• 著者: Ronglai Shen, Michael A. Postow, Matthew Adamow, Arshi Arora, Margaret Hannum, Colleen Maher, Phillip Wong, Michael A. Curran, Travis J. Hollmann, Liwei Jia, Hikmat Al-Ahmadie, Niamh Keegan, Samuel A. Funt, Gopa Iyer, Jonathan E. Rosenberg, Dean F. Bajorin, Paul B. Chapman, Alexander N. Shoushtari, Allison S. Betof, Parisa Momtaz, Taha Merghoub, Jedd D. Wolchok, Katherine S. Panageas, Margaret K. Callahan
  • Corresponding author: Margaret K. Callahan (callaham@mskcc.org) (Department of Medicine, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-08-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34433638

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) はメラノーマや尿路上皮癌 (UC) の標準治療として確立されているが、奏効する患者は限られており、治療効果を予測するバイオマーカーの確立が喫緊の課題である。これまでの腫瘍生検に基づくバイオマーカー、例えばPD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) は、その予測精度が限定的であり、臨床的有用性には限界があることが指摘されている Herbst et al. Nature 2014 Rizvi et al. Science 2015 Samstein et al. NatGenet 2019。特に、腫瘍生検は侵襲性が高く、繰り返し実施することが困難であるため、より簡便で非侵襲的な末梢血由来の治療前バイオマーカーが理想的であるにもかかわらず、有効な末梢血バイオマーカーは未確立であった。近年、LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3)、TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3)、TIGITなどの共抑制受容体を標的とした新規薬剤の臨床開発が進展しているが、これらの薬剤に対する適切な患者選択バイオマーカーが不足していることが、その臨床導入における大きな課題となっている。

目的

本研究の目的は、ICB治療を受けた患者の治療前末梢血単核球 (PBMC) に対し、多パラメトリックフローサイトメトリーを用いて免疫細胞のプロファイリングを行い、教師あり機械学習アルゴリズムを適用することで、臨床転帰 (全生存期間 (OS)、無増悪生存期間 (PFS)、奏効) と関連する血液免疫表現型 (免疫型) を同定することである。さらに、同定された免疫型が独立したコホートにおいて検証可能であるかを評価し、ICB治療の層別化に資する末梢血バイオマーカーとしての可能性を探ることを目指した。

結果

3つの免疫型 (LAG+、LAG-、PRO) の同定: survClust解析により、ICB治療メラノーマ患者の末梢血PBMCから3つの明確な免疫型が同定された (Fig 2A)。LAG+免疫型 (16.5%、n=31) は、LAG-3陽性CD8陽性T細胞の高発現とKi67陰性 (非増殖性) が特徴であった。LAG-免疫型 (68.1%、n=128) は、LAG-3陽性T細胞およびその他の共マーカーの低発現を特徴とした。PRO (増殖型) 免疫型 (15.4%、n=29) は、LAG-3陽性T細胞に加え、Ki67陽性CD8陽性T細胞、TIM-3陽性T細胞、ICOS陽性T細胞の高発現を特徴とした (Fig 2B)。これらの免疫型は、78のフローサイトメトリーパラメータを用いた教師ありクラスタリングにより、生存転帰と関連付けて分類された。

メラノーマ発見コホートにおけるLAG+免疫型の不良なOSおよびPFSとの関連: メラノーマ発見コホート (n=188) において、LAG+免疫型は有意に不良なOSおよびPFSと関連した (Fig 2C)。LAG-免疫型患者のOS中央値が75.8ヵ月であったのに対し、LAG+免疫型患者では22.2ヵ月であり、ハザード比 (HR) は1.99 (95% CI 1.17-3.39, P=0.008) であった。PRO免疫型患者のOS中央値は68.1ヵ月 (HR=1.38, 95% CI 0.76-2.51) であった。抗PD-1単剤治療サブグループ (n=76) では、LAG+免疫型患者のOS中央値は12.3ヵ月に対し、LAG-免疫型患者では75.8ヵ月であり、HRは2.8 (95% CI 1.4-5.5, P=0.001) であった (Fig 2D)。PFS中央値に関しても、LAG+免疫型は2.7ヵ月、LAG-免疫型は10.6ヵ月と有意な差が認められた (HR=2.23, 95% CI 1.18-4.23, P=0.007) (Fig 2E)。奏効率はLAG+免疫型で20%、LAG-免疫型で49%であった (P=0.133)。LDH、肝転移、病期で調整した多変量解析においても、LAG+免疫型はOSと有意に独立して関連した (P=0.03) (Fig 2F)。

尿路上皮癌コホートにおけるLAG+免疫型の独立検証と重篤な予後不良との関連: 独立検証コホートであるUC患者 (n=94) においても、同様の免疫型分布が確認された (LAG+ 9.6%、n=9; LAG- 74.5%、n=70; PRO 16.0%、n=15) (Fig 3A)。UCコホートでは、LAG+免疫型が重篤な予後不良と関連することが示された。LAG-免疫型患者のOS中央値が27.6ヵ月であったのに対し、LAG+免疫型患者では4.7ヵ月と有意に短く (HR=3.9, 95% CI 1.8-8.2, P<0.001) (Fig 3B)、奏効率もLAG+免疫型で0%であったのに対し、LAG-免疫型では49%であった (P=0.007)。PFS中央値もLAG+免疫型で1.2ヵ月、LAG-免疫型で3.6ヵ月と有意な差が認められた (HR=3.03, 95% CI 1.45-6.35, P=0.005) (Fig 3D)。病期、LDH、肝転移で調整した多変量解析 (n=93) では、LAG+免疫型 (P<0.001) およびPRO免疫型 (P=0.02) がOSと独立して有意に関連した (Fig 3E)。抗PD-1単剤治療を受けたUC患者のサブセット (n=67) においても、LAG+免疫型は有意に不良なOSと関連し、OS中央値はLAG+群で4.7ヵ月、LAG-群で27.6ヵ月であった (P=0.003) (Fig 3C)。

PD-L1発現、TMB、および絶対リンパ球数とは独立した予後予測因子としてのLAG+免疫型: LAG+免疫型は、PD-L1発現やTMBといった既存の腫瘍バイオマーカーとは独立した予後予測因子であることが示された。PD-L1陽性メラノーマ患者 (n=60) においても、LAG+免疫型患者はLAG-免疫型患者と比較して有意に不良なOSを示し、PD-L1陰性患者に近い生存曲線を示した (Fig 4A)。抗PD-1単剤治療を受けたPD-L1陽性メラノーマ患者 (n=20) においても同様の傾向が観察された (Fig 4B)。UCコホートでは、TMB高値またはPD-L1陽性によってもたらされる生存改善効果が、LAG+免疫型患者では消失することが観察された (Fig 4E)。さらに、良好な予後因子とされる高絶対リンパ球数を持つ患者においても、LAG+免疫型は不良な転帰と関連した (Fig 4G)。メラノーマコホートの多変量解析では、LAG+免疫型はPD-L1およびTMBとは独立して有意な予後予測因子であった (P=0.03)。

考察/結論

本研究は、ICB治療患者の治療前末梢血における4マーカーフローサイトメトリー分類が、ICB治療の奏効および生存に関する独立した予測バイオマーカーとなることを、メラノーマと尿路上皮癌の2つのがん種、合計282例の患者コホートで実証した。特に、LAG-3陽性CD8陽性T細胞の高値によって特徴づけられるLAG+免疫型は、腫瘍側のPD-L1発現やTMBとは独立した血液バイオマーカーとして、ICBから恩恵を受けにくい患者を同定する上で有用である。この知見は、LAG-3を標的とした治療戦略、例えばLAG-3とPD-1の併用阻害療法の優先的使用対象を同定するための合理的な根拠を提供するものであり、新規の治療層別化アプローチを示唆する。

先行研究との違い: これまでの研究では、末梢血バイオマーカーの探索が散見されたものの、本研究のように大規模なコホートで、教師あり機械学習を用いて免疫型を同定し、独立した2つのがん種コホートでその予測的意義を検証した点は、これまでの報告と異なり、その堅牢性を高めている。特に、Herbst et al. Nature 2014Rizvi et al. Science 2015が腫瘍組織バイオマーカーに焦点を当てていたのに対し、本研究は非侵襲的な末梢血に着目した点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、治療前末梢血中のLAG-3陽性CD8陽性T細胞集団がICB治療後の不良な転帰と関連する「LAG+免疫型」として同定された。この免疫型は、PD-L1発現やTMBといった既存のバイオマーカーとは独立した予後予測因子であり、これまで報告されていない新たな層別化バイオマーカーとしての可能性を提示する。

臨床応用: 本知見は、ICB治療の臨床応用において、治療前に患者を層別化し、治療効果が期待しにくい患者を特定することで、不必要な治療やその関連毒性を回避し、より適切な治療選択を可能にする臨床的意義を持つ。特に、LAG+免疫型患者に対しては、LAG-3阻害薬 (例: relatlimab) とPD-1阻害薬の併用療法など、LAG-3を標的とした治療戦略の有効性を高めるための臨床現場での患者選択に直結する可能性を秘めている。

残された課題: 本研究は単一施設の後ろ向き研究であるというlimitationがあるため、構築された4マーカー分類器の前向き検証が今後の課題である。また、本研究のフローサイトメトリーパネルは主にT細胞表現型に焦点を当てており、TIGITやCD39などの他の共抑制分子、あるいは骨髄系細胞やNK細胞サブセットなど、これまでICB治療転帰と関連が報告されている他の免疫細胞集団を網羅的に評価できていない。今後の研究方向性として、より包括的な免疫細胞プロファイリングパネルの導入や、プロテオミクス、サイトカイン検出などの代替アプローチとの統合解析が必要である。さらに、ICB治療を受けていない患者コホートとの比較検討も、LAG+免疫型の特異性を評価する上で重要である。

方法

発見コホートとして、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) の7つの臨床試験に参加した188例のICB治療メラノーマ患者 (抗PD-1単剤 40%、抗CTLA-4単剤 7%、併用療法 53%) の治療前凍結保存PBMCを解析した。まず、78のフローサイトメトリーパラメータ (主にT細胞表現型に焦点を当てた) を用いて、OSをエンドポイントとする転帰重み付けクラスタリングアルゴリズムsurvClustを適用し、免疫型を同定した (5分割交差検証、n=136)。survClustアルゴリズムは、Cox比例ハザードモデルから推定されたハザード比の絶対値を重みとして用いることで、臨床転帰と関連性の高いフローサイトメトリー特徴を重視する。次に、正則化多項ロジスティック回帰を用いて、LAG-3陽性CD8陽性T細胞、Ki67陽性CD8陽性T細胞、TIM-3陽性CD8陽性T細胞、ICOS (inducible T-cell costimulator) 陽性CD8陽性T細胞の4つのマーカーからなる分類器を構築し、89%の精度で免疫型を分類できることを確認した。この4マーカー分類器は、追加の52例のメラノーマ患者に適用され、合計188例の発見コホートが構築された。

独立検証コホートとして、94例の抗PD-1単剤または併用療法を受けた尿路上皮癌 (UC) 患者の治療前PBMCに、上記で構築された4マーカー分類器を適用し、免疫型を予測した。腫瘍組織からは、PD-L1発現 (免疫組織化学 (IHC) 法、1%以上のカットオフ) とTMB (MSK-IMPACTプラットフォーム、上位20%を高TMBと定義) を算出した。統計解析には、Wilcoxon順位和検定、Kruskal-Wallis検定、Fisherの正確確率検定を適切に用い、生存期間の推定にはKaplan-Meier法、比較にはログランク検定を用いた。単変量および多変量解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、免疫型、病期、乳酸脱水素酵素 (LDH)、肝転移、PD-L1、TMB、絶対リンパ球数などの因子を調整した。フローサイトメトリーデータには、バッチ効果を補正するためにComBatアルゴリズムが適用された。