• 著者: Robert M. Samstein, Chung-Han Lee, Alexander N. Shoushtari, Matthew D. Hellmann, Ronglai Shen, Yelena Y. Janjigian, David A. Barron, Ahmet Zehir, Emmet J. Jordan, Antonio Omuro, Thomas J. Kaley, Sviatoslav M. Kendall, Robert J. Motzer, A. Ari Hakimi, Martin H. Voss, Paul Russo, Jonathan Rosenberg, Gopa Iyer, Bernard H. Bochner, Dean F. Bajorin, Hikmat A. Al-Ahmadie, Jamie E. Chaft, Charles M. Rudin, Gregory J. Riely, Shrujal Baxi, Alan L. Ho, Richard J. Wong, David G. Pfister, Jedd D. Wolchok, Christopher A. Barker, Philip H. Gutin, Cameron W. Brennan, Viviane Tabar, Ingo K. Mellinghoff, Lisa M. DeAngelis, Charlotte E. Ariyan, Nancy Lee, William D. Tap, Mrinal M. Gounder, Sandra P. D’Angelo, Leonard Saltz, Zsofia K. Stadler, Howard I. Scher, José Baselga, Pedram Razavi, Christopher A. Klebanoff, Rona Yaeger, Neil H. Segal, Geoffrey Y. Ku, Ronald P. DeMatteo, Marc Ladanyi, Naiyer A. Rizvi, Michael F. Berger, Nadeem Riaz, David B. Solit, Timothy A. Chan, Luc G. T. Morris
  • Corresponding author: Timothy A. Chan; Luc G. T. Morris (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30643254

背景

免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は進行がん患者の治療に革命をもたらしたが、その効果は一部の患者に限定されるため、治療応答を予測するバイオマーカーの特定が喫緊の課題であった。腫瘍遺伝子変異量 (TMB) は、がん細胞が持つ体細胞変異の総数を示す指標であり、高TMBの腫瘍はより多くのネオアンチゲンを提示し、免疫細胞による認識と抗腫瘍免疫応答を促進すると考えられている。これまでの研究では、TMBがICI治療に対する臨床的奏効を予測するバイオマーカーとして、メラノーマにおけるCTLA-4阻害剤治療 (Snyder et al. NEnglJMed 2014, Van Allen et al. 2015) や、非小細胞肺がん (NSCLC)、メラノーマ、膀胱がんにおけるPD-1/PD-L1阻害剤治療 (Rizvi et al. Science 2015, Rosenberg et al. Lancet 2016) で示唆されてきた。しかし、これらの先行研究にはいくつかの決定的な臨床的疑問が残されていた。

第一に、多くの報告が全エクソームシーケンシング (WES) に基づいており、これはルーチンの臨床診療で広く利用されているとは言えず、臨床実装が困難であるという課題があった。現在、多くの精密腫瘍学プラットフォームは、ターゲット遺伝子パネルを用いた次世代シーケンシング (NGS) を採用しており、MSK-IMPACTのようなパネルでのTMB測定の妥当性を検証する必要があった。第二に、先行研究はがん種特異的な小規模コホートに限定されており、TMBが多様なヒトがん種にわたって一貫してICIの臨床的利益を予測できるか、その汎がん種における普遍性が不明であった。第三に、TMBと全生存期間 (OS) の関連が、ICI治療効果によるものなのか、あるいはTMB自体が独立した予後因子として機能するのかを区別するための、ICI未治療対照群を用いた大規模な解析が不足していた。このため、TMBが「予測的バイオマーカー」として機能するのか、「予後的バイオマーカー」として機能するのか、その役割が明確ではなかった。第四に、がん種間でTMBの最適なカットオフ値が統一されているかどうかが未検証であり、単一の普遍的なカットオフ値がすべてのICI治療患者に適用可能かどうかが不明であった。これらの知識ギャップが残されており、TMBをICI治療の予測バイオマーカーとして確立するためには、大規模かつ多様なコホートを用いた包括的な検証が不足していた。本研究は、これらの課題に対処し、TMBの臨床的有用性を確立することを目的とした。FDAが2020年にpembrolizumabをTMB≥10 mut/Mb (F1CDx) の固形腫瘍に組織不問 (tissue-agnostic) で承認した背景には、本研究のような大規模エビデンスが基盤となっている。

目的

本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) でMSK-IMPACTターゲットパネルシーケンシング (468遺伝子、約1.5 Mb) を用いて測定された腫瘍遺伝子変異量 (TMB) が、多種多様ながん種にわたる免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療後の全生存期間 (OS) 改善と関連するかどうかを検証することである。具体的には、以下の3つの主要な疑問を明らかにすることを目指した。(1) ICI未治療対照群との比較を通じて、TMBの予測的価値を予後的価値から明確に分離すること。(2) TMBのICI予測バイオマーカーとしての汎がん種における普遍性と、がん種特異的な最適なTMBカットオフ値の必要性を評価すること。(3) ターゲットパネルシーケンシングで測定されたTMBが、臨床意思決定に資する十分な予測精度を有し、臨床実装が可能であることを実証すること。これにより、TMBをICI治療の標準的な予測バイオマーカーとして確立するための包括的なエビデンスを提供することを目指した。

結果

Pan-cancerにおける高TMBと全生存期間 (OS) 改善の強い関連: ICI治療を受けた全コホート1,662例において、各組織型内でTMBが上位20%に属する患者群は、下位80%の患者群と比較して、全生存期間 (OS) が有意に改善することを示した。多変量Cox比例ハザードモデル解析の結果、TMB高値群は死亡リスクが有意に低いことが示された (HR 0.61; 95% CI 0.508-0.733; P=1.3×10⁻⁷)。TMBを連続変数として解析した場合も、TMBの増加はOS改善と有意に関連していた (HR 0.985 per mut/Mb increase, P=3.4×10⁻⁷)。この効果量は、メラノーマやNSCLCにおける先行研究の報告と整合するものであった。さらに、TMBのデシル層別化解析では、TMBが高いほどOSが改善する明確な傾向が認められ (Figure 1a)、TMBカットオフ値の上昇に伴い死亡のハザード比 (HR) が減少する傾向が観察された (Figure 1b)。例えば、TMB上位10%群 vs 下位80%群のOSはHR 0.52 (95% CI 0.42-0.64) であった。

がん種横断的な一貫性とgliomaの例外: 個々のがん種における層別解析では、9つのがん種のうち、ほぼすべて (NSCLC、メラノーマ、腎細胞がん、膀胱がん、頭頸部扁平上皮がん、大腸がん、食道胃がん、乳がん、子宮内膜がんなど) で、TMB高値 (各組織型の上位20%) とOS改善の数値的傾向 (HR < 1) が認められた (Figure 2)。この関連性は、メラノーマとNSCLC患者を除外した解析でも統計的に有意なままであり (Supplementary Table 2)、TMBがこれらの特定のがん種のみに限定されることなく、汎がん種バイオマーカーとして独立した予測的価値を持つことが支持された。しかし、神経膠腫 (glioma) は明確な例外であり、高TMBの患者群でむしろ予後不良の傾向が示された。これは、神経膠腫における高TMBが、ミスマッチ修復欠損 (MMR欠損) ではなく、アルキル化剤テモゾロミドによる治療歴に起因する免疫原性の低いサブクローン変異の拡大を反映している可能性や、中枢神経系における抗腫瘍免疫応答の特性が他の臓器と異なる可能性を示唆している。

がん種特異的TMBカットオフの必要性: TMB上位20%を定義する絶対的なカットオフ値は、がん種間で大きく異なることが明らかになった (Figure 2)。例えば、NSCLCでは約13.8 mut/Mb、メラノーマでは約30.7 mut/Mb、腎細胞がんでは約5.9 mut/Mb、大腸がん (MSS) では約6.3 mut/Mbなど、その範囲は広範に分布していた。この結果は、ICI治療に対する臨床的利益を予測する「高TMB」の普遍的な単一カットオフ値が存在する可能性は低く、がん種ごとに最適なカットオフ値を設定する必要があることを明確に示唆している。単一の普遍的カットオフ (例:10 mut/Mb) は、すべてのがん種で最適な予測精度を提供しないと考えられた。

ICI未治療対照群におけるTMBの予後非関連性: ICI未治療の転移性がん患者5,371例のコホートでは、TMB高値とOS改善との間に有意な関連は認められなかった (HR 1.12, P=0.11)。むしろ、一部のがん種では高TMBが予後不良の傾向を示すこともあった (Supplementary Figure 9)。この結果は、TMBがICI治療の有無にかかわらず患者の予後を予測する「予後的」マーカーではなく、ICI治療の臨床的利益を特異的に予測する「予測的」マーカーであることを、大規模な対照群解析によって初めて明確に示した。この知見は、TMBがICI治療の選択において重要な役割を果たすことを強く支持するものである。

ターゲットパネルによるTMB推定の妥当性: MSK-IMPACTパネルは、全コーディングエクソームの約3% (約1.5 Mb) のみを解析するが、このターゲットパネルで測定されたTMBは、全エクソームシーケンシング (WES) で測定されたTMBと高い相関を示すことが先行研究で報告されている (Zehir et al. NatMed 2017, Chalmers et al. GenomeMed 2017)。本研究の結果は、MSK-IMPACTのような臨床実装可能な規模のターゲットパネルを用いたTMB測定が、ICI治療に対する予測的価値を十分に提供し、臨床意思決定に耐えうるエビデンスを確立したことを実証した。これにより、WESのような大規模なシーケンシングが困難な臨床現場においても、TMB測定が広く利用可能となる道が開かれた。

考察/結論

本研究は、当時最大規模のICI治療患者コホート (n=1,662) と大規模なICI未治療対照群 (n=5,371) を用いた汎がん種解析により、腫瘍遺伝子変異量 (TMB) が免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療後の生存を予測する独立したバイオマーカーであることを決定的に確立した。

新規性: 本研究で初めて、ターゲットパネルシーケンシングで測定されたTMBが、多様なヒトがん種にわたってICI治療の予測的バイオマーカーとして機能することを、大規模な対照群解析によって明確に示した。特に、ICI未治療群ではTMBとOSの関連が見られなかったことから、TMBが「予測的」マーカーであり「予後的」マーカーではないという重要な知見を本研究で初めて明確化した。これは、TMBがICI治療の選択において特異的な価値を持つことを裏付けるものである。

先行研究との違い: これまでのTMBに関する研究は、主にWESベースであり、がん種特異的な小規模コホートに限定されていた。本研究は、臨床現場で広く用いられているターゲットパネルシーケンシング (MSK-IMPACT) を用いて、汎がん種にわたる大規模コホートでTMBの予測的価値を検証した点で、これまでの報告とは一線を画す。また、がん種間で最適なTMBカットオフ値が大きく異なることを示した点は、単一の普遍的カットオフを提唱する一部の先行研究とは対照的である。

臨床応用: 本研究の知見は、TMBをICI治療の標準的な予測バイオマーカーとして臨床応用する上で極めて重要な意義を持つ。第一に、MSK-IMPACTのような468-500遺伝子パネルでのルーチンTMB測定が、ICI治療の意思決定に有用であることを示唆する。第二に、TMBの最適なカットオフ値ががん種によって異なるという発見は、将来の臨床ガイドラインにおいて、がん種特異的なTMBカットオフ値の策定が必要であることを示唆する。これにより、より個別化された治療戦略が可能となる。第三に、TMBはPD-L1発現や好中球リンパ球比 (NLR) などの他のバイオマーカーと組み合わせることで、さらに最適化された複合バイオマーカーパネルの設計に貢献する可能性がある。低TMB患者に対しては、ICI単独療法以外の代替戦略 (ICI併用療法、ネオアンチゲンワクチン、養子T細胞療法など) の開発がより重要となる。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、本研究で示されたがん種特異的なTMBカットオフ値の有効性を、前向き臨床試験で検証する必要がある。第二に、腫瘍内異質性や空間的TMB分布がICI応答に与える影響、および循環腫瘍DNA (ctDNA) ベースのbTMBとの等価性についてもさらなる研究が求められる。第三に、TMBだけでなく、ネオアンチゲンの質 (例: Łuksza model)、HLA多様性、免疫シグネチャーなどの他の免疫関連バイオマーカーとの統合的な解析により、ICI応答予測の精度をさらに向上させる必要がある。最後に、TMB-lowかつPD-L1-lowといった、ICI治療の恩恵を受けにくい集団に対する個別化された治療戦略の開発が残された課題である。神経膠腫 (glioma) において高TMBが予後不良傾向を示したことは、TMB高値が必ずしも免疫原性と等価ではなく、MMR欠損機序、ネオアンチゲン質、免疫抑制的な腫瘍微小環境などの修飾因子が存在することを示唆する重要な知見であり、今後の研究でそのメカニズムを解明する必要がある。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) において、機関審査委員会 (IRB) の承認を得て実施された後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。MSKCCの薬局記録を用いて、少なくとも1回ICI (アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、トレメリムマブ) 投与を受けた患者を特定し、MSK-IMPACT遺伝子パネル検査を受けた患者と照合した。解析対象は、MSK-IMPACT (2014-2018年、468遺伝子、約1.5 Mbのコーディング領域を捕捉、コーディングエクソームの約3%に相当) でシーケンシングされた腫瘍を有し、ICI治療を受けた1,662例の進行がん患者とした。ICI未治療対照群として、MSK-IMPACTでシーケンシングされた腫瘍を有し、ICI治療を受けていない5,371例の転移性がん患者を解析に含めた。

主要ながん種は、非小細胞肺がん (NSCLC: n=350)、メラノーマ (n=321)、腎細胞がん (RCC: n=151)、膀胱がん (n=214)、頭頸部扁平上皮がん (HNSCC: n=138) であり、その他に大腸がん、神経膠腫 (glioma)、食道胃がん、乳がん、子宮内膜がんなどが含まれた (Supplementary Table 2)。TMBの算出は、同定された体細胞非同義変異の総数を、MSK-IMPACTパネルのメガベース単位のエクソンカバレッジで正規化して行った。TMBは、各組織型内でのパーセンタイル (上位10%、上位20%、上位50%) で層別化して解析した。

主要評価項目 (primary endpoint) は、ICI開始日からの全生存期間 (OS) とした。ICI未治療対照群では、初回化学療法開始日からのOSを評価した。追跡期間中央値は19ヶ月 (範囲0-80ヶ月) であり、830例 (50%) の患者が生存しており、最終フォローアップ日で打ち切りとした。統計解析には、Kaplan-Meier生存曲線とログランク検定 (log-rank test) を用いた。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を使用し、年齢、性別、がん種、ICI薬剤クラス、ICI開始年を調整した。TMBは連続変数としても、また各組織型の上位20%をカットオフとした二値変数としても解析した。TMBカットオフ値の選択は、各組織型内でTMBの分布が異なるため、がん種間のTMB中央値と範囲の変動を考慮し、普遍的なカットオフではなく、各組織型内のパーセンタイルで定義した。これにより、特定のTMB値に偏ることなく、各がん種における高TMB群を公平に評価できると考えられた。また、MSK-IMPACTは腫瘍DNAと対応する生殖細胞系DNAの両方をシーケンシングすることで、真の体細胞変異を正確に同定する利点を持つ。