1染色が認められた場合をPD-L1陽性と定義した。有効性解析対象は、ベースラインで測定可能病変を有し、少なくとも1回の腫瘍評価、臨床的疾患進行、または初回腫瘍評価前の死亡のいずれかを満たした82例の患者で構成された。統計解析は、Fisherの正確検定 (Fisher’s exact test) などを用いて実施された。統計解析計画を含むプロトコルはNEJM.orgで公開されている。